41.ランクB『オゾマシドコロ』③
『…茶番はもう良いか?終わったならさっさと行くぞ。』
俺だってやりたくってやってんじゃ無ぇっつーの!
…なんか、まだ探索前だってのにドッと疲れたな…。
「じゃあフカヒレ、お前はここで待機っスよ。探索が終わったら帰ってくるんで、お留守番頼むっス!」
『御意。…金剛丸殿、御屋形様を何卒宜しくお頼み申す。』
『うむ、某に任されよ。大船に乗ったつもりでおるがよい。』
サメが大船に…何故か巨大ザメが船尾に乗り上げるシーンが頭によぎった。
「…そういえば、大量の敵反応があったんだっけ。…よく襲ってこなかったな。」
『どうも奴等、森から出られんようだぞ。』
アグニの言葉に、俺も改めて【アヴァロン・レイヤー】の【索敵】を確認する。
…うわ、森のコッチ側、綺麗に真っ赤っか…。
…日の光に弱いとかか?それとも何か森から出られない理由でもあるんだろうか。
こっから姿は見えないけど、向こうは藪の影とかから覗いてるんだろうな…。
「どうします?このまま突っ込むスか?」
「流石にソレは危なくないか?面倒だけどちょっと遠回りして──」
『面倒ならこうすれば良いだろう。』
俺が言い終わる前に、アグニが森に向かって灼熱の閃光を放つ。
カッ!!!
目がっ……あれ、何ともない…?
さっきまでは湯取の放つ光で眩しかったのに。
〈先程の経験を元に閃光対策をインストール致しました。〉
…プシュパカの仕事が早ぇ。
いや、感心している場合じゃ無い。
アグニのヤツ…森を焼き払いやがった!
「アグニお前!大火事になるぞ!?」
『ならんぞ。…我を誰だと思っているんだ?「焔のアヴァターラ」だぞ?』
言われて見れば、直撃した場所は綺麗に円形で、一直線の道が出来上がっているが、周りの木々は多少焦げてはいるものの延焼している様子は無い。
ハァ~器用だなぁ…じゃ無ぇ!
「…ったくもう、仕方無ぇな!一気に突っ切るぞ!」
そう言いながら駆け出した俺に、アグニと湯取が追走する。
…おお、感じる感じる!両サイドの森から殺意がビンビンだ!
飛び出してこない所を見ると、本当に日光が苦手なパターンっぽいな。
しばらく走り続けると、アグニの焼き払った道がだんだんと狭まって来た。
前方を見ると、道が途中で終わっている。
アグニが二発目を撃とうと構えたので、慌ててそれを止めた。
「アグニ、撃たなくていい!アノマリーに当たったら元も子もない。こっからは各個撃破で!」
道の終わりから森へと突っ込む。
途端に森が騒めき、俺達を挟撃するように「敵」が姿を現した。
『『ガァァァァッ!!』』
「うわっ!何だコイツ、気持ち悪っ!!」
思いもよらなかった敵の姿に、反射的に声が出てしまった。
…逆さまにしたタコの胴体から、蜘蛛だか蟹だかの足が生えているような、なんとも奇怪な姿。
しかもうごめくタコ足の中央に、人間の口みたいな歯が並んでいる。
この見た目でサイズは小学生の子供位あるもんだから、たまったもんじゃない。
…なんだこの生き物、きっも!生理的に無理っ!
俺に向かって触手を伸ばしてきたので、腰から【プラズマカッター】を抜き取りそれを切り払い、返す刀で袈裟懸けに両断する。
おお、真っ二つ。流石の切れ味だな。
…なにより、刃がプラズマだから汚れないのが良い。何か付いてもキモくて触りたくないしな。
湯取を見ると、こっちは何やら全身の毛皮を剥いた熊みたいなキモいのを殴り飛ばしていた。
…お前!よくそんなの素手で触れるな!
俺達は足を止めることなく走り続けるが、続々と異形の怪物が現れて中々進む速度が上がらない。
何よりキモい!ことごとく敵が気持ち悪い!何これトラウマになるわ!
…あっ!『オゾマシドコロ』ってそうゆう事かっ!!畜生、失敗したっ!
「ひゃぁ~、中々個性的なモンスターっスね!夢に見そう!」
言葉とは裏腹に、余裕そうな表情の湯取。
「…お前、グロいの大丈夫な人?」
「ええまあ、スプラッタ映画もわりと好んで見るっス!」
…そういえばコイツ、オカルトとかも好きだったな。
グロとオカルト、大きなカテゴリーで区別すれば同ジャンルと言えなくも…ないか?
