0.拝啓
僕の部屋には音ひとつ無い静寂が広がっていた。それを破るのは、高鳴る僕の心臓だけだった。
僕は、深呼吸をしてから最後の手紙を開いた。君から送られた、最期の手紙を。
『灰戸くん、元気?
私は・・・どうなんだろ?
多分、死んでるんだろうけど。
・・・
だからさ、本当に最後に二つだけ。
まず、ありがとう。
私を救ってくれて。地獄から助けてくれて。
最後の友達になってくれて。
そして、本当の最後。
君が、いっちばん言ってほしいであろう言葉。』
僕の目からは涙が溢れそうだった。あの日、彼女を失ってから涙なんて流してなかったのに。
僕はもう一度深呼吸をしてから続きを読んだ。
『多分、これを言っていれば、君も私と、本当の友達になれたのかもね。
キスどころか、それ以上のことまでやったし、行き過ぎなのか、まだ足りなかったのか。
ほんっとうに、君も私も馬鹿だよね。
逃避行を手伝ってくれたり、死ぬなって言ってくれたり、嬉しかったよ。
でも、もう少しだけ優しくしてくれてもよかったんじゃない?
クールぶってて、現実主義で、私の柱を嫌いで。
君はそんな人だよ。
やっぱり、私は、君のことを・・・』
ああ。やっと終われたんだ。君のことを考えなくて済む。大好きだった君のことを。
そう思うと涙が溢れてきた。
僕の事を、・・・のことをどう思っているか、そんな事は関係ない。ただ、ただその言葉を聞きたかった。
嗚咽を漏らすと、彼女と過ごした日々のこと一つ一つを思い出してしまった。
まあいいか。これで最後なんだから。
だから、一人の大嫌いな彼女のことを、角田桜空のことを、思い出そう。