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9.湯取、転生する

 俺は【錬金術師(アルケミスト)驚異の部屋(ヴンダーカンマー)】から、一つのアイテムを取り出す。

 …黒光りする金属の輪が、机の上でゴトリと音をたてた。


「!!…アリババ先輩…これは?」


 どうやら湯取にも伝わったようだ。

 このアイテムの持つ、異様な雰囲気が。


「…こいつは、今回の探索で手に入れたアイテムだ。【魔人の腕輪】と言う。」


「魔人の腕輪…。」


「…この腕輪は、『装着した者を魔人に変え、人を超越した身体能力を引き出す。』…らしい。」


「人を超越…!」


 俺の言葉に、驚きと喜びが入り混じったような顔をする湯取。

 …ここだけ聞いたら、まぁそんな顔になるよな。


「…但し、デメリットもある。()()()()()()()()()()()。」


 正確には『今までに覚えた全てのスキルを封印』というのもあるんだけど、これは俺が使用した場合のデメリットだ。スキルを持たない湯取には関係が無い。


「…正直な話、魔人に変わるってのが、どんなカンジなのか分からないんだよ。…見た目はそのままなのか…下手したら、角とか羽とか生えてくる可能性も…。」


「それは…結構悲惨かもっスね…。」


 流石の湯取も声に元気が無くなる。

 …うん、そうだよな。

 なんたって「人間じゃ無くなる」かもしれないんだし。

 …俺は、自分の軽率な行動を後悔した。


「…すまん湯取。思い付きでこんなモン、出すべきじゃ無かったな。…元々使わないで封印しようと思ってたもんだし…。」


 そう言って腕輪を仕舞おうと伸ばした俺の手より先に、湯取の手が腕輪を掴んだ。


「お、おい…!」


「…ありがとうございます、アリババ先輩。…確かに少し、怖いっス。…でもね、今コレを拒否したら…ビビッて逃げ出したら…俺、絶対一生後悔し続けるっス。…自分のことなんで、分かります。」


「湯取…いや、それにしたって何日か考えた後だって…」


「駄目っスよ。そんなの、逃げたくなるに決まってますから。…目の前に憧れてた世界へのカギがあるのに、それをビビッて掴まない人生なんて…!そんなの、御免被るっス…!!…見てて下さい、アリババ先輩…これが…俺の『覚悟』っス!!」


 そう言って湯取は、魔人の腕輪を自身の左腕に装着してしまった…!!

 …!!何だっ!?湯取から光が…!!

 眩し…!!


『…もし俺がバケモンになっても…引かないで下さいね…?』


「…湯取っ!!」






 …光が治まると、そこには…。






「…ん?…何か変わったか…?」


「…じ…自分ではよく分かんないっスけど…妙な万能感?みたいなのはありますね…。」


 見た目は…ちょっとガタイが良くなったような気がする。

 その他に特に変わったところは…う~ん。


「…よし湯取。脱げ!」


「うっ…お、お手柔らかに…。」


 湯取を剥いて全身くまなく調べた結果、分かった『魔人化』の詳細は以下の通りだ。


 ・全体的に少し筋肉質になった(本人談)腹筋もうっすらと割れている。

 ・良く見ると瞳が紫色になり、瞳孔が猫のような縦長になっている。


「これは…どうやら、思ってた程肉体の変化は無かったみたいだな。」


「…ううっ、他所様にあんな所まで見られて…もうおムコに行けねぇっス…!」


 …こっちだって好き好んで他人のシワシワやらモジャモジャやら見て無ぇわ!!


 …くそっ、結果的にウザ系イケメンに、細マッチョ要素が加わった程度か…。

 …いっその事、ウサギ耳でも生えれば良かったのに。頭皮から直に。


『…貴様らが馬鹿なのは、もう良く分かった。さっさと【鑑定】を使え。あと服を着ろ。』


「あ、アグニ居たんだっけ。」


「うおっ!?ちょ!…俺マジ死にたいっス!!」




 …その後、服を着た湯取に改めて【鑑定】を使用すると…。


湯取(ゆとり) (あきら)】0歳

 種族:魔人 レベル:1

 一星大学 商学部 経営学科所属 3年生

 生まれたての魔人。肉体がまだ成熟しきっておらず、絶賛成長期。

 種族スキル:【ブースト】

 E:魔人の腕輪(ランク:A)


