不穏な影
――ヴァルテリア帝国、正門。
それは、カズヤたちが帝国へ到着してから二日後の朝のことだった。
門番達は込み上げる欠伸を噛み殺し、いつもと変わらぬ平穏な風景に気が緩んでいた。
後方、街中から聞こえる喧騒を背に、来年まではこれが続くと、門番達は信じて疑わなかった。
だが、その考えを嘲笑うかのように男が歩いてきた。
朝日に照らされ黄金に煌めく長髪を靡かせ、まるで散歩でもしているかのような足取りで。
男は門番の存在に気づくと笑顔で大きく手を振りながら、腰に帯びた剣を引き抜いた。
その姿に門番達は咄嗟に武器を構え、腰に備えられた魔晶石を手に取る。
魔晶石を砕き敵襲を知らせようとした刹那――彼らの両の手は音も無く切り落とされた。
「ッッ! て――」
すぐさま叫び知らせようとするが、突然声が出なくなった。
門番達は急いで自分の喉を触る。
そこにはパックリと裂け、傷口から息が漏れるだけの喉があった。
「ダメじゃん、仲間呼んだら」
男はそういうと門兵5名の両足を全て切り落とし、魔性石を全て遠くへと蹴り飛ばした。
「次は……上だな」
そういうと男は鼻歌を歌いながら、城壁を蹴り上へとジャンプした。
城壁の上に到着するや男は否や兵士に見つかった。
「な!? きさッ――」
しかし先程と同じく壁上の兵士達は音もなく一瞬で惨殺され、正門付近は制圧されてしまった。
「さて――どこ行こうかね」
男は額に手を当て、眼下に広がる街を見渡した。
「――ギルド試験……ねえ。面白そうじゃん」
朝日を背に男は壁上から飛び降り、ゆっくりと街へ歩き出した。
その笑みは、氷のように冷たかった。




