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8. ゲームの知識で軍略チート

ヴェルディア王国からの帰国から一週間後、王宮に緊急事態が発生した。


「リアナ、大変です!」


シャルルマーニュ王子が血相を変えて私の研究室に駆け込んできた。


「どうされましたか、殿下?」


「北方のバルカニア帝国が、国境付近に大軍を集結させています」


私の心臓が跳ね上がった。戦争の危機だ。


「どの程度の規模でしょうか?」


「偵察報告によると、約3万の兵力です。我が軍の倍以上の数です」


これは深刻な事態だった。数的劣勢は戦術で補うしかない。


「殿下、軍議はいつ開かれますか?」


「今夜です。父上も兄上も、対応策を検討中です」


私の頭の中で、前世に熱中した戦略ゲームの知識が蘇った。『Total War』シリーズ、『Age of Empires』、『Civilization』...数え切れないほどの戦略ゲームをプレイした経験がある。


「殿下、もしよろしければ、軍議に参加させていただけませんか?」


「君が?でも、軍事は...」


「はい。少し戦略について考えがあります」


_________________


その夜、王城の軍議室に重臣たちが集まった。


「リアナ嬢も参加されるのですか?」


軍務大臣のランカスター公爵が驚いた顔をした。


「はい。リアナには斬新な視点があります」


シャルルマーニュ王子が私を擁護してくれた。


「では、現状を説明しましょう」


参謀長のモントクレア伯爵が地図を広げた。


「バルカニア帝国軍は、北の平野部に展開しています。我が軍は約1万5千。正面衝突すれば勝ち目はありません」


重臣たちの表情は暗い。


「籠城戦も考えましたが、相手の包囲が長期化すれば食料不足に陥ります」


「何か良い策はないものでしょうか?」


第1王子アルフレッド殿下が問いかけた。


「お聞きしたいことがあります」


私が手を上げると、一同の視線が集まった。


「敵軍の補給線はどのようになっていますか?」


「補給線...ですか?」


モントクレア伯爵が地図を確認した。


「北の港から内陸へ、一本の街道で補給しているようです」


これは戦略ゲームの基本だった。大軍ほど補給線が重要になる。


「その補給線を断つことはできませんか?」


「補給線を?」


「はい。敵が大軍である分、大量の食料と武器が必要です。補給を断てば、敵は自然に弱体化します」


重臣たちがざわめいた。


「なるほど...確かに一理ありますね」


「しかし、どうやって補給線を断つのでしょうか?」


「少数精鋭部隊による奇襲作戦です」


私は前世でプレイした『Age of Empires』の戦術を思い出していた。


「敵の本体が前進している間に、別働隊が後方の補給路を攻撃するのです」


地図に指で線を描きながら説明した。


「街道の要所要所に小部隊を配置し、補給隊を襲撃します」


「それは...ゲリラ戦ですね」


「そうです。正面では勝てませんが、補給を断てば敵は必ず後退せざるを得ません」


ランカスター公爵が興味深そうに身を乗り出した。


「具体的には、どのような作戦になりますか?」


「まず、敵軍の行軍速度を計算します」


私は前世の戦略ゲームで学んだ軍事理論を応用した。


「3万の大軍は、1日せいぜい10里しか進めません。重い装備と大量の荷物があるからです」


「それに対し、我が軍の軽装部隊なら1日20里は移動可能です」


参謀たちがメモを取り始めた。


「敵が首都に向かっている間に、我が軍は迂回して敵の後方に回り込みます」


地図上に矢印を描いて説明した。


「そして、補給隊を次々と襲撃するのです。そのために、この森と丘陵地帯を活用しましょう」


私は地図上の地形を指差した。


「森は隠蔽に最適です。小部隊が潜伏し、補給隊が通るのを待ちます」


「丘陵地帯では、高所から弓矢で攻撃できます」


前世の『Total War』シリーズで学んだ地形の重要性を説明した。


「敵は平野部の大軍ですが、森や丘では数の優位を活かせません」


「なるほど、地形を味方につけるということですね」


モントクレア伯爵が感心している。


「情報収集も重要です」


私は『Civilization』で学んだスパイ活動の概念を応用した。


「敵の補給スケジュール、護衛の規模、ルートの詳細を把握する必要があります」


「現地の住民からの情報収集も有効でしょう」


「住民からの情報ですか?」


「はい。敵軍が通った村々の住民は、軍の規模や装備を見ています」


「それに、補給隊の動きも目撃しているはずです」


これは現実的で実用的な提案だった。


「心理的な効果も重要です」


私は前世のRTSゲームで学んだ士気システムの概念を説明した。


「補給が度々襲撃されると、敵兵の士気が下がります」


「食料不足になれば、兵士たちは戦う意欲を失うでしょう」


「それに、見えない敵への恐怖心も生まれます」


