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3. 医療知識で救世主!?

通商交渉の成功から一週間が過ぎた頃、宮廷に不穏な空気が漂い始めた。


「リアナ様、大変です!」


侍女のメイが青ざめた顔で駆け込んできた。


「どうしたの、メイ?」


「宮廷内で原因不明の病気が流行り始めているんです。既に十数名の職員が倒れて...」


私の心臓が跳ね上がった。疫病の流行は、この技術水準の社会では致命的な事態だ。現代医学の知識がない世界では、感染症は恐ろしい脅威となる。


「症状はどのようなものなの?」


「発熱、咳、それに全身の倦怠感です。宮廷医師のガレン先生も首をかしげていらっしゃいます」


私は立ち上がった。前世で医療ドラマを数多く見て、基礎的な医学知識を身につけていた。看護師の友人から聞いた話や、自分で読んだ医学書の知識も役に立つかもしれない。


「メイ、患者さんたちの様子を詳しく教えて。いつ頃から症状が出始めたの?」


_________________


私は感染者の様子を観察するため、宮廷の医務室を訪れた。


「リアナ嬢、こちらは危険ですぞ。感染する恐れが...」


宮廷医師のガレン・アスクレピオス先生が心配そうに声をかけてきた。彼はこの世界では優秀な医師として知られているが、現代医学の知識はない。


「大丈夫です。少し医学の心得がありますので」


私は慎重に患者たちの症状を観察した。発熱、乾いた咳、倦怠感、軽度の頭痛...これらの症状は前世で見たことがある。


「先生、患者さんたちの体温はどの程度でしょうか?」


「しっかりはっきり熱が出ています。解熱効果のあるハーブを投与していますが、効果は時々によるもので...」


「発症の順序はどうでしょう?最初に症状が出た方から、どのように広がっていますか?」


ガレン先生が首をひねった。


「順序ですか?そのようなことを気にしたことは...」


私は患者リストを見せてもらい、発症日と患者の勤務場所を照らし合わせた。前世で学んだ疫学の基礎知識を活用するのだ。


「これは...感染経路が見えてきました」


_________________


地図に患者の勤務場所をプロットしてみると、明確なパターンが浮かび上がった。


「先生、ご覧ください。最初の患者は厨房の職員で、その後、食堂、配膳係、そして各部署へと広がっています」


「ほう...確かにそのようですね。しかし、それが何を意味するのでしょうか?」


「これは飛沫感染、つまり咳やくしゃみで飛び散る細かい水滴によって感染が広がっている可能性が高いです」


ガレン先生の目が丸くなった。


「飛沫感染...?そのような概念は初めて聞きました」


私は前世の知識を総動員して説明した。


「病気の原因となる『目に見えない小さな生き物』が、患者の咳やくしゃみと共に空気中に放出され、それを他の人が吸い込むことで感染するのです」


「目に見えない生き物...まさか、あなたは悪霊の仕業だと?」


「いえ、悪霊ではありません。もっと物理的な存在です。ただし、肉眼では見えないほど小さいのです」


「もしそれが事実なら、どのような対策を取れば良いのでしょうか?」


ガレン先生の問いに、私は自信を持って答えた。


「まず、最も重要なのは手洗いです。頻繁に、そして正しい方法で手を洗うことで、感染リスクを大幅に減らせます」


「手洗い...ですか?」


「はい。それから、患者との距離を保つこと、換気を良くすること、そして可能であれば患者を隔離することです」


私は前世で新型コロナウイルスの流行時に学んだ感染予防策を思い出していた。基本的な原理は同じはずだ。


「隔離...それは確かに一理ありますね。しかし、手洗いがそれほど重要だとは思いませんでした」


「先生、実際にやってみましょう。私が正しい手洗い方法をお教えします」


_________________


医務室に井戸水と石鹸を用意してもらい、私は手洗いの実演を行った。


「まず、手のひらをこのようにこすり合わせます。次に、手の甲、指の間、親指の周り、指先、手首まで...」


私は20秒以上かけて、丁寧に手洗いを行った。これは前世で何度も練習した方法だ。


「なるほど...こんなに時間をかけて洗うものなのですね」


「はい。時間をかけることで、病原体をしっかりと洗い流せるのです」


ガレン先生も私の真似をして手洗いを行った。


「確かに、いつもより手がすっきりした感じがします」


「それでは、この方法を職員全員に指導していただけませんか?」


_________________


その日の午後、私は宮廷の職員を集めて感染予防講習会を開いた。


「皆さん、この病気の拡大を防ぐため、新しい予防方法を実践していただきたいと思います」


集まった職員たちは半信半疑の表情だった。貴族の令嬢が医学について語るなど、前例のないことだったからだ。


「まず、手洗いについてです。食事の前後、トイレの後、患者に接触した後は、必ずこの方法で手を洗ってください」


私は再び手洗いの実演を行った。


「次に、咳やくしゃみをする時は、必ず手で口を覆い、その後すぐに手を洗ってください」


「えーっと、リアナ様」


職員の一人が手を上げた。


「そんなに頻繁に手を洗っていたら、仕事になりません」


「最初は面倒に感じるかもしれませんが、病気になってしまったら仕事どころではありませんよね?」


私は優しく説得した。


「それに、慣れてしまえば習慣になります。皆さんの健康と、大切な人たちを守るためです」


_________________


講習会の最中、シャルルマーニュ王子が現れた。


「リアナ嬢、興味深い講習会ですね」


「殿下、ご挨拶が遅れて申し訳ございません」


「いえいえ、続けてください。私も拝聴させていただきます」


王子の登場で、職員たちの態度が一変した。彼らは真剣に私の話を聞くようになった。


「殿下もいらっしゃることですので、もう一度重要なポイントを説明させていただきます」


私は感染経路と予防方法について、より詳しく説明した。シャルルマーニュ王子は熱心にメモを取っている。


「質問があります」


王子が手を上げた。


「はい、殿下」


「あなたが言う『目に見えない小さな生き物』というのは、どのような根拠に基づいているのですか?」


さすがに鋭い質問だ。私は慌てずに答えた。


「直接見ることはできませんが、感染の広がり方を観察することで、その存在を推測できます。例えば、風の流れに沿って感染が広がったり、接触のない人には感染しなかったりする現象から...」