…コイツある意味最強だな。怖い物とかあるのか?まんじゅう?
『…一体何なんだコイツ等は?【鑑定】では何と出るんだ?』
「…ああ、えっと…。」
【変異体】
島に生息していた生物がアノマリーの影響を受け変異した異形。
元の生物とはかけ離れた見た目に変容しており、何だったのかは断定不可能。
「…変異体、だと。…え、アノマリーの影響で変異っ!?コレ俺達は大丈夫なのかっ!?」
良く分からんが、「変異」って言葉なんかヤバそうじゃないか!?
それって【ポーション】で治せるのか!?
『貴様はそのスーツを着ている限りは問題無いだろう。ソレは宇宙線や細菌の類も通さん。』
アグニがそう言うなら大丈夫…なのか?
「…え、俺は?俺、素手で殴っちゃったっスけど…。」
「ウェ~湯取ばっちぃ!えんがっちょー!!」
『貴様はガキか。湯取は……知らんけど平気だろ、魔人だし。』
ナゲヤリだなぁ…。
湯取も素手で触るのは危険と判断したようで、【憤怒のピアス】を【断罪の十字架】に変化させて肩に担いだ。うん、俺もそれが正解だと思うぞ。
【盗賊の鼻】を頼りに方角を定め、森の中を駆け抜ける俺達三人。
結構な頻度で変異体が襲い掛かってくるが、湯取が【断罪の十字架】で叩き潰し、アグニが灼熱の閃光で焼き払い、俺は【プラズマカッター】で切り刻んでいく。
危なげの無い戦闘…というよりも…。
「…なんか、弱くないかコイツ等?」
「あ、やっぱりそうっスか?全然歯ごたえ無いっス!」
『雑魚だな。まぁ、生物的に正しくない姿をしたヤツばかりだ、弱くて当然だろう。』
見た目はトラウマレベルの変異体達だけど、総じて能力は低いらしい。
そういえば、ココにあるのってBランクのアノマリーだったな。
そりゃあ、Bランクで強敵に出てこられてもコッチが困るか。
もうすぐ森の中心…という所で、【盗賊の鼻】と【直感】に反応。
…【索敵】にも反応有。
「…どうやらゴールみたいだぞ。…敵さん、総出でお出迎えだ。」
言い終わるや否や、視界が開ける。
森が円形状に切り開かれ、どうやら広場の様になっているようだ。
アノマリーの反応は、その中央から。
…だが、肝心のアノマリーはここから視認できない。
百を超す数の変異体達がアノマリーを守るように囲み、こちらに敵意を剝き出しにしている。
「…もう嫌だわ俺、グロ苦手なんだよ!ゾンビ映画のラストシーンみたいになってるじゃねぇか!」
「いや、最近はどっちかというと前半に多いっすよ、こういうシーン。インパクト有るっスからねぇ。」
知らんわ!最近のゾンビ映画の傾向とか!
しかめっ面の俺に、アグニは顔色一つ変えず確認してくる。
『…面倒だから、全部焼き払っていいか?』
「あ、姐さん!俺にやらせて欲しいっス!範囲攻撃の練習しときたいんで…!」
アグニが「どうする?」という表情で俺を見てくる。
今回の探索はスキルの実地練習も兼ねているので、ここは湯取に任せるか。
「よし湯取、やっちまえ!」
「ウス!行きます!!」
湯取は肩に担いでいた【断罪の十字架】を両手で正面に構えると、集中し始める。
…しかし痺れを切らした変異体達が、武器を向けられたのをきっかけに一斉にこちらに向かって駆け始めた!
『『『『GROooooooooN!!!』』』』
「…くらえ、【グラビトン】っ!!!」
湯取が振り上げた【断罪の十字架】を、地面に叩きつけた!
地面がひび割れ、その亀裂が湯取の前方へと広がっていき──
強烈な魔力のフィールドが変異体達を包み込む!!
…そして、言葉にもならない異形の断末魔が森中に響き渡った。
紫色の魔力光のせいで、何が起こっているのかは確認出来ないのだが…。
『…強力な重力場だ。中に居る奴等は、まともな姿じゃいられまい。』
アグニが呟く。
元々アイツ等、まともな姿なんかじゃ無ぇけどな!
…ん?重力場…それって…?
「…ふぅ、終わったっス。」
湯取の宣言と共に、魔力光が納まる。
…ビチャビチャビチャビチャッ…!!
スキルで押さえつけられていた血肉の集合体が溢れ出し、広場は辺り一面、血の海と化した。
俺は吐いた。




