43.ランクB『オゾマシドコロ』⑤
お開きムードだった探索に突如として現れた乱入者は、全身銀色の装甲に身を包み、俺の飛行用モジュール【オービタル・ウィングス】にそっくりな装備で空中にホバリングする。
そして、俺達を取り囲むように展開する無人ドローンと…あれはホバーバイクか?
バイクに搭乗している兵隊達は一様に黒いフルフェイスヘルメットを被り、その表情は伺えない。
…オルテックス、良い趣味してるよな。…後で何台か【スナッチ】させてもらおう。
『…A.R.K.空挺魔導部隊のエリシア・フロストレインがその身柄、拘束させてもらう。』
スピーカー越しの女性の声が響く。
…なんでこんな所にA.R.K.部隊が?
…つーか、ちょっと聞いた感じ、俺達やっぱりオルテックスに指名手配されてる?
なんか探してたっぽい言い方してたよな、コイツ。
【エリシア・フロストレイン】27歳
A.R.K.空挺魔導部隊 隊長
魔道兵装の直結使用に耐えられるよう肉体改造を施している。
自重が飛行性能に影響する為、改造は比較的小範囲に納まっている。
E:飛翔用魔道兵装セレスティア・ペイル(ランク:B)
E:A.R.K.空挺兵装コンバットアーマー(ランク:C)
【SM-06《セレスティア・ペイル》】ランク:B
分類:飛翔用魔道兵装
背嚢型の魔道兵装。魔術回路を内蔵し、空中を自在に駆ける「魔導の翼」。
風属性特化の合成魔石「マギクリスタル」を搭載しており、魔法スキル【光翼】が使用可能。
使用者のエリシア・フロストレインとは軽度の改造手術により背部で接続されている。
両者には低温圧縮エーテルガスが循環されており、その燃焼により爆発的な攻撃力を発揮する。
また、副次的にマギクリスタルの自動防衛機能が装着者を守る【反発結界】を発生させる。
…流石にまったく同じ装備ってワケじゃ無いのか。
俺のはアノマリー、あっちのは魔道兵装。
…厄介なのは、グラウス・ヘルマーのオッサンや神代と同じく「マギクリスタル」持ち。
つまり、【スナッチ】による無力化が通じず、【反発結界】を破れるパワーが必要になる。
『…どうした、抵抗しないのか?なら、こちらから行くぞ!』
リィィィン!…という鈴が鳴るような高音と共に、エリシアの姿が忽然と消える。
えっ…と一瞬惚けてしまった俺の頭部に、続けざまに衝撃が走る。
うわっ!…さっき銃撃された時より衝撃が強いっ!?
アグニに埋め込まれた【奇御魂】の自動防衛機能でダメージ自体は無いけれど、弾着時の衝撃が来るのは慣れないな…。
『…【光翼】の弾丸で無傷だと…?貴様も【反発結界】持ちか?』
再び目に捕らえたエリシアの背中には、大きな3対の「光の翼」…!?
…アレが魔法スキル【光翼】か。天使っぽくて中々神々しいじゃないの。
…いや、銀の鎧に翼…ヴァルキリーってトコか?
『生憎、魔道兵装には疎いんでね。なんのこっちゃ分からんが、優秀なのは結界だけじゃ無いぜ?』
俺が軽口を言い終わると同時に、アグニの灼熱閃光がエリシアを直撃する。
俺への配慮無しバージョンの極太閃光だ!決まったか!?
『…この技はグラウス・ヘルマーとの戦闘記録にあったが、以前より高出力のようだ。前は手を抜いていたのか?…しかし、コレは決定打にはならんな。対策済みだ。』
閃光の中から無数の光の羽が弾丸のように飛来し、アグニへと殺到する。
着弾したアグニの身体が、まるで炎を掻き散らすように乱れ、揺らめく。
『…またあの結界か。馬鹿の一つ覚えのように…小癪な奴等だ。』
「お…おい、大丈夫なのか!?」
『この程度何でもない。ウサギに影を踏まれた程にも感じぬ。』
吐き捨てるようにそう言ったアグニを見て、銀の鎧が嬉しそうに空中を跳ねる。
『…言うじゃないか。いつまでその減らず口がたたけるか…精霊の力とやらを見せてみな!』
再び光の羽がアグニへと降り注ぐ!
