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51.ランクS『弩龍胎内窟』⑤

 胃袋での宝探しを終えた俺達は、意気揚々と奥へと進む。


 赤黒い壁に所々ヒビが入り、わずかに酸の匂いが漂う通路は、ひたすら奥へと続いていた。

 瓦礫や魔物の死骸を蹴散らしながら歩いていると、ふとアステリオスが口を開く。


『それにしても…歯や骨は化石化し、内臓や体組織はまるでミイラのように変質しているみたいだが…この先に本当に無事な「龍」の素材が残っているのだろうか?』


 素朴な疑問だが、もっともだ。

 俺は肩をすくめながら答える。


『そりゃあ、あるだろう。…龍の骨や腐肉を食べる寄生型の魔物が湧いてるのが証拠だ。食い物が残っていなきゃ、流石にアイツらだってヨソに行くか、死んでるはずだろ?』


 アステリオスはしばらく黙っていたが、やがてコクリと頷いた。


『…ふむ。確かに、一理あるな。』


 すると、後ろを歩いていた湯取が、唐突に思い出したような声を上げた。


「…あーそうだ!アリババ先輩、ココって『鯨骨生物群集』ってヤツっスよ。」


「…ゲイ…何だって?」


 俺が眉をひそめると、湯取は胸を張る。


「『鯨骨生物群集』っス。海で死んだクジラの骸が深海に沈んで、それを餌や住処にする生き物で形成される生物群集っス。……まぁ、コイツの場合は龍なんで、さながら『龍骨生物群集』ってトコっスかね。」


 俺とアグニは顔を見合わせる。


『…こいつ偽物じゃないか?湯取なのに頭の良さそうなこと言ってるぞ?』


「いや…何らかの精神攻撃を受けている可能性も…。」


「酷くないっスか!?…泣くっスよ?」


 湯取は唇を尖らせるが、急に知性の片鱗を見せるお前が悪い!こちらは無言で歩を進める。


 やがて、行く先の通路が急激に狭まり始めた。

 広々としていた空間は終わりを告げ、ここから先は別の“領域”だと、否応なく理解させられる。


 …まぁ、狭いといっても、直径にして二〜三百メートルはありそうな通路だが。


 先頭のアグニが、ぽつりと呟く。


『…胃袋の次、ということは…。』


 その言葉に、アステリオスが静かに続けた。


『…ふむ、十二指腸、そして小腸…ということになるな。』


 そこへ、湯取がいつもの調子で横やりを入れる。


「気分はウンコっスね!」


 俺とアグニは一斉に足を止め、湯取を見た。


「…誰だコイツ連れて来たのは?膵臓か胆嚢にでも置いてこいよ。」


『…さっき見せた知性は何処にやったのだ。』


「ちょっ!冗談っスよ!?悪かったっスって!!」


 くだらないことを口にした罰として、湯取を強制的に先頭に立たせることにする。

 奴が文句を言いながらも、とぼとぼと歩き出すのを見て、俺は小さく息を吐いた。


 ──さて、龍の体内探検も、そろそろ佳境か。


 小腸の中は、思わず眉をしかめる光景だった。

 壁も床も天井も、奇妙なコブやヒダのような突起に覆われ、どこもかしこもブヨブヨと柔らかい。しかも、見た目に反して粘り気があり、足が沈むように取られて歩きにくいったらない。


 たまらず、俺は腰のポーチから【フロートリング】を取り出し、足首に装着して浮きあがる。…よし、これで歩きやすくなったな。


 …すると、後ろから湯取がジト目でこちらを睨んできた。


「…アリババ先輩、それはズルいっスよ!俺にも貸して下さいよぉ!」


 俺は口を尖らせ、ス○夫の声マネで言う。


「悪いな湯取、このアノマリーは一人用なんだ。」


「ぐぬぬ…!」


 ブツブツ言う湯取を見ていたアステリオスが、唐突に手を上げた。


『思ったのだが…これだけ広いのならば、さっき外で使ったホバーバイクで進めばいいのではないか?ここが小腸だとしたら、まだ先は長い。できれば私も、体力は温存したいのだが…。』


 俺はアステリオスの表情を見て目を細める。

 …急に饒舌になりやがったな、この魔術師。そんなに歩くのが嫌か?

