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49.ランクS『弩龍胎内窟』③

 湯取のポンコツミスのせいで、轟音が『弩龍胎内窟』に響き渡る。その音に呼応するかのような異形の鳴き声を聞いた俺達は、暗闇から迫る正体不明の敵に臨戦態勢をとった。


『…来るぞ!先制攻撃は我が貰う!』


 アグニが両手に出現させた火球を、時間差をつけて闇へと投げつける。


 ……ゴォッゴォォォォォッ!!


 二発の火球に運悪く直撃した魔物が、声も無く炎上する。

 …そして、燃え上がる炎が闇に潜んでいた敵の姿を照らし出す。


 …そこには、不気味に蠢く触手、ぬらぬらとした粘液を滴らせる巨大なナメクジ、不揃いな牙が並ぶ異形の口がついた巨大ヒトデの群れが、俺達を囲んでいた。


【骨喰い】

 種族:寄生魔物 

 所謂ローパーと呼ばれるモンスター。自在に動く触手を持つ。

 龍が死んでしばらく経つとどこからか現れ、骨に穴を開けて寄生する。

 主に骨髄を好んで食べるが、迷い込んできた他の生物も食べる。


【リュウコツナメクジ】

 種族:寄生魔物 

 巨大なナメクジ型のモンスター。

 見た目に反して非常に素早く動くので注意。

 普段は龍の腐肉や骨、骨髄を食べているが、何でも好き嫌い無く食べる。

 

【デカラビア】

 種族:寄生魔物 

 悪魔の名前を持つ、巨大なヒトデ型のモンスター。

 取り付いた相手に消化液をかけ、ドロドロに溶かしてから食べる。


「うげっ…なんか…どいつもキモい…!」


「どうします?【グラビトン】で一掃しちゃいましょうか?」


『…いや、それは不味かろう。強力な範囲攻撃は崩落の危険がある。今回は「龍」の素材が必要なのだろう?』


 アグニの言う事ももっともだ。

 だったら…!


『アグニは先頭でさっきの火球を投げながら進め!道は俺が指示する!!湯取、アステリオスは後に続け!アグニの零した敵は各個撃破!』


 俺の指示に火球を投げることで答えるアグニ。

 すぐさま空いたスペースに躍り出ると、【盗賊の鼻】に誘われるままに進む。

 アグニはそんな俺に付き従い、進行方向へ火球を放つ。


「イケメン外人さん!早くついていかないと魔物の波に飲まれるっスよ!」


『…ふむ、少し足止めをしておこう。』


 先を促す湯取を尻目に、アステリオスは立ち止まって振り返る。


『"Creep, frost of the abyss.Crawl beneath their feet and seize their breath.Freeze, ──Brinicle!"』

『這い出でよ、深淵の霜よ。奴らの足元を這い回り、息吹を奪え。凍り付け──ブライニクル!』


 アステリオスの両手が地面に触れると、一直線に霜の道が走り、それに触れた後続の魔物達が一瞬にして巨大な氷像に姿を変える。


 え…呪文詠唱っ!?

 

『…これで良い、さぁ、先を急ごう。』


「…魔法カッケェ~ッ!!流石魔術結社!!」


 アステリオスの魔法にテンションが爆上がりの湯取。


「…いや待て、オマエ前にグラウス・ヘルマーのオッサンと戦ってるだろ。その時散々魔法は見ただろうが!なんで今テンション上げてんだよ!」


「いやいや、イケメン魔術師の詠唱魔法とか絵になり過ぎっスよ!?」





 俺が先導し、アグニが道を切り開き、アステリオスが後続を抑え、湯取が打ち漏らしをかっ飛ばし…。

 気が付けば俺達は広い回廊を駆け抜けていた。

 …配置から考えて、ここって多分食道…だよな?


