新技
(何で、ミカーヤエネルギーないんだよ。話と違えじゃねえか!)
カズヤはウンコの方を見た。しかし、魔法はまだ発動できる様子ではない。
視線を戻すと、あまりの攻撃力にミカーヤは既に気絶していた。
(どうでもいいとは言ったけど、ガチで死ぬのはダメですやん!)
カズヤはミカーヤが死ぬ可能性に焦りを覚え、咄嗟に辺りを見渡す。
そしてミカーヤのすぐ横に、ウンコに塗れた先の尖った石が目に入った。
(あれだ、《幻体術》!)
カズヤは幻体の手で石を拾い、ミカーヤを襲い隙を晒しているガンラガンラの肛門へと突っ込んだ。
ガンラガンラは突然の異物に強い不快感と痛みを感じ、ミカーヤの攻撃をやめて狂乱しながら飛び回り、体を木へと叩きつけ始めた。
カズヤは幻体術でできた手を伸ばし続け、関節を増殖させゴムのように柔軟にする事で、振り回されることを回避。
そして万力を幻体の手に乗せ、回転させながら引き抜いた。
本来の腕ならば回転は半回転までが限界である。
しかしカズヤは幻体術を駆使して腕の構造を変え、回転数を激増させた。
その結果幻体の手は腸内でドリルのように回り続け、ガンラガンラの内臓をズタズタに引き裂いた。
(なんだこれ、俺なんかめっちゃ冴えてる! 自分じゃないみてえだ)
内臓を引き裂かれたガンラガンラはのたうち回り苦しんだ。
しかしすぐに立ち上がり、よろめく事もなおも威厳を保ったままカズヤを見た。
ガンラガンラは意味のない苦しむ行為をやめた。
生きる為には苦しんでいる暇がない事に気がついたのだ、生きる為にはここを切り抜けねばならないと。
ガンラガンラは生存本能を燃やし、ただ目の前の強敵を殺す為だけに己の全てを出し切る、その思いでカズヤへと突進した。
「こいやぁ!」
カズヤの思考力は溢れたドーパミンにより最高点へと達し、目の前のガンラガンラを倒すためだけに無限の戦術を生み出し続けた。
その戦術の中には感情や倫理を投げ捨て、合理的に殺す事すらも存在した。
だが今のカズヤの目的は3人全員生還。
カズヤは数多の戦術を取捨選択して、最も理想に近い戦術を選択した。
(これしかねえな)
「ウンコ行くぞ、眉間だ! どうにかして貫通力上げろ、転生者ならいけんだろ」
カズヤも突撃。
――先制はガンラガンラだった。
右前足を横一閃してカズヤの首を刎ねるのを狙った一撃、カズヤはそれを状態を逸らすことで躱す。
カズヤは逸らしたままの体勢で右手を地面につけ、バランスを保ちつつ左足で蹴りを入れた。
しかし攻撃は肩にあたり、大した効果はなかった。
ガンラガンラはその隙をついてわざと体勢を崩し、その巨体でカズヤにのしかかろうとした。
このままでは押し潰される、そう焦ったカズヤは咄嗟に幻体術で足を3本生やし、地面を蹴り上げ横に逃げた。
まさに接戦。
お互い重症のはずだが、さらにスピードが上がっていく。
ガンラガンラは生き残る為に、カズヤは快楽の為に、相手を殺す事に全てをかけた。
何か一つ隙さえあれば殺す気概で、攻撃を打ち込み合う。
ただ一つ僅かな隙さえあればいい、その一心で。
先に隙を晒したのはカズヤだった。
ガンラガンラの鼻へのパンチ、それが直前で避けられてしまった。
確実に当たると思っていた、それ故に全体重をかけたパンチだった。
全体重をかけた拳は空を切り、結果バランスを崩す。
カズヤはすかさず体勢を立て直すが、それまでの間に0.4秒の隙が生まれてしまった。
――好機。
間合いの長さを活かしカズヤの射程外から、頭蓋目掛けて爪を振り下ろす。
ミスを晒し圧倒的な不利な状況、だがしかし己目掛けて降ってくる爪を見て、カズヤは不敵に笑った。
――いったい、隙をさらしたのはどっちなのだろう。
不敵な笑みを見て一瞬頭をよぎるが、ガンラガンラは構わず攻撃を続けた。
その攻撃にカズヤは地面を強く踏み込み、振り下ろされた爪に合わせて頭を体の内側に丸め込む。
(このタイミング! 今の俺なら行ける、はず!)