 …まぁ、しかしその意見には俺も同感だ。


 俺は【錬金術師の驚異の部屋】から【ホバーバイク】を一台取り出す。

 操縦席に湯取、その後ろにアステリオスを座らせて指示を飛ばす。


『湯取は操縦、アステリオスは何かあったら後ろから魔術で対応してくれ。』


『ふむ、了解した。』


 俺も【フロートリング】を外し、強化服の飛行用モジュールで宙に舞い上がる。アグニも赤い炎を纏って飛び上がり、ぴたりと背後に続いた。


 しばらく空中を進んでいると、アグニが不思議そうに口を開いた。


『…なあ貴様よ。先程思ったのだが、湯取は何も介さずともアステリオスの言葉が分かるのだな。』


 …言われてみれば、そうだ。

 アステリオスが英語で喋った後、湯取は何の迷いもなく「気分はウ〇コっスね!」と返していた。


「…アイツ、馬鹿なのかよく分からんよな…腐っても大学生ってコトか…?」


 アグニは小さく鼻で笑うと、言葉を継いだ。


『…我が思うに、奴は「魔人化」してからポンコツぶりに拍車がかかっているのではないか?言語に関しては、それ以前に学んだ記憶が生きているのだろう。』


 そうだった。

 湯取は「生まれたての魔人」…まだ0歳児だ。

 ポンコツでも仕方がない…長い目で見よう。


 その時──。


 頭部装甲内側のモニターが、けたたましく赤く点滅した。


〔緊急回避〕──!?


 俺の【直感】は何も告げていなかったが、それでも身をのけぞるようにして回避する。

 次の瞬間、俺のすぐ上を、巨大な剛速球が風切り音を立てて通過していった。


 …危なかった…!

 【直感】の範囲外からの超高速接近…警告がなければ間に合わなかった。


『湯取!敵襲だ!!ヤバい速度で飛んでくる攻撃に注意しろ!!』


「えぇ?敵っスか?俺には何も──」


 言いかけた湯取の乗るホバーバイクに、別方向から飛んできた球体が直撃した!


「あっ…」


 …が、バイクは爆散することもなく、球体は斜め上の方向に弾き飛ばされた。


『…何だ今のは。事前に氷壁の魔法をかけていたから何とかなったが、弾くので精一杯だったぞ…。』


 アステリオス!ナイス!


 俺達がなんとか回避した二つの球体は、勢いを緩め地面に着地すると、その姿をゆっくりと変え始める。

 一筋の切れ目が入り、表面の甲殻が開いていく。中から現れたのは──。


【大王鎧蟲】

 種族:甲殻魔物

 巨大な鎧武者のような姿をした魔物。別名「掃除屋」。

 龍の胃液にも耐える外殻は耐久性が非常に高く、破壊は困難。

 侵入者を見つけると襲い掛かり、刃物のように鋭い大量の歩脚で八つ裂きにする。

 見た目以上に素早く、丸まった状態からの体当たりはマッハに迫る速度が出る。


 デカくて赤いダンゴムシ…いや、確かに鎧武者のようにも見える。

 その体長は5メートルはあるか?

 丸まっていても、その半分以上のサイズ。そりゃ警報も出るわ…まるで隕石だ。


 さて…どうやらコイツらを倒さないと、先には進めなそうだな。

 このまま無理に進もうとすれば、またマッハの体当たりで迎撃されるだろう。


 …仕方ない。


『…みんな、ここで撃退するぞ!!』


 俺は腰の【プラズマカッター】を手に取り展開すると、愉快な仲間達に戦闘開始を告げた。

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