42.ランクB『オゾマシドコロ』④
「最悪だ…吐いたのとか何年ぶりだ…?うう、口の中がキモチワルイ…。」
突然のスプラッタ展開に俺の胃袋が限界を迎えた。
俺も前世で冒険者だった身だ、多少のグロ…魔物の解体なんか位だったら問題無い。
でもこの惨状…あたり一面、血と肉と臓物って…ベ〇セルク13巻かな?…げろ。
俺は低濃度の【ポーション】を取り出し、口をゆすぐ。
…beeやヘクセンにでも見られたら人間性を疑われるだろうなぁ。
…昔何かで見た、成金が札に火をつけて辺りを照らすような行為…。
俺の口内環境の改善が優先だ、許せ。
「おおお…【グラビトン】の実践投入は初めてだったっスけど…予想以上に高威力っスね!」
湯取は自身の愛用する【断罪の十字架】の装備スキル、【グラビトン】の威力にご満悦のようだ。
単体攻撃、範囲攻撃の両方をこなせる武器か…あながち、俺のチョイスも悪くなかったみたいだな。
…見た目のチャラさで選んだとか、今更言えないな…。
「…あ、でもコレ連発は厳しいっスね。体内の魔力がゴッソリ減ってるカンジするっスわ。」
『…そうそう都合の良いスキルなど無いという事だな。…有人は例外だが。』
は?…コイツ何言ってんだ?
俺なんて攻撃スキル持ってないのに…?
『…何も分かってない面してるな。阿呆みたいだぞ?』
「何おぅ!?」
コイツ、喧嘩売ってるのか?
畜生…暴力じゃコイツに全くかなう気がしないぜ!
…よし!アノマリー回収してさっさと帰ろう!んで不貞寝だ不貞寝!!
「…うっ…!」
…アノマリーを回収するって…この血みどろの中を抜けていくのか…?
うげぇ~、血生臭ぇ…あ、そうだ。アノマリーの所まで飛んで行こう。
俺は思念操作で飛行用モジュールをONにし、宙に浮いた。
え~っと、アノマリーは──
!!
血肉まみれの地面の中央に、何かがめり込んだような穴が…。
…おいおい、コレって…。
「…アノマリー、地中に埋まってね?」
湯取の野郎…!範囲攻撃スキルにアノマリーも巻き込んでるじゃねぇか…!!
覗き込んでみるが、穴が深い…結構深くまで埋まっちまってるみたいだぞ?
しかもなんか地面がカッチカチに固い…これ【グラビトン】で押し固められてるわ。
…どうすんだコレ?
あ、何か手持ちのアノマリーで有った気がするな…え~と…。
【オリハルコン・スコップ】ランク:A
神の金属・オリハルコンをドワーフの名工が鍛造した逸品。
先端が尖った形状の、通称「剣スコップ」。
掘る・切る・刺すと用途は幅広い。
これだ!
俺は【錬金術師の驚異の部屋】から【オリハルコン・スコップ】を取り出すと、勢いよく地面へと突き刺した。
!!!
馬鹿みたいに掘れる…!!!
…うはは、何だコレ!嘘みたいだ!
地面がプリンみたいに柔らけぇ!湯取のスキルで押し固められてるハズなのに!
幾らでも掘れるぞっ!このままブラジルまで掘りぬいてやろうか!うはは!
ははっ…。
…。
オリハルコンで作る必要、あったかなぁ…?
ドワーフの名工、完全に悪ノリして作っただろう?酔ってたの?
いや、スゴイのは間違いないんだよ?
なんつーか…万能感?掘ってる時に感じる万能感がヤバイ。
ヤバイんだけど…なんつーかな…。
…冷静になった時の、虚無感が尋常じゃ無い。
コレは…使いどころが難しいアノマリーだな…。
下手なタイミングであの虚無感に襲われたら、完全に無防備になる。
ちょっとした呪いの装備だな、コレ…。
あ、そうこう言ってるうちに目的のアノマリーに届いたみたいだな。
…落ち着いた後で良かった。最初のテンションで掘ってたらアノマリーまでぶち抜いてたぞ、コレ。
掘り出したアノマリーを【オリハルコン・スコップ】にのせて、慎重に飛行し穴から出る。
「…あ、アリババ先輩出て来たっス!」
湯取はス〇ッカーズを食っていた。
こっちに向かって手を振る湯取を目視し、その目の前に降り立つ。
…降りるついでに尻を蹴っ飛ばしておく。
「痛っ!!何するんスかっ!?」
「うるせぇ!お前のスキルでアノマリーが埋まっちまったんだよ!それなのに何のんきにチョコ食ってやがる!!」
スコップにのせていた奇怪な岩石の様なアノマリーを、そっと地面に置く。
さてさて、どんなアノマリーなのか【鑑定】といきますか。
【星喰いの夜這星】ランク:B
遥か宇宙の彼方から飛来した遊星の欠片。微細ながら意思を持つ。
生物の遺伝子に深刻な異常をきたす細菌「キマイラウイルス」を内包している。
破壊しようとした場合、外殻が崩壊・飛散し致命的な生物災害を引き起こす。
BSL4に該当する為、対象は封印処置した上で、該当区画をただちに封鎖・焼却処理による滅菌が必要。
…うわ怖っ!!!
