大誤算
皆が警戒する中、突如ミカーヤの目の前に現れたものの正体、それは――
「えー、すげえ。うさぎだ」
そう、うさぎだった。
こぢんまりとした体躯、ブルーベリーのような少し赤みのある蒼目、何とも可愛らしいキューティクルな顔、そう、うさぎだった。
警戒する中現れた癒しにカズヤは緊張感のない声を漏らしながら、木から飛び降りてうさぎへと近づいていった。
「あ、おい待てカズ――」
「ウンコさん!」
ウンコが心配の声をあげて追いかけようとした瞬間、ミカーヤが突然大声を上げて呼びかけた。
その声にカズヤは少し驚き振り返ったが、ウンコが呼ばれたと遅れて理解して、すぐにうさぎの方へ顔を向けて撫で始めた。
ウンコはというと、飛びあがろうとした途端に大声を発せられた事で、ビックリして足を踏み外して落ちてしまった。
地面に叩きつけられたウンコが痛みに耐えながら体制を立て直し、ゆっくりとミカーヤの方へ向くと、声を発さず口パクで『こっちにきて』と何度も繰り返していた。
ウンコは焦燥を感じながらもミカーヤの言う通りに駆け寄った。
「何だよミカーヤ、早くしないと――」
「わかってます」
またしてもウンコを遮るミカーヤ。
「あのうさぎが危険な事はわかってます」
ミカーヤは真剣な瞳でウンコを見つめた。
「じゃあなんで」
ミカーヤの発言と目つきで何か考えがあるのを感じ取れたが、ウンコはまだ焦燥が抜けきれないようだった。
「カズヤさんがこの世界で生きる上で、これだけはやっておかなきゃダメなんです」
その言葉にウンコは焦りながらも聞き入る姿勢を見せた。
ミカーヤはカズヤを見つめながら続けた。
「見てて気づいたんですけど、カズヤさんは危機に対する意識が甘いんです。さっき、木に登るのがウンコさんと比べて、一足遅かったんです。今だって、あのウサギに躊躇なく飛び込みましたよね。それらは全て、危機感のなさ故の行動です。そんな状態では、この世界では簡単に死んでしまいます。そうならない為にも、ここで一度そこら中に危険がある事を知ってもらい、意識を変えてもらうんです」
ウンコは納得した、確かに自分は3ヶ月間この世界で生き抜いてきた事で、色々なものに警戒しながら過ごすようになった、――カズヤが現れた時は興奮からか警戒を忘れていたが――その意識の差がたった今顕著に現れたからだ。
だが一つだけ、話を聞く上で疑問が生まれていた。
「それをそのままカズヤに伝えるんじゃダメなのか?」
「ダメです。危険に対する反応は、経験した者としてない者では大きく差が出るんですよ。ウンコさんに合わせて説明しますね。銃とは無縁の人はいくら説明されたとしても、いざ銃声がなった時、固まるんです。その後いくら怒声や非難を促す声が聞こえても、全ての動きがワンテンポ遅れます。銃が身近な人はもちろんすぐさま動きます、脳と体に常識と恐怖として刻まれてるからです。この差がデカすぎるんですよ。つまりは見る匂う聞く、これらを感じた瞬間すぐに警戒して行動するのが理想なんです。カズヤさんはまだ、見る匂う聞くの後、脳内で照合して答え合わせした後、警戒して行動する段階です。なのでここで脳と体に、刻み込んでもらわないといけないんですよ」
「なるほど……、なら見守りますか」
ミカーヤの説明を聞いて全てに納得したウンコは落ち着きを取り戻し、ミカーヤと同じようにうさぎを撫でるカズヤを見た。
しばらくうさぎの頭を両手で頭を撫で回しているカズヤを見ていると、ウンコは突然ある事を思い出し、また一つの疑問が生まれた。
「――なあ、でもそれってさ。カズヤが攻撃避けれなかったり、耐えられなかったらダメじゃね?」
「……!?!?」
ミカーヤは目をかっぴらいて、ウンコと見つめ合った。
事の重大さに気がついたミカーヤが焦りながうさぎに視線をやると、ちょうど攻撃の体制に入り、口に亀裂が入り始めていた。
「カズヤさん!! 危ない!!」
全力で叫びカズヤに危険を伝える。
しかしうさぎに心を奪われ恍惚の表情を浮かべていたカズヤには届かず、「ん? なんて」と腑抜けた事を言いながら振り返ってきた。
(そうだ、たった今自分で説明したばかりじゃん! 私のバカ)
ミカーヤは心の中で自分のおでこを叩き、次なる打開策としてウンコを見た。
「ウンコさん! 魔法!」
しかし、
「無理だ、間に合わん」
ミカーヤは藁にも縋る思いで何かないかと周りを見渡し、打開策を考えた。
そしてウンコの近くにある鋭く先の尖った石を見つけた。
「ウンコさんそこにある石を!」
(ある程度溜まったエネルギーを全て、この腕に込めれば……!)
ミカーヤは決してうさぎから目を逸らさず、腕をウンコの方へ差し出した。
ウンコは辺りを見渡しミカーヤの指しているであろう先の尖った石を、変形させた手で持ち上げてミカーヤに渡した。
手に石が乗った感触が伝わった瞬間、ミカーヤは腕を振り上げうさぎに狙いを定めた。
そして必要なエネルギー量を計算する為、手に握った石を見た。
「うわっ!汚いっ!」
「あ」
その石はミカーヤが指定した物と同じだったが、一つだけ違う点があった。
そう、ウンコに塗れていた。
ウンコに塗れた石を見た瞬間、ミカーヤは咄嗟に石を振り払うように横に投げ捨てた。
そして投げ捨てたと同時にやらかした事を自覚して、焦燥に埋もれながらカズヤの方へ振り返った。
ゾギョッ
ミカーヤがカズヤの方へ振り返ったと同時に、カズヤの上半身がうさぎに噛み削られる姿が映る。
その姿を見たミカーヤは怒りと後悔に身を任せ、気づいた時にはうさぎを蹴り殺していた。
そして再びエネルギー不足で動けなくなり、カズヤの血でできた海に突っ伏し咽び泣いた。
作品備考
うさぎの名前はガキラギャです
ミカーヤの世界にあるゾテス語という言語で『偽るモノ』という意味




