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リゲイン・ロスト・タレント ―才能を奪われた天才たちの異世界再生バトル譚―  作者: 綜目月 梶才
転生の意味

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プープ2

(最悪で考えるとしたら敵は複数、そして攻撃の意思ありになる。この仮定を対照して、煮詰めれば……だな。)


 カズヤは先ほどミカーヤが立ち止まった場所と、引き戻された場所を眺めた。


(まずは攻撃意思についてからだな。――ん? まてよ。攻撃意思があるなら、俺もう死んでね? ミカーヤやられてから、5分は経ってるぞ。兆候なくミカーヤに攻撃できる技なら、動いてない俺もすでにくらってるはずだろ)


 カズヤは試しに木の上から降りて、ミカーヤが止まった地点と同じ場所に立った。

 直立不動で立つこと2分、カズヤの体に異変はなく、全くの無傷だった。


(やっぱりだ、これは殺意を持った攻撃じゃない。そもそも殺意があるなら、俺がもたもたしている時点で殺されてるはずだからな。今回のは考えられるとしたら、ただの設置型のトラップで、目的はその場で無防備に晒す事かな。多分、定期的に確認しにきて、引っかかってたら狩るみたいな感じ)


 身の安全を確信したカズヤはミカーヤの元に戻り、ミカーヤをさらに茂みの深い場所へと引きずり始めた。


(一応もう少し隠しておこう)


 ミカーヤを木に凭れさすように隠すと、カズヤはもう一度木の上に登り、無理やり動かした右足を労るようにマッサージを始めた。


(……今回で分かったけど、俺は判断力が低すぎる。意識がまだ遊園地気分なのかもな。――今思えばもし本当に殺意を持った相手なら、ミカーヤが立ち止まった時点で異変に気づいて隠れるべきだった。考えなくていい事に思考を巡らせてるし、考えなきゃいけない事に辿り着くまでが遅すぎる。課題だな、経験の浅さが思考と行動にでてる)


 カズヤは己の未熟さを痛感し、今まで感じたことの無い深い悔しさを感じた。


(このままじゃダメだ。このままだともし同格の相手が来ても、死線を楽しむ前に終わっちまう)


 悔しさはやがて自分自身への怒りへと変わり、戒めのように右足を揉む力が次第に強くなっていった。

 その後も怒りに任せるように足を揉んでいると、下の草むらから跳ねるような音が聞こえた。

 カズヤは急いで体制を変え、下の方を覗き込むとミカーヤが焦ったように視線だけで周りを見渡していた。


「よう、ミカーヤ。起きたか」


 ミカーヤは頭上の声に反応して、眼球が裏に行きそうな勢いで上に視線やった。

 そしてカズヤの姿が視界に入った途端、安堵のため息をついた。

 カズヤは足を庇うようにゆっくりと木から降りて、ミカーヤの元へ歩み寄った。


「よかった、殺されたかと思いました。怪我ありません?」


「大丈夫大丈夫、そっちはどうなの。なんか変な攻撃されてたけど」


 カズヤはミカーヤが先ほど立ち止まった場所を指差しながら聞いた。


「これ攻撃じゃ無いです、ビックリさせてすみません」


 ミカーヤは困ったように眉毛をハの字にして、目を泳がせた。

 ミカーヤは体を動かす様子もなく木に凭れた状態で話した。


「これ、さっき話してた、私の束縛のせいです。私、家を中心とした、半径10km以内から出られないんですよ。出たらこうなるんです、ちょっと距離忘れててやらかしましたね。」


(想像してたのと結構違うな)


「こっから先行けないなら、一度家に戻って解決してからにするか」


「その件なんですが……」


ミカーヤはカズヤの言葉に被せるように言った。

 ミカーヤはまたまた眉毛をハの字に垂らして、目を泳がせながら話し始めた。


「申し訳ないんですが、私こうなったら3時間動けないんですよ。10kmを超えたら、残存するエネルギーが全て、10km内に戻るのに回されるんです。そのせいで、動けるようになるまで3時間はエネルギー貯めなきゃなんですよ」


「え、やばくない? 無防備?」


「いえ、そこは大丈夫なんですよ。10km内に戻るエネルギーは、防衛にも回されるので。問題の方は、今私動けないせいで、カズヤさん守る人いない事なんですよ」


「あ、確かに」


「3時間。失礼ですが、足を痛めているカズヤさんが、生き残れる時間とは思えません。」


 ミカーヤは困り眉のまま眉間に皺を寄せ、口を窄めて下唇を噛み締めた。

 カズヤもミカーヤの様子をみて、今の状況のヤバさを自覚して、焦り始めた。


(流石に一度も楽しめないまま死ぬのやだな。ミカーヤの様子見る感じ、ザラ・ラントとか出そうだしヤバいな)


