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63.ブラックマーケットに行こう⑦

 ヴィマナの窓から広がる空…実際は、外部カメラの映像を映した窓型のモニターなのだが…そんな空の映像を眺めながら、気楽な雑談が続いていく。

 


「──そういえば…」


 紅茶を口にしていたbeeが、カップを傾けながら口を開く。


「向こうに到着したら、オークションが行われる二日後の夜まではフリーなのよね。…露天や店を見て回るのかしら?」


「そりゃ当然!」


 気分が昂った俺は、思わず拳を握り力説する。


「カスヴァル共和国では俺の【鑑定】スキルが猛威を振るう予定です!乞うご期待!!」


 俺の宣言に湯取が「おおっ!」と身を乗り出す。


「アリババ先輩の【鑑定】があれば、偽物掴まされる心配も無いし…逆に掘り出し物とか見つけ放題じゃないっスか!プロの鑑定士も裸足で逃げ出すっスよ!」


「…このチート野郎。」


 beeは紅茶を揺らしながら、小さく吐き捨てる。

 …だが口元は笑っていた。



「──そういえば…」


 窓の外を眺めていた湯取が、ふと呟く。


「カスヴァル共和国に着いたら、宿とかどうするんスか?ぶっちゃけヴィマナで寝泊まりできるんで、ホテルに泊まる必要は無いっちゃ無いんスけど…。」


「…いや、当初の予定通り宿を取ろう。」


 俺は首を横に振った。


「どうせカスヴァルでの仮拠点は必要になる。ヴィマナは何かあった時の備え…隠し玉として温存しておこうぜ。」


「…なるほど、確かに。取引なんかで仮の住所は必要になるかもっスけど、いざって時に身を隠したり避難できる場所も必要っスもんね。」


 湯取が頷き、beeもカップを置いて同意するように視線を向けてくる。



「──そういえば…」


 beeが椅子の背にもたれながら、俺を真っ直ぐ見つめてきた。


 …つーか、さっきから「──そういえば…」っての多くないか?

 いや、まぁ…別に雑談なんてそんなモンか…。


「アリババって、異世界から“転生”した…ってことで良いのよね?あなたの居た元の異世界って、どんな所だったの?」


「うーん…変な言い方かもしれんが、ありふれたRPGみたいな世界だったな。」


 俺は頭を掻きながら答える。


「モンスターが居て、ダンジョンがあって…レベルや職業、スキルがあって…こっちで言う“アノマリー”は、あっちでは“魔道具”とか“魔剣”や“聖剣”だったな。…まあ、魔法の力が込められた不思議アイテムって感じだ。」


『……出たな、魔法。』


 黙って話を聞いていたアグニが、低く唸るような声で呟く。


『…我には未だ理解できん現象だ。物理法則を無視して発動し、説明不能な事象を引き起こす…。存在そのものが歪で、不気味極まりない。』


『…我々とは根本的に別体系の技術ですね。』


 プシュパカが淡々と補足する。


『解析は続けておりますが、未だ進捗は0.3%。…とっかかりすら掴めていないのが現状です。』


『…何が0.3%だ。それはもう0%じゃないか。』


 プシュパカを馬鹿にするようにアグニは鼻を鳴らした。


「ま、魔法のことは置いといて……」


 俺は笑ってごまかそうとしたが、ふと記憶の底から蘇る景色に口を止めた。


「あ。そうだ、思い出した。…そういえば、あっちの世界には“世界の果て”があったぞ!」


「世界の…果て?」


 beeが思わず聞き返す。


「そうそう。」


 俺は窓の外の雲を見つめながら、言葉を選ぶ。


「なんつーか…海が突然、途切れてるんだ。海水は轟音と共に遥か奈落の底へ落ちていって…途切れた先には、何も無い。…いや、“何も存在できない”って感じか。学者が魔導士に頼んで魔法を放つ実験をしたらしいんだけど、海の境目を越えた瞬間、魔法が空中で霧散したんだと。」


「……っ」

 

 beeは息を呑み、手のカップを握る指がわずかに震えた。


「……こっわ!!!異世界怖っ!!」


 湯取が両腕を抱き、全身を縮める。

 機内に、しばし重苦しい沈黙が落ちた。


「…バビロニアの世界図…。」


 沈黙を破ったのは、beeの囁くような声だった。


「…なんだソレ?」


「…呆れた。アナタ、一応トレジャーハンターでしょう?…現存する最古の世界地図の一つよ。」


 …いやいや、そんなトレジャーハンターなら知ってて当然みたいに言われても!

 知らんがな!


「平らな地球と、それを取り囲むように海が描かれていて…その更に外側は……」


「…外側は?」


 続く言葉をためらう様に口を紡ぐbeeに、たまらず湯取が聞き返す。

 …続きを促され、小さくため息をついたbeeが、重い口を開いた。


「…“世界の果て”…または、“死後の世界”だと言われているわ。」


「…異世界怖っ!!聞くんじゃ無かった!!」


 頭を抱えて絶叫する湯取を尻目に、プシュパカが考察を口にする。


『太古の昔に考えられた、平面的な世界…つまり、異世界とは“有限の構造体“…“箱庭“のような物なのでしょうか。』


『…そんな洒落た物でもなかろう。有限の空間に生命系が押し込まれている…それは“檻“だ。』


 アグニが吐き捨てるように言った言葉に、再び機内は沈黙に包まれた。


 …檻?…俺の居た異世界が…?


 …あそこが檻だって言うのなら、いったい誰が何の為にそんな物を…。




〈ピンポーン♪〉




「「「!?」」」


『…話も盛り上がってきた所ですが、あと二十分程でカスヴァル共和国に到着致します。』


 …あ、この音そういうの?

 タイミングが良すぎてビックリしちまったわ…。

 

「…つーか、もう着くのか。早すぎるだろヴィマナ。」


『お褒めに預かり光栄です。』


「…そんじゃ、到着したらすぐに外行く感じっスかね?」


『…そうしたい所ですが、時差の関係で到着予定時刻、カスヴァル共和国は日の出前です。』


 …早すぎるのも考え物か?


「ん~…じゃあ、各自いつでも外に出られるように準備だけしておいて。…俺、ちょっとだけ寝てていい?朝早かったもんだから今頃眠気が…。」


 気が抜けてアクビをする俺を見て、beeが苦笑する。


「…仕方ないわね。私は荷物さえ返してくれればいつでも降りられるから、少しカーリストラの様子を見てくるわ。」


「…じゃあ、俺はちょっと顔洗ってくるっス!…あ、アリババ先輩!折角なんで到着する直前に起こすっスからね!」


「おう、頼むわ。」


 談話室から出ていく二人を見送ると、急激に襲ってきた睡魔に抗えず机に顔を伏せる。


『…マスター、ご自分の部屋のベッドで寝られるのを推奨致します。』


 …あ、そうか。…そりゃそうだ。

 俺はふらつく足を引き摺りながらなんとか自室のベッドへと辿り着くと、そのままうつ伏せにベッドに倒れこんだ。


 …カスヴァル共和国…か…。


 楽しみだ…。

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