58.ブラックマーケットに行こう②
いつの間にか完成していた恒星間探査船「ヴィマナ」。
荘厳な蒼い機体を前にして、いざ搭乗!…という時に。
『さあマスター、どうぞお乗り下さい。…と、その前に。折角なので是非マスターのスキルで、このヴィマナを【鑑定】してみて頂けますか?』
得意満面のプシュパカが、なんだか芝居がかった仕草で俺にそう促す。
「おっ、おう。それじゃあ…【鑑定】。」
【恒星間探査船「ヴィマナ」】ランク:S
全長:312m 総重量:86,000t
異星人の手によって造られた恒星間探査船を、プシュパカが再建した宇宙船。
現在の再建進捗は81%で、宇宙空間での長期運用は未だ難しいものの、大気圏内での飛行および短時間の大気圏離脱は可能となっている。
船体には異星技術由来の防御障壁システム「マントラフィールド」を搭載しており、一定規模の物理・魔術攻撃を無効化可能。
また、特殊な光学迷彩および電子妨害装置を組み合わせた「ステルスモード」を搭載。
レーダー探知・熱探知を無効化し、肉眼での視認も困難にすることができる
内部はブリッジ、乗員区画、貨物倉庫、医務室、研究室兼工房などが設けられており、拠点としての機能も十分備える。
〔搭載兵器〕
主砲:【シャンカラの瞳】(分子崩壊砲・未完成)
副砲:【ルドラクシャマラ】(多連装機銃)
その他、進捗次第で順次搭載予定
おっ、おう。…なんか凄いってのは分かった。
…よく分からんということが分かったとも言う。
そして、当たり前の様にランクはS…最高かな?
…ウチのランクAアノマリー、ランクSアノマリー造りやがったぜ?
…まぁ、まだ宇宙には行けないらしいけど。
プシュパカの先導で機体下部へと歩みを進めると、ヴィマナから俺達へと光が降り注ぐ。
…浮いたっ!?ヴィマナに吸い込まれるっ!?
…って、コレ傍から見たら「UFOに連れ去られる人」の正にそれだよな…。
…湯取が「アブダクション!?…アブダクショーン!!」とか大はしゃぎで五月蠅い。
中に入ってみると、例によって内部は外見以上に広く感じられた。
プシュパカ、また空間弄ってるな?
…って、そうか。むしろ元々がヴィマナ内部の空間拡張をする為の機能なのか。
乗り込んだ所は…おそらく格納庫かな?
足元には青白い光の輪が、魔法陣のように淡く点滅している。
たぶんここから、また外に出られるんだろう。
広々としたスペース…あ、ここに湯取の車乗せといたら色々楽かもな。
…まぁ、あの車一台を置いておくには、どう見ても広すぎるけど。
続く通路は薄いグレーのパネルで構成され、蒼白いライン状の照明が天井に沿って淡く光っている。
…近未来的で、正に宇宙船ってカンジがするな。
湯取はというと、さっきから目をキラッキラさせてはしゃいでいる。
「おおぉ…ヤベえ…!なんちゃらウォーズとか、なんとかトレックみてぇっス…!!」
壁に頬ずりしたり、用途不明のパネルやコンソールを撫でまわしてはウットリ夢見心地の様子だが、今は構ってられん、無視だ無視。
『…マスター、まずはブリッジからご案内致します。』
先導するプシュパカはいつものメイド服ではなく、どこか軍服めいた燕尾服を着こなしていて、何かのコスプレみてーなのにヤケに様になってやがるから腹が立つ。
しばらく進むと、金属製の大きな扉が現れた。
ピッという小さなセンサー音の後、斜めに入った亀裂から静かにスライドして開く。
「出た!SF名物、謎の金属製スライドドア!!やっぱ宇宙船と言えばコレが無くちゃ!!」
お前は全部拾わんと気が済まんのか、湯取よ…。
扉の先、ブリッジには中央に半円状の制御卓、その奥に巨大なモニター。
床から天井まで一面、曲面モニターになっていて、船外の様子…俺達のアジトが映っている。
『…ここがヴィマナの頭脳であり、心臓部。各種航行データや戦術情報は全てこの場で管理されます。』
案内するプシュパカの声は、どこか得意げだ。
『…そして、こちらがマスター専用の指揮席になります。』
通されたのは、部屋の中央に位置する豪華な座席。
見た目はシンプルにも見えるが、試しに腰を下ろすと体に驚くほどフィットする。
使用者を感知したのか、俺の周囲に複数のホログラムディスプレイが展開する。
…ハハッ、こりゃスゲェわ。
ブリッジから続いて、乗員区画へと案内される。
大きなテーブルとモニターが設置された…談話室?
壁にはズラリと扉が並んでいる…試しに一つ開いて覗いてみる。
パネルにタッチして扉を開くと、十畳程度の部屋にベッドと棚、壁にはモニター。
なんてこった…俺が前に住んでたアパートの個室より広い…だと?
