第三試験開始
「説明を続ける!」
デボラが掲示板を叩きながら、叫ぶ。
そして一瞬だけ、最前列右側に視線をやった。
「なぜ第一、第二と違い、第三試験では命を絶つ必要があるのか! それは、お前達を次のステージに上げるためだ!」
体全体でジェスチャーをしながら、説明を盛り上げていく。
そして一瞬だけ、最前列右側に視線をやった。
「実はギルド冒険者の死因の約4割は、ある事が原因で起きていると言われている!」
一瞬だけ、最前列右側に視線をやる。
先程から何かが気になっており、説明どころではないようだ。
デボラは何を気にしているのか……。
それは――
(なんで問題児がここにいるんだ……。さっきまで、最後列だっただろ)
それはカズヤのせいであった。
いつのまにか最後列にいたカズヤは、一瞬で最前列まで現れ、そして見た事もない凛々しい顔で背筋を伸ばしていた。
その異様な風景にデボラは気になって、説明どころではなかった。
だがデボラも一応プロ、乱れる心を抑え説明を続ける。
「そのある事とは――死への恐怖である。死への恐怖、殺人への躊躇。これらは、戦場ではただの足枷になってしまう」
カズヤがロックバンドのように頭を振って頷く。
「それを防ぐため、第三試験では死に対して慣れてもらう!」
カズヤが盛大に拍手する。
デボラはやりにくそうな顔を浮かべ、カズヤを嫌そうに睨んだ。
(あいつなんなん……)
「……。この試験は性質上、今までとは違い、死の危険性を伴う。嫌な者は辞退しても構わない!」
静寂が訪れる――最後列を除いて――。
デボラは脱落者を待った。
だが誰も動かない。
誰も辞退など頭に浮かび上がる事すらなかったのだ。
豊作の受験者にデボラは笑みをこぼす。
「お前達!それでこそだ! ではこれより、第三試験を開始する! 受験者数は72名! 勝利条件は合計で一名、対象の命を絶つ事! 勝利条件達成の判断は――」
説明の最中、デボラがハルハから黄色いブレスレットを受け取る。
「今から配るこのブレスレットを基準にする! このブレスレットは、装着者の魔力が絶たれるまで決して外れん! つまり対象を殺害し、回収できたもの! その者を達成者とする!」
そういうと、他3名の試験官が受験者一人一人にブレスレットを渡していった。
「もしブレスレットを二個持つ者を殺害した場合、その者は即失格! そして殺人罪で逮捕する! ルールも守れぬ殺人は、ただの犯罪者だ!いいな! ――それでは、開始する! フィールド出現場所はランダムだ! いきなり接敵する場合もある! 先程の仲間も含め、全ては敵と思え! 受け取ったものから各自、魔晶石を砕き会場へ向かうのだ! カズヤは残れ!」
(……え?)
会場内から雄叫びが上がる。
その声は今日1番。
会場全体が揺れ、窓ガラスが歪んで見えるほどだ。
そして受験者達は魔晶石を砕き、第三試験へと向かっていった。
――言いつけ通り会場内に残ったカズヤ。
皆がいなくなったのを確認すると、嫌そうな顔をしながらデボラに近づいた。
「なんすか」
カズヤが問いかけると、デボラはうんざりとした顔で後方を指差した。
振り返ると3人は――いや、なぜかアクタも参加して4人は、いまだに取っ組み合いを続けていた。
「あれ頼む。我々では無理だ」
「……はい」
――13分後。カズヤは4名を抑え、第三試験内容を説明した。
説明を聞いたザフネの槍を持つ手が震え始める。
その光景に4人の視線が集まる中、ザフネは立ち上がってウンコを指差した。
「フッ。ついに来たか、個人戦! 私はこの第三試験で、クソ風情!貴様をついに超える! それと3位――ん?違う。 名はなんだ」
「アクタ。こっちはカズヤん」
「そうだった! アクタ殿を越え、一位となる! 覚悟しておけ」
そういうとザフネは一足先に魔晶石を砕き、第三試験を開始した。
「……。あいつまだ、俺らの名前覚えてなかったのか。まぁ、俺も行くわ」
ザフネに呆れながら、カズヤもアクタの力を借りて魔晶石を起動。
「待って、私も」
アクタも後に続く。
静寂の中2人が見つめ合う。
「ゴルガ、こっからは敵だ。敵に言うのもなんだが、頑張れよ! お互い生きて突破しようぜ」
「おう」
2人も起動。
こうして、受験者72名がハオス平原に降り立った。
「しゃあー!ご褒美会だ! さてさて、どんな殺し合いをしましょうか!」
カズヤは上機嫌に鼻歌を歌いながら平原を歩く。
カズヤの陽気さとは裏腹に、ハオス平原は異様な静けさに包まれていた。
風が止み、鳥も鳴かない。
まるで、この先に待つ“何か”が空気ごと押しつぶしているようだった。
この第三試験が最も苛烈を極め、凄惨な事件になる事は……まだ誰も知らない。
――ハオス平原南部地点。
帝都を襲った男が金色に輝く長髪を靡かせ、上位ランカーアズールの両断された死体に腰掛け、紙を広げていた。
「はぁ。このデブが本当に、元5位なのか? なんも手応えもなかったぞ」
男が紙に書かれたランキングを上からなぞる。
「やっぱり、戦うなら――トップ3だな。こいつら探して、殺して遊ぶか」
男は氷のように冷たい笑みを浮かべ、ハオス平原を駆けた。
作品備考1
もし辞退してたら、その時点で2〜6ヶ月ギルド試験受注禁止です。
ギルドに死はつきものなのに、逃げる奴などいらんのですよ。
作品備考2
生き残った人は試験官に言えば、特殊な魔法でブレスレットを取ってくれます。
なので一生物にはなりません。
作品備考3
ウンコだけ特別に、ブレスレットではなく小さな宝石です。
体の中に埋め込まれてます




