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44.ランクB『オゾマシドコロ』⑥

普通に寝過ごしたんじゃ、すまんの。

 【反発結界】を切り裂かれ、飛翔用魔道兵装【セレスティア・ペイル】には大きな亀裂が刻まれた。

 内燃機関が破損したのか、亀裂の内部からは勢いよくガスが噴出している。


 【プラズマカッター】の最大出力ならエネルギー体も切れるとプシュパカから聞いていたが…【反発結界】にもバッチリ効果があったな。…まぁ、10分間のクールタイムが必要だって話だから、万能ってワケでも無いが。

 …念のため、腰に下げた鞘から【虚鉱(ホロウナイト)のジャンビーヤ】を抜いて持ち替えておく。


『貴様ぁ…!!よくも…レオン様から授かった私の「翼」を…!!!』


 怒りに顔を歪ませるエリシア。

 飛翔用の魔道兵装にダメージを受け、その上未だ【グラビトン】の影響下にある為、空中での位置が安定しない…どころか、なんとか留まろうと必死に制御しているように見える。


『…なぁ、退いてくれないかな?こっちとしては何が何でもお前らをブチのめしたいワケでも無いし、おとなしく帰ってくれるなら追わんぞ?』


 俺の提案を聞いたエリシアは、怒鳴り散らすような声で喚く。


『…調子に乗るなっ!!私の【セレスティア・ペイル】はまだ飛べるっ!!』


 そう言って、再び【光翼】のスキルを展開する。

 …だが、3対6枚あったハズの翼は現在4枚、櫛の歯が欠けるようにアンバランスな姿を晒している。

 

『…ふん。』


 アグニが軽く手を振るうと、空中に細い熱線が走りエリシアの頬を掠める。 


『…!!』


『…お得意の【反発結界】も機能していないようだな。積みだ、諦めろ。』


 …いやいや、「諦めろ」じゃ無いだろ。それじゃ「降伏しろ」って言ってるみたいじゃねぇか。

 俺は別に、帰ってくれればそれでいいんだが…。


 アグニは俺にだけ聞こえるような声で、呟くように言った。


『…尋問しておきたいことがある。オルテックスがどの程度こちらの情報を掴んでいるか、探る必要がある。』


「え…尋問って、そんな物騒な──」


 アグニは俺の返事も待たず、指をパチンと鳴らした。

 次の瞬間、アグニの周囲に現れた炎が鎖に姿を変え、蛇のようにうねってエリシアの身体に巻きついていく。あ、コレ確か【焔の鎖】だ。便利な捕獲技。


『…!?なんだコレはっ!?…やめろっ…!!』


『下手に暴れると鎖に焼き尽くされるぞ?…安心しろ、今は温度を抑えている。…死にはしない。』


『…私は何も話さんぞっ!!話すくらいなら…くっ、殺せっ!!』


 唐突のくっ殺。いや、本人は知らんで言ってるんだろうけど。


 …。


 …女…銀の鎧…くっ殺…。

 …いやいや、まさかな。


 …。


 拘束され飛行能力を失い、悲鳴をあげながら落下していくエリシアを追うようにして、俺たちは地上へと降下していった。


 


 海上に戻ると、そこには阿鼻叫喚の光景が広がっていた。


 ──破壊されたドローン、海面にぷかぷかと浮かぶホバーバイク。

 そして、ホバーバイクにしがみついて、全身びしょ濡れのまま目を虚ろに泳がせるA.R.K.兵達が…うわ言みたいに何かを呟いていた。


「なんだコレ…怪獣でも通ったのか?」


「…あっ、アリババ先輩。おかえりなさいっス!」


 フカヒレに跨った湯取がスナック菓子を片手にヒラヒラと手を振ってくる。

 …また菓子食ってる。魔人って燃費悪いのか?


「なんだこの地獄絵図…まさかお前がやったのか?」


「フカヒレと自分で戦力削って、仕上げに【魔眼】で幻覚見せてるっス。」


 …何それ便利。


 改めて周囲を見渡すと、A.R.K.兵達の呟く声が聞えてくる。


『…ちくわキャノンの弾は二種類…きゅうりとチーズ…』


『…痛み止めの薬を固めて作った槍に刺されたから、あんまり痛くないなぁ…』


『…舞踏会へようこそ、ロシュツ卿。…おや、そちらに居るのはローガン卿では…』


 …なんか変な悪夢見てる!!


 …何も見なかった事にして、俺達は焼き尽くされた「オゾマシドコロ」に再上陸。

 焦土と化した元砂浜に、【焔の鎖】で拘束されたエリシアを座らせる。

 その表情はまだ怒りと悔しさが入り混じったまま、口も開かない。

 オルテックスへの忠誠心も高そうだし、やっぱ尋問は難航するか…。


「…湯取、もう一発いけるか?」


「余裕っス。ホラ美人さん、こっちを見るっスよ…【魔眼】っ!」


 紫に発光する湯取の眼が、エリシアの目を射抜いた。

 …数秒の沈黙の後、彼女の怒りの表情がじわじわと緩んでいく。


『…ユトリくん…かわいい…いいこ…わたしとユトリくんはトモダチ…そう…ソウルメイト…』


「…お前の見せる幻覚、なんかクセ強くて怖くない?…俺結構引いてるよ?」


「大丈夫っスよ先輩、ちゃんと質問には答えられるハズっス。」


 答えになってねぇ…まぁいいか。

 俺が何から聞こうか考えていると、アグニが前に出て口を開いた。


『…答えろ。オルテックスは、我らの情報をどこまで掴んでいる?』


『…あぁ…えぇと…アジア人…ほぼ確定で日本人のグループで、カーリストラを強奪した「墓荒らし」の一味だと認識している…。』


 …俺達がbeeの一味?…なんか勘違いされてるみたいだな。


『…レオン様直々に、全勢力をもってして捕縛するように指令が下っている…あっ、ユトリくんも気を付けてね!怖いよね!』


「想定してたより友情が重いっス。」


 …すっかり洗脳されてるな、コレ…。


『次。オルテックスの現時点での戦力は?』


『…制圧部隊隊長のグラウス・ヘルマーは負傷していたが、メンテナンスを終えて近々戦線復帰予定…配下の部隊員にも負傷者が多数、現在は主戦力約100名程度…。』


 …あのオッサン、復帰してくるのか。面倒な…。


『…戦車型魔道兵装【チャリオット】を操るA.R.K.研究運用部隊隊長マリア・ニェチェリナと、配下の部隊員約300名…多腕型魔道兵装【ヘカトンケイル】を内蔵したサイボーグ、地上殲滅部隊隊長ダリオ・ブラッドノートと配下の地上殲滅部隊、サイボーグ兵が約450名…。』


 うわぁ物騒…戦車とサイボーグ?…兵器の百貨店かな?


『…そして、常備兵4000名…及び、マリアが運用試験中の「クローンサイボーグ兵」が、現在約2万体…なおも増産中…。』


「……。」


 何だよ「クローンサイボーグ兵」って…何ウォーズだよ…。

 サイボーグ兵だけでも大分禁忌に踏み込んでるっぽいのに…。


『…オルテックスは、国盗りでも始めるつもりなのか?』


 アグニの発言に思わず乾いた笑いが出るが…あながち、間違ってないのかもしれん。


 …俺も、湯取も、アグニも、全員黙り込んでしまう。



 焦土の島の片隅に、A.R.K.空挺魔導部隊員達のうわごとだけが木霊する。

 ──不気味な、笑い声が。

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