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52.ランクS『弩龍胎内窟』⑥

 二体の大王鎧蟲が、俺達の行く手を阻む。


 幾重にも重なり合う赤い甲殻が、動く度にパキパキと音をたてる。

 こんな鈍重そうな見た目で、丸くなった時の速度はとてもじゃないが逃げ切れるような速さじゃない。

 …ここで殺るしかない──!


 俺が腰の【プラズマカッター】に手をかけるより早く、アグニの手に炎が渦巻く。


『…焼け死ね!』


 灼熱の閃光が、横薙ぎに走る!

 だが──。


 当たる直前、一瞬で丸くなった二体の外殻を、閃光が撫でる。

 勝利を確信した俺の目に、まさかの光景が飛び込んで来た。

 …マジかよ、無傷だ…それどころか、あの灼熱閃光で焦げ跡ひとつないだと?


『…何だ、あの装甲は…。生物の体組織として有り得んぞ…?』


 呆れ声を漏らすアグニに、アステリオスが落ち着いた声で返す。


『ふむ…恐らく魔力で外殻を強化しているのだろう。…いや、それだけでは無いな。あの異常なスピードも、恐らくは魔力による強化だ…俗に言う「身体強化」系統の魔法だな。』


 …なるほど。湯取の【ブースト】みたいなもんか。

 厄介な…そう思った瞬間、俺の背後に気配が迫る!


 ギギギギギ!と刃が擦れるような音を立て、無数の歩脚が襲いかかる!

 それを【プラズマカッター】を振り払い迎撃する。

 …切り払った脚が、その場で再生していく様は悪夢のようだった。


 クソッ、片手じゃ押し負けるっ!

 俺は空いた左手で腰から【虚鉱(ホロウナイト)のジャンビーヤ】を抜き、双剣で応戦する。

 …畜生っ、スピードは拮抗しているが、それでも手数が足りねえ!

 

 スピード特化の俺でこの状態だ、他の奴等じゃ手が出せないだろ…とか考えてたら、もう一体の大王鎧蟲の猛攻に、三人が押さているのが見えた!やばいぞ…!


 俺が対峙する大王鎧蟲が唐突に金切り声を上げる!


『ギュウゥゥ…ギャウッ!!』


 !!コイツ…まだスピードが上がるのか!?

 ヤベッ…捌ききれ──!?


「アリババ先輩っ!?」


『有人っ!!』


 遂に捌き損ねた歩脚の一本が、俺の腹部に深々と突き刺さ………って無いな。


 視線を落とせば、炎の膜が俺の体表に浮かび、敵の脚を焼き落としていた。

 …【奇御魂】の自動防御だ。


 …試しにノーガードで突っ立ってみたら、無数の歩脚が次々に振るわれるが、俺の体に触れた瞬間【奇御魂】に焼き払われ、蒸発しては生え変わる。


 オイ、何だコレ。

 とんでもない猛攻を繰り広げているようで、実際はどちらもプラマイゼロ。無。


 …あ、違うな。

 ガードしなくていいなら、攻撃できるじゃん。

 俺を殺そうと夢中で歩脚を振るう大王鎧蟲の首に、俺は素早く【プラズマカッター】を横薙ぎに振るう。

 何の抵抗も無く入った刃が、宙に首を舞わす。


 …良かった、ムキになっててくれたおかげで避けられなかった。

 …流石に首からは再生しないみたいで、一安心だな。


 …そうだ!もう一匹居るんだった!

 急いで加勢を…と思って振り返ると、湯取が【グラビトン】を放ち、鎧蟲の巨体を柔らかな地面にめり込ませていた。

 そこにアステリオスとアグニが左右から氷と炎で挟み撃ちにしている。


 …なんか、寄ってたかってイジメてるみたいな構図だな…。


『…なぁ、これ効いているのか?』


『ふむ…。正直、ダメージがあるようには見えんな…。』


 アグニとアステリオスの疑問に、意外な所から返答が入る。


〈いいえ、効いています。〉


 うぉっ!ビックリした…なんだ、プシュパカか。


〈…偶然でしょうが高温・低温にさらされた結果、外殻に細かな亀裂が生じています。あれならば強い衝撃を与えれば破壊可能でしょう。〉


 おお、なるほど!そういうことね!


「湯取ー!プシュパカが言ってる!ブッ叩けって!」


「了解っスー!!」


 湯取が【グラビトン】を解除すると、鎧蟲が地面から飛び上がる!

 …その落下地点を見越し、湯取は構えていた。

 巨大な【断罪の十字架】を、渾身の力で振り下ろす!


「害虫駆除っスー!!」


 メキョッ!!


 鈍い音が響き、外殻もろとも粉々に潰れ…。

 なんか黒くて汚い汁を撒き散らしながら、大王鎧蟲は絶命した。


 …なんだ、やるじゃんお前等。

 …でも湯取、全身鎧蟲の汚汁でビチャビチャじゃねぇか…汚っ!臭っ!!