シャルルマーニュ王子が頷いた。


「確かに、いつ襲われるか分からない状況では、兵士も神経をすり減らしますね」


「その通りです。敵の指揮官も、後方の安全を考慮せざるを得なくなります。加えて、複数の方向から同時に攻撃します」


私は地図上に複数の矢印を描いた。


「東の森から、西の丘から、そして南の谷から...」


「敵は主力をどこに向ければよいか迷うでしょう」


これは『Age of Empires』でよく使った戦術だった。


「分散した攻撃により、敵の対応を困難にするのです」


「なるほど、一点集中ではなく、分散攻撃ですね」


「はい。そして、敵が一箇所に対応している間に、他の箇所を攻撃します」


_________________


「攻撃後の退却も重要です」


私は戦略ゲームで学んだヒット・アンド・ラン戦術を説明した。


「攻撃したら、すぐに撤退します。敵の反撃を受ける前に」


「事前に複数の退却ルートを確保しておきます」


「そして、別の場所で再び攻撃するのです」


モントクレア伯爵が興味深そうに聞いている。


「まるで蜂の群れのような戦術ですね」


「そうです。一匹ずつは小さくても、群れで攻撃すれば大型の動物も倒せます」


「この作戦は実行可能でしょうか?」


第1王子が尋ねた。


「必要なのは、機動力のある軽騎兵部隊約500名です」


私は具体的な数字を示した。


「この規模なら、我が軍でも編成可能です」


「指揮官は地形に詳しい者が適任でしょう」


「それから、現地の案内人も必要です」


ランカスター公爵が計算している。


「確かに実行可能な規模ですね」


_________________


「面白い作戦だ」


国王が口を開いた。


「リアナ嬢、この戦術はどこで学んだのかね?」


「古今東西の戦史を研究いたしました」


もちろん、戦略ゲームとは言えない。


「特に、数的劣勢を覆した戦例を重点的に」


「なるほど、学問の成果ということか」


国王が頷いた。


「この作戦を採用しよう。準備にかかれ」


_________________


翌日から、作戦の準備が本格的に始まった。


「リアナ嬢、作戦の詳細を教えてください」


モントクレア伯爵が私のもとにやってきた。


「はい。まず部隊編成からです」


私は前世の軍事シミュレーションゲームの知識を活用した。


「各部隊は50名編成とし、機動力を重視します」


「騎兵が中心ですが、弓兵も含めます」


「重装備は避け、速度と隠密性を優先します」


「実際の訓練も必要ですね」


シャルルマーニュ王子と共に、訓練場で部隊指導を行った。


「まず、静音移動の練習から始めましょう」


兵士たちに、音を立てずに移動する方法を教えた。


「次に、素早い攻撃と撤退の練習です」


「攻撃は3分以内、撤退は2分以内で完了してください」


これは前世のRTSゲームで重要だったタイミングの概念だった。


_________________


「偵察部隊からの報告です」


数日後、詳細な情報が集まった。


「敵の補給隊は、3日に一度、約200台の荷車で物資を運んでいます」


「護衛は約300名。主に歩兵です」


「ルートは予想通り、北の街道を使用しています」


これらの情報を基に、攻撃計画を最終調整した。


「補給隊の護衛は歩兵中心なので、騎兵の機動力が有効です」


「荷車が多いので、逃げるのに時間がかかるでしょう」


_________________


ついに作戦が開始された。


「第1部隊、森の中で待機」


「第2部隊、丘の上に配置」


「第3部隊、谷間で待機」


私は王城から、魔法の水晶球を通じて各部隊に指示を送った。


「敵補給隊が接近中。予定通りのルートです」


「各部隊、攻撃準備」


「第1部隊、攻撃開始!」


森の中から騎兵部隊が飛び出し、補給隊を襲撃した。


「荷車を狙え!食料と武器を破壊しろ!」


敵の護衛部隊は混乱している。


「2分で撤退!第2部隊、攻撃準備!」


第1部隊が撤退すると同時に、丘の上から第2部隊が矢の雨を降らせた。


「効果的です!敵は大混乱に陥っています」


報告を聞いて、私は安堵した。


_________________


「第3部隊、攻撃開始!」


敵が第2部隊に対応しようとした時、谷間から第3部隊が突撃した。


「完璧なタイミングです!」


シャルルマーニュ王子が興奮している。


「敵の補給隊は壊滅状態です」


「よし、全部隊撤退!次の攻撃地点へ移動」


計画通り、我が軍は損害を最小限に抑えて撤退した。


_________________


「敵軍に動揺が見られます」


翌日の偵察報告で、作戦の効果が確認された。


「本隊の進軍速度が鈍っています」


「後方警戒のため、兵力を分散せざるを得ないようです」


「それに、兵士たちの士気も下がっているとの報告があります」


私の予想通りの展開だった。


「ゲーム…、じゃなくて、過去の戦訓通りですね。補給を断たれた軍隊は必ず弱体化します」


