生存戦
――ここはどこだ……。私は何をしている。
ここは、宿か。
カレンダーはどこだ……?
今日は……4月7日か。
あ、そうだ。ギルド試験の為に帝国へ来てたのだ。
急がねば。急いで申請をしに行かなければ。
確か6時半スタートだったからな。
父様を驚かすのだ。
フフ、私がギルド冒険者になったと聞けば、驚くだろう。
早く行かなければ。
この路地を抜ければ、行けるはず。
……あれ、何も見えない。
視界が何故か赤い……?
……ん、この切り掛かってきている男は誰だ。
この……美しい金色の髪は――
ガリベラの剣がザフネの足鎧に深く沈む。
鎧を突き抜け、剣はその柔らかくも硬質なザフネの筋肉を切り裂――
――そうだ、こやつは敵だ!!!
『這い回れ、暴君蛇骨』
瀬戸際に発動した絶技が、ガリベラの剣を弾いた。
「おっ、まだ行くか。決まったと思ったんだけどな」
「ッッ!」
ザフネは刹那の槍を突き刺しながら、後ろに下がる。
当然ガリベラはその全てを防ぐが、距離は取れた。
ザフネは少し切られた右太ももを動かし様子を確認。
少し痛むが、飛び回る事は造作でもない。
自分自身に感謝をした。
(――クソッ!意識が飛んでいた!)
そしてたった今、自分が幻覚を見ていた事を自覚した。
ザフネは剣のポンメル――柄頭――で殴られた、こめかみ部分を確認。
出血している。
恐らくこめかみを殴られた衝撃により、出血と幻覚を引き起こしたのだろう。
ザフネはそう解釈した。
ザフネはガリベラを睨みつけた。
ガリベラはヘラヘラとした顔で全く動かない。
先ほどからそうだ。
ガリベラは遊んでいる。
ザフネが攻撃をする。
もしその攻撃を崩されたら、その時点でガリベラの攻撃の番。
今度はこちらがガリベラの攻撃を崩さなければならない。
この流れをかれこれ4回している。
その4回の間、ザフネはずっと本気だ。
攻撃を止められるつもりはない。止められたとしても、すぐにこちらのターンを戻すつもりだ。
だが圧倒的実力の差により、遊びのようなターン制バトルを強制させられているのだ。
ガリベラは遊んでいる。
(――だが、それを利用するのだ。心底腹立たしいが、今はこれに甘んじる。奴は私が攻撃するまで、30秒は大人しく待つ。その時間を最大限に、利用するのだ)
ザフネは鎧を脱いだ。
先程の攻防で確信したのだ。無意味だという事を。
鎧を脱ぎ捨て服の一部を破き、切られた太ももに巻く。
そして出血の激しい額の傷を覆い、視界を確保した。
(残り13秒。――次はどう攻める。)
ザフネは槍を伸ばし敵との距離を測る。
6m。
一息の間もなく突ける距離。
何をすれば倒せるのか。
『這い回れ、暴君蛇骨』も防がれ。
刺突も防がれ。
斬撃も防がれ。
打撃も防がれ。
搦手も防がれ
全て防がれ――
(――何が残っているのだ。いったいどうすれば、こいつを――)
「後5秒。行かねえなら、俺の番にするぞ」
ガリベラの声が耳に突き刺さる。
(クッ、もうそんな時間か)
ザフネは策も練られず、突撃した。
刹那の槍が降り注ぐ。
1000にも上る稽古によって身につけた、必殺の刺突。
避けれたものは存在したものの――その避けた存在も、小さく当てにくいウンコのみ――、防ぐものはいなかった。
だがその槍をガリベラは涼しい顔をして防いでいく。
(何が足りんのだ! 速度は――刹那の槍の速度だけは、こいつと同速! だというのに、何故ここまで――)
「練度が高すぎるせいだな」
ガリベラの言葉にザフネの槍が一瞬止まる。
(――あ)
当然槍は止められ、ザフネのリズムが崩れる。
「俺の番だ!」
ガリベラが馬鹿正直に一直線に突撃。
瞬間、気づいた頃にはすでに懐に潜り込んでいた。
――ッッ! 愚直な攻撃だというのに、反応でき……そうだ、刹那の槍だけは奴と同速……! 攻めの技を受けに転じるのだ!