ウイルス!?バイオハザードやんけっ!!
遺伝子に異常をきたすって…なんて凶悪なアノマリーなんだ!これで何故ランクがB!?
「…?どうしたんスか?この岩がアノマリーなんスか?」
「だぁぁぁっ!触んな触んなっ!!これメッチャ危ないアノマリーだから!!」
湯取が不用意に触れようとするのを慌てて止める。
…一応、【直感】が反応してないところを鑑みるに、俺達には影響無い…ハズだけど。
…コレはこのままにしておけないな。
仕方が無い。【換金】でこの世から消滅してもらおう…。
「…スマンな【星喰いのナンタラ】!【換金】っ!」
《(!)ERROR この財宝は換金出来ません。》
なん…だと…!?
「えっ…【換金】スキルが弾かれたんスか!?」
「…どうやら、思ってたよりも厄介な品みたいだな…。」
【換金】さんが殺られた…どうする?このまま放置していくのも不味い気がする…。
『…禍々しい気配を感じる。…いや、コレは…「星喰い」か?』
鑑定が使えるわけでもないアグニの口から、アノマリーの名前が出た。
「アグニ、知ってるのか!?」
『…「星喰い」は、貴様等で言う所のJADES-GS-z13-0銀河で最初に確認された、最悪の細菌「キマイラ」を内包した隕石や惑星のことを指す。「キマイラ」は生物の構造そのものを書き換え、感染者が新たな感染者を生む。治療は不可能。感染者は極端に光を嫌うようになるが、死滅するようなダメージにはならない。…ここが離島で良かったな。陸続きの星にコイツが落ちると最悪だぞ?その名の通り、あっという間に星を喰らいつくすからな。』
「怖っ!!何スかソレ!…宇宙ゾンビってコトっスか!?」
宇宙ゾンビ…。
マジもんの生物兵器じゃねぇか…どうすんだコレ。
…くそっ、嫌だけど一時的に【錬金術師の驚異の部屋】に突っ込んでおくしかないか。
今までの経験上、【錬金術師の驚異の部屋】内にあるアノマリーは外への影響力を持たない。
…なんだろう、爆弾を抱えてるみたいでメチャクチャ嫌だな…。
俺は【錬金術師の驚異の部屋】を取り出すと、隔離するように一番最後のページに【星喰いの夜這星】を収納する。
…とりあえず、コレで大丈夫…のハズ。
「…ふぃ~、収納完了…。なんかすげぇ疲れたわ…。」
「お疲れ様っス…。言っちゃあ何ですけど、今回は大外れっスね…。」
「…むしろ負債を抱えちまった気分だ。まぁ、今回アノマリーはついでだ。武器やスキルの検証は出来たし、トントン…ってコトにしとこう。」
『…それでも全然釣り合って無いが、仕方あるまいな。』
俺達は来た道を戻り、上陸した砂浜へと帰って来た。
湯取にはサメ…フカヒレに乗って島から離れてもらい、俺とアグニは島の遥か上空へと飛び上がる。
『いいんだな?やるぞ?』
「…あんな細菌、残して行けないからな。【鑑定】によれば焼却処理するしか無いらしい。やってくれ。」
俺が許可を出すと、アグニは両手を左右に大きく開き、極大の灼熱閃光を放った。
島の全域を覆いつくす光の照射。海面からは凄まじい勢いの蒸気が吹き上がる。
…ほんの数秒の照射が収まり、蒸気のヴェールが海風で晴れると、そこには「辛うじて陸地」といえる物のみが残っていた。
…【索敵】にも反応無し。ふぅ、これでやっと落ち着けるな。
『熱いっ!熱ぅぅいっ!!煮えるっ!拙者の身が煮えるっ!!』
「全速力で離れるっス、フカヒレ!このままじゃ本当にフカヒレ煮になるっス!!」
…一部落ち着かない奴等もいるが、まぁ大丈夫だろう。
…帰るか。
突然、アグニが振り返り、彼方の空を睨みつけ叫ぶ。
『…気をつけろ、何かが来るっ!!』
あ?
…何だ?遠くの空に無数の…いや、すごい数の影がコッチに飛んでくるっ!?
早いっ!!
機銃のような音が無数に響き、体に僅かな衝撃が走る。
撃ってきた!?ダメージは全然無いけど、これってまさか…。
そうこうしている内に、気が付けば俺達はソレに囲まれていた。
『…強力な魔力反応に出張ってみれば…正解だったな。』
拡声器でも通したような女の声が響く。
俺の正面に、奇妙な装備で身を固めたヤツがホバリング飛行している。
銀のフルフェイスヘルメットに、体も銀色の薄い装甲で覆われている。
何より目を引いたのは、背中に背負った背嚢のような装備…そこから生えた見覚えのあるパーツ。
左右2基の円盤状ユニットと、バランサーフィン…。
俺の飛行用モジュール、【オービタル・ウィングス】と酷似した姿。
違いがあるとすれば外装の色くらい。あっちは銀色、こっちは黒。
『そこにいる「炎の精霊」…ヘルマーの戦闘記録映像に居たな。アタッカーの男が見当たらないが…貴様が「斥候の異能使い」だな。…A.R.K.空挺魔導部隊のエリシア・フロストレインがその身柄、拘束させてもらう。』




