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47.ランクS『弩龍胎内窟』①

件名: Fw:《至急確認》龍素材の件

差出人: ノクス・ミラビリス 日本支部

本文:


拝啓 アリババ殿


東雲に星影薄まる折、貴殿の歩みに芽吹きの風が寄り添わんことを。

突然のご連絡をお詫び申し上げます。


仰々しいのはここまでにしよう。

魔術結社ノクス・ミラビリスがグランドマスター、ヘクセン・ヴァルトハイムだ。

先日は貴重な「癒しの秘薬」を譲っていただき、結社一同感謝している。

おかげで多くの同胞が戦線復帰できた。貴重な高位魔術師を失わずに済んだよ。


さて、本題なのだが、君は「龍」と名の付く素材について心当たりは無いだろうか?

「龍の牙」「龍の爪」「龍骨」「龍鱗」「龍の翼」…なんでも構わない。

何か情報を持っていないだろうか?


実は、我が同胞の中に、「癒しの秘薬」だけで完治しなかった者が数名居る。

肌や肉が黒く腐ったように変異し、それが徐々に広がり続けている。


私はこの症状を、「呪術」による呪毒だと断定した。


結社内で魔術スキル「予言」を持つ者に視させた所、解呪には「龍」の素材が必要と分かった。

何でも龍素材には呪いに対する強い浄化作用があるらしい。


残念ながら当方での確保が難しく、強いコネクションのあるトレジャーハンター各位に頼るほか無い。

もし心当たりがあれば、至急連絡願いたい。


急な依頼で申し訳ないが、返信を待つ。

電話でも構わない。 010-44-XXXX-XXXXXX


見えざる銀の潮流に導かれし刻、貴殿に魔の加護と均衡の兆しあらんことを。


敬具

《奇跡の夜》ノクス・ミラビリス

GM ヘクセン・ヴァルトハイム




「…なるほど、呪術には【ポーション】が効かないのか…勉強になったな。」


 メールを確認した俺は、プシュパカの注いだ麦茶を飲みながら思案し、気が付く。


 …あれ?そういえば俺、この前「呪術」で攻撃されたな。

 幸いアグニの防御で無傷だったけれど、アレ当たってたらマズかったってコト?

 …万が一何かあった時の為に、ウチも備えておいた方がいいかもな…。


 俺はノートパソコンで地図を開くと、【財宝検知】を使用した。

 続いてスマートフォンで指定の電話番号を入力する。


『…もしもし、アリババだけど…ああ、お前アステリオスか?メールの件なんだけど…。』


 ディスプレイに映された幾つもの光点にマウスカーソルを合わせ、詳細表示のポップアップを確認していく。

 そして、目的に合致した候補はすぐに見つかった。


『…残念だけど持ってないな…でも、心当たりならあるぜ。』



~ ~ ~ ~



「…寒いっ!!!いくらなんでも寒すぎっスよ!!!」


 …猛吹雪が吹き荒れる中、体を震わせながら湯取が抗議の声を上げる。

 そこまで寒いか?確かにスゲェ雪だけど…。

 …ああ、俺の【アヴァロン・レイヤー】、【環境適応】があるから気にならないのか。


『…ふむ…まさか移動の足に使われるとはな。』


 防寒具に身を包んだアステリオスが不満気に言う。

 …いや、普段から仏頂面だから機嫌はよく分かんねぇや。


『まぁまぁ、ノクスだって素材確保は急ぎなんだろ?日本には「善は急げ」ってことわざもあるし。』


『…いや、母が許可を出したのだ。文句など無いさ。』


 そう言って焚火に両手をかざすアステリオス。

 湯取も同じように手をかざし、ブルブルと震えている。


『それにしても…ヒマラヤ山脈とはな。ここに「龍」の素材があると?』


『正確には「龍の素材がある可能性が高い」だな。実際に行ってみないと分からん。』


 アステリオスの持つアノマリー、【神秘の天体観測儀(アストロラーベ)】で【財宝検知】の反応があった場所に限りなく近い所に転移した…ハズだ。

 この近くに今回の目的地…その名も『弩龍胎内窟』があるハズなんだけれど…。


 ああ、ちなみに「胎内窟」ってのは山岳や霊地にある洞窟で、修験道なんかの修行場のことらしい。

 『弩龍胎内窟』なんて名前がついているけど、本当に龍の体内ってわけじゃないぞ!

