手術開始
ミカーヤは村の最奥に聳える自分の大邸宅まで急いだ。
そして家の中に入り、大事な物を窓ガラスを破りながら庭に投げ捨てていった。
一通り投げ終えると、ミカーヤは台所から一つ魔晶石を手に取り、玄関前まで走った。
「ごめんなさい! 『ケトラ』!」
解除魔法をかけられた魔晶石はみるみるうちに、豪炎へと変わり、ミカーヤの袖を燃やし始める。
ミカーヤは急いで魔晶石を家の中に投げ、火が燃え移らないよう袖を破り捨てた。
「お願い、これで来て」
ミカーヤは祈りながら門の方へ視線を送ると、村一番の大邸宅が炎に包まれる状況に、家に引き篭もっていた住民達は1人、また1人と野次馬に門前に集まり始めた。
そして燃え続ける事8分。
ついに館全てが炎に包まれ、門前は昼前のような明かりに包まれ始めた。
ミカーヤは門の上に飛び乗り、野次馬達へ視線を向けた。
「ヒャアッ!バケモンだ! やっぱり滅びの時が始まったんだ!」
村人達は燃え上がる館を背に、突如現れたミカーヤを見て悲鳴を上げ始めた。
ある物は腰を抜かし、ある物は逃げ惑い、ある物は石を投げつけ。
村人達はミカーヤを拒絶し始めた。
そんな村人達を無視して、ミカーヤは野次馬に集まる物達の中からウンコを探す。
必死に目を動かし続け、大衆の中から小さな小さなウンコを探し続けた。
(いた!)
ミカーヤはついにウンコを見つけ、門から飛び降りた。
ミカーヤの行動に村人達は蜘蛛の子を散らしたように逃げ惑い、道を開ける。
ミカーヤは図らずしも訪れた好機を利用して、ウンコまでの最短距離を突っ切った。
そしてウンコがこちらに反応するよりも早く鷲掴み、治療所へと走った。
「ちょっ、ミカーヤ。燃えてたけど、あれ無視でいいの!」
「自宅です! 大丈夫なのでお構いなく!」
戸惑うウンコに構わずミカーヤは走り続けた。
そして治療所へと到着して、中へと入っていく。
「ここどこ! そういえば、カズヤは?!」
「治療所です、この中にいます。聞きたいこと後で教えるので、今は流れに身を任せてください」
ミカーヤは端的に説明すると、治療室のドアを開いた。
「連れてきました! 魔力量多い人です」
ミカーヤは鷲掴むウンコをゲルニカの目の前に突き出した。
「おお! きたか――アホか!便じゃないか!汚いもん持ってくるな!」
ゲルニカはウンコを見るや否やミカーヤの頭を叩いた。
「これ生き物です! 魔力で保護してます!」
しかしミカーヤは怯まずウンコの説明をする。
その気迫にゲルニカはミカーヤの言葉に半信半疑になりながらも、ウンコの方へ向いた。
「どうも」
「……!! …………よし、連れてきたんじゃな。じゃあ手術をすぐに始める、手伝え」
ゲルニカは込み上げる思いを飲み込み、手術の準備を始める。
まずは桶で手を洗い清潔にしたのち、ミカーヤ同様手を魔力で覆った。
そして棚から棘のある大きな植物の茎を取り出して茎を折り、茎から垂れ出した粘性の液と、いつのまにか抽出していたカズヤの血を混ぜ始めた。
「マギザムの花の液に対して、人間族は拒絶反応が起きにくい。血も混ぜればほぼゼロといえる。これを手に塗れば、腹の中を触れるって訳じゃ」
ゲルニカは血を纏った手をゆっくりとカズヤの腹の中に入れた。
「……ここじゃな」
ゲルニカはゆっくりと断裂した血管と血管を繋げ合わせ、治療魔法で修復し始めた。
一つ一つ丁寧に血管を修復し、続けて神経も修復していった。
「よし、あとは……」
ゲルニカは魔晶石を一つ手に取り血を塗りたくると、カズヤのお腹の中へと入れた。
「手伝え、こい」
「はい」
ゲルニカに呼ばれミカーヤがすぐさま近寄る。
ミカーヤを一瞥した後、カズヤの腹部を指差した。
「この辺りじゃ、ここにケトラ」
「はい、『ケトラ』!」
「よし。これを3時間、絶やすことなく続けるんじゃ」
「魔力の注入お願いします、ウンコさん」
「わかった」
ウンコが魔力を注ぎ続けると、みるみるうちにカズヤの顔に血色が戻り始めた。
それを見てゲルニカは安堵のため息を吐き、手についた血を洗い始めた。
「繊細な細部はワシが直した、あとはその魔晶石に大雑把な所は任せる。3時間もすればそいつも回復してきて、自前の魔力で魔晶石を継続させれるじゃろ」




