36.盗賊、戦力強化する①
魔術結社ノクス・ミラビリスから帰った俺は、ごっそり頂いてきた異星由来のアノマリーをプシュパカに丸投げした。
ノクスのグランドマスター、ヘクセンが言うには使い方が分からなかったり、そもそも魔術至上主義派とか言う過激派によって壊されている物がほとんどだという話だったのだが、プシュパカはAIらしからぬ大歓喜だった。
『素晴らしい…地球で制作不可能な装置や、そもそも存在しない金属等の素材…おお、「物質変換装置」もございましたか!これがあれば「ヴィマナ」の再建も8割は進められます!』
ヴィマナって何だっけ?…ああ、プシュパカがAIをしていたっていう恒星間探査船の名前が「ヴィマナ」だっけ?
…ところで、その「物質変換装置」って何だ?
『…そうですね、私の持つ「空間メモリ復元機能」や、【ポーション製造機】に近いものです。「空間メモリ復元機能」は大量のエネルギーと資源を使用し、現地文明の過去の状態を復元します。一方、【ポーション製造機】は大気中などに含まれる魔力を材料に【ポーション】を製造します。…これは恐らく正規の手順では無く、魔術や錬金術のような要素で無理矢理に結果を捻じ曲げていると考えられます。「物質変換装置」は、特定の物質を材料に、成分や形、機能等を細かく指定すれば、ほとんどの物質を再現可能です。』
…なんだそりゃ、正しくチートじゃねぇか。…それってアノマリーも作れちゃうんですかね?
『異世界由来のアノマリーは、すぐには難しいでしょう。あちらの魔力や魔術といった技術は、我々の常識から大きく逸脱しておりますので。…それに、万能という訳でもありません。「物質変換装置」の変換効率は1対1000…例えば1kgの金塊を作り出すのに、1000kgの鉄を必要とします。』
あ~、そりゃあ…変換レートが激高ってコトか。
…それでも、地球では入手不可能な素材が手に入れられるとすれば十分にチートだけどな。
…ん?いや、ちょっと待て。
鉄1000kgから、金塊1kg…あれ?それって金額で言えば逆にぼろ儲けなんじゃ…?
…こりゃあ、【ポーション】以外にもとんでもない金策を手に入れたかもしれん…。
さて、そんなわけで俺の持ち帰ったアノマリーの修理は最重要課題として、チーム・プシュパカ主導の元超特急で進められた。
…ちなみに、プシュパカの手足となるメイド服アンドロイドは順調に増え続けており、現在12体…チームと呼ぶに相応しい人数まで膨れ上がっている。
二日後、俺はプシュパカに呼ばれて、いつの間にか庭に増築された工場のような施設にやってきた。
ドアを開けて中に入ると、メイド服アンドロイド達がアノマリーの修理に忙しそうにしている。
『ご足労頂き申し訳ございません、マスター。』
「いや、全然構わないんだけど…何かあったか?」
『それでは早速、こちらをご覧ください。』
プシュパカが俺に見せたのは、数点のアノマリー。
一つは、ラバーのような素材で作られた全身スーツ。
…お、なんだ?俺はこれを着て何星人と戦えばいいんだ?
『こちらは強化服です。マスターの一番の悩みは、攻撃スキルを所持していないことによる火力不足でしょう。それを補うための装備を、優先して修理・改修致しました。』
…なるほど、俺用の装備か。
…なるほど。
…は?マジで俺が着るの?
この装甲板付きウエットスーツみたいな服を?
国籍不明のガンダムファイターみたいな服を?
「え…嫌だけど?」
『えっ…?』
「えっ…?」
…いやいや、普通に嫌だろ。
こんな服着たらオチン〇ンが悪目立ちして恥ずかしいじゃねぇか。
『…それは、上から何か履けばよろしいのではないでしょうか?』
…モノローグに冷静なツッコミ入れないでくれる?
何を考えているか筒抜けなのも考え物だな…。
プシュパカに催促されて仕方なく強化服を着ることに。
渋々だったんだけど…ダブダブのスーツを首まで着ると、「プシュッ」と音をたてて自動で身体にフィットする。…おお、こんな見た目の癖にまったく動きに干渉しない。思いの外快適じゃねぇか。
『右手首を左手で掴み、捻るように操作してください。』
…なんじゃそりゃ?右手首を…掴んで捻る?…こうか?
プシュパカに言われたとおりに操作すると、首の周りに付いていたC字型の装甲がカシャカシャ音をたててスライドし、フードのように展開。そしてそのまま俺の頭全てを覆う。…あ、これ頭部装甲?
「…おお、全然息苦しくないし、視界も普通に見えるんだな。」
『装着者の快適性は最重要事項の一つです。そして、今は手動で展開いたしましたが、慣れれば思念のみで全ての操作が可能になります。』
流石、異星の技術。思念操作とかSFっぽいじゃない。
…うん、思ってた程悪くないかな?【鑑定】してみるか。
【AX-Σ《アヴァロン・レイヤー》】ランク:A
分類:宇宙服/強化服
異星由来の装着式スーツ型アノマリー。
宇宙服と強化服を兼ねており、密閉構造により極限環境での行動が可能。
また、筋繊維アクチュエーターによって使用者の身体能力を補助・強化。
パンチ力や跳躍力が最大16倍まで向上する。
外殻は小口径ライフル弾程度までなら無傷で防ぐ。
【自動調整】【環境適応】【自己再生】【索敵】【暗視】が標準搭載されている。
うわっ…ランクAだコレ!
悪くないどころじゃ無ぇ、コレめっちゃスゴイやつだ!
…スーツ自体の性能もさることながら、装備スキルも破格の五個だとっ!?
「…ちょっとナメてた。プシュパカ、コレ最高だわ。着させてもらうよ。」
『気に入っていただけたようで安心致しました。引き続き、装備の説明をさせていただきます。』
プシュパカが次に見せたのは…何だコレ?
…SF版ハンドソー?って工具みたいだな、コレ。
グリップの上に縦長コの字型のフレーム…刃が無いな、じゃあ違うのか?
【AX-Ω《プラズマカッター・デュロス》】ランク:A
分類:工具
異星由来の携行型切断機器。
数千度のプラズマを噴出し磁場で刃状に固定。
超硬質金属も、コンクリートも、静かに切断可能。
内部に小型核融合エネルギーセルを搭載。
最大出力で使用後は約10分間のクールタイムが必要。
工具だコレ。
…オイオイ、なんか核融合がどうたら書いてあるんですが…大丈夫なのか、コレ?
…あ、でもコレもランクA…。
『こちらはプラズマカッター、宇宙船で使用されていた特殊工具です。グリップ部分を握ってスイッチを押すとプラズマの刃が生成されます。実態のある物体なら大概の物が切断可能です。それに加え、最大出力時はエネルギー体にも干渉可能です。』
「…うん、コレも良いな。気に入った。」
その後もプシュパカから数点、おすすめの異星由来アノマリーの説明を受け、片っ端から【錬金術師の驚異の部屋】に詰め込むこととなった。




