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56.盗賊、納品する

 【弩龍の卵】と【弩龍魔石】を回収した俺達は、来た道を引き返す…なんて事は無く、アステリオスの持つ【神秘の天体観測儀(アストロラーベ)】の【転移魔法】で龍の胎内から直で帰った。

 いやぁ…便利だなぁ転移魔法。


 龍の素材を受け渡す為、一度ノクス・ミラビリスの総本山、《グラン・ビブリオテカ》へ。

 アステリオスがロイヤルガードを呼びつけたので、俺と湯取が運んできた龍素材の入ったダッフルバッグ二個を手渡す。


『任務ご苦労。(…なんか凄い恰好の奴がいる…!?)…え重っ!!!』


 取り落としそうになるのを慌てて補助する。

 俺が軽々と持っていたので何か勘違いさせてしまったみたいだな…スマン、強化服着てんだ俺。


『大至急グランドマスターに報告を。そのバッグは解析部門に回せ。…くれぐれも丁重に。私は客人を連れて開発部門に行く。』


 アステリオスの指示に敬礼で答えたロイヤルガードが、ヨロヨロとバッグを運んでいく。

 なんか俺達は開発部門?とやらに連れていかれるらしいが…ああ、たぶん湯取の装備の件かな。


 アステリオスに連れられ《グラン・ビブリオテカ》内の開発部門とやらへ。

 重厚な金属製のドアをノックして中に入ると、お揃いの防護服のような物を装備した人々が椅子から立ち上がる。


『…ヴァルトハイム様!お疲れ様でございます。…本日はどのようなご用件でコチラに?』


 ガッチリとした体躯が防護服の上からでも分かる男がアステリオスに答える。

 真鍮で補強されたマスクを上げると、太い眉毛にキレイに整えられた口髭。

 この人が開発部門のお偉いさんなのかな?


『クヴァント主任、こちらは客人であり結社のパートナー、アリババ氏とその仲間だ。こちらの湯取氏が結社からの重要な依頼任務中に、自身のアノマリー装備を大破してしまった。その補償として、代わりの装備を用意したいと考えている。開発部門には湯取氏の要望を聞いたうえでの制作を依頼したい。』


『…なるほど、承知いたしました。アリババ氏、ユトリ氏…それと、精霊殿。私は開発部門の主任を務めるクヴァントと申します。早速ですがユトリ氏、こちらでお話を伺ってもよろしいですか?出来れば大破したというアノマリーも拝見したいのですが…。』


 湯取とクヴァント主任は装備の相談をしながら別室へと行ってしまった。

 …なんかアグニ初見の人って、みんな「精霊」とやらと勘違いするな。

 面倒だから別に訂正もせんけれど。


『ふむ、アリババは…そうだな、今回の報酬の相談でもするか。紅茶でも淹れてこよう。』


 来客用の椅子に座らされ、アステリオスが茶を淹れてくるのを待っていると…。


『…やあやあ、誰かと思えばアリババ君じゃないか。調子はどうだい?』


 …見覚えのある娘っ子がフラッと部屋に入ってきた。…ザワつく室内。


『…ヘクセン、この前ぶりだな。』


 魔術結社ノクス・ミラビリスのグランドマスター、ヘクセン・ヴァルトハイムだ。

 …お前グランドマスターなんだから、そんな簡単に顔出すなよ…開発部門の人達、完全に萎縮しちゃってるだろ…。


『…母さん、何故ここにいるんだ。』


 お茶を持ってきたアスタリオスが唖然としている。


『…重要な任務から帰還した息子と客人を労おうとやってきたのに、そんな言い方はないんじゃないかい?』


『…いや…ふむ、そうか。…それは悪かった。』


『…分かってくれたなら良いんだ。…それで?』


『?それで…とは?』


『龍の素材を手に入れに行った…「弩龍胎内窟」とか言ったかな?…どうせ他にも手に入れたんだろう、アノマリーを。見せておくれよ。』


 …抜け目無ぇなぁ…これ位じゃないと組織のトップなんてやってられないのかもしれんが。


『…ハァ…アリババ、頼んでもいいか?』


『おー、別に構わんぞ。』


 俺はカバンから【錬金術師の驚異の部屋】を取り出す。


『キタキタキタッ!!』


 …途端に目を輝かせ、【錬金術師の驚異の部屋】を凝視するヘクセン。


『…えっと…出していいか?』


『もちろんだとも!さぁ!早く早くっ!!』


 …俺はページを捲り、今回の探索で入手したアノマリーのページを開く。

 ページに収納されていた【弩龍魔石】が飛び出す絵本のようにせり上がり、床の上にズシンと落下した。


『おっほぉぉぉぅ!!いいなぁやっぱり最高に格好良いなぁ!【錬金術師の驚異の部屋】!』


 …なんか今、ヤベェ声が聞こえた気がするけど…聞かなかったことにしよう。

 つーかヘクセン、アノマリーが見たいっていうより【錬金術師の驚異の部屋】が見たいんだろ!リアクションで分かるわ!!


