試験開始
「これより!ギルド試験を開始する!!」
アクタと握手をするやいなや、獣のような叫び声が会場内に響き渡った。
「始まったよ、カズヤん。」
アクタはすぐさま客席にいる試験官達の方を向いた。
一方カズヤはアクタとは違い、会場内を見渡した。
そして入り口付近で呆けている、ウンコを発見した。
(よかった、ちゃんと入れたんだな)
――『いいですか。二人のやりたい事はどちらも戦う事です、つまりギルド試験には絶対合格しなきゃならないんです。もし資格なしで戦闘なんてしたら、一生牢屋生活ですよ』
カズヤはミカーヤの言葉を思い出し、ウンコが受注できた事に安堵した。
そしてウンコが入れた事を確認すると、アクタと同じように試験官達の方を見た。
試験官の1人が会場内にある参加者の数を数え、直立する――恐らく叫んだであろう――試験官に耳打ちをした。
「167か、随分と減ったが仕方がない! 時間を守れぬ者は切り捨てる!」
相変わらず鼓膜が破れそうなほどの声量で、試験官は叫び続けている。
「では、前置きなどなしでいくぞ! 第一試験は、戦闘だ!」
試験官がそう叫ぶともう1人の魔女のような帽子を被った試験官が立ち上がり、魔法で大量の魔晶石を浮かべて、受験者全員の手元まで飛ばした。
「うむ、行き渡ったな。それではルールを解説する! ルールは単純! 一騎打ちで敵を戦闘不能にさせた方が、第一試験突破だ! 戦闘不能の条件は、気絶または降参する事だ! 何か質問はあるか!」
静寂の中、1人の受験者が手を挙げた。
「そこ! なんだ!」
試験官がその受験者を指名した。
それにより会場内の視線は、受験者ただ1人に集まった。
当然カズヤの視線もそこへ向く。
その受験者とは、先ほどカズヤが見ていた別格の9人のうち1人だった。
「戦闘不能の中に死亡が入ってないのはなんで?」
冷たい凍るような声で疑問を投げかける。
試験官に比べて遥かに小さい声だったが、その声は不思議と会場内の全員の耳に届いた。
「うむ、いい質問だ! 答えは単純! ギルド適性を測るためだ! ギルドの仕事内容の中には、当然捕獲などのクエストも存在する! つまり殺すしか脳がない者はいらん! この試験では戦闘力、そして制圧力を見ていくのだ! それ故に死亡は入っておらん!」
再び静寂。
「他に質問は!」
――カズヤがゆっくりと手を上げた。
「そこ! なんだ!」
体の芯にまで届くような声に当てられ、カズヤはゆっくりと口を開いた。
「殺した場合、どうなんの」
「うむ、いい質問だ! 答えは単純! 殺した場合は即失格となる! だがもし、故意ではなく事故で殺してしまった場合は免除となる!」
その言葉を聞きカズヤは笑みを浮かべた。
(なんだ、簡単じゃねえか! この試験、アレを使えば確定で勝てる)
カズヤはアクタに笑顔を向けた後、小さくガッツポーズをした。
「なんかあった? カズヤん」
「あぁ。俺限定だが、絶対突破できる方法思いついた」
「さすがカズヤん。良さげじゃのう」
アクタはカズヤの背中をバンバンと叩き、褒め称えた。
その行動に多少の痛みを覚えながら、カズヤは試験官の方へ向き直した。
「……質問はないようだな! それでは、試験場へと移動する! 各自渡された魔晶石を起動して、試験会場へ向かえ! 魔力を注ぐだけで起動する! 相手は完全ランダム、肉親であっても倒せええぇぇ!」
試験官の叫びに会場内全ての受験者が呼応して叫ぶ。
その声は地面すらも揺らし、カズヤの士気を極限まで高めた。
「カズヤん。敵に来たらごめんね、倒すからね」
アクタはカズヤの目の前に回り込み、胸の前でピースを振った。
「おう、望む所だ。――ところで、魔力だけ入れていってくれない?」
カズヤはアクタに親指を立てた後、渡された魔晶石を差し出して頼み込んだ。
「まかせんしゃい! 全くカズヤんは私がいなきゃ、なんにもできないんだから」
そういうとアクタは人差し指を差し出し、魔晶石へと魔力を注ぎ始めた。
――その瞬間。瞬く間に風景が変わり、カズヤは小学校教室一つ分ほどの空に浮かぶ孤島の上に立っていた。
(すげ、魔法で作られたリングって事かな)
カズヤは背中に背負う相棒『クレイの剣』を引き抜き、来たる対戦相手を待った。
――待つ事10秒、カズヤの相手が現れた。
(……えぇ)
その対戦相手は――2mは軽く超え皮膚は鱗で覆われており、カズヤの身の丈ほどの大剣を持っていた。
(まじか……お前かよ)
そう、その相手は会場内で別格と見込んでいたうちの1人――今回の受験者一の巨躯を持つリザードマンであった。
