アクタ……?
――事件と同刻、ギルド試験会場。
カズヤ達は試験申し込みの手続きをしていた。
「はい次の方、お名前を」
列に並んでいたカズヤは受付の女性に呼ばれ、一歩前に出る。
「はい。カズヤです」
「カズヤ様ですね。姓などなく、名だけでよろしいでしょうか」
受付嬢の言葉にカズヤは軽く驚いた。
(苗字か。この世界にもあるのね……。――まぁ、めんどいし名だけでいいか)
「はい」
「カズヤの文字は、漢字と通常文字どちらでしょうか。」
そしてまたまた驚いた。
(漢字もあるんだ。もしや、転生者の文化流れてる? ――まぁ、これもめんどいし)
「通常で」
名前を伝え終わると受付嬢は書類に何かを書き、カズヤの胸にバッジ――『183 カズヤ』と書かれている――を貼り付けた。
「ではそちらの門をくぐり、会場にてお待ちください」
カズヤは受付嬢に指定された方向に向かい、門をくぐる。
「――おぉ」
そこには100を超える戦士たちが、静かな熱を孕んで会場を埋め尽くしていた。
殺気立つ戦士達により空気は重く、息を吸うだけでもひりつく。
(闘技場みたいな場所だな)
だがそんな場所をカズヤは遊園地に来たかのように、呑気に剣を振りながら突き進んでいく。
そして会場最奥まで突き進み、客席に佇む試験管4名を見上げて、手を振り近くの椅子に座り込んだ。
(……それにしても)
カズヤは辺りを見渡し、会場に集まる受験者達を観察した。
(みんな殺気だってんな。まぁ、そりゃそうか)
カズヤは受験者達を見ながら、昨日ミカーヤから聞いた言葉を思い出す。
『試験は危険ですからね! 内容によっちゃ死にます! 細心の注意を払ってください』
(死ぬかもだったら、こうなるわな)
カズヤは軽く頷きながら、受験者達の観察を続けた。
観察をしているとカズヤはある事に気づいた。
こんなにも数多くいる受験者達の中で、9名ほど異彩を放つ者がいたのだ。
――カズヤと同じく気楽に試験を待つ者達だ。
会場の受験者達は100を超えるにも関わらず、彼らはよく目立っていた。
(素人から見てもわかる、あいつらは別格だな)
カズヤはいずれ試験で戦うかもしれない9人を見据え、ミカーヤからもらったパンを食べながら警戒した。
――だが、カズヤが気づいた事はこれではない。
(……やっぱり気のせいじゃない)
カズヤが別格だと睨んだ9名のうち1人、少し芋臭い短髪のどこか顔付きがミカーヤに似ている女の子が――
(――めっちゃ見てる……!)
明らかにカズヤの事を凝視していた。
カズヤは気まずくなり、少し目を逸らした。
だがそいつはすぐに視界の内に回り込み、またもや凝視し続けた。
(なんなの……!)
カズヤは目的のわからないその行動に困惑して、ついには後ろは振り返り壁を見始めた。
しかし――
「――ウワッ!」
そいつはまたもや視界の内に入り込んできた。
しかも今度は距離が近い――
「なになに、なんすか!」
――いや、近いなんてもんではない。
そいつはどんどんと近づいてきて、ついにはデコとデコを合わせ凝視するようになった。
(うぅ、怖えよ。ウンコさん助けて)
カズヤは勇気を振り絞ってそいつの肩を持ち、引き剥がす。
そして少し距離を取り、手に持つパンを突き出した。
「なんのよう!」
そいつは突き出されたパンを見て笑顔を浮かべると、人とは思えない大きな口を開けてパンを丸呑みした。
「良い人だねー、あなた」
そいつは涎を腕で拭きながら、近くにあった椅子に座り込んだ。
「パン……?パンが欲しかったの?」
カズヤは涎に塗れた右手を服で拭きながら、恐る恐る問いかける。
「違うよー、カズヤん。私をなんだと思っているか!」
カズヤは突然の距離の詰め方に困惑しながらも、敵意がない事に安心して自分も椅子に座り込んだ。
「じゃあ何よ。えっと――」
カズヤは女の胸元にあるバッジを見て、名前を確認しようとした。
――しかし女のバッジには名前がない。
「え、名前は」
カズヤは思わず声が漏れる。
「意味わかんないって言われてねー、名無しにされた」
女はバッジを指で軽く弾き、なぜかドヤ顔で胸を張って強調した。
「私の名前なー、沢山あるんよ。カズヤんは何が知りたい!」
「――沢山……? えっと……じゃあ最新ので」
カズヤのリクエストに女は指を鳴らし、自慢げに応えた。
「最新のはなー! 『卵の賞味期限 後4日』だよ!」
卵の賞味期限後4日の言葉に、カズヤは思考が停止した。
こいつは何をふざけているのか……と思い、手のひらを差し向けた。
「ごめん、おふざけなしの本当の名前は……?」
カズヤの言葉に卵の賞味期限後4日は、笑顔のまま首を傾げた。
「本当だよ? 他のも聞く?」
卵の賞味期限後4日の言葉に、カズヤは戸惑いながらもゆっくりと頷いた。
すると、卵の賞味期限後4日は歴代の名前をズラズラと語り始めた。
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
私のー! 歴代名前いちらーん!