「次の補給隊が出発しました」


「今度は護衛が倍増しています」


敵も対策を講じてきたが、私には対応策があった。


「予想通りです。今度は違う戦術を使いましょう」


「違う戦術?」


「はい。偽装撤退作戦です」


これは『Total War』シリーズでよく使った戦術だった。


「まず、少数部隊で攻撃します」


「敵が反撃してきたら、わざと逃げるふりをします」


「敵が追撃してきたところで、別働隊が側面攻撃」


モントクレア伯爵が地図上で確認している。


「なるほど、敵を誘い出すのですね」


「そうです。敵の護衛が分散したところを狙います」


第二次攻撃も大成功だった。


「敵は我が軍の偽装撤退に完全に騙されました」


「護衛部隊の半数が追撃に出たところで、側面攻撃を受けました」


「補給隊は再び大きな被害を受けています」


連続する成功により、敵軍の士気は著しく低下した。


_________________


「大本営から報告です!」


一週間後、決定的な知らせが届いた。


「バルカニア帝国軍が後退を始めました!」


「やりました!」


シャルルマーニュ王子が私を抱きしめた。


「リアナの作戦が完全に成功しました」


「補給不足により、敵は戦闘継続を断念したようです」


_________________


「最終的な戦果を報告します」


モントクレア伯爵が嬉しそうに発表した。


「敵軍の補給隊を5回襲撃し、大量の物資を破壊しました」


「我が軍の損害は軽微、敵軍は約1000名の損害」


「そして、敵軍全体が国境を越えて後退しました」


これは圧倒的な戦略的勝利だった。


_________________


「リアナ嬢、見事な戦術でした」


国王から直々にお褒めの言葉をいただいた。


「数的劣勢を覆す見事な采配でした」


「この勝利により、王国の威信も大いに高まりました」


「ありがとうございます。皆様のご協力があってこその勝利です」


「そこで、リアナ嬢に、王国軍事顧問の地位を授けたいと思います」


これは名誉なことだった。


「女性の軍事顧問は前例がありませんが、実力に性別は関係ありません」


「謹んでお受けいたします」


転生者として、ここまで出世するとは思わなかった。


_________________


「リアナの戦術を、正式な軍事理論として記録しましょう」


シャルルマーニュ王子の提案で、戦略理論書の執筆を始めた。


「『機動戦術概論』とでも名付けて」


前世の戦略ゲームで学んだ理論を、この世界の軍事学として体系化した。


「補給線攻撃の重要性」


「地形活用の戦術」


「心理戦の効果」


「機動力の優位性」


これらの概念をまとめ上げた。


_________________


「隣国からも、我が国の新戦術について問い合わせが来ています」


外交面でも大きな効果があった。


「軍事技術の交流を求める声も多いです」


「バルカニア帝国すら、講和の申し入れをしてきました」


強力な軍事力は、最高の外交カードでもあった。


「新しい戦術を次世代に教えることも重要です」


王国軍事学校で、定期的に講義を行うことになった。


「戦争は数だけでは決まりません」


「知恵と戦略により、劣勢を覆すことが可能です」


若い士官候補生たちが真剣に聞いている。


「ただし、戦争は最後の手段です。平和的解決を常に模索してください」


_________________


「リアナ、君は本当に素晴らしい」


その夜、王子が私に言った。


「王国を危機から救っただけでなく、新しい軍事理論まで確立してくれた」


「殿下がいてくださったからこそです」


「君の知識と、それを実行に移す勇気に感動しています」


王子の愛の言葉に、私の心は満たされた。


「でも、一番嬉しいのは、戦争を避けられたことです」


私は心から思っていた。


「多くの命が救われました」


「君の戦術は、戦うためではなく、平和を守るためのものでしたね」


「はい。それが一番大切なことです」


戦略ゲームの知識が、現実の平和に貢献できたことに、深い満足を感じた。


「これからも、王国の平和を守るために頑張りましょう」


「はい、リアナ。君と一緒なら、どんな困難も乗り越えられます」


前世の趣味だった戦略ゲームが、まさか現実の戦争を防ぐのに役立つとは思わなかった。


転生して本当に良かった。


知識は使い方次第で、多くの人を幸せにできる。


これからも、前世の経験を活かして、この世界により良い未来をもたらしたい。


シャルルマーニュ王子と共に、平和で繁栄した王国を築いていこう。


次はどんな挑戦が待っているだろうか。


楽しみでもあり、不安でもある。


でも、二人で力を合わせれば、きっと乗り越えられる。


戦略的思考という新しい武器を手に、私の異世界ライフはさらに充実していく。

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