プープ
南東を目指して歩く事20分、カズヤはミカーヤにおぶわれていた。
カズヤはつい数十分程前のザラ・ラント――の幼体――との激闘により、右足を痛めていた。
そのため開始8分にして歩行が難航したことにより、強制的なおんぶになってしまったのだ。
年端も行かぬ見た目のミカーヤにおぶわれるのは流石に羞恥を覚えたが、二人きりという事もあって存外すぐに慣れてしまった。
「私が回復系のスキルか魔法が使えたらよかったんですけどねー。今まで1人で生きてたので、そういうの覚える必要がなかったんですよね」
「確かにミカーヤは無縁っぽいな、ザラ・ラント一撃だし。それに比べて俺は不甲斐ねえなぁ」
カズヤは痛めた足を前後に揺らしながら、先程までの自分の幻想と現実のギャップを思い返した。
「カズヤさんは転生者なので、すぐにあれぐらいできるようになりますよ。私なんかすぐ追い越せます!」
声色でカズヤが滅入っているのを感じ取ったミカーヤは、明るい声でカズヤを元気付けようとした。
しかしカズヤはミカーヤの想像とは違い、歯がゆい様子を見せた。
「そういうわけじゃ無いんだよな。強くなりすぎちゃ意味ないし、かといって弱すぎちゃそれもそれでだし……」
「……? なんでですか? 聞いてる感じ、強くなりたそうですけど」
ミカーヤは首を傾げながら上を向いてカズヤの方を見た。
「そこが難しいんだよなー。俺は強くなりたいのに、強かったらダメ。自己矛盾してんだよな」
ミカーヤはさらに首を傾げた。
「すいません、これなんの話ですか」
「あぁ、言ってなかったな、ごめんごめん。俺さー、多分殺し合いが好きな質なんだよ。」
「へー、そりゃまた珍しいですね」
カズヤは想像していた真逆の反応を示したミカーヤに驚き、背筋を伸ばした。
「驚かないんだ」
「まぁ私の仕事の依頼人に、もっとヤバい人たくさんいますからね。それぐらいなら驚かないです。それで、殺し合い好きなのがどう関係あるんですか?」
「あーそうそう。それで殺し合いってさ、相手が弱いと死にかける前に終わるじゃん。でも強いと即死だから死にかけるとかないじゃん。だから、強くてもダメだし、弱くてもダメなんだよ」
話を聞いたミカーヤは先ほどより深く首を傾げた。
「ん? おかしくないですか。殺し合いなら、相手が弱くても強くてもできますよ。話聞く感じカズヤさんは殺し合いじゃなくて、死線に身を置く状況が好きなんじゃないですか?」
カズヤはまたもや背筋を伸ばし、今度は口元を両手で覆って目を見開いた。
「あ、そうかも。ミカーヤさんすごーい」
「ふふん、伊達に長生きしてませんよ。――つまりは、カズヤさんは死線に身を置くのが好きなので、近いレベルの相手じゃないとその状況にすら至らないせいで、強くなりすぎたり弱すぎたり、ってのが嫌ってわけですね。確かに調整が難しいですねー。でも、強い相手は無理でも、自分が弱者に合わせるなら死線は味わえますよ。強くなるってのは、悪いことではないと思います。」
「あー、確かにいいかもね。それなら嫌なのは強すぎる相手だけだし。さすがミカーヤさんですぜ」
褒められたミカーヤは少し足取りが軽くなり、笑みが溢れ始めた。
(なるほどなるほど、俺は勘違いしてたからおかしかったんだな。無条件に戦い=殺し合いって思い込んでたんだ。――ん? じゃあ強い敵に即死させられるのが、嫌ってのもおかしくないか? 一応その状況も死線だろ、少しは楽しくなきゃおかし――)
カズヤが考え事をしていると、突如、先程まで元気に歩いていたミカーヤが、石のように固まって動かなくなった。
「ん、どした?」
カズヤが心配して顔を覗き込もうとした瞬間、ミカーヤは操られたかのような足取りで6歩後ろに下がった。
「なになになに。ミカーヤどしたお前」
肩を叩いて呼びかけるも、ミカーヤは虚な目をして直立不動になったまま動かない。
カズヤはとりあえず背中から降りて適当な草むらにミカーヤを引きずっていき、周囲を見渡して警戒態勢に入った。
(何かからの攻撃か……? もしそうなら、攻撃意思がない感じ、縄張り入っちゃった感じか。)
カズヤはミカーヤの手からレーダーを取り、転生者の位置を確認した。
(まだ400mは距離がある。転生者の仕業じゃないって事は動物か。いや、400m先に届く魔法やスキルの可能性もある。あーくそ、わからん。情報が少なすぎる。とりあえず今は相手が誰かはどうでもいい、意図を考えるんだ。)
カズヤは周りを見渡して、警戒しながら近くの木の上に登った。
(ミカーヤはザラ・ラントを一撃で倒せる程の蹴りを放ったのに、俺と違って傷んでる様子がなかった。つまりその威力に耐えられるほど、肉体の耐久力が高い。少し非道だけど、こうしなきゃ共倒れだからな、仕方ない。)
カズヤはミカーヤを囮に置く事で、自分は安全圏からの周囲の索敵を可能にした。
その後40秒間、音や視界に注力したが周りにはそれらしき敵の影は見えなかった。
(マジで何もいねえな。やっぱり縄張りに入られたくないみたいなだけで、攻撃意思はないのか……? 後ろに下げられたのは、引き返してほしい意志の表れかな? ――いや、ちょっと待てよ)
その時カズヤは考えているうちに、自分自身の大きな矛盾に気付いた。
(なんでさっきから、自分にとって安全で都合のいい思考ばかりしてんだ俺。ザラ・ラントの時もそうだけど、俺やっぱり死ぬ事を嫌がってるじゃん。……やべえ、自己理解力が赤ちゃんだ。何がよくて何がダメかもわかんねえ)
カズヤは頭を掻きむしる事で、少しでも精神的ストレスを和らげようとした。
しかしいくら考え落ち着かせようとも判断材料が少なく、自分の嗜好についての結論が出なかった。
(とりあえず、自己分析は後だな。ついさっき考えて分からなかったのに、今回はわかる道理がねえ。楽観思考はやめて、最悪で考えるんだ)
カズヤは今一度、現状と見えざる敵の意向を推察した。