王子は頷いた。


「論理的な推論ですね。科学的なアプローチだと思います」


_________________


翌日、ガレン先生と相談して、患者を隔離するための専用病棟を設置した。


「リアナ嬢、本当にこのような大がかりな対策が必要でしょうか?」


「はい。感染の拡大を防ぐには、患者を健康な人から離すことが最も効果的です」


隔離病棟では、看護にあたる職員にも厳格な予防策を実施した。


「患者に接触する前後には必ず手洗いを行い、できるだけ患者との距離を保ってください」


「換気も重要です。窓を開けて、常に新鮮な空気を循環させてください」


私は看護職員に詳しく指導した。前世で見た医療ドラマの知識が役立つ。


隔離病棟で患者を観察していると、さらに詳しい症状が見えてきた。


「ガレン先生、患者さんの中に脱水症状を起こしている方がいらっしゃいます」


「脱水症状?」


「はい。発熱により体内の水分が失われているのです。水分補給を積極的に行う必要があります」


私は患者に少量ずつ、頻繁に水分を摂取させるよう指導した。


「それから、栄養状態も重要です。消化の良い食事を少量ずつ、回数を増やして提供してください」


これらの指導は、前世で学んだ看護の基本原則に基づいていた。


この世界にも、解熱や咳止めに効果のある薬草があることを知り、私はそれらを組み合わせた治療法を提案した。


「この薬草は解熱効果があり、こちらは咳を鎮める作用があります」


「リアナ嬢、あなたは薬草学もご存知なのですか?」


「少し勉強したことがあります」


実際には、前世でハーブティーの趣味があり、各種薬草の効能について調べていた知識だった。


「これらを組み合わせて煎じ薬にすれば、症状の緩和に役立つはずです」


_________________


厳格な予防策と適切な治療により、一週間ほどで感染の拡大は止まった。


「リアナ嬢、素晴らしい!新規感染者はもう三日間出ていません」


ガレン先生が興奮気味に報告してきた。


「それに、隔離病棟の患者さんたちの回復も順調です」


実際、患者の多くが快方に向かっていた。適切な水分補給と栄養管理、そして薬草による症状緩和が功を奏したのだ。


「手洗いの効果も絶大でした。職員の間では、もはや当たり前の習慣になっています」


_________________


感染症の終息により、宮廷全体の健康意識が劇的に向上した。


「リアナ様のおかげで、これまで年に数回は風邪を引いていたのに、最近は全く病気になりません」


「手洗いって、こんなに効果があるものなんですね」


職員たちからの感謝の声が相次いだ。


厨房でも衛生管理が徹底され、食中毒のリスクも大幅に減少した。


「リアナ嬢の指導で、厨房の衛生レベルが格段に向上しました」


ベルナール料理長も満足そうだった。


_________________


ある日、思いがけず第1王子アルフレッド殿下からお呼びがかかった。


「リアナ嬢、この度の疫病対策、見事でした」


「ありがとうございます、殿下」


「弟から詳しく聞いています。あなたの医学知識と実行力がなければ、宮廷は大きな被害を受けていたでしょう」


第1王子の賞賛に、私は深く頭を下げた。


「国民の健康を守ることも、王室の重要な責務です。あなたのような人材がいてくれて心強い」


_________________


その夜、シャルルマーニュ王子が私の執務室を訪れた。


「リアナ嬢、お疲れ様でした」


「殿下、お忙しい中ありがとうございます」


「今回の件で、改めてあなたの才能に感服しました」


王子が椅子に座り、私を見つめた。


「あなたの医学知識は、どこで学んだものですか?通常の貴族教育には含まれていないはずですが...」


私は慎重に答えた。


「独学です。人の命を救うことに興味があり、様々な文献を読み漁りました」


「独学で、あれほどの実践的な知識を?」


