性癖解放
始めは、ただ当たった感触だけだった。
そしてすぐに衝撃が訪れ、吹き飛ばされる。
衝撃の原因が分かっていながらも、脳内では何が起きているのか理解不能。
そして地面に撃ち落とされ、そこで初めて感じたことの無い激痛が溢れ出した。
(考えが甘かった……こんな事なら――)
カズヤは断裂して向こうの景色が見える腹を見て悔やんだ。
そして激痛に耐えながらもカズヤは立ち上がり、ガンラガンラへと顔を向ける。
「カズヤさん! 無理です、逃げてください!」
「そうだ逃げろ! あとは俺が1人でやる!」
ふらつくカズヤに2人は思わず心配の声を上げる。
しかしその心配を嘲笑うかのように、ガンラガンラは無慈悲にトドメの一撃を振り下ろした。
「――ダメ!」
ミカーヤは咄嗟に目を瞑り惨状を見ることを避けた。
バギュ
水々しい肉と骨が砕ける音が辺りに響く。
「……そんな」
ゆっくりと目を開いたミカーヤは目の前の光景が信じられず、唖然とし、息を呑んだ。
確実に死んだと思っていた。
しかし目を開けた次の瞬間映っていたのは、ガンラガンラの顎を穿つカズヤの姿だった。
「――こんな楽しいなら、もっと早くすればよかった!」
ガンラガンラの顎を砕いたカズヤが満面の笑みで叫んだ。
その醜悪な笑みを漏らすカズヤを見て、ガンラガンラは慄き数歩後退る。
そしてそれに合わせてカズヤも一歩前に出る。
その行動にガンラガンラは狩りではなく、自衛の意思で攻撃を放った。
「あ、ひだ――」
唖然としていたミカーヤが、ガンラガンラの攻撃を見て正気を取り戻し叫ぶ。
だがしかしミカーヤが伝える早くカズヤが動いた。
メギャ
そしてカズヤは敵の攻撃を躱し、隙を晒したガンラガンラの鼻に蹴りを叩き込んだ。
軟骨が潰れる音が辺りに響き渡り、ガンラガンラの血が辺りに飛び散る。
蹴りを喰らったガンラガンラは頭を横に振りながら後ろに飛び退き距離を取った。
その姿を見てカズヤは突然高笑い始めた。
(楽しい……! これがそうだったんだ、やっぱり違ったんだ! ごめんお前ら。今は守るなんてどうでもいい、ただ楽しみたい!!!)
そして笑いながらガンラガンラへと突撃して、避けては攻撃して、避けては攻撃してとあのガンラガンラを手玉に取り始めた。
その姿を見てミカーヤは違和感を覚えた。
カズヤの速度ではガンラガンラの攻撃を反応して避けることができない。
それに加えて今は左脇腹が断裂する重症、避ける事など不可能なはずだった。
しかしその不可能をカズヤは今目の前で可能にしていた、それも2回も。
そして不可解な点はもう一つあった、攻撃力の高さだ。
先程のウンコの攻撃は背中に当たっているとはいえ、ほんの10cm肉を削る程度で終わった。
例え生物の弱点を殴っていたとしても、ザラ・ラントの幼体すら蹴り殺すのに難儀するカズヤがダメージを通せるはずがなかった。
この一瞬で強くならねば整合性の持てぬその異常性を見て、ミカーヤは無意識のうちに一つの言葉を呟いていた。
「――勇……者……」
「勇者? なんだそれ」
いつのまにか真横に来ていたウンコが、ミカーヤの言葉を広い聞き返す。
持ち位置を離れているウンコに驚きつつも、ミカーヤは説明をした。
「聖剣を扱える、魂が進化したものの総称です」
「その勇者が、今何の関係があるんだ」
「勇者には、2種類あるんです。聖剣に選ばれ魂が進化して勇者になった者と、独自で魂が進化して勇者になった者の2種。――後者の勇者は、感情の起伏で、魂が成長するんです。」
「……それって」
「はい、今のカズヤさんに当てはまるかと……」
ミカーヤは目を輝かせ、笑みを浮かべた。
(……勇者か――)
ウンコは羨望の目でカズヤを見つめるミカーヤと、ガンラガンラ相手に正面から殴り合うカズヤを交互に見て、少し俯いた。
「ミカーヤさん! ウンコ!」
突如2人に耳にカズヤの大声が突き刺さる。
ウンコはすぐさま顔を上げて、死闘を繰り広げる2者を見た。
「俺わかった! 死線に身を置くって言っても、紙一重じゃ物足りないんだ。ちゃんと傷を負って、死の淵に立たなきゃダメなんだよ! だから今、最高に楽しいよ!」
カズヤは攻撃を交わしながらも、笑顔で振り返る余裕を見せながら叫ぶ。
「それは良かったですね!」
その姿にミカーヤも笑顔で返す。
変わらずカズヤが死ぬ危機に瀕しているというにも関わらず、ミカーヤはなぜか希望を持てている表情だった。
「でさあ!もう一つあるんだけど! やっぱり殺し合いは必要だよ! 殺さなきゃダメなんだ、殺さなきゃ最高に気持ち良く無い! そこで頼みがあるんだけどさ、俺1人じゃこいつ無理だ! ウンコとミカーヤの力を貸してくれ!」
「私にできる事があるなら、喜んで!」
ミカーヤはニコニコと、笑顔を絶やさず応える。
だが、返答が一つ足りない。
カズヤはウンコの返答がない事に気づき、隙を見て振り返ってウンコを見た。
「ウンコ、力貸してくれ! こいつは、お前の力がなきゃ無理だ!」
放心しているウンコにカズヤが大きな声で呼びかける。
カズヤの声にウンコは体をビクンと震わせ、反射的にカズヤの顔を見た。
「気持ち良くなりたい、だから助けてくれ!」
カズヤは眉を八の字にして、笑顔で頼み込んだ。
「…………ああ、仕方ねえな!」
ウンコはカズヤにも負けぬ元気な声で応え、木の上に伸びのって魔力を貯め始めた。
ウンコが戦闘体制に入ったのを確認すると、カズヤは息を整え、血濡れるガンラガンラを睨みつけた。
「よっしゃ、行くぞお前ら! 俺が動ける最後の、5秒だ。失敗イコール死だから、頼むぞ」
カズヤは後ろに飛び退き、ミカーヤの目の前にたった。
その後退が逃げだと判断したガンラガンラは、好機を逃さぬよう追撃に走る。
そして速度を維持したまま巨腕を振り翳し、渾身の一撃をカズヤに薙ぎ払う。
しかしカズヤは紙一重に攻撃を避け、その攻撃はカズヤの後方、ミカーヤへと飛んで行った。
「オグッッ!」
カズヤの後方から肺の空気が押し出されたような、呻き声が聞こえた。
カズヤは驚き振り返る。
「痛い痛い!」
そこにはガンラガンラの攻撃を防ぐ事なく、されるがままのミカーヤの姿が見えた。
「はっ?! ミカーヤ、エネルギーは!?」