 そしていつしか追撃は止み、周囲を警戒しつつ一時の休憩をとる事となった。


「…あぁ~疲れた…強化服着ててもスタミナだけはどうしようもないなぁ…。」


「アリババ先輩!イケメン外人がぶっ倒れてるっス!」


『……ふ……。』


 荒い呼吸をしながらも、相変わらずの仏頂面のアステリオス。

 …その仏頂面を崩さぬまま、肩は小さく震え、地面に突いた手が汗に濡れているのが見えた。

 …余裕は無さそうだ。魔術師だもんな、体力は専門外だよな。


『…アステリオス、これ飲め。よく冷えてるから結構美味いぞ。』


『……助かる……。』


 俺が手渡したペットボトルを開け、ゴクゴクと貪るように飲み始める。

 …俺も限界だ、飲もう。


「……プハァッ!!…あ~、生き返るわぁ…。」


『…旨いな。これは日本のスポーツドリンクか?』


「…あっ!!ズルいっ!!二人して【ポーション】飲んでる!!…俺にも下さい!!」


 アグニと雑談していた湯取が、目ざとく俺達を見つけてせびってくる。


「お前には前もって支給してあるだろうが…。」


「あんなのもう飲んじゃいましたよ!それに先輩から貰うと冷え冷えで旨いんスよ!」


 人のコト保冷庫か何かだと思ってやがるな、コイツ…。

 俺は無言で冷えた【ポーション】を湯取に渡す。


『…おい、アリババ…聞き間違いじゃ無ければ、今…【ポーション】って言わなかったか…?』


 唐突に、真顔になったアスタリオスが問い詰めてくる。やべっ…。


『…言ってないよ!【パッション】って言ったんだよ、情熱だよ情熱!』


『…本当か?…そうだよな、まさか【ポーション】を飲まされたのかと思って肝が冷えたぞ…。』


『…HAHAHA!馬鹿だなぁ、【ポーション】は貴重品だぞ?そんなパカパカ飲むわけないだろう?』


『…そうだよな。すまない、忘れてくれ。』


「ウヒョー!冷え冷えの【ポーション】ウマー!」


 五月蠅ぇ!お前反省して無ぇなコノヤロウ!!





『それにしたってココの魔物、あんな見た目で足早すぎだろ…何だよあのスピード!』


「あのデカいヒトデなんて、車輪みたいに転がってきましたよ!?理解不能っ!!」


『…確かに。それに異常な体力だったな。』


『…ふむ、よく分からんが、奴等は龍の骸を喰らっているのだろう?…滋養強壮に優れている…とか?』


 …お前よくそんな言葉知ってるな。…いや、これは自動翻訳されてるんだっけか。

 イギリス人の口から「滋養強壮」とか言われたからビックリしちゃったぜ…。


「…あ、そうだった!湯取、さっきの化石見せてみろ。」


「ああ、え~っと……コレっスね?」


 湯取が背負っていたショルダーバッグから、折れた牙を取り出した。

 サイズは丁度アイスのコーン位…ずいぶん先っぽで折れたんだな。

 よし…【鑑定】っと。


【弩龍の牙〈化石〉】

 創世神話にも描かれる巨大な龍の神、弩龍ヴァリモアの牙が化石化した物。

 幾万の年月を経て化石化した牙にはほとんど魔力が残っておらず、調薬や錬金の素材としては微妙。


 弩龍…ヴァリモア…今俺達が入っている龍って、そんな名前なのか。

 龍の神…あ、でもやっぱり化石じゃダメっぽいな、「素材としては微妙」だって。


『…やっぱ化石じゃダメみたいだな。これじゃあ解呪は難しいかもしれん。』


『…分かるのか?…いや、そうか…。』


『そういえば、転送役のハズがなし崩し的に一緒に来ちまったな。一旦戻って待ってるか?』


『…いや、ここまで来たのだ。魔術結社ノクス・ミラビリスを代表して最後まで同行しよう。』


 …一緒に行くのか。まぁ魔術師がパーティーにいるのは心強いが。


 …パーティー…か。


 こうしてフルパーティーで肩を並べて戦うのなんて、いつぶりだろうか。

 俺は、少しだけ口元が緩むのを感じた。

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