39.ランクB『オゾマシドコロ』①
今俺達は【財宝検知】に導かれるままに、離島に存在するランクB:『オゾマシドコロ』という場所に向かっている。
今回の目的は俺の新装備のテストと、湯取のトレーニングの成果を確認するのがメインだ。
なのでランクも低め。…いきなり高ランクに挑戦して、事故ったら目も当てられないからな。
…しかしまぁ、なんだ。
「いや~、こりゃ快適だわ。まさか俺が空を飛ぶ日が来るとはな…。」
そう、今俺は飛んでいる。俺 in the sky。
なんか今回の目的地が「禁足地」とか呼ばれる立ち入り禁止エリアらしく、船便も出てないんで仕方なく地元の漁師さんに連れてってくれと頼んだらキレ気味に断られる始末。
どうしたもんかとみんなで話していると、俺の首のチョーカーからプシュパカの声で『いや、飛んで行けばよろしいのでは?』と冷静なツッコミが。
そう言われてみれば、先日プシュパカから渡されたアノマリー群の中に、俺の強化服【アヴァロン・レイヤー】用に調整された専用モジュールが幾つかあった。
【錬金術師の驚異の部屋】を取り出してページをめくる。
これじゃない…これでもない…今俺映画のドラえもんみたいだな…あ、コレだ。
【AX-Σ-02《オービタル・ウィングス》】ランク:B
分類:【AX-Σ《アヴァロン・レイヤー》】専用 補助推進モジュール
アヴァロン・レイヤーの背部接続ポートにドッキング可能な高出力推進システム。
強化服背部、左右2基の円盤状ユニットと小型バランサーフィンで重力を制御し、高速での【飛行】を可能にする。
コレだコレ。…で、どうやって装着するんだ?
『アヴァロン・レイヤーの背部にある接続ポートにドッキングして下さい。』
…自分じゃ背中が見えねぇんだよ!!簡単に言うなや!!
『…一人で装着できるように設計されているハズですが…。』
無理だ無理!おーい湯取、ちょっと手伝ってくれ!
と、こんな感じで【アヴァロン・レイヤー】に飛行用モジュールが着いた。
最初は少し不安だったが、強化服の一部なだけあって飛行も思念操作。
一度飛んでしまえばなんてことはない、快適なもんだ。
アグニは元から飛べるから、俺に並んで飛んでいる。
心なしか、いつもより機嫌が良さそうだ。
まぁ確かに、何の制限も無く、自由に空を飛ぶってのは気持ちがいいもんだ。
雲一つ無い快晴だし、波も落ち着いている。
雲の切れ間を縫うように滑空するのも楽しい。
…昔映画で見た、バイキングの少年がドラゴンに乗って空を飛ぶシーンを思い出すなぁ。
風除けに頭部装甲を下ろしているが、試しに少し上げてみたらスゲェ風で目なんか開けてられなかった。装甲越しでも視界は問題無く確保されているので、大人しく下げておこう。
…お、アレってイルカじゃね?アグニ見て見て!
「~っ!~~~っ!」
…ん?なんだ?
「~~~っ!~~~~っ!!」
…ああ、イルカじゃ無ぇや湯取だ。
アイツ何言ってんだ?ここからじゃよく聞き取れないな。
…仕方が無い、ちょっと降下するか。
俺は飛行モジュールの出力を下げ、ゆっくりと湯取のいる海上付近へと近づいた。
「…なんだ湯取?呼んだか?」
「アリババ先輩!やっぱりなんかズルくないっスか!?二人は空飛んで、俺だけ走って行くって!」
「いや、一応ソレだって飛んでるんだぞ?海面から数ミリくらい。」
湯取には懐かしの【フロートリング】を装着してもらい、【ブースト】をかけた状態で海上を走ってもらっている。
「俺も空飛びたいっス!先輩が抱きかかえてくれれば良いと思います!」
「ヤダよ重いもんお前!魔人なんだからそのうち空飛べるスキルとか覚えるだろ!多分!」
「強化服着てるんだから関係ないじゃないっスか!…それに、なんかさっきからチョロチョロと背ビレが追っかけてくるんスけど!」
「イルカだイルカ!…本当にイルカだったら呼んでね?」
そう言い残し、再び上空へ。
…なんか下で叫んでたみたいだけど、面倒だから無視だ無視。
~ ~ ~ ~
「…よし、到着っと。」
俺とアグニは【財宝検知】が指し示す離島の砂浜に降り立った。
上空から見た島は森に包まれており、海に面した場所は崖か岩場ばかり。なんとか一か所砂浜を見つけて、そこに着地した次第だ。
『…?なんだ、大量の生物反応…いや、何だこれは?』
アグニが急に森の方角を睨んで、なにやら不穏な事を言い出した。
俺の【アヴァロン・レイヤー】の【索敵】にも反応有…!
…森が3、敵が7。モニターが真っ赤っかだ。
…何だよ、早速お出迎えか?流石『オゾマシドコロ』なんて名前してるだけあるな…!
『グオォォォォォッ!!!』
島中に響き渡るような、不気味な咆哮。
驚いた大量の鳥達が、森の木々から一斉に飛び立つ。
…モンスターパニック映画かな?
…!!
急速にこっちに近付いてくる反応が一つ…!?
早いっ!この軌道──
「…後ろだっ!!」
振り返った俺達の目に映ったのは、迫りくる異形の姿。
何だコイツ!?
サメの頭に人間の下半身!?魚人ってヤツか!?
魚人は鋭いキバを剥き出しにして、俺達目掛けて一直線に──
「…酷いっスよ二人共っ!!俺置いて先に言っちゃうんスもん!!」
…この魚人、喋るぞ!
「結局サメにも襲われるし、散々っスよ!…あ、一応生け捕りにしてきたっスけど。…非常食的な?」
…湯取だ。
うん、知ってた。




