軽率な行動
(さて、目標立てたのはいいけど……)
カズヤは惨たらしい傷跡が残る自分の腹を見た、そして軽く傷跡を押して、駆け回る激痛に悶えた。
「これのせいでなぁ……」
カズヤは激痛に涙を浮かべ、自分を縛る傷に睨みつける。
しかし睨みつけた所で何の意味もない。
何とかすぐに治る方法は無いのかと考えていると、一つ良い方法が浮かび上がった。
(よし、一回だけなら大丈夫なはずだから……。――いけるかな……。時間経ってるから大丈夫かな)
カズヤはゆっくりと深く深呼吸をして体をリラックスさせる、そして体を駆け巡るエネルギーに意識を向け……
『エネルギーコントロール』
身体中のエネルギーの8割を全て腹部に向ける、そして新陳代謝を急激に上げ、再生速度を底上げした。
そしてこの時、図らずしもエネルギーだけではなく、カズヤの現存する魔力の8割もが腹へと集中した。
その結果体内に残された治癒魔法の術式が刻まらた魔晶石が急激に活性化、そしてそれに新陳代謝の底上げがプラスされ、何と腹の傷が完治したのだ。
カズヤは手応えを感じ、恐る恐る傷跡を強く押す――
「おぉ!! 痛く無い! よっしゃ、治っ――あれ?」
ドンッ
傷の完治に喜びベッドから飛び降りてガッツポーズをあげようとした時、カズヤは突然の目眩にそのまま地面へと倒れ込んだ。
(あ、そうだった……おっくんの言葉忘れてた)
スキルの回数だけに囚われていて、忘れていた重要な事。
そう、エネルギーコントロールは人外の技。
本来は人間のカズヤでは到底使えぬ技、それを血管だけに絞る事で可能にしていた技。
だというのにカズヤはそれを忘れ、――大怪我による記憶障害もあるのだが――あろう事か本来の用途で使ってしまったのだ。
当然カズヤのエネルギーや魔力は枯渇し、今や生命活動を維持する為に、体なんぞにエネルギーを回している暇がなかった。
(……立てない。まぁ、大丈夫だろ。今の音でゲルニカがきっと……)
しかしカズヤの予想は外れ、現在ゲルニカは――
「やはり、人を救った後の水浴びは気持ちいわい」
――裏庭で水浴びをしていた。
当然治療所内の音など気づくはずなどなく、カズヤを助けに来るわけがなかった。
――それから1時間後。
ようやく眠りから覚めたミカーヤがカズヤを見舞いに大部屋に入った時、餓死寸前のカズヤを発見し、ゲルニカを急いで連れてくる事で事なきを得た。
「お前は何をしとるんじゃ」
本日三度目の拳骨。
この流れにも慣れカズヤは拳骨をヒラリと交わした。
拳骨を躱して得意げな顔をするカズヤに、ゲルニカはローキックの追撃をお見舞いする。
「痛い!」
「当たり前じゃ、避ければ避ける程次が強いぞ。受け入れんかい」
蹴られた脚を摩るカズヤに拳骨の追撃、今度は避けきれずカズヤは激痛に頭を掻きむしった。
「全く、安静にしろといったじゃろ。何をしとるんじゃ」
へたり込むカズヤに対してゲルニカは中腰で話しかける。
説教をするゲルニカは、心配や怒りを通り越して呆れ果てた表情だった。
「ほんとですよ、なんで謎に死にかけてるんですか」
一方ミカーヤはゲルニカとは違い、心底心配そうな表情を浮かべていた。
「スキルで腹治してたんです……。それで完治はしたんですけど、デメリットあるのを忘れてて」
「なに!? お前、勝手に治したんか!」
話を聞いた途端ゲルニカは慌ててカズヤの服を引っ剥がし、腹の傷を触診した。
そして完治している事が判明すると、左手で目元を覆い天を仰いだ。
ミカーヤはその事をゲルニカの反応から受け取ると、これまた両手で口元を覆い驚いた。
「――なんっちゅう馬鹿じゃ! 5日っていったのはな、治るまでの期間じゃ無い! 治すだけなら2日でできる! 5日いうたのは、魔晶石が消えるまでの期間じゃ!」
ゲルニカはもう一度カズヤの腹を触り、自分が触った箇所にカズヤの手を持ってきて触れさせた。
ゲルニカの指定した場所を軽く押すと、何か硬い明らかに内臓では無いものがあった。
その事実にカズヤは目と口を掻っ払いてゲルニカを見つめた。
「安静にしろっていうのはな! 魔晶石が消耗するまで、治癒スキルや魔法を使うなって意味なんじゃ! かっぺも程々にせい!」
カズヤの間抜けな姿にゲルニカは眉を顰め、怒鳴り散らした。
「これ、解決策無いんですか……」
カズヤが恐る恐る聞くと、ゲルニカは躊躇いの表情を浮かべ、部屋から出ていった。
カズヤはゲルニカの言動に心底恐怖を抱き、ミカーヤの方へ視線を向けた。
ミカーヤは目を閉じて深呼吸をすると、カズヤの視線など無視して背後に回り込む、そして手と脚が絶対動かぬよう羽交締めにした。
「なにこれ、ミカーヤさん! なにが始まんの!」
カズヤが喚く中ゲルニカが何処かから戻り、部屋に入り込んできた。
手にメスを持ち、両手が血塗れの状態で。
その姿を見るなりカズヤは大きく暴れ出し、何とか逃げ出そうとした。
しかしガンラガンラ戦で成長はしたものの、万全のミカーヤの身体能力には太刀打ちができなかった。
そしてカズヤがもがくなかゲルニカはゆっくりと近づき、そのメスでカズヤの腹を引き裂いた。
「痛い! 痛い!」
「我慢せい! もうこうなったら調整が難しい! 魔晶石の大きさに合わせて、傷をつけて治すを繰り返す!」
そういうとゲルニカは腹の中は指を入れ、現在の魔晶石の大きさを確認すると指を引っ込め、手先から魔力を放出して引き裂いた腹を治し始めた。
「全く、ワシがお主の為に魔晶石を削って形成したというのに、無駄にしおって。まぁ、大きさ的に5cmを9回ってとこじゃろ。がんばれ」
カズヤは体を揺らして切る場所を定めさせない事で、必死に時間稼ぎをした。
しかしその足掻きはすぐにミカーヤに止められてしまう。
「マジでヤダ! せめて麻酔とかお願いします!」
カズヤの切実な願い。しかし――
「無理じゃ、お前の体の強度に通用する物は揃えておらん。そしてお前の体の強度に通用する用な、感覚麻痺の作用のあるスキルも魔法も使えん。」
そういうとまたカズヤの腹へとメスを切り込んだ。
「いだい!!! ――じゃあミカーヤさん! ミカーヤさん頼みます!」
「使えないです。我慢しましょう」
――こうして尻拭いの荒治療は20分続き、カズヤの叫び声はゼネビア中に響き渡り、滅びの噂がまた強く根付いたのだった。




