死なないなら、手段は選ばない。これが主人公のする事か!
「起きろ、起きるんだ槍女」
縛られているザフネの頬をアクタが叩く。
いくら叩いても起きないザフネに、アクタは次第に叩く力を強めていく。
その結果白く美しかった頬は、色をもち膨れ上がっていく。
右頬が左に比べ2倍ほどになった時、ザフネはようやく目を覚ました。
「――痛い……。私は……ハッ、そうだ! 勝敗はどうなった!」
起きるならザフネは慌ただしく暴れ、顔を動かす。
「んっ! 10位殿、3位殿! 勝負はどうなったのだ!」
2人の姿を発見し、騒がしく唾を撒き散らしながら叫ぶ。
カズヤは顔にかかった唾を拭きながら、ザフネの前に座り込んだ。
「今停滞中。両チーム2-2の状態」
「そうか……! 我がチームはまだ、チャンスはあるのだな!」
ザフネは縛らられたまま、足を動かし喜びを表現する。
身体を動かすたびに鎖がジャラジャラと鳴り、カズヤにはなんとも滑稽な姿に思えた。
しばらくすると喜び疲れたのかザフネは停止して、真面目な顔で座り込むカズヤを見下ろした。
「――10位殿、恥を忍んで折り入りたい。あの戦術の正解を教えて欲しい。最終試合なのだ、デメリットはないだろう」
「ん、まぁいいよ」
「おお! ほんとか!」
カズヤは自分達が仕掛けた作戦の内容を全て話した。
「なるほど……。やはりあの違和感はあってたのか。問題は、私の視野の狭さだな。すまない、ありがとう。これで次に繋がる」
ザフネは頷いているのか礼をしているのかよく分からない動きをした。
そしてその場に座り込むカズヤと、その横に立つアクタを交互に身始めた。
「して、気になったのだが……。何故2人はこの場にいるのだ? 戦わなくていいのか? クソ風情相手に待ちは、近接型の2人は愚策だろう。――そして」
そこで視線をもう一度アクタに向ける。
「何故3位殿は縮んでいるのだ」
その言葉にカズヤもアクタを見る。
次なる策の思考などにより、しばらく見ていなかったアクタ。
久しぶりに見ると、ザフネの言う通り背が縮んでいた。
170近くはあったはずの身長は、何故か140cmほどまで縮んでいた。
「なにが……何があったんすか! アクタさん!?」
「これなー、スキルの使いすぎだなー。今日カズヤんに貰ったパンしか食べてないからなー。まぁ、食えば治るから大丈夫」
アクタは元気よくカズヤに親指を立てた。
だがカズヤは額に手を当てて俯き、身体を震わせた。
「馬鹿野郎アクタ! 何故それを早く言わん! 考えてた作戦が、パァになったぞ!」
カズヤがアクタの肩を持ち、身体を揺らしながら叫ぶ。
ただでさえ今日は脳を使いすぎている。
つまりこれ以上無駄なリソースは割きたくない。
そんな状況でこれだ、カズヤが叫ぶのも無理もなかった。
「……はぁ。すぎた事言っても仕方ないな、もうすぐに終わらせよう」
カズヤは徐に立ち上がり、ザフネにゆっくりと近づいて肩に手を置く。
そして悪魔のような笑みを浮かべた。
「この場にいる理由、気になってたんだよね。教えてあげる」
カズヤの表情と言葉にザフネが冷や汗を垂らし、息を呑んだ。
そんなザフネの顔を無理やり動かし、カズヤがウンコたちの逃げていった林を指差す。
「あいつら、速度も場所もバラバラに逃げていったんだけど、という事は逸れた時用の集合場所があるって事だよね? 教えてくれないかな? もちろん、タダでとは言わない」
カズヤの要求にザフネは鋭い目つきで睨みつける。
「貴様、舐めるなよ。私が仲間を売るはずがないだろ! そして物に釣られるなど、その考えが不愉快だ!」
