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リゲイン・ロスト・タレント ―才能を奪われた天才たちの異世界再生バトル譚―  作者: 綜目月 梶才
転生の意味

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16/58

戦闘開始

「カズヤさん、復活しませんね」


「だな」


一転して居残り組2人。

2人は未だ復活せぬカズヤを待ち続けていた。

 待ち初めて70分、ミカーヤが未だにいつか戻ってくると盲信している横で、ウンコは最悪の可能性が浮かび始めていた。

カズヤの魂はもう消滅したのではないかと。

 しかしその可能性をウンコは言葉に出せないでいた、ミカーヤがさらに気負う確定した未来を迎えるのが怖かった。


「……もう、1時間経ちましたね」


「そうだね」


ミカーヤは虚な目でカズヤの死体を見た。

 血が抜け色褪せたカズヤの死体は復活する兆しもなく、ただあるだけ。

その姿を見ると自然とまた涙が溢れた。

 20年以上待ち望んだ自分を外の世界に連れ出してくれる、そんな夢にも見た王子様を自分のせいで殺してしまった事実に、自責の念がとどまる事はなかった。

 ミカーヤの後悔は深く、深く、沈み込み、無意識領域の心の奥底まで届き、心を蝕んだ。


 その心の傷はついにはミカーヤに幻聴すらも、もたらした。

 カズヤの死体は目の前で肉塊のままにも関わらず、どこか遠くからカズヤがミカーヤを呼ぶ声が聞こえた。


ミカーヤはその幻聴に自嘲の笑いを浮かべた。

 次第に大きくなる幻聴に、ミカーヤは自分がおかしくなるのを感じ、自分の後頭部を後ろの大木へと叩きつけ――


「なんか聞こえね?」


 ミカーヤは叩きつけるのをやめ、即座にウンコを見た。


「なんか、人の声みたいな」


ミカーヤはカズヤの死体とウンコを交互に見た。

 そして死体を投げ捨てると、無理やり立ち上がり耳を澄ました。


「あ、おい。あんま無理すんなよ」


「大丈夫です」


心配するウンコに手のひら差し向ける。

 ミカーヤは耳に意識を極限まで向け、微細な音すらも全て拾った。


「……カー……ヤ……コ」


今度は確かに聞こえた。

 遠いのと、なぜか定期的に間が空く事で聞きにくかったが、確かにカズヤの声だった。

 最初は幻聴に思えた声は、超人的な聴力によりミカーヤだけに聞こえていたカズヤの声だった。


 ミカーヤは先程までの憂鬱な顔が嘘のように笑顔になり、ウンコに顔を向けた。


「カズヤさんです! 声は、カズヤさんです!」


「マジか、きたか!」


 ウンコはミカーヤに活気が蘇った事と、カズヤが蘇った事二つに歓喜した。

 そしてウンコもミカーヤと同じように耳を澄ませ、カズヤの声を探った。


「……ミカーヤ……ウン…………コ」


先程とは違い2人の耳にはカズヤの鮮明に届く。

しかしなぜか定期的に開く間はそのままだった。

 2人は不思議に思いながらも、耳を澄まし続けた。

 そして耳を澄ましていると次第に距離が縮まり、声以外にも足音が聞こえ始めた。



草履が地面と擦れる音。

 それともう一つ、とても重いものが地面を沈めるような足音が。


2人は顔を見合わせた。

 そしてお互い同じ事を想像した事を感じ取り、見つめ合いながら頷いた。


「作戦Bです!!!!!」


 ミカーヤは精一杯叫んだ、離れた場所にいるカズヤにも届くように。


「……お……う」


その言葉にカズヤの呼応する声が返ってくる。

 カズヤの声が返ってくるや否やウンコは木の上に飛び上がり、ミカーヤは座り込みカズヤが現れるのを待った。


 待つ事20秒、草根を掻き分けカズヤが息を上げながら現れた。


「いやー、すまんすまん。お前ら助けに走ってたら、逆に俺が襲われ――」


「カズヤさん! 復活できたんですね」


 カズヤの姿を見るや否や堪らず遮るように言葉が溢れ、ミカーヤは涙を流しながら叫んだ。


「――おう。でももう、これ以上できねえけどな」


 カズヤは肩で息をしながら手のひらをミカーヤに向けた後、先程自分が通った道の方へ向いた。


「ごめんなさい、私のせいで」


 ミカーヤは泣きながらカズヤに謝罪する、しかしカズヤはなぜ謝れられたのかと首を傾げた。


「あれは俺のミスだろ、お前はなんも悪くねえよ。気にすんな」


ミカーヤの頭を優しく二度叩き、慰める。

 その言動にミカーヤはまた大きく泣き始め、カズヤの足に頭を預けた。


「泣くな、泣くな。作戦Bだろ、しっかりしような」


「……はい」


 カズヤは自分の上着を引きちぎり、ミカーヤの目元を拭き取った。

 ミカーヤは覚悟を決めて前を向き、涙をこぼさぬよう注意しながら視線を前に向ける。



 そしてミカーヤの覚悟に応えるように、カズヤよりさらに大きく草根を掻き分け、ついに現れた。セプトの森絶対王者、()()()ガンラガンラが。


