村
カズヤの無事を祈りながら走る事1時間、2人はミカーヤの住む村『ゼネビア』に降り立った。
トップスピードをキープし続けて走っていたにも関わらず、ミカーヤが息が上がっている様子はなかった。
流石ロボットといったところか、持久力が桁違いだった。
一方ウンコは疲れ果てたのか形が崩れ、所々が湿って溶けていた。
「住人、住人探しましょう。医療所の場所聞かなきゃ」
そんなウンコを見ず知らず、ミカーヤは焦りながら辺りを見渡して、住人を探し始めた。
「ミカーヤ……、ここ……ここ住んでんじゃないの」
小走りをしながら探すミカーヤをウンコがヒーヒーと言いながら、熱い掠れた息を吐き追いかける。
「医療所とかいった事ないんです。書店か食料店の場所しか知らないです」
ミカーヤの言葉にまた動き続ける覚悟を決め、早速2人は別れて、村の住人を探し始めた。
ゼネビアはウンコの想像していた村より数倍は大きく、住人も2000は超えるであろう大きさだった。
それ故に人探しは難航を極めた。
だが理由はそれだけではなかった。
時刻は19時に差し掛かったばかりと言うのに、村には人っ子1人見当たらなかった。
いつもはこの時間でも葉巻を吸う大人や、談笑をしている人々がちらほらといたはずなのに、あまりに静寂を貫いていた。
その違和感に気づいたミカーヤは少しづつ心拍数が上がり、息が乱れ始めた。
(やっぱり、私が……)
軽い不安が脳裏をよぎる、だが込み上げる思いを抑え、必死に住人を探し続けた。
その甲斐あって、ついに村の中央の噴水に座り、1人酒を飲む中年を発見した。
ミカーヤはすぐさま駆け寄り、安堵の表情を浮かべながら話しかけた。
「すみません。この村って医療所どこにありますか」
「……あ〜?」
男は酒瓶を振りながらミカーヤを隅々まで観察して、自嘲のような乾いた笑いを吐き、酒瓶に残った酒を一気に飲み干し噴水の淵にドンッと叩きつけた。
「あんたら旅の人か……。医療所は西に200行った所にある、緑の屋根の建物だ……」
「ありがとうございます!」
ミカーヤはカズヤをしっかりと支えながら、深くお辞儀をした。
そしてすぐさま収納魔法から小袋を取り出し、銅貨を3枚――ミカーヤの世界での600円――男に差し出した。
「――あぁ?チップ? いらねーよ、もう意味ねえかんな。ガハハハハ」
男は差し出されたチップの前で手を払い、高笑いした。
「いらない……?何でですか?」
困惑するミカーヤに男は空になった酒瓶を振り回し、反射で歪む自分の顔を見ながら応えた。
「来年ついに終戦の年だろ。――始まったんだよ、滅びへの歩みが。……あっち見てみろ」
男が酒瓶で刺した方を向くと、月明かりに照らされ不気味に聳えるミカーヤの住む大邸宅があった。
「聞いた話にゃーな、あそこには長寿族すら凌駕する、不老のバケモンが住んでるらしいんだよ……。長寿で有名な忌み汚いあのエルフですら、十数年も立てばガキは数寸背も伸びる。だがあそこに住んでるバケモンは、全く姿形が変わらねえらしいんだ……」
ミカーヤの不安が的中した。
以前よりミカーヤ本人も耳にしていた黒い噂、そのトラウマが今ゆっくりとミカーヤの肩を叩いた。
肩で息をし始め震える子犬のような上目遣い、その姿を見て男はミカーヤの気も知れず、さらに話を続けた。
「怖えか。わかる、気持ち悪いもんな。――でも怖いのはここからだ。聞いた話にゃーな、そのバケモンが今日の真昼刻、叫びながらついに大邸宅から飛び出して暴れ出したそうだ! 聞いた話によれば、俺のダチのハルはそいつに頭殴られたらしいぜ。――ん?俺か? 俺はその時セプトん森に、薪取りに行ってたから知らん。――まぁ、そう言う事だ。この村はもう終わりさ。終戦の滅びの序章が、この村で起こり始めたのさ。あんた、連れの人よくなったら、すぐに村出た方がいいぞ。じゃあ、急ぎな」
一通り話し終えた男はミカーヤに手を振り、体を揺らしながらどこかへ歩き始めた。
(やっぱり、そう思われてたんだ……。かかわらないようにしてたのに……ハルさんの件とか知らないし……)
分かっていた、分かっていたがいざ目の前にすると、溢れ出る涙が止められなかった。
だが今はカズヤの命がかかっている状況、ミカーヤは込み上げる涙を拭き取り、伝えられた診療所へと向かい始めた。




