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7. サバイバル技術でアウトドアチート

文化交流イベントの成功から二週間後、重要な任務が舞い込んだ。


「リアナ、一緒に隣国ヴェルディア王国に行ってもらえませんか?」


シャルルマーニュ王子が真剣な表情で私に頼んだ。


「隣国へですか?」


「はい。通商協定の最終調整のためです。君の交渉支援と文化交流の経験が必要なんです」


これは大きな責任だった。国家間の重要な交渉に参加するなど、転生前では考えられないことだ。


「喜んでお供させていただきます」


「ありがとう。ただし、山越えのルートになるので、少し険しい旅になるかもしれません」


私は前世でキャンプやハイキングの経験があったため、山道への不安はなかった。


_________________


「リアナ様、旅の準備はいかがですか?」


侍女のメイが心配そうに尋ねた。


「大丈夫よ。山歩きの装備も整えたし」


私は前世の知識を活かして、サバイバル用品を準備していた。火打ち石、ロープ、救急用品、非常食...この世界にある物で代用できるものを集めた。


「でも、女性がそのような危険な旅に出るなんて...」


「メイ、私は見た目より丈夫なのよ」


実際、転生してからこの体は前世より健康で体力もある。


「第2王子殿下がお守りくださるとは言え、心配です」


そうこう言っているうち、出発の時が来る。


「リアナ、準備はよろしいですか?」


シャルルマーニュ王子が馬上から声をかけてきた。


一行は王子と私、外交官のモンゴメリー卿、護衛の騎士たち合わせて10名だった。


「はい、準備万端です」


「それでは出発しましょう。予定では3日でヴェルディア王国に到着します」


馬車に乗り込むと、王子が隣に座った。


「君がいてくれると心強いです」


「私も殿下とご一緒できて嬉しいです」


_________________


初日の旅路は順調だった。美しい田園風景を通り、夕方には予定通りの宿場町に到着した。


二日目も午前中は順調だったが、午後から山道に入ると状況が変わった。


「殿下、道が崩れています!」


先頭の騎士が報告してきた。


「崩れている?」


私たちが降りて確認すると、豪雨の影響で道路が完全に崩落していた。


「これでは馬車は通れませんね」


「迂回路はありますか?」


「この地図によると...かなり遠回りになりそうです」


モンゴメリー卿が困った顔をしている。


「それでは予定に間に合わなくなります」


迂回路を検討していると、突然矢が飛んできた。


「野盗です!身を隠してください!」


護衛騎士が叫んだ。


森の中から覆面をした男たちが現れ、私たちを取り囲んだ。


「金目の物を全て出せ!」


野盗のリーダーが剣を構えている。


護衛騎士たちが応戦したが、数で劣っていた。


「リアナ、僕の後ろに」


王子が私を守ろうとしたが、野盗の一人が背後から襲いかかってきた。


戦闘の混乱の中で、私たちは散り散りになってしまった。


_________________


「殿下!殿下!」


気がつくと、私は一人で森の中にいた。


王子の姿も、他の仲間の姿も見えない。


「どこにいらっしゃるの?」


叫んでも返事がない。


パニックになりかけたが、前世のキャンプ経験を思い出して冷静になった。


「まず現状を把握しよう」


私は前世で学んだサバイバルの基本を思い出した。


「とりあえず、怪我はないか確認」


幸い、大きな怪我はなかった。かすり傷程度だ。


「次に、持ち物の確認」


リュックサックは背負ったままだった。火打ち石、ナイフ、ロープ、水筒、非常食が入っている。


「太陽の位置から方角を確認」


太陽は西に傾いており、もうすぐ夕方だ。


「夜になる前に、安全な場所を見つけなければ」


前世でガールスカウトに所属していた時に学んだ知識が蘇った。


「それから、水を確保しなくちゃ」


サバイバルの基本は水、食料、シェルターの確保だ。


森の中を歩いていると、小川の音が聞こえてきた。


「あった!」


清流が流れている。水は透明で、飲めそうだ。


しかし、前世で学んだ知識では、野生の水はそのまま飲むのは危険だ。


「煮沸しなければ」


火打ち石を使って火を起こす準備を頭の中で考える。


「まず燃えやすい材料を集めよう」


枯れ葉、小枝、樹皮を集めた。前世のキャンプで何度も練習した作業だ。


「火打ち石と鉄片で火花を作って...」


乾いた苔に火花を飛ばし、息を吹きかけて火種を育てる。


「やった!」


小さな炎が立ち上がった。


「次に薪を追加していく」


徐々に大きな薪を追加して、安定した焚き火を作った。


「これで水を沸かせる」


水筒に水を入れて、焚き火の上にかけた。


_________________


「日が暮れる前にシェルターを作らなければ」


前世で読んだサバイバル本の知識を思い出した。