【カラカロカラロロロロ】


 ガンラガンラは臨戦体制のカズヤを見るや否や咆哮して、自分も同じように臨戦体制へと入った。


 ミカーヤはついに現れたガンラガンラをみて緊張が走り、息が荒くなり始める。

 この2時間仲間の安心感や、喪失感と後悔で薄れていた死の恐怖が蘇り始めたのだ。


「落ち着け、絶対勝てるから。――頼むぞ」


 カズヤは背を向けたまま、ミカーヤに優しく語りかけた。


「……はい!」


 ミカーヤは覚悟を決め、ガンラガンラへと向ける眼に芯を取り戻した。



 鋭く睨み続ける眼前の2人相手に、ガンラガンラは生暖かい息を漏らしながら激しく喉を唸らせる。

 唸り声だけがこだまする中、地上にいる三者は動けないでいた。


奇しくも互いに選んだ戦術は受け身。

 静寂の中、互いの心拍音がどんどんと強く高鳴っていく。



 経験不足故か、作戦への自信故か、そのプレッシャーに耐えきれずカズヤが動いた。


 喉を震わしながら強く吸い込んだ息を、頬が膨らむほど強く吐きながら気合を入れて、ゆっくりとガンラガンラへと近づく。



 突然の行動にガンラガンラはビクッと体を震わせ静止した。

 だかすぐさま思い出したかのようにカズヤへと、北極熊のそれとは比べものにならないほどの巨腕を振り下ろした。


「右腕来ます! 左にしゃがむように避けてください!」


 カズヤはミカーヤの指示通りガンラガンラの一撃を、滑り込むように左は避ける。

 そしてすかさず立ち上がりガンラガンラの方へ向き、己を奮い立たせるように大声を出した。


「しゃあ、こいや!」


 カズヤの大声にガンラガンラも負けじと吠え返し、再度巨腕を振り下ろす。


「次左! 体を翻して、距離をとりましょう!」


またしてもカズヤは華麗に攻撃を避ける。


(いける! 何とかなるぞこれ!)


 ガンラガンラは確かにザラ・ラントの成体よりは敏捷性が低い。

 しかし低いとはいえ、今のカズヤでは決して躱せぬ速さだった。

 しかし速度で負けているにも関わらず、それを可能にしているのは作戦Bが要因であった。


 その作戦Bとは――


「カズヤさん。ザラ・ラントの成体の動きって、見えました?」


「見えはした。、でも見えただけで、避けるのはまぐれしか無理」


「見えるなら充分です。こうしましょう、私が筋肉の動きや経験則で、ガンラガンラの動きを予測します。それを伝えるので、カズヤさんは指示に従いながら、その動体視力で微調整をしてください。」


――ミカーヤの経験とカズヤの才能を組み合わせたものである。

 この作戦により遥か格上の相手に対して、カズヤは形だけでも対等を演じられているのである。



 そしてこの作戦の効果は凄まじく、ガンラガンラの攻撃を面白いほどに、避ける、避ける、避ける、避ける、避ける、避ける。


 いつしか攻撃しているはずのガンラガンラ側が疲れ、対してカズヤは死地にいる事でボルテージが上がりむしろ元気がマシ、二者の威勢は逆転していた。


そしてこの作戦はただ避けるだけではない。

 攻撃を避けられ続け、疲れ果てたガンラガンラに向けられた四つの魔法。


「うおおおおおお! 炎ファイヤー!!!!!」


それが今、降り注ぐ

なんとも間抜けな技名と共にウンコの魔法が直撃。 魔法着弾と共に煙に包まれ、ガンラガンラは悲鳴のような咆哮を上げた。


「よし、勝った!」


 カズヤは胸の前にガッツポーズをして振り返り、ミカーヤとウンコを見た。


「――いけましたね、作戦通りです!」


「ナイスファイト、カズヤ」


 ミカーヤは安堵のため息をつき、ウンコは飛び跳ね喜びを示した。


(よかった……守れた。)


 2人の姿を見てカズヤは微笑み、視線をガンラガンラの方へ戻す。


(新技、使うまでもなかったな)


 カズヤは危うげもなく勝てた事に安堵しつつも、少し物足りなさを感じた。

せっかく考えた新技が不発のまま終わった事に。


「――しかしそれにしても煙たいな」


 カズヤは煙の量を見てミカーヤを心配し、煙の届かぬ場所へと、よけてあげようと振り返った。







「右です! 左に避けて!」


刹那、ミカーヤの金切り声のような叫び声が響く。

カズヤは振り返る事もせず左へ飛び退く。



「なんで……いつもは死ぬのに……」


ウンコが呟く。

 ウンコの言葉は嘘ではない、確かにガンラガンラはウンコの魔法を喰らうと、耐えきれず死亡する。


 しかし今回相対しているガンラガンラはただのガンラガンラではない、()()()である。


 ただ一つの想定外、されどそれは戦闘においては大きな、大きな死の原因となる。







――今回は避けきれなかった。

 煙幕により動きの始めが見えず、報告が遅れてしまっていた。

 そしてその差は大きく現れ、ガンラガンラの鋭利な爪がカズヤの左脇腹を引き裂いた。

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