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ヘッポコ勇者は闇を見る

メールを読んだ俺は、土屋さんの事は後日にするとして、今日も今日とて混沌としている『ゲーム同好会』の部室の前に来ていた。

俺は気持ちを落ち着かせるために一度深呼吸をして部室のドアをノックする。

すると、しばらくしてドアが勝手に開き、カールが入室を促して来た。


「ヘィ、東哉。よく来たネ。どうぞ入りなヨ」


部屋の中に戻って行くカールに続き、俺も後に続き部屋の中に入る。

前来た時と部屋の中身は変わっていないのだが、ある人物がいない事に俺は気付く。


「今日はカール一人なのか?」

「ン? あぁ、ポールはボディーをイジメ抜いてニクとラブを育んでくると言って、どこかに行ってしまったヨ」

「……スポーツジムに行っただけだよな? 深い意味とかは無いよな?」


俺のちょっとした質問に対し、とんでもない答えが返ってきた。

しかも、カールは意味ありげな微笑を浮かべるだけで、それ以上何も答えてくれない。

多分に疑問は残るがこのままでは話が進まないので、カールの問題発言は置いておいて俺は本題に入る様に促す。


「それで、ディスクの解析が終わったって」

「あぁ、その事なんだが」


その時、何故だか分からないが、部屋の温度が急に下がった様な感覚に襲われた。

何事かと思い回りを見渡すが特に変化はなく、まさか能力者による干渉かとも考えたが、それも違う様だ。

そんな中カールは言葉は紡いでいく。


「俺も一応目を通させてもらったが、お前こんな事へ本当に足を踏み入れるつもりか? 俺達の様な、一高校生の手に負えるものじゃないぞ」


今、目の前にいるカールの表情からはこの前の様な浮ついた感じは無く、話し方からも癖が抜けていた。

あまりにも突然の変化に俺は戸惑うが、真っ直ぐに向けられているカールの鋭い視線を受け、気を持ち直す。


カールの言っている事はもっともなんだろう。

実際この目で耳で感じた事は、裏で人体実験を行える大きさの施設を地下に秘密裏に有しているのだ。

あの施設の後ろに、それだけの事を補助出来る大きな組織があるだろう事も、容易に想像出来た。

だが、俺には引けないのだ。

急に居なくなった莉奈を捜すためにも、五條さんの思いを受け継いだ者としても。

カールへ俺の決断を伝える。


「分かってる。だけど、やらなければいけないんだ」


俺の言葉にカールは神妙な表情を浮かべる。

俺がしなければならないと、断言した事について疑問に思ったのだろう。

しばらくの間、部屋の中を静かで重い空気がしばらく流れ、俺はそれ以上何も言わずにカールの視線を真っ直ぐと見返す。

それから時計の秒針が一回りした頃、カールは溜め息を吐くと、紙の束を俺へと渡して来た。


「分かったよ……ほら。パソコン使えるかどうか分からなかったから、紙資料にしておいたヨ」

「……ありがとう」


納得してくれたかどうかは分からないが、今だに余り納得もしていない顔で紙の束を渡して来るカールへお礼を言う。

そしてカールから資料を受け取り、俺は書かれてある事に目を通す。

だが、ここで問題が発生した。

…書かれてある言葉が専門用語だらけで、理解できない。


「カール、これ何が書かれてあるんだ?」


どうしたらいいか分からない俺は、目の前にいる人物に聞いてみる。

俺の言葉を聞いたカールは、二度目の溜め息を吐きながらも説明してくれた。


これは余談だが、何故カールはこれらの専門用語を理解できるのか、俺は疑問に思って聞いてみた所。


「東哉。世の中には不思議で満たされているんだ。………そして、知らない方が幸せな事もある」


ある時、前に七瀬が言った言葉に似ている事を言われて、俺はただその言葉と裏に隠れている何かを感じ、己の感覚に従い引いた。

ともかく、カールに資料の内容について一通り説明してもらったのだが、結局大まかにしか理解できなかった。


五條さんのいた組織にはいくつかのセクションがあり、それが高見原の中でクモが巣を張る様に、多方面に渡り高見原の地下に広がっていると言う事だった。

ある程度予想していて覚悟もしていたつもりだったが、改めてその巨大さを聞いてみると顔が青ざめる。

様は、分かってはいたつもりになっていた゛だけ゛だったのだ。

正直なところ、能力者として自覚し力を付けていくと共に、自分は特別なのではないかの様な驕りが少なからずあった。

だが、俺は日曜朝にやっているアニメの様な正義のヒーローではないのだ。

急に強くなった様に思えたのは、能力者として自覚した事により生物学上の人として、次のステージへ上がれただけで、そこからは地道な努力がものを言う。

又、これまでフランベルジェと戦って生き残ることが出来たり、研究所に潜入してから抜け出す事まで出来たのも、ただ単に状況・タイミング・相性等が運良く重なっただけで、偶然の賜物だ。

誠一との鍛練でそれらが解り、能力者として自分が半人前だと言う事は嫌でも思い知った。

そして、理解してしまったが為に俺はこれからどうしていいか分からなくなり悩む。

そんな俺を見て、カールが見かねた様に言う。


「お前はどうしたいんだ? 何を成すにしても、闇雲にやっては意味がない」

「……何をしたいか?」


そんなものは決まっている。

居なくなってしまった莉奈を探し出して、連れ戻す。

それが、俺のこの世界へ足を踏み入れる原因であり、どんなに辛くとも進む事が出来る理由


「しかも、敵は少なくとも高見原を覆うような大きさの組織だ。俺としては、まず敵の事をさらに調べるべきだと思うがね。もしも俺の考えに賛同してくれるなら、まず『これ』について調べてみたらどうだ?」


そう言葉を並べて、カールが資料の束から数枚の書類を渡してきた。

カールとしても、確信を持てないからの提案なのだろう。

しかし、自分自身ではどう進むべきか分からなかった俺にとっては、とてもありがたかった。

カールの示してくれた微かな道標を、俺は手を伸ばし掴む。

その時、カールの口角が楽しそうに上がったのだが、資料の方に視線がいっていた俺は気づく事が無かった。



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