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4. 心理学で王子の気持ちは掴めるもの?

医療改革から数週間が経った頃、私はシャルルマーニュ王子の微妙な変化に気づき始めた。


「殿下、本日の会議資料はこちらです」


私が資料を手渡すと、王子は一瞬、私の手に触れた。そして、いつもより長く私を見つめている。


「ありがとう、リアナ」


彼の声には、以前とは違う響きがあった。より柔らかく、親しみやすい。しかし同時に、どこか迷いのような色も感じられる。


前世で心理学の本を読み漁っていた私は、人の表情や仕草から心理状態を読み取ることが得意だった。特に恋愛心理学については、友人関係のアドバイスをよくしていたため、かなりの知識があった。


知識に基づいて王子の行動パターンを観察してみたら?


面白がるつもりはないけれど、すごく興味が湧いた。


_________________


翌日から、私は意識的にシャルルマーニュ王子の行動を観察し始めた。もちろん、仕事に支障のない範囲で、さり気なく。


「リアナ嬢、今日の執務はいかがでしたか?」


王子が私の執務を気にかける頻度が明らかに増えている。以前は週に一度程度だったのが、今では毎日声をかけてくる。


「順調に進んでおります、殿下」


「何か困ったことがあれば、いつでも相談してください」


この言葉も、以前より頻繁に聞くようになった。心理学的に見ると、これは相手への関心の表れだ。特に、実用的な理由がないのに頻繁に接触を求めるのは、感情的な繋がりを求めている証拠。


さらに、王子の姿勢も変化していた。私と話すとき、彼は微妙に身を乗り出す傾向がある。これは相手に好意を抱いているときの典型的なジェスチャーだ。


「殿下、この案件についてはいかがお考えでしょうか?」


会議中、私が発言すると、王子は必ず私を見る。そして、私が他の人と話している時も、ちらちらと視線を向けている。


前世で学んだ心理学によれば、人は興味のある対象を無意識に見つめる傾向がある。特に異性に対する場合、この傾向は顕著になる。


また、王子は私が他の男性職員と話しているとき、表情がわずかに曇る。これは嫉妬の初期段階の表れかもしれない。


「エドワード氏、この書類の件ですが...」


私が同僚と事務的な話をしているだけなのに、王子の眉間にかすかなしわが寄る。興味深い反応だ。


_________________


「リアナ、お疲れ様でした」


最近、王子は私を「リアナ嬢」ではなく「リアナ」と呼ぶことが増えた。これは心理的距離の縮まりを表している。


さらに、私に話しかけるときの声のトーンが、他の人に対するものと明らかに違う。より温かく、時にはかすかに緊張しているように聞こえる。


心理学的に言えば、好意を抱いている相手に対しては、声が自然に優しくなり、同時に緊張から若干高くなることがある。王子の声の変化は、まさにその通りだった。


「リアナ、最近読んだ本はありますか?」


王子が私にする質問も変化していた。以前は仕事の話がほとんどだったのに、最近は私個人に関する質問が増えている。


「どんな音楽がお好きですか?」

「休日はどのように過ごしていますか?」

「故郷のことを教えてください」


これらは明らかに、私という人間をより深く知りたいという欲求の表れだ。恋愛心理学では、相手への関心が高まると、その人の価値観や好み、プライベートな部分を知りたくなると言われている。


_________________


ある日、王子から小さな贈り物を受け取った。


「これ、リアナに似合うと思って」


それは美しい青い石のブローチだった。


「殿下、このような高価なものを...」


「いえ、いつもお世話になっているお礼です」


しかし、他の職員には同様の贈り物をしていない。心理学的に見ると、贈り物は相手への特別な感情の表現方法の一つだ。特に、「似合う」という理由で選んだということは、私の外見を意識している証拠でもある。


ブローチの青は、王子の瞳の色と同じだった。これは偶然だろうか?