《幻体術》
カズヤは断裂した腹を幻体術で再現。
しかしこの幻体術は治癒ではなく塞ぐだけ、出血を抑える為だけの技である。
しかしただ塞ぐだけではなかった、微細なコントロールにより血管と幻体術を接続、血液の通り道を作った。
そして出血の憂いをなくしたカズヤは、地面を蹴り上げ前宙。
立場が逆転する。
先程とは打って変わって、ガンラガンラの頭上をカズヤが取った。
カズヤは持ち前の動体視力で、回転しながらもガンラガンラの眉間にピントを合わせる。
そして骨の層が最も薄い、ガンラガンラにとって最悪のウィークポイントを見抜いた。
「ここだ、《血迅》!!!!」
カズヤのエネルギーの6割が血流速度と血管強度へと回される。
それにより、前宙終盤に来てカズヤの回転スピードが上がった。
カズヤは右足を伸ばしきり、血流速度上昇により上がった身体能力に、前宙の勢いをプラスして、ガンラガンラの眉間へと渾身の一撃を叩き込んだ。
ガンラガンラの眉間の骨にヒビが入る。
その事実を脚が眉間にめり込む感覚で感じとり、カズヤは笑みを浮かべた。
「ウンコ! 脚ごと――」
「わかってる!」
カズヤの叫びにウンコが呼応、即座に魔法を放つ。
――ガンラガンラの脳天を、ウンコの魔法が貫いた。
ガンラガンラは力が抜け、人形のように地面に倒れ込んだ。
(――殺せた……! これが、これが殺し合い!)
カズヤは初めて、転生してついに行えた殺し合いに達成感を味わった。
そしてその後すぐに、感じた事のないエクスタシーが脳内を走りぬけた。
(あっあっ。これが、殺し合いなんですねぇぇぇ。最高なんです!幸せはここにあったんです!!!!!!)
生まれ落ちて40分。
2回の前世では得られなかった快感に、カズヤの脳はショートした。
――「勝てた……!」
一方ウンコはガンラガンラを倒せた事に、体を変形させてガッツポーズをしていた。
そしてすぐさま木を飛び降り、着地を失敗して尻餅をついたカズヤの元へ駆け寄る。
ウンコは話しかける事もせず、放心しているカズヤの右足をみた。
そこには無傷の――いや、少し左側面に火傷後のある右足があった。
「やった、成功してた」
ウンコはあの時、魔法を2種類放っていた。
作戦通り眉間を貫く魔法、そしてカズヤの足を軽く吹き飛ばす魔法。
その作戦が功を奏し、カズヤの右足が再起不能になるのを防いだ。
ウンコは作戦の成功と勝利による喜びを抑えきれず、カズヤの顔を見た。
そしてすぐドン引きした。
カズヤは致した後のような、昇天しそうな崩れた顔をしていた。
ウンコは恐る恐るカズヤの足を揺らす。
「あ゛〜、気持ちいんです〜」
ウンコは気持ちの悪い反応を示すカズヤに再度ドン引きした。
カズヤはどうやら殺し合いの気持ちよさで、文字通り昇天しているようだった。
イッてるカズヤにウンコは呆れ果て、気絶するミカーヤの元へ駆け寄った。
「ミカーヤ、おきろ。勝ったぞ」
ミカーヤの肩を持ち揺らす。
しばらく続けているとミカーヤはゆっくりと目を開き、肩を揺らす正体を一瞥した。
「うわ、きたな! ……あ、すみませ――あ! ガンラガンラはどうなったんですか!?」
慌ただしいミカーヤにウンコは軽く笑い、骸となったガンラガンラを指差す。
それを見てミカーヤは安堵のため息を吐いた。
――しかし、その安堵は一瞬で終わり、ミカーヤの顔は蒼白とした。
その変化に気づきウンコは視線の先、カズヤの方を振り向く。
そこには先程の絶頂が嘘かのように蹲り、胃液を吐き続けるカズヤがいた。
「大丈夫かカズヤ! どうした、その傷か!」
カズヤはウンコの呼びかけにも応えれず、胃液を吐くばかりだった。
(何だこれ……疲労感が凄い……。スキルか……? スキルが悪いのか……?)
――カズヤの予想通り、嘔吐はスキルが原因だった。
スキルとは才能を使い、体を酷使する技。
訓練を積めば連発は可能になるが、カズヤは訓練も何も積んでいない、この世界では少し強い程度の存在。
訓練してない者であれば、本来タブーであるスキルの連発をこの短時間で11回も使用していた。
そのツケがいま、回ってきたのだ。
そしてあまりの疲労に、カズヤはゆっくりと、意識を失った。
「――! やばいミカーヤ、気絶した! それにさっきまで収まってた腹が、また出血し始めた」
気絶と同時に幻体術も解け、塞がっていた傷が開いたのだ。
ウンコはパニックになりながら、ミカーヤの方へ振り返る。
振り返った瞬間ウンコは驚いた。
ミカーヤが立って、歩いてこちらへ向かってきていたのだ。
「……エネルギーは?」
「――わかんないです。気絶して起きたら、なぜか力が沸いてきて」
「そう……か。」
「すみません。これがさっきできてたら、こんな事には」
「過ぎた事いっても、仕方ないんじゃなかったっけ。気にすんな、今はカズヤだよ。どうする」
ウンコは衝撃とミカーヤの謝罪で妙に頭が冷え、冷静になり始めた。
そのウンコに引っ張られミカーヤも、パニックにはならず、冷静になる。
ミカーヤはとにかくカズヤを助ける方法を、考えた。
「……村に、行きましょう」
ミカーヤはカズヤを助ける為、自分にとってのタブーを選択した。
「――いいのか?」
ウンコの心配にミカーヤは静かに頷く。
ミカーヤは胃液まみれになり倒れ込んだカズヤをおぶり、村へと全力で走り始めた。




