本気
まるで地面が揺れているよう。
その大気に当てられ続ければ、小動物は死に至る。そう思える程の、闘気に包まれていた。
ザフネは固唾を飲み、体に力が込められる。
(――ここからが、本番か……。)
目を瞑り深呼吸を続け、少しでも体を落ち着かせる。
(腹と胸の痛みには慣れてきた……。だが、無茶は不可能。クソ風情、ゴルガ、頼むぞ。――早く試験官を連れてこい。このままでは、約束を果たせそうにない。本当に、死んでしまう)
ザフネはゆっくりと目を開け、敵を見た。
先程まで見えていた希望の光は完璧な闇へと変わり、ザフネの心を覆い尽くす。
大きかった敵は遥かに強大へと変わり、立ち塞がる。
距離は10mは開けている。
しかし火事に杓子で挑むほど心許無い。
死ぬかもしれないという懸念は、確かに形を持ち始めザフネの背に触れている……
「――だが、死ぬと踏んでも死なぬが戦士! こい!」
ザフネが構える。
「いくぜ、一瞬で終わんなよ」
ガリベラもそれに応える。
――ッッ!! まだ、速くなるというのか!
ガリベラの動きはさらにギアを上げ、流星の様に間合いを詰めていく。
――クッ、左か! 付属魔法ッ! 体を動かさねば……!
ザフネが魔法を使い、体を無理やり動かす。
迫り来る攻撃を防ぎ避けるため、槍を滑り込ませる。
しかしザフネが動くよりも速く、ガリベラの刃が懐に入り込む。
――なっ、私の体は、ここまで遅かったか……?!
いや、違う。速度は変わっていないッ!
そう錯覚する程に、こやつの本気が……
剣が……ザフネの肋を突き破り、沈み込んでいく。
(痛ッッ!!!)
そのまま振り上げ、ザフネの体が両断される直前――
――赤い流星が、ガリベラの肉体を撃ち抜いた。
(な、なんだ……!?)
ザフネは流星の飛んできた方向を見る。
「――ハァ、ハァ……間に合った!」
溶けるほど走り続けたウンコが、立っていた。
「貴様、クソ風情! 試験官はどうした!」
ザフネが血を吐きながら……しかし、それを気にかけず叫ぶ。
「試験官はゴルガが呼びにいってる」
ウンコはゆっくりと息を整えながら、ザフネに近づいていく。
そうしている間も、新たに魔法を構築し続け。
「お前もなぜ行かぬ! 逃げろと言っただろう!」
左脇を抑えザフネが怒鳴る。
「――逃げちゃダメなんだよ!」
ウンコが叫び返した。
「…………。」
その気迫にザフネは黙り込んだ。
よく見ると、ウンコの体は震えている。
敵の殺気に当てられて恐怖しているのだろう。
だがそうだというのに、何がそこまですると言うのか、ザフネは答えを待った。
「俺は……俺は世界最強になるって決めたんだ……。なのに、強敵にあってブルって、友達置いて逃げて……! 何が最強だよ!」
ウンコが声を震わせて叫ぶ。
「でも、同じ道を目指すザフネは……臆せず立ち向かった。お前が凄いと思った、助けてくれてありがとうとも思った。――でも、それ以上に負けたくないって思った! 同じ道を目指す奴として、負けたくないって思ったんだ」
「……クソ風情」
ザフネは痛みに苦しむ事をやめ、ウンコの言葉を真っ直ぐに受け止める。
「だから、俺もこいつと戦うって決めた……! それに、俺はわかった。道を進むにはライバルが必要だって。だから、ザフネ――お前は死んじゃダメなんだ。俺には、お前が必要だ」
死を悟り暗く澱んでいたザフネの目に光が取り戻される。
(……父様。友とは、ここまで良いものなのですね)
気づけば笑みが溢れていた。
その笑顔は40分ぶりだというのに、久しぶりに思えた。
「――終わったか?」
再び締め付ける様な闘気が辺りを包み込んだ。
2人の視線が吹き飛んだガリベラに向く。
あまりの威力にガリベラは19m左方向に吹き飛んでいたらしい。
ガリベラは腹部にそんな魔法が直撃したというのに、応えた様子がない。
ヘラヘラと笑いながら佇んでいた。
「1位と2位か……。ほんッッッッとうに、俺はついてる! 早くやろうぜ! もう待ちきれねえよ!」
ザフネは震える手を無理やり鎮ませ、構えた。
ウンコもザフネの横に立ち、魔法を尖らせ差し向ける。
「貴様の考えはわかったクソ風情! ならば2人で、ゴルガが戻るまで、奴を止めるぞ!」
「違うだろ、ザフネ!」
ウンコの言葉にザフネは横を向き、ウンコの顔を見る。
ウンコの目は鋭く信念に満ちていた。
「道を思い出せ」ザフネにはそう言っている様に見えた。
ザフネは痛みすら忘れ、不敵な笑みを浮かべ敵を睨んだ。
「――あぁそうだな! いくぞクソ風情! ゴルガが戻るまでに、2人で奴を倒すのだ!」
「あぁ!」