「リーントゥシェルターが簡単で効果的」


大きな木を背にして、斜めに枝を立てかける構造だ。


「まず支柱になる長い枝を探そう」


適当な枝を見つけて、木に立てかけた。


「次に屋根になる枝を並べて」


たくさんの枝を並べて、傾斜のある屋根を作った。


「最後に葉っぱや苔で覆って防水する」


見た目は粗末だが、雨風をしのげるシェルターが完成した。


_________________


「食料も確保しておこう」


リュックに非常食はあるが、節約したい。


「食べられる野草や木の実があるかもしれない」


前世で読んだ食用植物図鑑の知識を思い出した。


「これはイチゴの仲間ね」


小さな野生のイチゴを見つけた。


「こちらはクルミに似ている」


堅い殻の木の実も発見した。


「それから...これは食用キノコかしら?」


しかし、キノコは危険だ。間違えると毒がある。


「やめておこう。リスクが高すぎる」


_________________


夜になると、森は暗闇に包まれた。


「殿下は大丈夫かしら...」


シャルルマーニュ王子の安否が心配だった。


「きっと護衛の騎士たちと一緒にいるはず」


自分に言い聞かせながら、焚き火を絶やさないよう薪を追加した。


時々、動物の鳴き声が聞こえて心細くなったが、前世の経験で野生動物は基本的に人間を避けることを知っていた。


「火があれば大丈夫」


焚き火の暖かさと明かりに励まされながら、浅い眠りについた。


_________________


夜明けと共に目を覚ました。


「まず水分補給をして」


沸かしておいた水で喉を潤した。


「それから朝食」


非常食を少しだけ食べ、野生のイチゴも摘んだ。


「今日は仲間を探そう」


一人でいても危険が増すだけだ。


「煙で信号を送ってみよう」


焚き火に湿った葉っぱを投入して、白い煙を上げた。


_________________


煙の信号を上げて30分ほど経った時、森の向こうから声が聞こえた。


「リアナ!リアナ!」


「殿下!」


シャルルマーニュ王子の声だった。


「こちらです!」


私も大声で応えた。


しばらくすると、王子と護衛騎士2名が現れた。


「リアナ!無事だったのですね」


王子が駆け寄ってきて、私を抱きしめた。


「殿下も御無事で...心配しました」


「君こそ、一人でよく夜を過ごせましたね」


「前世...いえ、以前にキャンプの経験があったので」


_________________


「これは...君が作ったのですか?」


王子がシェルターと焚き火跡を見て驚いている。


「はい。とりあえず雨風をしのげるように」


「素晴らしい!まるで森の住人のようですね」


護衛騎士たちも感心している。


「リアナ様、どこでこのような技術を?」


「独学です。いざという時のために学んでおいたんです」


「君がいなかったら、僕たちも困っていたでしょう」


王子が私の手を握った。


「実は、他の仲間とはぐれてしまったのです。君の煙の信号で居場所が分かりました」


「モンゴメリー卿たちはどちらに?」


「川の向こう側で野営しているはずです。一緒に行きましょう」


私はシェルターを解体し、焚き火を完全に消した。


「野生に影響を与えないよう、元の状態に戻すんです」


「さすがですね。配慮が行き届いている」


川を渡って30分ほど歩くと、他の仲間のキャンプが見えた。


「リアナ嬢!」


モンゴメリー卿が驚いて駆け寄ってきた。


「御無事でしたか!心配していました」


_________________


「さて、どうしましょうか。道は塞がれたままですし...」


モンゴメリー卿が困った顔をしている。


「リアナ、何か案はありますか?」


王子が私に相談してきた。


「実は、昨夜森を探索した時に、獣道を見つけました」


「獣道?」


「はい。動物が通る道です。人間も通れるかもしれません」


前世の登山経験で、獣道の見分け方を知っていた。


「少し険しいかもしれませんが、距離は短縮できるはずです」


「リアナの案に従いましょう」


しばらく思案した後、王子は言った。その一声で私達は獣道を通ることになった。


「馬車は置いていき、馬だけで行きます」


荷物を最小限にして、山越えの準備をした。


「皆さん、足元に注意してください。道が狭く、滑りやすいです」


私が先頭に立って道案内をした。


獣道は確かに険しかったが、野生動物が長年使ってきただけあって、山を効率よく越えられるルートだった。


「川がありますね。これは渡れるでしょうか?」


山中で急流に遭遇した。


「流れが急ですが、渡れそうです」


私は前世の沢登り経験を思い出した。


「ロープを使って安全を確保しましょう」


持参していたロープを木に結び、川を横断する安全線を張った。


「一人ずつ、ロープにつかまりながら渡ってください」


「リアナ、君はどこでこんな技術を覚えたのですか?」