 湯取は体液の事など気にする様子も無く、振り返る。


「やったっス!俺たちのチームワークの勝利っスね!」


 片手をあげ、ハイタッチを求めるようにこっちに寄って来る湯取という「新たな敵」の登場に、俺達の心は一つになった。


 俺とアグニ、アステリオスは、目を合わすと無言で頷き合う。


 …さらばだ!湯取!!達者で暮らせよ!

 俺達は全力で逃げ出した。






「…マ~ジ~で、…酷くないっスか?」


 いや、汚い汁まみれになったお前が悪い。

 …なんで叩き潰すんだよ、ぶっ飛ばせば良いだろうが!


『…まだ匂うぞ。ちゃんと吹いたのか?』


 ジト目のアグニに問い詰められ、湯取がおずおずと答える。


「…一応拭きましたけど…何分ウエットティッシュしか無かったもんで…。」


「そんなもんで綺麗になるかっ!!どうりでまだ匂うと思った…。」


 俺が鼻をつまみながら水の入ったペットボトルとタオルを渡すと、受け取った湯取は何かを思い出したようにショルダーバッグを漁り始める。


「そうだった!さっき逃げる三人を追いかけてる時に拾ったんスけど、アリババ先輩に『見て』もらっていいっスか?」


「はぁ…?拾ってきたって、何を──」


 湯取が取り出した物体は、酷い悪臭を放つ30センチ程の塊だった。


『…ウン…。』


 途中まで言いかけたアステリオスが口を閉じる。

 …ま…マジかよコイツ…何を考えたらウ〇コ拾ってくるんだ…?


「どうっスか?何だか分かりました?」


「どうって…こんなもん調べるまでもなくウ〇コ以外の何物でも無いだろう…。」


 俺がドン引きしていると、あろうことか湯取は塊に顔を近づけクンクンと匂いを嗅ぎ始めた…!?


「え~そうっスかぁ?なんか悪臭に交じって、何とも言えない芳しい香りがする気がするんスけど…。」


 …それはお前が何かに目覚めちまっただけじゃないのか…?

 そこまで言うなら【鑑定】するけど、多分普通に【ウ〇コ】って出ると思うけど…。


龍涎香(りゅうぜんこう)】ランク:S

 本来はマッコウクジラの腸内で生成される結石。

 そちらは希少な香料・漢方薬として扱われるが、これは本物の「龍」の龍涎香。

 今は熟成が足りず悪臭がするが、時間が経つにつれ甘く優雅な香りに変化する。

 全ての生物を魅了するその香りは「天国の花畑」と例えられ、価値は計り知れない。


 ランクS!!!


 ウ〇コがランクS!!!


『…信じられん…これランクSアノマリーの【龍涎香(りゅうぜんこう)】だ。超希少品。』


 俺の鑑定に驚愕する一同。まぁ湯取は大喜びだ。


「ホラッ!!言った通りだったでしょ!?俺の目に狂いは無かった!!」


『このウ〇コがランクS…?信じられん…。』


『…ああ、龍涎香…Ambergris(アンバーグリス)か。聞いた事はあるが…ふむ…。』


 …何だろう、このカンジ…なん〇も鑑定団で見たことあるな…。

 ガラクタ持ってきた爺さんが国宝級のお宝って鑑定されて大喜び、家族はウソだろ…ってなるヤツ。


『へへへっ…さあアリババ先輩!このランクSのお宝を、ご自慢の【錬金術師の驚異の部屋】に大事にしまっておいて下さい!』


 うっ…!!!

 

 …確かに、アレは超希少なアノマリー…紛失しないように【錬金術師の驚異の部屋】へ仕舞うのは当然の事だ。

 だけど…だけどよぉ…。


(…すっごい入れたくないっ…!!!)


 俺の大事な【錬金術師の驚異の部屋】に、あんなクッサイ物入れるのは頭で理解してても気持ちが拒否してしまう…!

 …ただでさえ、最近【星喰いの夜這星】なんて外に出せないアノマリーを封印する羽目になったのに、その上あんな臭い物まで…!!


「…やだっ!!入れたくないっ!!」


「…はぁ?何言ってるんスか!?子供かアンタ!!」


「ヤダヤダッ!!絶対に嫌っ!!」


『…ハァ…アグニ姐さん、イケメンさん、俺が押さえつけとくんで入れちゃって下さい。』


 あっ、テメェ!卑怯だぞっ!!

 こんな時だけちゃんと英語で喋りやがって!!


『…ふむ、別に無理に持ち帰らなくても良いのでは?正直あまり触りたくないのだが…。』


『…何言ってるんスか、これもれっきとした「龍」の素材っスよ?』


『…!!…ふむ、仕方が無い…。』


 ああっ!アステリオスが丸め込まれた!!

 やめろ湯取っ!押さえつけるな…ってお前!【ブースト】全開じゃねぇか!!


「…いいから観念するっスよ!お宝はお宝っスから!」


 アグニ助けて!!笑ってないで止めてくれ!!

 あああ…やめろ…やめてくれ…!

 俺の【錬金術師の驚異の部屋】にそんなバッチィ物を…!

 ああああああ…!!!




 許さない…。

 絶対許さない…何が「パーティーって良いよね!」だ…!!

 覚えておけよお前等…絶対に復讐してやるからな…!!

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