「はい。理論だけでなく、実際の症例についても研究しました」


王子の表情が変わった。


「リアナ嬢、あなたは本当に特別な人ですね」


「殿下?」


「デザート、業務改善、そして今回の医療...あなたにはどんな分野でも革新をもたらす力がある」


私の心臓が早鐘を打った。


「これは単なる好奇心かもしれませんが...あなたはいったい何者なのですか?」


鋭い質問だった。しかし、彼の瞳には非難ではなく、純粋な興味と...もしかすると、特別な感情が宿っているように見えた。


「殿下、私は...」


私は言葉に詰まった。転生者だと明かすわけにはいかない。


「人とは違う経験をしてきました。それが私に特別な視点を与えてくれているのかもしれません」


王子は静かに頷いた。


「詳しく話したくないなら、無理に聞きません。ただ...」


「はい」


「あなたがこの王国にいてくれて、本当に良かった」


その言葉には、深い感謝と信頼が込められていた。


「私も、殿下にお会いできて光栄です」


「これからも、王国のために力を貸していただけますか?」


「はい、喜んで」


王子が微笑んだ。それは以前よりもずっと親しみやすく、温かい笑顔だった。


_________________


翌週、私は宮廷の医療システム全体の改革に着手した。


「ガレン先生、予防医学の重要性をもっと広めていきましょう」


「予防医学...つまり、病気になる前に防ぐということですね」


「はい。手洗い、うがい、適度な運動、バランスの取れた食事...これらを習慣化すれば、多くの病気を防げます」


私たちは宮廷職員向けの健康管理マニュアルを作成した。


「このマニュアルを各部署に配布し、定期的に健康講習会を開催しましょう」


ガレン先生も積極的に協力してくれた。


「リアナ嬢、あなたの指導で私自身も多くを学びました。これまでの医療の概念が変わりました」


宮廷での成功を受けて、この医療システムは王国全体に広がることになった。


「リアナ嬢の医療改革を、全国の医師に伝えましょう」


シャルルマーニュ王子の提案により、全国の医師を集めた講習会が開催されることになった。


「私が講師を務めるのですか?」


「ええ。あなた以外に適任者はいません」


これは大きな責任だった。しかし、多くの人の命を救えるかもしれないチャンスでもある。


「お引き受けいたします」


_________________


講習会当日、全国から集まった医師たちを前に、私は感染症対策と予防医学について詳しく説明した。


「病気を治すことも重要ですが、病気を防ぐことはもっと重要です」


医師たちは真剣に聞き入っていた。


「手洗い、隔離、換気...これらの基本的な方法で、多くの感染症を防げます」


講習会は大成功に終わった。参加した医師たちは、新しい知識を各地に持ち帰り、実践し始めた。


数ヶ月後、王国全体で感染症による死亡率が大幅に減少したという報告が届いた。


シャルルマーニュ王子が感慨深げに言った。


「殿下、これは私一人の力ではありません。ガレン先生をはじめ、多くの方々の協力があったからこそです」


「謙遜しないでください。あなたの知識と行動力がなければ、これほどの成果は得られませんでした」


王子の言葉に、私の心は温かくなった。


_________________


その夜、意外な訪問者があった。エリス王女だった。


「リアナお姉様、お時間よろしいですか?」


「もちろんです、エリス様」


彼女は普段の高慢な態度とは違い、どこか神妙な表情をしていた。


「実は...お礼を言いたくて」


「お礼ですか?」


「私の侍女のクララが、あの病気にかかっていたんです」


私は驚いた。それは知らなかった。


「でも、お姉様の治療のおかげで、すっかり元気になりました」


エリス王女の目に涙が浮かんでいた。