刹那の槍。
右脇を狙った攻撃に槍を挟み込み、直撃を防ぐ。
「知ってた」
だが防ぐ直前、ガリベラは刀を下に逸らし、左足で蹴りを放った。
「グッ、ウッッッ!」
槍を挟んだにも関わらず、肋の砕ける音がした。
ザフネは吹き飛び8mもの距離を地を跳ねた。
(グッ! ガッ! 受けっ、受け身を……!)
ザフネは地を跳ねつつも体制を立て直し、最後は両足で着地。
槍を構えた。
――つッ!何故バレた……!
「だから、練度が高すぎんだよ」
左脇から声。
ザフネは振り向くより先に槍を差し向け、迫り来る攻撃を防ぐ。
14回も防げば狙いはわかる。
ガリベラはワザとわかりやすい攻撃しかしてこない。
左足だ。
ッッバッン!
予想通り、攻撃の防御に成功。
しかし腕が吹き飛ばされる。
――クッ! 攻撃を防ぐたびに、我がビュンビュンヒュルゲが悲鳴をあげている!
幾度となく我が無茶振りに答えた、ビュンビュンヒュルゲが……!
ザフネは飛ばされた勢いを利用して槍を地面に刺し、それを始点に飛び上がった。
飛び上がったザフネは、地面が天井逆様の視点で状況を確認。
ガリベラの位置を視認すると槍をしならせ、突き上げる。
「おっ! おもしれえ攻撃!」
その槍が喉を裂こうとする直前、ガリベラは後ろに飛び退き回避した。
リズムを崩した、ザフネの番だ。
「ッ、ハァ!」
ザフネが止まっていた息を吐く。
肋が砕けた痛みで息が吸いづらい。
だがザフネは考えるべく、酸素を補給し続けた。
(考えろ……練度とはなんだ! それが分からねば、奴は倒せん!)
ザフネは蹴り抜かれた右脇を押さえ、激しく呼吸を続ける。
「答え、いるか?」
顔を上げる。
ガリベラがニヤニヤと笑っていた。
「ハァ、ハァ、ハァ……いってみろ」
悔しいが他に道はない。
ザフネは恥も外聞も捨て聞き入った。
「さっきも言った通り、練度が高すぎんだよお前」
ガリベラは剣の柄を槍のように持ち、ジェスチャーを開始した。
「お前の技は確かに凄い、流石1位だ。でも練度が高すぎるせいで、打たれる前に分かる。どういう事か分かるか?」
ガリベラの言葉にザフネは首を横に振る。
するとガリベラは剣を軽く一振りした。
「どうだ、振る瞬間がわかったか」
「……いや」
ガリベラは笑みを浮かべ、もう一度剣を振った。
――!!?
瞬間、辺り全てを包み込む殺気が訪れた。
「どうだ、今度は分かっただろ」
「…………。あぁ。」
「これが答えだ。お前は練度が高すぎて、ただの攻撃を技と思い込んでる。そのせいで、打つ前から空気が変わったのが分かるんだよ」
ガリベラの言葉をしっかり咀嚼。
確かにザフネは腑に落ちた。
そして残り時間19秒を全て思考に投下した。
――……なるほど。これが、これが解決できねば勝てぬのか。
どうすれば、解決を――
「あ、そうそう」
思考の最中ガリベラの言葉が入り込む。
ザフネが顔を上げるとガリベラは君の悪い笑みを浮かべていた。
「答え合わせしたんだから。次改善できてなかったら、即殺すからな。頑張れよ」
ガリベラの言葉にザフネは歯を食いしばった。
――クッ! 時間がない、どうすれば……!
カズヤ殿。貴様の知力を、借りたい……。私はどうすれば――!
その時ザフネの脳内に、ウンコ達が逃げていた光景が浮かび上がる。
(――そうか……! これを使えば! ……クソ風情、感謝するぞ。貴様のおかげで、私は生きる)
ザフネは立ち上がると、ガリベラの周りを走り始めた。
「お、何か分かったのか? 頼むぜ、俺を楽しませてくれよ」
ザフネが何かを始めたのを見て、ガリベラは舌を出し凶悪な笑みを浮かべる。
ザフネはそんな物は無視して、無心で走り続けた。
時には飛び上がり、時には近づき。
(残り8秒! それまでに、可能な限り!)
時間切れ2秒前、ザフネが立ち止まり槍を構えた。
「――さぁ、覚悟しろ。貴様のおかげで、活路が開けた。後悔する事だ、私に教えた事を」
そういうとザフネはガリベラに飛びかかった。