「私が動けるようになるまでの3時間、カズヤさんを守るすべが欲しいんですが……」


ミカーヤは藁にもすがる思いで自分の懐を見た。

 カズヤはミカーヤの意図を察して、自分が持っていたレーダーを取り出して、お互いが見えるようにミカーヤの胸の前に差し出した。


「420mか……。これしかないんですけど、カズヤさんその足で、この距離いけますか」


 ミカーヤは赤子を心配するかのような目でカズヤを見た。

 カズヤは応えるように立ち上がってジャンプをした。

 自分の足の具合を確認したカズヤは少し考え、自分に言い聞かせるように頷いて、ミカーヤに向けて親指を立てた。


「よかった。じゃあもう、これに賭けるしかないですね。協力してくれるといいんで――」


【カラカロロロロロ】


 その時、ミカーヤの不安を煽るように、遥か彼方からけたたましい、雲を穿つよな咆哮が聞こえた。

 咆哮を聞いたカズヤは、全身から冷や汗が沸き始め、ミカーヤの方を向いた。


「なんだ、今の……。ザラ・ラントじゃないよな」


 ミカーヤはカズヤには目もくれず視線を動かし続け、声の主を探した。


「……ヤバい、ですね……。今の声ガンラガンラです。この森の生態系の、頂点に立つ生き物です。声を聞く感じ、結構遠いですけど、早くしないと嗅ぎつけて来ちゃうかもです」


 いつもは目を見て話すミカーヤが一度も目を合わせず、辺りを見渡し続ける姿を見たカズヤは、敵の強大さと状況の深刻さを実感した。


(くそ、まだ一度も楽しんでないのに……終わってたまるかよ。人生これからなんだよ、楽しませてくれよ……。……いや、そんな事より――)


 カズヤは深く深呼吸をして心を落ち着かせて、ミカーヤの前に立った。


「大丈夫、あんま心配すんな」

(――せっかくできた初めての仲間だ……、死なせたくない)


 カズヤは自分自身も安心させるように根拠のない言葉を投げかけ、心配するミカーヤの頭を軽く2回叩いた。


「……できるだけ早くお願いします。多分、今の私だと、ガンラガンラ相手だと死んじゃうかもです。」


 ミカーヤは不安を隠しきれず、縋りつくようにカズヤに訴えかけた。

 カズヤはしばらく怯えるミカーヤの頭を撫でた後、レーダーを手に転生者の元へと歩を進めた。


(さて、行くならできるだけ走ったほうがいいよな。――変幻自在……ね。)


 カズヤは少し小さくなった後方のミカーヤに視線を向けた後、正面を向き、自分の体を脱力させた。


(エネルギーを感じろ、自分の体に残存するエネルギーを。――お、なんか感じるかも。身体中を駆け回る漲る力、これを足と体幹に送る感じ。)


 巡るエネルギーが収束を始めると、次第にカズヤの体はまるで稲妻のように青く光り始めた。

 光り始めた体を見たカズヤは、万能感に似た高揚感と確信を感じ笑みが溢れた。


「《エネルギーコントロール》!」


カズヤは叫び、万力の力で地面を蹴った。



 走り始めたカズヤは凄まじく、人類の限界に差し掛かる速度で走り始めた。

そう、まるで1時間前のカズヤのように。


(あれ? 早くなくね?)


 カズヤは手応えがあったはずなのに、全く変わってない自分に驚いた。


(変幻自在嘘じゃん! ミカーヤのスキルできないよ、おっくん!)


 カズヤは天に向かって叫びたかったが、足を止めるわけにもいかないので、変わらぬ自分の速度で走り続けた。


 無理に走っている為右足が酷く痛んだが、カズヤは無視して走り続けた。

 走りながらも辺りを見渡して敵の姿が見えないか確認し続けた。


 カズヤは生まれて初めてまだ死にたくないと思ったのだ、初めて死の恐怖を感じた。

 そしてその死の恐怖に浸される自分に対して、カズヤは愉悦を感じた。


(死ぬのやだけど、楽しい!)