「クララは小さい頃から私のそばにいてくれた、大切な人なんです。もし彼女を失っていたら...」


「エリス様...」


「お姉様、本当にありがとうございました」


彼女が深々と頭を下げた。王女が平民出身の私に頭を下げるなど、前代未聞のことだった。


「エリス様、お顔をお上げください。私は当然のことをしただけです」


「いえ、当然ではありません。お姉様は多くの人の命を救ってくださいました」


この時、私は初めてエリス王女の本当の優しさを見た気がした。


「リアナ嬢、お願いがあります」


ガレン先生が真剣な表情で私に向き合った。


「はい、何でしょうか?」


「私の弟子たちに、あなたの医学を教えていただけませんか?」


「私が?でも、私は正式な医師ではありません」


「知識に資格は関係ありません。あなたの教えは、多くの医師の教えよりも価値があります」


こうして、私は宮廷医学校の特別講師として、若い医師の卵たちに教えることになった。


「まず、患者を観察することから始めましょう」


「症状だけでなく、患者の表情、呼吸、肌の色...すべてが診断の手がかりになります」


若い医師たちは目を輝かせて私の話を聞いていた。


前世の知識を活かし、簡単な医療器具の開発も行った。


「これは聴診器の原理を応用したものです」


木製の筒を患者の胸に当てることで、心音や肺音を聞きやすくする道具だった。


「すごい!心臓の音がはっきり聞こえます」


若い医師が興奮している。


「この方法で、心臓や肺の病気をより早く発見できるようになります」


また、体温を正確に測るための工夫も提案した。


「水銀はありませんが、アルコールを使えば簡易的な温度計が作れます」


これらの器具は徐々に他の医師たちにも広がり、診断の精度向上に役立った。


_________________


ある日、シャルルマーニュ王子が医学校の講義を見学に来た。


「リアナ嬢の教えは実に論理的ですね」


講義後、王子が感想を述べた。


「ありがとうございます。医学は観察と論理的思考の学問だと思っています」


「『観察と論理的思考』...まさにその通りです」


王子は窓の外を見つめながら続けた。


「あなたのアプローチは、他の分野にも応用できそうですね」


「はい。実際、行政や軍事にも同じような考え方が使えると思います」


「軍事にも?」


「負傷者の治療はもちろん、兵士の健康管理、疫病の予防...軍隊こそ医学知識が重要だと思います」


王子の目が輝いた。


「なるほど...確かにその通りです。今度、軍医たちにも話を聞かせていただけませんか?」


_________________


翌月、王国軍の軍医たちへの講習会が開催された。


「戦場では清潔な環境を保つことが困難ですが、それでもできる限りの衛生管理を行ってください」


軍医たちは真剣に聞いている。


「傷の手当ては、まず傷口を清潔にすることから始まります」


「アルコールがあれば消毒に使用し、なければ煮沸した水で洗浄してください」


これらの指導により、軍隊での感染症や傷の悪化を大幅に減らすことができるはずだ。


加えて、医療の発展のため、宮廷に薬草園を設立することを提案した。


「各地の薬草を集めて栽培し、その効能を体系的に研究しましょう」


「素晴らしいアイデアです」


シャルルマーニュ王子が賛同してくれた。


「では、王室直轄の薬草研究所として設立しましょう」


薬草園では、私の前世の知識を活かして様々な薬草を分類し、それぞれの効能をまとめた。


「この薬草は解熱効果があり、こちらは消化を助けます」


「このハーブは外傷の治癒を促進し、あれは不眠に効果があります」


体系化された薬草の知識は、全国の医師たちに配布され、治療の選択肢を大幅に広げることになるだろう。


「病気の治療には、適切な栄養摂取も重要です」


私は栄養学の基礎概念も教えた。


「肉類、野菜、穀物...バランス良く摂取することで、体の抵抗力を高められます」