「書物で読んで、実際に練習したんです」


全員が無事に川を渡ることができた。


_________________


「非常食が底をつきそうです」


護衛騎士の一人が報告した。


「大丈夫です。自然の食料を補給しましょう」


私は食べられる野草と木の実を探した。


「これは山ウドの仲間ですね。この若芽は食べられます」


「こちらはクリの木です。実を拾いましょう」


「それから、この川にはマスのような魚がいそうです」


簡易的な仕掛けを作って魚を捕まえ、焼いて食べた。


「美味しい!こんな料理方法があるとは」


王子も満足してくれた。


_________________


夜の野営では、私がリーダーシップを取った。


「効率的なキャンプの作り方をお教えします」


風向きを考慮した焚き火の配置、雨対策のシェルター、食料保存の方法など、前世の知識を総動員した。


「リアナ、君は本当に多才ですね」


「いえ、知識があっても、実際にやってみると難しいものです」


「でも、君がいなかったら、僕たちはここまで来られませんでした」


王子の言葉に、胸が温かくなった。


_________________


三日目の朝、ついに山を越えた。


「見えました!あれがヴェルディア王国の都です」


眼下に美しい都市が広がっている。


「やりましたね、リアナ」


王子が私の肩に手を置いた。


「皆さんのお蔭です」


「いえ、君のサバイバル技術がなければ、この山越えは不可能でした」


_________________


都市に到着すると、ヴェルディア王国の使者が迎えてくれた。


「ようこそいらっしゃいました。しかし、予定より遅れていらっしゃいますが...」


「実は山中で野盗に襲われ、道に迷ってしまったのです」


王子が説明すると、使者は驚いた。


「それは大変でしたね。どのようにして山を越えられたのですか?」


「リアナ嬢のサバイバル技術のお蔭です」


_________________


宿舎で休息した後、いよいよ通商交渉が始まった。


「シャルルマーニュ王子、リアナ嬢、よくいらっしゃいました」


ヴェルディア国王が私たちを迎えてくれた。


交渉の中で、山越えの体験談が話題になった。


「リアナ嬢のサバイバル技術、ぜひ我が国の軍でも学ばせていただきたい」


「喜んでお教えします」


思わぬところで、技術交流の話も進んだ。


_________________


「この度の交渉は、予想以上の成果を上げることができました」


モンゴメリー卿が満足そうに報告した。


「通商協定も締結でき、技術交流の約束も取り付けました」


「これも、困難を共に乗り越えたからこその結果ですね」


王子が私を見つめて言った。


「リアナがいなければ、交渉の場にたどり着くことさえできませんでした」


_________________


帰りは船を使って海路で帰ることになった。


「今度は安全なルートですね」


「はい、でも山越えの体験も貴重でした」


船上で、王子と二人で話していた。


「リアナ、君と一緒に困難を乗り越えて、改めて君の素晴らしさを実感しました」


「殿下こそ、どんな状況でも冷静で頼りになりました」


「君がいてくれたから、冷静でいられたのです」


王子が私の手を取った。


「今回の旅で、君への愛がさらに深まりました」


_________________


王国に帰ると、私たちの成功は大きく評価された。


「困難な状況での見事な対応でした」


国王からも直々にお褒めの言葉をいただいた。


「特にリアナ嬢のサバイバル技術は、王国の財産と言えるでしょう」


「恐縮です」


「今後は、我が国の軍事教練にも協力していただきたい」


_________________


後日、王国軍の訓練場で、サバイバル技術の講習を行った。


「まず、野外での水の確保方法から始めましょう」


兵士たちが真剣に聞いている。


「次に、簡易シェルターの作り方」


「食料の見分け方と調理法」


「緊急時の応急処置」


前世の知識を軍事に応用することで、王国の防衛力向上に貢献できた。


_________________


「リアナ、今回の旅で君がどれほど頼りになるパートナーかが分かりました」


その夜、王子が私に言った。


「これからも、どんな困難も一緒に乗り越えていこう」


「はい、殿下」


「君となら、どこへでも行けそうです」


王子の愛の言葉に、私の心は満たされた。


転生して本当に良かった。


前世のアウトドア経験が、まさかこんな形で役に立つとは思わなかった。


困難を共に乗り越えることで、王子との絆はさらに深まった。


これからも、どんな挑戦が待っていても、二人で乗り越えていけるだろう。


サバイバル技術という意外な武器を手に、私の異世界ライフはさらに充実していく。

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