 …ん?俺は誰に説明しているんだ?バカバカしい…。


 まあ、名前に「龍」って付いてるんだし、龍の素材やドラゴン系モンスターが出る可能性は高いだろう。


 …さて、【盗賊の鼻】を使いながら、ちょっと周辺を探索してみるか。


『よし、みんなは焚火にあたって少し待っててくれ。俺が周辺を探ってくる。』


「気を付けて下さい、アリババ先輩!」


『ふむ、ここはお言葉に甘えよう。』


『…誰が焚火だ。焼き殺すぞ貴様等。』




 白く凍りついた木々と分厚い雪の絨毯が一面を覆いつくし、視界は最悪だ。

 それに、さっきから妙に焦げ臭い。…ああ、ソレは俺の鼻が焦げてるからか。


 …こりゃあ迷ったら詰むかもしれん。

 俺は右手に見える岩壁を目印に、ゆっくりと歩みを進める。


 …歩きづらいなぁ、かんじきでも準備してくれば良かったか?

 かと言って、飛行用モジュールで飛ぶと、表面の粉雪が舞って視界が更に大変なことになるし…。


 …あっ!!そうだよ、こんな時こそ【フロートリング】だ!

 俺は自分の素晴らしい思い付きを即実行すべく、【錬金術師(アルケミスト)驚異の部屋(ヴンダーカンマー)】から【フロートリング】を取り出し、装着した。


「…おおおっ…!雪の表面ギリギリを歩いてる…!!メチャメチャ歩きやすいっ!!」


 さっきまでの苦行が嘘のように、平地と変わらぬように歩ける!

 【フロートリング】の正しい使い方って、コレだったのかもしれない…!


 …それにしても、『弩龍胎内窟』ってのは何処にあるんだ…?

 さっきから【盗賊の鼻】はビンビンに反応してるってのに、それらしい入口は何処にも見当たらない。

 どこかに洞窟の入口があると思うんだが…。


〈マスター、センサーが巨大な空洞の反応を感知致しました。〉

 

「お、流石プシュパカ!ナイスアシスト!」


 どうやらプシュパカが見つけてくれたらしい。

 マジで助かったぜ。


「それで、洞窟はどこにあるんだ?」


〈丁度マスターの右側、岸壁から地下に向けて斜めに続いているようです。〉


 あ、やっぱりこの岸壁が入口なのか!

 怪しいとは思ってたんだけど、入口が見つからなかったんでな。


〈少し進んだ所に、亀裂が並んだ場所がございます。マスターのスキルならそこから侵入可能かと。〉

 

 プシュパカの言葉に従い進むと、確かに岸壁に巨大な亀裂が入っている。

 壁に沿って稲妻が走ったかのようなひび割れ…うん、ここからなら【侵入】できそうだ。

 お、アソコの壁面、大きく亀裂が入って崩れてるな…なんか岩壁の下に埋もれてた化石みたいな物が露出して見えている。

 鋭く尖った骨…まるで超デカい牙みたいな…

 

 



 んっ?





 …俺は粉雪が舞い上がるのもお構い無しに、飛行用モジュールで空へと飛び上がった。

 




 …んんっ…?





 …いかん、俺の目がおかしいのかな…。





 …さっきからずっと俺の右側にあった巨大な岩山…近くではよく分からなかったけど、上空から離れて見ると…なんとなーく、「馬鹿みたいに巨大な龍の頭」に見えるような…。


 …いやいや、決めつけは良くないな!

 だってもし本当にこれが龍なんだとしたら、どんだけ巨大なんだよって話だよ!?間違いなく全身で十数kmはあるぞっ!?


 …えぇ…マジかよ…。

 文字通りの意味で、『弩龍胎内窟』なの…?

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