『まだ有るんだろう!?さぁ早く!全部出すんだ!さぁさぁ!!』


『えぇ…わ、分かったよ…。』


 ヘクセンに促されるままに、次々とアノマリーを出していく。

 【龍殺しのアスカロン】【琥珀の沈彫彫刻】…。


『ああ!スゴイ!!なんて美しいんだ!』


 …【囁く巻貝】【悪魔の貨幣】…。


『いいぞ!!やっぱり最高のアノマリーだよ、【錬金術師の驚異の部屋】はっ!!』


 …うっせぇな…ウ〇コ…じゃ無かった、【龍涎香】出すぞビブリオマニアが。

 …面白そうだから出してみよう。


『まだ出るのかい!?凄い凄い!もっと私に見せ…オ゛ェ゙ッ!!!』


 うわっ汚ぇっ!!マジかよ吐きやがったコイツ!!


『…うっ!?何だこの臭いはっ!?』


『敵対組織のバイオテロかっ!?』


『換気しろ換気っ!』


 あ…ヤバ。騒ぎがデカくなる前に【錬金術師の驚異の部屋】に戻そう。


『…アリババぁ…貴様…!!』


 …ヘクセンが静かにぶち切れてる。

 …え〜っと、あと何があったかな…そうそう、【弩龍の卵】っと。


『…!!…これは…まさか、「龍」の卵か!?』


 おっ?なんか予想外の反応…。

 急に真剣な顔で卵を観察し始めたが…その前に口を拭け。何か付いてるぞ。

 …つーか床っ!!サッサと汚物を片付けろ!!

 コッチの汚物は片付けたから、ソッチの汚物も片付けろ!!


『アリババ…君、コレを譲って──』


『普通に無理。ってか、コレは俺のじゃないんで無理だ。龍の素材はアステリオスが解析部門の人に渡したから、ソッチで我慢してくれ。』


 【弩龍の卵】は湯取の物ってことになっている。

 かさばるんで帰宅するまで【錬金術師の驚異の部屋】で預かっているだけだ。


『…チッ…吐き損じゃねーか…フン…。』


 グランドマスター!!素が!素が出てますよ!!

 開発部の人達がすんごい顔でコッチ見てるんですけど!!



 …その後、湯取が戻って来たので俺達はお暇することにした。

 新装備に関しては開発部門のクヴァント主任が責任をもって仕上げてくれるとのことだ。

 なんか色々無茶な注文をしてきたらしいので、完成には少し日数がかかるらしい。

 まぁ、半ば趣味みたいな装備だから気長に待てばいい。

 …最悪、【土偶戦士の甲冑】もあることだしな。



『…【転移魔法】サンキューな。じゃあ、また今度な!』


『俺の装備が完成したら連絡下さいっス!楽しみにしてるんで!』


『ふむ…必ず連絡しよう。龍素材の報酬と解析結果についても追って連絡する。』


 アステリオスはそう言って転移ゲートに触れると、ゲートごとその場から消え失せた。


「アリババ先輩…なんでこんな辺鄙な所に転移させたんスか?直接アジトまで送ってもらえば良かったのに…。」


「…俺がまだ、ノクス・ミラビリスを全面的には信用していないからだ。」


 想定外の言葉に一瞬ギョッとする湯取だったが、俺はそのまま続ける。


「…アグニ、実際どうだ?」


 俺が問いかけると、アグニはゆっくりと目を閉じる。

 …すると、一瞬だけ足や首筋に熱を感じた。

 湯取も変な表情をしたので、俺と同じだろう。


『…有人が二、湯取が八だ。靴の裏、襟の裏、甲冑の隙間…盗聴器と発信機だな。…もう全て焼き潰した。』


 唖然とする湯取。自分の襟元や靴裏を慌てて確認して真っ青にな顔をしている。

 …俺も、嫌な予想が当たっていたことにウンザリする。


「…アステリオスやヘクセンが、という訳では無いのかもしれんが…ノクス・ミラビリスの他の連中からすれば、俺達は外部の人間だからな。だから、できるだけ弱味を握られたくないんだ。」


 …なんだかシメで暗い感じになっちまったな…なんて思っていたら、俺のスマートフォンに着信が。

 発信者の名前を確認すると、俺は電話に出る。


「…もしもし、beeか?」


『こんばんわ、アリババ。…なんか落ち込んでる?声のトーンが暗いみたいだけれど。』


「…ちょっと色々あってな。ソッチは何の用だ?」


『ふーん…じゃあ私の話が良い気分転換になるかもしれないわね。…アナタ達、「ブラックマーケット」に興味ない?貴重なアノマリーが出品されるオークションなんてのもあるのだけれど──』


「詳しく。」


 食い気味に反応した俺の耳に、電話越しにクスリと笑うbeeの笑い声が聞えた。

ちょいと二週間ほど夏休みを頂きます!


…実際はストックが切れかかっているので、ちょっと貯めたいと思います。

話を書く→何日後かに見直して修正するスタイルなので、ストック無し進行は不安で…。

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