俺は羽と擦れ違うように加速し、カウンター気味にエリシアへと【プラズマカッター】を振るう。
だが──
リィィィン!
またしても鈴の音と共に、エリシアの姿が掻き消える。
畜生、何なんだコレ、何かのスキルか?
『…早いな。そのアノマリー、私の魔道兵装といい勝負だ。…だが貴様、使い慣れていないだろう?私を捕え切れないのは、扱う者の力量差だ。』
…くそ、早いっ!
残像の様に姿がぶれ、時折鈴の音と共に姿が消える。
…あんな事言ってるが、姿が消えるのは絶対に何らかのスキルによるものだ。
あの鈴の音はスキルの発動音…そうとしか考えられない。
おそらく【光翼】…あれが「複数の効果」を持つタイプのスキルなのだろう。
光の羽の弾丸と、超高速移動…最低でもこの二つの効果を内包するスキル。
職業スキルにも一部、そういったタイプのスキルが存在した。
最も、上級スキルと呼ばれるモノで、俺は持っていないんだが。
…さっき【鑑定】でよく見とくんだったぜ…こう動かれちゃあスキルを【鑑定】出来ない!
『くっ…ちょこまかと…!』
こうしている間にも、アグニが光の羽の攻撃を受け続けている。
何でもないって言ってたけど…流石にまずいんじゃないかコレ…?
『…こんなものか。総員、攻撃準備。…無力化した後、拘束用魔道兵装を展開しろ。』
エリシアの声に反応し、取り囲んでいたドローンとホバーバイクの銃口が、一斉に俺へと向けられる。
――【直感】スキルが、最大級の警告を発する。
全身が粟立つような不快感。まるで延髄を素手で握られるような、そんな錯覚を覚える。
…これはヤバい、拘束用魔道兵装!?
どんな物かは知らんが、ソレを喰らったら、確実に拘束される…!
何とかしないと…せめて一瞬でもエリシアの動きを止められれば…!!
「…【グラビトン】っ!!」
ズンッ!という効果音が聞こえるような、重苦しい重圧が辺りを包み込む。
見えない何かに上空から押さえられ、急降下していくドローン達。
『…なんだっ!?制御が効かないっ!?』
『墜落するっ…うわぁぁぁっ!!』
同様に制御を失ったホバーバイク兵の断末魔が響き渡る。
「…アリババ先輩っ!今度はちゃんと範囲を制御してみせましたよっ!!…でも、流石に魔力切れっスわ…。」
そこには疲労困憊な様子の湯取の姿が…えっ!?何で湯取がここに!?ここ空やぞっ!?
…ん?なんだアレ…?
湯取の上着…【ダンピールジャケット】の首の辺りが不自然に上に引っ張られてる…?
『ぐぅぅぅっ…もげるっ…!某の脚がっ…羽根がっ…!!…命を…命の炎を燃やし尽くせっ…!!』
…こっ…金剛丸!?
まさか金剛丸が湯取を掴んで飛んできたのかっ!?
…マジかよ、お前結構凄かったんだな!
多分、最強のカブトムシだよ!!!
…そのままゆっくりと落下していく二人に、俺は無言で称賛を送った。
『…なぁっ!?なんだこの力はっ!?アイツか、アイツが何かしたんだな!?』
空中で必死に抗うエリシアだが、ヤツでもその場に留まるのが精一杯のようだ。
…【グラビトン】凄いな、【反発結界】越しでも影響を与えるのか。
やっぱ湯取の【断罪の十字架】、【反発結界】使いにとっては相性最悪なんだな。
…ははっ。
「…どうよ。ウチのメインアタッカー、最高だろう?」
…俺は飛行用モジュールの最大出力でエリシアへと接近し、すれ違いざまに奴の背嚢、【セレスティア・ペイル】へと全力で【プラズマカッター】の刃を振り下ろす。
パリィィィィン!!
…【反発結界】が切り裂かれた、ガラスが割れるような音が、夕間暮れの空に響き渡った。