激怒するザフネにカズヤは臆せず笑みを保ち、顔の前で手を振って否定をする。
「違う違う、与えるんじゃない。逆だよ。もし話したら、与えないであげるって事」
「……拷問か」
「そ。悪いな。負ける訳にはいかないんでな、手段を選んでいる場合じゃないんだ」
ザフネは不敵な笑みを見せ、鼻で笑った。
「この試合は、後遺症は与えられないルールなのだぞ? たかがその程度の攻撃で、私が屈すると思うのか?」
カズヤも不敵な笑みで返す。
「大丈夫、考えてあるから。――アクタ、指を尖らせて」
「あい」
アクタが人差し指を、槍のように尖らせる。
その間カズヤは鎖で縛りつつ、上手いようにザフネの鎧を脱がせた。
そしてザフネの腹を指差し、アクタの方を向く。
「臍刺せ」
「あい」
「――ッッ!?!?」
激痛にザフネは咄嗟の防御反応で、身体を丸めようと前屈みになる。
しかし鎖のせいで体は座る姿勢の、伸び切ったまま。
臍を刺される激痛をそのまま味わった。
「――だが、耐え切ったぞ……! フフフ、私の勝ちだ。もう手段はあるま……オエッ」
激痛と内臓を触られる不快感にザフネがえずく。
脂汗を垂らし目を真っ赤に染めつつも、ザフネは不敵な笑みでカズヤを睨み続けた。
「あれー? 俺、これで終わりって言ったっけ」
しかしカズヤはなおも笑顔を崩さない。
「アクタ、かき混ぜろ」
「あい」
臍に突き刺した指で、腹の中を掻き混ぜる。
その攻撃にザフネは身体を揺らし続ける。
ギシギシと鎖が軋む。
ザフネは口を膨らませ、迫り上がる胃液を抑え込む。
3秒。
たったそれだけの時間が、ザフネには悠久の時に感じられた。
だがザフネはその攻撃を――
「……馬鹿者が。耐えた……、耐えたぞ……! 我々の勝ちだ。後遺症の残る攻撃をした、貴様らのしっか――」
「アクタ、治せ」
「あい」
絶望の一言と共に、切り刻まれた内臓が治っていく。
カズヤはその行動に動揺して目が泳ぐザフネの肩に手を置き、顔を近づけ悪どい笑みを浮かべて囁いた。
「誰が――一回だけって言った? それにね、ザフネ。バレなきゃ、何してもいいんだよ」
カズヤはザフネの顎を持ち上げ、口から溢れ出る血の混じった涎を見る。
次に顔を引き寄せ、涙が浮かび真っ赤に染まった目を見つめた。
「おやおや? ザフネさん。君ひょっとして、嘔吐恐怖症だな? 涎を飲み込むのも避けるぐらい、吐く事を嫌がってるね。――どうだ? 君も吐きたくはないだろ、ここで話したらもうやめてあげる。それに、場所を教えたぐらいじゃ何も変わらないよ。勝つって信じてこそ、仲間じゃないか」
カズヤの言葉に目が揺らぐ。
犬のような息を吐きながら、アクタとカズヤを一瞥。
そして大きく息を吐き、垂らし続けている涎を飲み込んだ。
「……フッ。私がクソ風情にした誘惑と大違いだな。私に比べれば、10位殿の誘惑は遥かに甘露。勉強になる……。だが、舐めるな! 我が名は戦士ザフネ・ゼネギアス! この程度では折れんぞ! 3位殿がスキルを使えなくなるまで、耐え切ってやる!」
しかし屈せず啖呵を切り、己を奮い立たせた。
「…………。アクタ」
「あい」――
――「結局、5ドリル耐えたな」
「うん、凄かった」
カズヤが気絶したザフネに拍手をする。
「ゲロった回数は3回、それまで白状らずよく耐えた。俺みたいな性癖じゃないのに、すげえよ。戦士ザフネ、場所を教えたお前を誰も責めねえよ」
カズヤは地面に置いていた自分の剣を手に取る。
そして剣で林の方を指した。
「じゃあいくか、アクタ。敵の場所はわかった、5連勝まであと少しだ」




