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6.ランクS『無垢なる水の地下洞』②

 洞窟の内部は天然の迷路のように入り組んでいた。

 湿った空気が肺の奥にまとわりつくように重く、足元には分厚い苔が天然の絨毯のように広がっている。頭上には、長年の滴りで形成された鍾乳石がつららのように無数に垂れ下がり、アグニの光を受けてぬらぬらと光っていた。


『ここは……湿度が高いな。我は好かん。』


 後ろからついてきたアグニが、むすっとした声でぼやいた。


「なんだ、水が苦手なのか?…そっか、お前モロ火属性だもんな。」


『…舐めるなよ?焔のアヴァターラたる我が、ただの水程度で消えるとでも?』


「じゃあ平気なのか?」


『…我が無意識に水に触れると、一面、水蒸気でヤバいことになるのだ…。』


「……。」


 敵無しかと思いきや、思った以上に面倒くさい仕様だったんだな。


「…あ、そうだった。湯取から預かったカメラ付けとくか。」


 危ない、忘れるところだった。

 小型のアクションカメラをアタッチメントで首から下げ、撮影モードにしておく。



 しばらく進み、分岐路にあたった俺達は、その場で一度足を止める。

 そしてスキル【盗賊の鼻】を発動した。


 …いや、実際にクンクンするわけじゃ無いぞ?

 「鼻」ってついてはいるが、実際に何かの匂いが分かるワケじゃあ無い。

 このスキルは価値のある物、財宝なんかのある方向が感覚的に分かるスキルだ。

 現代で超進化した【財宝検知】程ではないが、ダンジョン内なんかではかなり有用なスキルだろう。


 …うん、この分岐は右が正解だな。

 財宝の反応はまだまだ先、洞窟の最深部にあるらしい。


 さらに進むと、またしても苔が一面に広がる空間に出た。

 異様な静けさと湿気が漂い、まるで何かを隠しているかのようだ。


 【直感】が、ぞわりと背筋を撫でる。


 この【直感】も盗賊スキルの一つで、()()()()()場所で自動的に発動するスキルだ。


 すかさず【罠感知】、そして【危険察知】を発動。

 【罠感知】は悪意をもって仕掛けられた罠を見つけ出すスキル、【危険察知】は身に迫る危険に反応して知らせるスキルだ。…まぁ文字通りだな。

 …【罠感知】は反応無し。しかし、【危険察知】があちらこちらの苔床にピリピリと反応する。


「…苔の下に、何かあるのか?」


 試しに足元の石を拾い、苔の上へ放り投げる。

 ぽふっという音とともに、苔が沈み──石はそのまま音もなく吸い込まれるように落ちていった。

 …しばらく耳を澄ませても、着地音すら聞こえない。


「…天然の落とし穴かよ。…こりゃ落ちたらヤバいな。」


 戦慄する俺の背後で、アグニが鼻で笑う。


「我は宙に浮けるからな。落とし穴など無意味だ。」


「…それって、なんかズルくないですか?」


「仕様だ。ふふん、羨ましいか?」


「…調子に乗って、うっかり水に触れたりしないでくれよ。視界ゼロの水蒸気地獄とかシャレにならんからな。」


 苔の罠地帯を慎重に抜けた先も、気の抜けない行軍が続く。


 【盗賊の鼻】で何度も方角を確認し、分岐のたびに【罠感知】、【危険察知】を併用して進路を絞り込んでいく。

 落とし穴を避けても、苔そのものが異様に滑りやすい。気を抜けばすぐに足を取られ、奈落に転がり落ちるのは間違いなかった。


「ふぅ…こりゃあ結構、神経を使うな…。」


 最初は気にならなかったが、湿気で服も髪もじっとり濡れていて…なんだか気分が滅入る。



 幾度目かの分岐で、ようやく異変が起きた。

 一方の通路に【盗賊の鼻】と【危険察知】、両方が同時に反応を示したのだ。


「これは…こっち、だな。」


 ここまで来たんだ。危険は承知で、慎重に足を進めていく。

 すると、徐々に辺りの雰囲気が変化してくる。

 湿り気を帯びた風に、色濃い水の匂い。

 そして──目の前が一気に開けた。


「…うわぁ…。…これは…中々すごいぞ。」


 そこは巨大なドーム状の天然空洞。

 その八割近くが、まるで鏡面のような水面に覆われていた。

 奥の壁面には水晶のような鉱石が無数に突き出し、光苔の明かりが反射して、星空のようにきらめいている。


 「地底湖ってヤツか…こりゃ壮観だな…。」


 【盗賊の鼻】は確かに反応している──この湖の向こう側。

 しかし、それを阻むように、【危険察知】がピリピリと警鐘を鳴らす。


「…綺麗すぎる水には生き物が住めないって、聞いたことあるんだけどな…。」


 立ち止まり、ほの暗い水面に目を凝らす。


 ──ぴちゃっ。


 微細な水音。


 その瞬間、視界の端に何かが動いた。


 ごうっ──!!


 突如として水面が爆ぜる。

 巨大な水しぶきと共に姿を現したのは、雪のように白い鱗をまとったドラゴン!?…じゃ、無いな。

 …ありゃあ…ワニか?…いや、本当にワニ?


「…でっっっか!!大型トラックかよ…!」


 体長は優に十メートル超え、まるで神話に出てくる幻獣じみたサイズ感だ。

 強靭そうな凶悪な顎と、無機質な目。水中で鍛えられた脚力が、一気に湖面を蹴ってこちらへ跳ね上がって──!!


 「…アグニさん、ここはお任せしても?」


 『…ふん。その気色悪い喋り、やめろ。』


 不機嫌そうにアグニが言うと、その指先で小さな火を弾き出した。

 丁度マッチの火のように小さな、赤い点。


 それが、白ワニの眉間に触れた瞬間──


 ドオオオォォォン!!!


 爆炎が天井まで届くほどの大爆発を起こした。

 巨大な火柱が立ち上がり、空洞全体の空気が揺れる。


 そして──静寂。


 …水面にプカリと浮かぶ、上半身を消し炭にされた白ワニの残骸。

 …マジか。一撃かよ…?


「…お前、マジでチートだったんだな…。」


『なんだ?貴様、我をなんだと思っていたんだ?』


(最近ちょっとギャグ要員なんじゃないかと思ってた、なんて言えねえ…。)

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