「特に病気の時は、消化の良い食事を少量ずつ、回数を多く摂ることが大切です」


この指導により、患者の回復速度が格段に向上するようになるはず。


「女性特有の健康問題についても、もっと注意を払う必要があります」


日を改めて、私は女性医師や助産師たちに向けて特別講座を開いた。


「妊娠中の栄養管理、出産時の衛生管理、産後のケア...これらを改善することで、母子ともに健康を保てます」


この取り組みにより、王国の乳幼児死亡率と妊産婦死亡率が大幅に低下していくことにつながる。


「体の健康だけでなく、心の健康も大切です」


私は精神的なケアの重要性も訴えた。


「患者さんの話をよく聞き、不安を取り除いてあげることも、治療の一部です」


「希望を持ち続けられるよう、励ましの言葉をかけてあげてください」


この人間的なアプローチは、多くの医師たちに新しい視点を提供するはずだ。


_________________


私の医療改革は隣国からも注目された。


「リアナ嬢、隣国の医師団が視察に来たいと申し出ています」


シャルルマーニュ王子が嬉しそうに報告してきた。


「私たちの医療技術を学びたいとのことです」


国際的な医療交流が始まり、知識の共有により、より多くの人々の健康向上に貢献できるようになった。


この一連の医療活動を通じて、私自身も大きく成長した。


「リアナ嬢、あなたは本当に変わりました」


メイが感慨深げに言った。


「どのように?」


「最初はお料理や事務仕事が得意な方だと思っていましたが、今では王国の医療を変革するほどの方になられて...」


確かに、転生当初は生き残ることに必死だった。しかし今では、多くの人の役に立てる存在になれている。


_________________


その夜、シャルルマーニュ王子が私の研究室を訪れた。


「リアナ嬢、今日も遅くまでお疲れ様です」


「殿下、いつもお気遣いいただき、ありがとうございます」


「あなたのおかげで、この王国の医療は飛躍的に向上しました」


王子が私の近くに歩いてきた。


「でも、それ以上に...あなた自身が素晴らしい人だということを、改めて実感しています」


「殿下?」


「命を救うことへの情熱、人々への思いやり、そして諦めない強い意志...あなたのそうした人柄に、私は深く感動しています」


私の心臓が激しく鼓動した。


「リアナ嬢、あなたは医師としても、人としても、本当に尊敬できる女性です」


その言葉には、言葉通りの意味の尊敬を超えた何かが込められているように感じられた。


「殿下、これからも王国の人々の健康のために尽力したいと思います」


「ええ、ぜひお願いします。そして...」


「はい?」


「私個人としても、あなたがそばにいてくれることを心から嬉しく思っています」


王子の優しい微笑みを見て、私は幸せを実感した。


転生者として異世界に来て、最初は戸惑うことばかりだった。しかし、前世の知識を活かして多くの人を救うことができ、そして素晴らしい人たちとの出会いに恵まれた。


特にシャルルマーニュ王子との関係は、当初の上司と部下という関係から、互いを深く尊敬し合う特別な関係へと発展していた。


宮廷の医務室には、今も私が導入した新しい医療システムが根付いている。そして多くの医師たちが、私の教えを実践し、さらに発展させてくれている。


前世では普通のOLだった私が、異世界では多くの命を救う医療改革者として認められている。これほど充実した人生があるだろうか。


明日もまた、新しい医学知識を学び、より多くの人々の役に立ちたい。そして、シャルルマーニュ王子との関係も、さらに深いものになっていくことを願っている。


転生して本当に良かった。この世界で、本当の自分の価値を見つけることができたのだから。

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