1.私はグラビアアイドル
1.私はグラビアアイドル
カシャ、カシャ――。
乾いたシャッター音が響き、眩い閃光がスタジオを照らす。
「いいよ!いいよぉー!」魔法カメラのシャッターが切られるたびに私はポーズと表情を変えてゆく。時に煌びやかに、時に挑発的に、時に小悪魔的に。
「いいよいいよぉ!フミニャンちゃん!もっと胸を強調してっ!その95センチのビッグバストをぉ!」
「う――……」バキッ!
内心ヒクヒクして撮影用のベッドの手すりを捻り潰してしまった。
「オホホ……これ、壊れてますよ……」
「だ、大丈夫かい……?フミニャンちゃん……」
(コイツが変なこと言うから!ベッド代請求されないわよね……?もし請求されたらマイランさんに払ってもらわなきゃ)
「いいのが撮れたよぉ!本誌を楽しみにしててね!フミニャンちゃんっ!」
「ええ、マイランさんがカメラマンだと私もすっごい楽しいです!ありがとうございましたぁ!」
高く結んだポニーテールを跳ね上げる勢いで、私は深々とお辞儀した。危うく伊達メガネが落ちそうになった。
「では、お金は後ほど私の口座にお願いします」
マイランさんはニンマリしながら手を振った。
*
「ふうっ!!あ――っ疲れたッ!ほんっとーに疲れたッッぴ!」
自宅のソファに倒れ込むとつい変な語尾が出てしまった。だってだって、あの人いっつも私にエロいポーズを要求してくるんだから!私のはグラビアであって春画じゃないっつーの!
「ふ――――!……」
大きなクッションに顔をぐりぐりしてると窓の外から子供の遊んでいる声が聞こえてきた。やっぱりここら辺は昼間でも騒がしい。
ここはルミナリア最大の王都ベルクフリート。多くの店や会社やギルド、住宅が集う大都市だ。
市民の憩いの場であるダンティノ広場から一本入った下町に私の小さなアパートメントはある。
私の仕事はグラビアアイドルだ。
21歳の頃、街を歩いていたらスカウトに声をかけられ、あれよあれよと言う間にデビューさせられた。お金に困っていたから、と言うのもある。
月に何度かさっきの様にスタジオで私服や水着で魔法カメラで撮影されて、それがやがて印刷されてベルクフリートや遠い街の書店に並ぶ。
私はこの仕事は嫌いじゃない――。
寝っ転がりながら先月発売された、私が中面に載った雑誌をパラパラとめくった。
眼鏡をかけて長い黒髪をポニーテール。それがわたしのデビューの頃からのスタイル。幾人かのカメラマンからは、「眼鏡とってみたら?」と言われたこともあるけれど、私はがんとしてスタイルは崩さなかった。
「あっ――」
巻末に私よりも多いページでリーナという小麦色の肌が健康そうな、まるでダークエルフの様な美貌のグラドルが掲載されていた。
「……ちっくしょー!私より若いくせに扱いいいじゃない!このリーナって子最近結構見るな」
雑誌をくしゃくしゃにしようかと手に力がこもった時、窓に小さな黒い鳥が止まった。右足にピンクの紐が結ばれた鳥――。
「あっ――」
私はソファから跳ね起きると、すぐにクロゼットから黒のスーツを取り出して着た。髪紐を解いてロングに下ろす。
おっと眼鏡も外して、眼鏡ケースにしまう。
「ほら、こっちの方がずっと可愛いわ」私は鏡で顔をチェックするとウインクした。
*
トントン、とドアがノックされる。無視。
トントントントン――4回のノック。
「入って」私はドア越しに声をかけた。
ガチャリとドアを開けて入ってきたのは暗めの茶のスーツに身を包んだ男で、目深く帽子をかぶっている。
「フミニャンさん、頼みたい仕事がある」
「Fよ。次間違えたらぶっ飛ばすわよ――で、内容は?」
「す、スマン、依頼内容は――この女の裏事情を探って欲しい」男は少し焦った声で一枚の写真を出した。
「どれどれ……えッ!?」
私はその写真を三度見してしまった。
何故ならそこに写っていたのは、あの巻末グラビアに載っていた、リーナだったから。
「この子――」
「そう、今をときめくグラドルのリーナだ」
ジロリと男を睨んだ。言葉選びを間違えたと男が狼狽する。
「失礼――この女、最近人気が急上昇しているが、裏では何やら黒い噂が囁かれているらしい。それが人気ゴシップ紙で暴露されれば大変な反響を呼ぶだろう。F、情報屋のアンタに是非探って欲しいんだ」
私はリーナの写真から目が離せないでいた。人混みの奥に隠し撮りされたリーナ。
紙面の中の彼女とは違って、何か、いや誰かを真剣に探しているような顔をしていた。私にはなんとなくそんなふうに見えた。
彼女にもグラビアアイドルをする為のなにか、理由があるのだろうか。
私は長い指でリーナの写真をトン!とテーブルに置いた。
「受けるわ、その仕事!」
そう言いながら私はこう考えていた――。
(ンハァー!リーナを追い落とすチャンス到来ッッ!!!)