「ぶふっ!!」


「先輩っ!?」『…汚いっ!』


「ぐっ…か…【鑑定】したら…湯取…オマエ…!」


「【鑑定】って何スか?いや、オレの身に何が…!?」


「…『魔人:0歳』だってwww」


「ちょっwww」『貴…www』


 こんなん誰だって笑うってwww

 あのアグニまで笑いを堪えてるしwww


「…ちょっと!こっちは真面目な話をしてるんスよ!?もっと真剣に話を聞いてくだちゃいwww」


「ぶほっwww卑怯だろwww」『おwwwまwwwえwwwらwww』


 





 …なんか、アグニにしこたま怒られた。


『貴様らは…真剣に話もできんのか?ああ?』


「「すいませんでした…。」」


 まぁ、確かに少しふざけすぎたかもしれん。…俺、シリアス展開が苦手なんだよ…。


『大体…湯取!貴様がふざけてる場合か?貴様の身に起きている事態だろうが…!』


「う…スンマセン…。」


「まぁまぁアグニ、それくらいにしといてやれよ。あんまり言い過ぎても可哀そうだろ?」


『しかしだな…!』


「湯取はまだ0歳なんだからwww」


「ばぶwww」








 鼻を燃やされました。


「湯取に分かりやすく説明するとだな、俺は前世の記憶と、特殊なスキル…超能力?みたいなモンを持ってることを思い出したんだ、最近。」


「…マジすか。何スかソレ、アリババ先輩、勇者じゃないスか!!」


「いや、オレ盗賊。」


「チョー納得したっス。」


「…でだ、そのスキルでお前の状態を確認した。…確かにお前は『魔人』になってるよ。バリバリ魔人転生してる。」


「おお…!」


「…その上、『レベル』と『種族スキル』なるモンが生えてる。俺のスキル…これは『職業スキル』ってもんなんだが、多分魔人化したことで似たような物が発現したんだと思う。」


『…ほう、そんな効果が出たのか。もっと詳しく話せ。』


 …しめしめ、助かった。アグニの怒りが上手く逸れてくれたぜ。


「…湯取が魔人化して覚えたスキルは【ブースト】って名前らしいが…これは俺も聞いたことが無い。『職業スキル』と『種族スキル』では、どうやら覚えるスキルにも違いが出るみたいだな。で、スキルはレベルが上がると新たに覚えるんだが…こっちの世界でもレベルが上がるのかは分からん。」


「やった!スキル!!これで俺も『俺TUEEE』できるんスね…!!」


『…確かレベルとやらは、魔物(モンスター)を倒すことで上がるのだったな?』


「そうなんだよ。流石にこっちの世界にモンスターは居ないだろう?…いないよね?」


「えぇぇぇ…?じゃあ俺の『俺TUEEE』は、早くも終了っスかぁ…?」


 そんな残念がられてもな…こればっかりは仕方がない。


「…まぁ、とりあえずこの【ブースト】ってスキルを鑑定してみるぞ。」


【ブースト】

 一時的に攻撃力・防御力・速度を飛躍的に向上させる。


 おおぅ、これは…。


「どうっスか!?俺のスキル、どんなのっスか!?」


「…典型的な初期スキルだなぁ…身体強化系の。まぁ、可もなく不可もないカンジの…?」


『…そうか。残念だったな。』


「アグニ姐さん…それ、一番傷つく慰め方っス…。」


 …まぁ、身体強化はハズレスキルってわけでも無い。

 単純に戦力が強化されるんだから、戦士とか剣士とかが使うと結構強いスキルだ。


「とりあえず、試しに一回使ってみたらどうだ?ちなみにスキルは『使いたい』と念じながらスキル名を声に出せば使用できるぞ。」


『…そうだな、物は試しだ。やってみろ。』


「う…うす!それじゃあ…【ブースト】!!」


 湯取がスキル名を叫ぶと、ヤツの体が激しく輝き始めた…!

 ちゃんとスキルが発動したみたいだな。


 スキルの効果なのか、湯取の体…いや、筋肉がどんどん膨張していく…!

 うおおっ…!や…ヤバイぞ、このままだと…!!


 …ビリビリビリィィィッ!!


 …あーあ、Tシャツ破けちゃった。


「ああああぁぁっ!?お気に入りのTシャツがぁっ!?…なんか今日、こんなのばっかり…。」


 あ、【ブースト】使うと胸に魔法陣が浮かぶのか。

 …ありゃあ悪目立ちするから場所選ばないとダメだな。

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