『こちらが居住スペースとなります。最大で三十名分の個室が用意されておりますので、今後チームが増えても問題ありません。』
「おぉ、チームが増えても…いや、増やす予定なんか無ぇよ。」
『ちなみに、こちらは一般個室。マスターの個室は別でご用意しております。』
そう言うプシュパカに案内されたのは、アホみたいな天蓋付きベッドが設置され、シアタールームみたいな巨大モニターが設置された、まるでスイートルームみたいな部屋。
…いや、スイートルームって言うよりコレは…。
(…なんかラ〇ホみてぇだな…。)
口に出して言うとプシュパカが五月蠅そうだから言わんが、このベッドは後で変えてもらおう…。
さらに医務室、研究室兼工房…と、いちいち驚かされる設備ばかりだった。
医務室には異星技術の治療機器の他、いつの間に運び込んだのか【ポーション製造機】が設置されていた。
…まぁ、確かにコレがあれば大抵の怪我は心配無いわな。
研究室にも見たこともない装置がズラリ。
あ、最近使いまくってた【物質変換装置】もあるな。
宇宙船型のアノマリーの中に大量のアノマリー、なんとも贅沢な話だ。
…流石はランクSだぜ。
ひと通り案内を受け終わると、満足した様子のプシュパカに連れられ談話室へと戻る。
大きなテーブルに備え付けられた椅子に座ると、プシュパカが壁際に設置されたコーヒーメーカーで飲み物を用意してくれた。
「ふう…流石は異星技術の結晶だな。圧倒されたわ。」
『お褒めにあずかり光栄です。』
「そういえば、明日はこの宇宙船…ヴィマナ?で出国するんスよね?…超目立ちません?」
『ご心配なく。ヴィマナのステルスモードなら肉眼で視認できずレーダーにも反応致しません。』
これに、終始不機嫌な様子だったアグニが悪態をつく。
『ふっ…姑息な貴様らしい機能だな。』
「一々喧嘩売るなよアグニ…。」
俺は軽く頭を掻きながら、モニターに表記された世界地図を見る。
カスヴァル共和国か…どんなアノマリーが手に入るのか、今から楽しみだな。
『…そういえば。伝えておりませんでしたが、明日はbee様もヴィマナに同乗致します。ご了承下さい。』
「……はぁ?」
あまりにも突拍子も無いプシュパカの発言に、間の抜けた声が出てしまった。
「…え、beeさんとは現地で合流する予定だったっスよね?」
『既に私から連絡を入れさせて頂きました。「移動手段はコチラで準備致しましたので、当日はコチラの住所までお越し下さい」と。』
「なっ…アジトの住所をバラしたのか!?」
驚きで声を荒げる俺に対し、プシュパカは至って冷静な態度で続ける。
『…勝手な行動をご容赦下さい。ですがマスター、裏世界の知識や【神話兵装】での戦闘力の面で考慮致しましても、あの女性はマスターの仲間に引き入れるべき人材だと具申致します。…その為には、こちらの手の内を隠さずにさらけ出す事が最も有効だと判断致しました。』
「…。」
beeを仲間に、か。
…俺も何度か考えた事だが、前回軽く誘いを入れた際にはスルリと躱されてしまった。
…だが、beeも俺達も、共通の敵…オルテックスから追われる身だ。
現状のまま、例えばbeeが一人の時に奴らに捕まれば、そこから俺達の情報が漏れる可能性がある。
…そうならない為にも、真剣に仲間に引き入れる事を考えた方が良いのかもしれない。
「…ハァ、分かったよ。…それにしてもプシュパカ、俺達のためとはいえ、勝手な行動をする前に必ず相談してくれ。…つーかお前、結構前からbeeを仲間に引き込むことを考えていただろう?」
『…はて。何のことでしょうか…?』
「ヴィマナを見てりゃ分かるよ。増員前提の個室数、beeの【カーリストラ】でも余裕で納まる広々とした格納庫…つまりお前は、beeとの交渉道具として使うことも考えた上で、ヴィマナの完成を急がせた。そう言う事だろう?」
『…私には良く分かりませんが、確かにこのヴィマナや、マスターにお仕えする我々の存在、そして別次元に隔離された安全なアジト等は、彼女との交渉を円滑に進めるための一役を担うでしょうね。』
しらばっくれやがって…つまり今回のbee訪問イベントで色々と見せつけて、仲間になりたいと思わせろってコトだろ?
…アレコレやって好感度を上げる…なんかギャルゲーみたいだな。
「ハイハ~イ!!俺良く分かんないっスけど、beeさんを仲間にするってのは大賛成っス!!」
『…我は別にどっちでも良い。貴様等の好きにしろ。』
…反対票ナシ。
しゃあない、ここは腹をくくるか。
今回の旅でbeeを仲間に引き入れる。
…ブラックマーケットに誘ってくる位だ、現状嫌われてるって事は無いだろう。
…難攻不落のbee攻略編、開始します!