 焦燥、不安、愉悦、背反するはずの感情が今、カズヤの中で醜く混ざり、気持ちの悪い思考を生み出していた。


 ガムシャラに走り続け1分、カズヤは目的の転生者がいる場所へと辿り着いた。

 辺りを見渡してそれらしき生き物を探したが、辺りには小動物すら見えなかった。


(まずいまずい。急がないとミカーヤが死ぬ)


 どれだけ探しても埒があかぬ現状に焦り、息が乱れ喉が焼けそうな中、カズヤは無理して息を吸い込み叫んだ。


「スマホ! スマホ! スマートフォン! 日本! 天皇! 江戸時代! japane――」


「おい! お前、まさか転生者か!」


 カズヤが叫んでいると、どこからか声が飛んできた。

 カズヤは声のした方へ視線を向けて、動物の姿を探した。

 しかしいくら探しても声の主の姿は見えなかった。


「どこだ! どこにいるんだ!」


えずきそうになりながらカズヤは今一度叫んだ。


「木の上! こっち! お前から見て右! それより、お前は転生者なんだよな!」


 言われた通り右を向き、頭上にある木の上を見渡した。


「そうだ転生者だ! で、どれ! わからないからジャンプか何かしてくれ!」


「うおおおぉぉぉぉ! 転生者なのか! 分かった! 降りるから待っとけ!」


 その瞬間、カズヤの目の前に直径15cmほどの謎の物体が落ちてきた。

 カズヤは反射的に後ろに飛び退き、落ちてきたものを見ると大きなウンコがあった。


「……? なんだこれ、嫌がらせか?」


 カズヤは視線を上に戻して、見えぬ声の主へと語りかけた。


「こっち」


 その瞬間、たった今落ちてきたウンコの方から声が聞こえた。


(……?)


 カズヤは少しの疑念を抱きながら視線を下に戻し、ウンコの周辺を見渡した。


「どれだ? どれがアンタだ?」


「いや、だから、目の前のうんこが俺だって」


カズヤの疑念は確信へと変わってしまった。

 あろうことか生き残る為の頼みの綱は、目の前のウンコな事が確定した。


 カズヤは驚きのあまり口を両手で覆い、目をかっぴらいて停止した。


(レベチの特殊性癖者おるー! あかんやん、こんなん頼りようがないわー! ごめん、ミカーヤ、俺ら死ぬ)


 今日出会った何よりも衝撃な物を目の前に、カズヤは声を出す事すらできず、立ち尽くすのみだった。


「あぁ、すまん。やっぱこの姿じゃ驚くか。」


ウンコは悲しそうな声色で呟いた。


(なんで口とかないのに、喋れるんや! ヤバいよこいつー!)


 ウンコの声色など気にもとめず、カズヤは目の前の化け物に恐怖した。


 悲しみからかウンコは擦り寄るように、摩訶不思議な力でカズヤの方に一歩近づいてきた。

 だが、それに合わせるようにカズヤも一歩退いた。

 カズヤの態度から軽蔑と驚愕と恐怖を感じ取ったウンコは、自分も一歩下がり無害をアピールした。


「誤解しないでくれ、この姿俺の意思じゃないから。食い違いがあったんだよ」


ウンコはまた悲しそうな声で呟いた。


(あれ? まともそう……?)


 その言葉を聞いたカズヤは少し安堵して、警戒をほんの少し解いた。


「――ウンコになりたい特殊性癖者、じゃないって事か……?」


「そう、そういう事」


「……そう……か。なら、よかった」


 話が通じそうな状況にお互い安堵して肩を撫で下ろした。

 ウンコへの警戒心が少し解けたカズヤは、疲れのせいかその場にへたり込んだ。


「警戒解いてくれて、ありがとう」


ウンコは安堵と喜びを乗せてカズヤに感謝した。


「あぁ、ウンコになった経緯が気になるけど、とりあえずヤバい人じゃなくてよかったよ。話があってきたんだ、少しいいか?」


「おう、なんだ」


ウンコは嬉しそうに、乗り気に応えた。


「単刀直入に聞くが、アンタ、強いか?」


 カズヤの問いかけを聞いたウンコは、カズヤから少し距離をとった。


 数秒の沈黙の後、突如ウンコの体が青く光り始めた。

 ウンコを包み込む青い光は、やがてウンコの体から離れて4つの大きな球体となり浮かび上がった。

 その球体はみるみるうちに、真っ赤に燃え上がる紅蓮の炎に変わって行った。


 球体が完璧な炎へとなり、パチパチと音を鳴らし始めたのを確認したウンコは、その炎を近くの直径3mはあろうかという大木へと放った。

 放たれた炎は轟音と共に大木をいとも簡単に砕き折り、瞬く間に焼き尽くした。


 大木が炭になったのを確認したウンコは、体をこちらに向けてしゃべった。


「こんなもん」


 魑魅魍魎の姿形から放たれた、ミカーヤを超えた破壊力にカズヤは息を呑んだ。

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