「――ん? なんだチビザコじゃねえか。」
カズヤを見るなりリザードマンは嘲り笑う。
「残念だったな、一回戦は俺の勝ちだ。チビザコ」
リザードマンは地面に大剣を突き刺し、柄に手と顎を乗せると、尻尾で地面を叩き始めた。
しかしカズヤは不敵な笑みを浮かべ、リザードマンと同じポーズをとった。
「悪いけど、俺が勝つんで。残念、バイバイ」
「言ってくれるねぇ。――決めた、開始の合図から20秒以内に方をつけてやるよ」
「じゃあ俺も、20秒で方をつけてやる」
2人は一触即発の中、笑い睨み合った。
――数々の空に浮かぶ群島の中、中央にある小さな孤島。
そこは試験官が集まる場所であった。
「よう、ハルハ。どうだ今回のレベルは。見込みある奴いるか?」
先ほど叫び散らしていた試験官が、石でできた机にうつ伏せている試験官ハルハにコーヒーを渡しながら問いかける。
「おう、デボラ。――んー、やっぱり玉石混交だな。でも今回の玉は凄いよ、今年の中では1番だね。10人……かな。そいつらは飛び抜けてる」
ハルハは身を起こしてコーヒを受け取り飲み始めた。
「ふむ、誰だ」
ハルハは飲み物を飲みながら、一人一人指を指していく。
――まずは1人目、最初に質問してた幸薄そうな男。あいつ、魔力量が半端じゃない。
次に、名無しのバッジ女。さっきの会場内で見てたけど、身体能力が凄まじい。
3人目、ウンコ――
「ウンコ!? え、どこ……ウワっ、マジだ!」
「説明乱すなよアホ」
ハルハは乗り出す身を支えている腕を殴り、不満を示した。
「あ、すまん。続けて」
――たく。3人目、ウンコ。こいつも魔力量が半端じゃない。あと、地味に身体能力も高め。
4人目、傷まみれ長髪パンイチの男。身体能力高い。
5人目、デブ男。パワー凄い。
6人目、ツインテ女。さっき喧嘩でスキル使ってたけど、それが強い。
7人目、獣人女。多分羊。凄い魔法使える。
8人目、槍持ってる長髪の女。マジで強い。
9人目、生意気そうな金髪のガキ。ガキのくせに強い。
10人目、獣人男。多分リザードマン。パワー凄い――
(後半雑だな)
デボラはハルハが選んだ10人を頷きながらしっかりと見ていく。
そして最後の男を見た後、対戦相手のカズヤに着目した。
「あいつはどうなんだ、質問男。持ってる武器、あれ魔剣だぞ」
ハルハは指さされたカズヤを見た後、嘲笑まじりに一言吐いた。
「あれマジで雑魚」
ハルハはコーヒーを一気に飲み干した後立ち上がり、もう一度カズヤを見た。
「確かに持ってるの魔剣だけど、本人が弱えな。これ、一瞬で終わるどころか――あいつ死ぬぞ」
「惜しいな……」
ハルハの言葉にデボラは腕を組んだ。
「見込みあるリザード男は、ここで脱落か……」
デボラは軽く落胆した。
「よし、開始の合図送るか」
デボラは徐に立ち上がり、自分の島にある丘の頂点へと向かい息を大きく吸った――
――「始まるな」
カズヤの対戦相手のリザードマンがボソリと呟いた。
「ん、そろそろか」
その言葉にカズヤは突き刺した剣を引き抜き、剣先を地面に向けたまま、両手で天高く掲げた。
「なんだそれ? フィールド型の魔法かスキルか?」
その行動をリザードマンは尻尾で刺しながら聞く。
その言葉にカズヤは笑いながらベロを出した。
「教えねえよ! お前に勝つ秘訣っとだけ言っとくわ!」
「雑魚がイキがんな――」
――始めぇぇぇぇい!!!
会話の途中で開始の合図が全群島に響き渡る。
その瞬間リザードマンは大剣を引き抜き、カズヤへと飛びかかった。
距離にして16m。
リザードマンが一瞬にして距離を詰め、カズヤにその大剣を振り下ろそうとした瞬間――
カズヤは掲げた剣を全力で振り下ろし、自分の腹へ深々と突き刺した。
剣は腹を貫通し、背中から飛び出てしまった。
「――なんっにしてんだぁ!」
リザードマンは咄嗟に振り下ろした大剣を横に逸らし、地面へと叩きつける。
その衝撃で孤島に大きな亀裂が生まれ、リングの一部が地上へと落ちていった。
「間に……合った……。ハハハハハッ! 俺の勝ちだ!」
――その衝撃の光景を見ていたのは、リザードマンだけではなかった。
一瞬で勝負がつく様を眺めようと、ハルハとデボラはこの勝負に注目していたのだった。
そしてそのカズヤの秘策をみたハルハは、コーヒーの入っていたカップを握りしめて叫んだ。
「なんだあいつ、天才かよ……! ――それは考えついても、できねえもんだろ! デボラ、違え! 今回一番の見込みはアイツだ!!!!」




