ザフネさん
ハオス平原南部。
1人の女が降り立った。
試験官の1人、魔法使いバネロッサである。
彼女がこの地に降り立った理由は一つ。
――この辺りだ。この辺りで、急に受験者の魔力反応が20人分消えた。
異変の調査である。
バネロッサは空を飛び回り、辺りを探索する。
そして両断されたアズールの死体を見つけた。
――! アズール!
バネロッサは地面に降り、アズールの死体に近づく。
そして辺りを見渡した。
――戦闘の形跡ない……。アズールは実力にして、Dランクはある。
そのアズールを一方的に殺せる人なんて……受験者の中だとザフネとウンコぐらいしかいない
バネロッサがアズールの死体を動かし、両断された半身を観察する。
――でも、あの2人にこんな傷は作れないはず……。この傷を作れるとしたらテッカだけど、テッカの実力はCクラス。一方的には倒せない。
やっぱりこれは。部外者の乱入……!
早く本部に伝え――
「おー、ビンゴ」
先程まで誰もいなかったはずの後方から、声が聞こえる。
バネロッサは杖を構えながら、急いで振り返った。
――金髪ロング。受験者の中にはいなかったはず。つまり……侵入者だ。
バネロッサは乱入者を殺す為、水魔法を展開する。
「なんかよー。後ろで変な魔力反応がすると思ってよ、来て見たらこれだ。俺って、やっぱついてるよな」
男は魔法を向けられているにも関わらず、何食わぬ顔で話を続ける。
「で、お前は誰だ? ランカーだったら嬉しいんだが」
男は刀で自分の肩を叩いている。
余裕の表れによるその行動は、バネロッサの神経を逆撫でした。
「私は試験官だ。覚悟しろ侵入者。お前の罪、その命で償わせてやる」
「あっそー。ちなみに聞きたいんだけどさ、ランカーってどこにいんの? そいつら殺して、遊びたいんだよね」
男は脅しをモノともしない。
舐め腐った態度、受験者を殺された怨み、バネロッサは我慢の限界だった。
――さっきから、舐めやがって!!
喰らえ!『フェレギ・マイム』!
バネロッサが魔法を放つ。
その魔法は空中で一度弾け、細かな粒となって男へと降り注いだ。
『フェレギ・マイム』、小さな水弾を雨のように飛ばす技。
必殺の威力はないが、制圧力が極めて高い技である。
バネロッサはまず男の機動力を削ぎ、その後捕獲。
そして尋問により、男の目的を吐かせる事を狙っていた。
――四発放った。筋肉を見た感じ、スピードタイプ。いくら速くたって、この弾丸の雨は避けられない……!
「おお。流石にやべえなこりゃ。」
あまりの弾丸の量に男が声を漏らす。
だがその余裕は、未だ崩れなかった。
「『死霊の戯れ』」
男が唱え、剣を横に軽く振った。
シャラーン。
その瞬間、戦場には似合わないなんとも美しい鈴の音が鳴り響いた。
――見た事ない技……。でも関係ない! 私の魔法の方が速い!
しかし大量の『フェレギ・マイム』が男に降り注ぐ直前、男の目の前に突如壁が現れた。
その壁は放った魔法を全て受け切り、男を守って再び倒れていった。
――今のは……! アズール?!
そう、男を守ったのはバネロッサの横で両断されていたはずのアズールだった。
「死者を操る技……、それにその金色に輝く髪……。お前、まさか……!」
男は自分を守ったアズールの死体を踏みつけながら、バネロッサへと近づいていく。
「俺そこまで有名? 照れるな。――じゃ、死んでよし」
そしてバネロッサが反応するよりも速く剣を振り抜き、バネロッサの体を両断した。
「さてと、無駄足だったな。速くランカー探すか」
男はバネロッサにトドメを刺すことすらせず、そのままどこかへ走り去っていった。
男が去って行った後、バネロッサは上半身だけの状態で這い続けた。
敵の侵入を、正体を仲間に伝えるために。
――まずい、早く伝えなきゃ……。あいつ……あいつは……全視のガリベラ……。
B、いやA級案件だ……。
皆殺しにされる……はやく、伝えなきゃ……つ……た…………
しかしそれは叶わず。
バネロッサはただ血の道を作って生き絶えた。
――場面は変わり、ウンコ。
ウンコは相対したザフネを睨み、ただ魔法を浮かばせているだけだった。
(死。それがあるだけで、こんなにも怖いのか……。こんな中、どうやってザフネに勝つんだ)
ウンコがザフネを睨み続け警戒している中、ザフネは何食わぬ顔で構えを解いて槍を立てた。
(え……?)
ウンコが驚き固まる。
そんなウンコの感情には気づかず、ザフネは槍を近くの木に立て掛け、低い位置にある枝に腰をかけた。
「クソ風情、何をしている。私だ。はやく魔法を解かんか。――ふう、それにしても疲れる。常に気を張り続けるのは、苦難だな。」
「え……、戦わないのか……?」
ウンコが恐る恐る聞く。
ザフネはその言葉に首を傾げた。
「何故、友と戦わねばならぬのだ。殺す相手は貴様以外いくらでもいる、わざわざ友を選ぶ必要などなかろう」
ザフネの言葉にウンコは再び固まった。
そして己の行動を悔やんだ。
(クソ、俺は最低だ。死の恐怖でおかしくなってた……。共に戦った仲間に、魔法を向けるなんて。――謝ろう)
「ごめんザフネ。俺、お前を敵と見て、戦う事考えてた」
ウンコの言葉にザフネは驚く様子もなく、不敵に笑う。
「何を言っている、それでよいのだ。戦場で常に気を抜かぬ、友ですら疑う。立派な心がけではないか」
ザフネの言葉にウンコは少し心が軽くなった。
そしてどんな時でもブレない信念を持ち、器の大きいザフネを少し羨ましく思った。
「ありがとう。でもいいのか、俺が友達で。だってお前――」
「なんだ、第一試験と第二試験会場での事を、まだ引きずっているとおもっていたのか。私はそんな女々しい者ではない。確かに最初は嫌いだった。プライドをへし折られたからな」
ザフネが第二試験を想起して頬が緩む。
「だが今は、お前に感謝しているのだぞ」
どこかぎこちなく優しい笑顔をウンコに向ける。
「私は生まれつき魂が強くてな。チャンバラごっこをすると、大人ですら文字通り骨が折れた。当然同年代の友はおらず、孤独だったのだ。――だがお前達が現れた。私と対等の力を持つ、貴様らだ。ゴルガと貴様のおかげで、私は初めて友と肩を並べ戦う喜びを知った。だから、感謝しているのだ」
友を語るザフネの目は武人ではなく、ただの乙女のように見えた。
その姿に、ウンコはザフネに対して勘違いをしていた事を自覚した。
「してクソ風情。貴様、こんな所で息を荒げて何をしていたんだ? 敵か獣かと勘違いしたぞ」
「その……殺す事が怖くて……」
理由を話した後ウンコは目を瞑った。
笑われるかも、と思ったからだ。
「ふむ、経験はなしか。ならば仕方ない」
しかしザフネは真面目な顔をして、顎に手を当て悩んだ。
「よし、友の為一肌脱ごう。私も協力する、トドメだけ貴様が刺せばいいのだ。私が戦っている間、貴様は覚悟を決めておけ」
ザフネは槍を手に持ち、立ち上がった。
「いくぞ、クソ風情。共に第三試験を突破するのだ」
ザフネの言動に気づけばウンコは涙を流していた。
「ありがとう、ありがとう。」
(カズヤ、ミカーヤ、やっぱり友達っていいもんだよ……。)