_________________


「この資料、一緒に確認しましょう」


王子が私と同じ資料を見るとき、以前より近い距離に立つようになった。時には、彼の腕が私の腕に軽く触れることもある。


心理学では、パーソナルスペースの縮小は親密度の表れとされている。特に、意図的でないような自然な接触は、無意識の好意の表れだ。


「失礼しました」


接触に気づいた王子は謝るが、その表情には満足そうな色が見える。


「リアナ、今日は遅いですね。一人で帰るのは心配です」


王子が私の安全を気遣う頻度も増えた。


「護衛をつけましょうか?」


「いえ、大丈夫です。宮廷内ですから」


「それでも、何かあってからでは遅いですから」


この保護欲は、恋愛感情の典型的な表れだ。大切に思う相手を守りたいという欲求は、男性に特に強く表れる傾向がある。


_________________


王子の私に対する態度を、他の人への態度と比較してみた。


秘書のマーガレット嬢に対しては、礼儀正しいが距離を保った接し方。同僚の男性職員には、フレンドリーだが公平な態度。


しかし私に対してだけは、明らかに特別な配慮と関心を示している。


「マーガレット嬢、お疲れ様」

「リアナ、今日も一日お疲れ様でした。ゆっくり休んでくださいね」


同じ挨拶でも、私への言葉には明らかに温かみが違う。


_________________


「リアナ、先ほど第1王子殿下とお話しされていましたね」


ある日、シャルルマーニュ王子がそう切り出した。


「はい、軍医への講習について相談を受けました」


「そうですか...兄上は何とおっしゃっていましたか?」


王子の声には、かすかな緊張が混じっていた。これは明らかに嫉妬の表れだ。


「『リアナ嬢の医学知識は素晴らしい』とお褒めいただきました」


「...そうですね、確かに素晴らしい」


王子の表情が複雑だった。兄への敬意と、私を褒められた嬉しさと、そして独占欲のようなものが混在している。


一方で、王子は自分の感情を隠そうとする傾向も見せていた。


時々、私との距離が近くなりすぎると、急に公式的な態度を取り戻す。これは心理学でいう「反動形成」の一種かもしれない。


「リアナ、今度の休日に...いえ、何でもありません」


「殿下?」


「いえ、公務の話でした」


明らかに私的な誘いをしようとして、途中で取り消した。王子としての立場と、個人的な感情の間で葛藤しているのだろう。


私は前世の恋愛相談経験を活かし、王子の心を少しずつ開かせる戦略を取ることにした。


「殿下、いつもお忙しそうですが、ご自身の時間も大切になさってくださいね」


私から彼の個人的な部分に関心を示すことで、距離を縮めようとした。


「ありがとう、リアナ。君にそう言ってもらえると...嬉しいです」


王子の表情が柔らかくなった。


「たまには息抜きも必要ですよ。何かお好きなことはありますか?」


「好きなこと...」


王子が考え込んだ。


「実は、星を見ることが好きなんです」


「素敵ですね」


「子どもの頃、天文学者に教わって...でも、最近は忙しくて」


これは重要な情報だった。王子の個人的な趣味を教えてくれたのは、信頼の表れだ。


「私も星空を見るのは好きです。前に住んでいたところでは、よく夜空を眺めていました」


「本当ですか?」


王子の目が輝いた。


「どの星座がお好きですか?」


「オリオン座でしょうか。分かりやすくて美しいので」


「僕も同じです!三つの星が並んでいるところが印象的で」


共通の趣味を見つけたことで、王子の警戒心が解けた。心理学的に言えば、共通点は親近感を生み、距離を縮める効果がある。


「殿下、お聞きしたいことがあります」


「何でしょうか?」


「最近、何かお悩みのことはありませんか?時々、考え込んでいらっしゃるように見えまして」


これは直接的なアプローチだった。王子の内面に踏み込むことで、彼の本音を引き出そうとした。


王子は一瞬、驚いたような表情を見せた。


「よく観察していますね」


「気になるお方のことは、自然と目が向いてしまうものです」


私も少し大胆になってみた。


「気になる...?」


「はい。殿下のお役に立ちたいと思っているので」


曖昧な答えだったが、王子の頬がわずかに赤らんだ。


「リアナ、君は...僕のことをどう思っていますか?」


ついに王子から直接的な質問が来た。


「とても尊敬しております。王子として、そして一人の人として」


「一人の人として...」


王子が呟いた。


「はい。殿下は思いやりがあって、責任感が強くて、でも時々お一人で抱え込みすぎてしまう」


「...そんなに見透かされているとは思いませんでした」


「すみません、出過ぎたことを」


「いえ、嬉しいです。君に理解してもらえるのは」


王子の声が優しくなった。


「リアナ、君といると...」


王子が言いかけて止まった。


「はい?」


「いえ...君といると、安心できるんです」


これは告白の一歩手前だった。心理学的に見れば、感情的な安全感は愛情の基盤となる。


「私も、殿下とお話ししていると心が落ち着きます」


「本当ですか?」


「はい。殿下は優しくて、聡明で...」


私も少しずつ、自分の気持ちを表現し始めた。


_________________


その夜、王子が私の研究室を訪れた。


「リアナ、まだ起きていたのですね」


「はい。明日の準備をしていました」


「いつも遅くまで...体に気をつけてください」


王子が私の近くに来た。いつもより距離が近い。


「殿下も遅いお時間ですが」


「君に会いたくて」


その言葉に、私の心臓が跳ね上がった。


「会いたくて...?」


「リアナ、僕は君に...」


王子が躊躇している。心理学的に見れば、これは告白への最後の迷いだ。


「殿下、お聞かせください」


私が優しく促すと、王子の表情が決意に満ちた。


「リアナ、僕は君を愛しています」


ついに王子が本音を打ち明けた。


「殿下...」


「最初は尊敬と感謝の気持ちでした。でも、君と過ごす時間が増えるにつれて、それが愛情に変わっていることに気づいたんです」


王子の告白は、心理学的に見ても非常に健全な愛情の発展過程を示していた。


「僕の気持ちを受け入れてもらえるでしょうか?」


「殿下、私も...」


「君も?」


「私も殿下を愛しております」


王子の顔が喜びで輝いた。


「君も僕の気持ちに気づいていたのですか?」


「はい。殿下の優しい眼差し、お気遣い、すべてが愛情の表れだと分かっていました」


「さすがですね。僕の心を見透かしていた」


「心理学を少し学んだことがあるので」


「心理学?」


「人の心の動きを理解する学問です」


王子が興味深そうに頷いた。


「それで僕の気持ちが分かったのですね」


「リアナ、これからもずっと僕のそばにいてくれますか?」


「はい、喜んで」


王子が私の手を取った。温かくて、力強い手だった。


「君を愛していると言葉にするまで、こんなに時間がかかってしまって」


「殿下らしいです。お慎重で、思慮深い」


「君には何でも見抜かれてしまいますね」


王子が微笑んだ。それは今まで見た中で最も美しい笑顔だった。


_________________


こうして、私たちは恋人同士となった。


恋人同士になるために、前世で学んだ心理学の知識が役に立ったかどうかはわからない。でも、おかげで、王子のことももっとわかるようになった気がした。


シャルルマーニュ王子は、外見はクールだが内面は繊細で愛情深い人だった。彼の心の奥にある優しさと愛情を理解できたのは、心理学の知識があったからこそだ。


お互いを深く理解し合うこと。それが相手を思いやる気持ちの基礎になる。


明日からは、恋人として、そして仕事のパートナーとして、さらに深い絆を築いていける。私達はきっと大丈夫だ。

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