『ハオンに3大銅貨返すまで、後2週間』
『チーズパン、3日以内に食べる』
『4日後は朝まで飲み歩き』
『ゴミムシ』
『気持ち悪い』
『娘もどき』
『馬のレンタル利用者 ズール アモン カフマ』
まだまだ続くけど一旦はここまでー!
全部合わせたら340ぐらいあるからね!
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
――絶句。
カズヤはあまりの悲惨な歴代の名前に、言葉を発する事ができなかった。
唯一の救いは、本人がその事を気に留めていない事だろう。
(虐待か――)
カズヤは彼女に同情して、歩み寄る姿勢を持ち始めた。
「……他に、なんか。呼んでほしい名前って、ないの?」
「さすがカズヤん。あるんです、それ。カズヤんに呼んでほしい名前はねー、『アクタ』だよ。最初につけてもらった名前なんだな!」
――かける言葉が見つからない。
カズヤは自分で言うのもなんだが、誰よりも悲惨な人生を送っていると思っていた。
だが、自分より遥かに悲惨であろうアクタを前に、カズヤは始めて心の底からの同情を送った。
「……本当にそれで良いのか? アクタで」
「うん、これ一番のお気に入り。カズヤんが呼べば、最高じゃないかぁー」
だがそんなカズヤの思いも知らず、アクタ本人はいたって能天気。
世界で1番幸せ者のような顔で話している。
「――分かった。じゃあアクタ、ずっと見てたのって何なの?」
「知りたいかー。あのな、カズヤんって何者なん?って思って見てた。魂全然違くない? 勇者の魂してるけど、形なんか変じゃん」
――絶句。
カズヤは突然ぶち込まれた爆弾に、脳の処理が追いつかず停止してしまった。
「……何のことやら」
何とか絞り出した言葉はとてつもなくしょうもない、それだけだった。
そんな言い訳に、アクタは口角を上げながら鼻を鳴らしてカズヤの胸を指さした。
「カズヤん、嘘はダメだよ。私魂見えるからね、ちゃんと勇者の形してますぜ」
(うわぁ、そうか……。魂見える人存在してるか……。)
「――試験が無事に終わったら、教えるよ」
カズヤはアクタから目を逸らしながら、つぶやいた。
その言葉にアクタは目を輝かせ、カズヤに手を差し出した。
「約束だよカズヤん!」
「あい」
カズヤは心の中でミカーヤに助けを求めながら、アクタの手を握った。
「ンフー! これから沢山セックスしてね! カズヤん!」
「はっ?! 何言ってんのアクタ!」
カズヤはアクタの予想外の言葉に、後ろに飛び跳ねた。
「あら? また間違った? なぁカズヤん、私と最後まで戦わずに過ごしてねって、なんて言うん?」
(虐待がそこまで……)
「――仲良く」
カズヤは悲しい目を向けながらもう一度手を差し伸べ直した。
「ンフー! 沢山仲良くしてね、カズヤん!」
作品備考1
姓持ちは基本名家です。
作品備考2
漢字は名前だけに使われる文字です。
作品備考3
キャラクタープロフィール
アクタ
168cm 体重忘れた
ビルデンリッシュ??? 6月22日生まれ
魂の形 よくわからん 肉体の形 よくわからん
好きな物 全部
嫌いな物 存在せーん!
趣味 馬小屋の天井にあるヒビを数える!
魔法、スキル、スキル魔法、絶技
教えないよ!
備考
カズヤんは一眼見た時から、ビビッときたね!
顔とかいいよね!
キリッとした目と眉のせいかイカつくてちょっと怖い雰囲気あるけど、イケメンだから気にならんのじゃー!




