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29.盗賊、接触する

 beeの助言を受けながらノクス・ミラビリスへの返信メールを書き上げた俺は、一旦アジトへ戻った。


 念のため、プシュパカにもメールの内容を確認してもらう。

 余計な情報を与えていないか、必要以上にへりくだった態度になっていないか、あるいは向こうが望まぬ条件を出していないか――。


 ノクス・ミラビリスが、俺達が持つ【ポーション】を喉から手が出るほど欲しているのは確かだ。

 長年にわたって収集してきたアノマリーを手放してでも、手に入れたい品。

 …いやぁ~この交渉、かなり繊細なバランス調整が必要だな。

 相手は武闘派だって話だ。俺の要求が許容範囲を超えれば、武力行使に出る可能性だって有り得る。 

 …だからといって、下手に出て舐められるのも癪に障るし。


『…こちらの立場を崩さず、必要な情報だけを与えた形の文面です。こちらで送信致しましょう。』


 そう言ってプシュパカが確認を終えると、俺はそのままメールを送信した。


 あとは、待つだけだ。



~ ~ ~ ~



 そして翌日。


 早速、ノクス・ミラビリスから返信が届いた。

 結論から言えば、概ね交渉は成立。

 俺達は取引の為、三日後にノクス・ミラビリス日本支部の人間と会うことになった。


 メールによると、合流してからノクス側の拠点まで移動するらしい。

 取引の規模からして、俺はてっきりイギリスの本拠地にでも行くのかと思っていたんだがな。

 …日帰りで済むのかな?一応、一日分程度の着替えなんかは持ってった方がいいのかね?


 …まぁ、国内なら何かあっても勝手が知れているしな。

 交渉決裂しても、最悪逃亡可能だし。


 で、当日のメンバーは以下の通りとなった。 


 ・俺

 ・アグニ(※勾玉モードで俺のポケットに)

 ・bee


 後述するが、ある理由から湯取はお留守番だ。

 beeが同行すると聞いた湯取は是が非でも自分も行くと駄々をこねたが、三日フルに使ってゆっくりと説き伏せた。

 安全の為なので、これは仕方が無い。許せ湯取。


 そして、今回の交渉に際して、プシュパカがまたしても便利アイテムを作ってくれた。


 見た目は黒革のチョーカー。

 その中央に、赤い宝石を埋め込んだ銀の球体――まるでプシュパカのミニチュアみたいなアクセサリーがぶら下がっている。あらお洒落。


 だが、見た目に騙されてはいけない。

 これは単なる装飾品などではなく、「本体であるプシュパカとリンクした装置」だという。


「この球体を通じて、私はマスターの状況をリアルタイムで把握できます。これにより、必要に応じて念話による的確なアドバイスが可能です。また、会話中の同時通訳も可能です。その際、日本語でのマスターの発言は逆位相の音声で相殺致します。」


 つまり――


 プシュパカとライブカメラで繋がっていて、声に出さず会話が可能。

 外国人相手の時は自動で通訳される上、俺が日本語で喋っても、向こうには通訳されて聞こえるってわけか。


「いやこれ…超便利じゃね!?」


 完璧な通訳装置…世界中の企業が欲しがりそうな代物だ。


「本来は異なる言語を使用する知的生命体と会話をする為の装置…恒星間探査船「ヴィマナ」のクルーには標準装備されていた機能です。これでマスターは一瞬で多言語話者(マルチリンガル)ですね。」


 さすがプシュパカ先生。

 もう俺の冒険ライフは、君無しじゃ語れないよ。


 そして、この装置のおかげで湯取はアジトに居ながらこっちの状況をリアルタイムで把握できる。

 …最悪の事態が起こった場合、俺達の元へ即座に駆け付けられる。


 出発当日までの3日間、俺たちはいつも通りの日々を過ごしていた。

 次に狙う探索候補地をピックアップしたり、展示室の整理をしたり、スマホに入れてあった英会話アプリを削除したり。

 …てっきりイギリスに行くんだと思って、先走って入れてたんだよね。

 まぁ、何かあってもプシュパカの通訳チョーカーがあるしな。


 そんな感じで、なんだかんだしているうちに、あっという間に取引の日がやって来た。



~ ~ ~ ~



 ──東京都内、とある喫茶店。


 俺は窓際の席に座って、慣れない伊達メガネをかけながらbeeの到着を待っていた。


 このメガネ、実はただの伊達じゃない。

 先日beeを正式に雇った際、彼女から貸し出されたアノマリーだ。


【偽装の眼鏡】ランク:C

 着用した者の他人からの印象を操作し、認識を偽装する眼鏡。

 実際に体が変化している訳では無いので注意が必要。

 

 曰く、外見を“そこそこ”変えてくれる便利な一品。

 どこだかの遺跡で大量に出土し、裏の市場に流出して一時は大騒動になった、いわくつきのアノマリーでもあるらしい。


「アナタ…変装もしないで外出してるの? この前A.R.K.部隊とやりあった時も素顔のままだったわよね? …それ、ちょっと危機感が足りないんじゃないかしら? 相手は、世界的な大企業を後ろ盾にしてるのよ?」


「う…確かにちょっと考えが甘かったのは認めるけどさ。でも、今さらそんなこと言われても…。」


「…はあ、仕方ないわね。アタシの予備を貸してあげる。この眼鏡、【偽装の眼鏡】って言ってね──」


 beeは手際よく説明しながら、銀縁の予備眼鏡を俺に手渡してきた。


 装着して鏡を覗いてみたが──なるほど、確かに他人っぽい。

 目元がちょっと涼しげになって、全体的に“塩顔寄りのモブ”って感じ。

 …イケメンにはならんのか、畜生。


 ここで湯取がお留守番になった理由に繋がるのだが、この【偽装の眼鏡】、予備が一個しかない。

 …いや、一個予備があっただけでもありがたい話なのだが。

 しばらくは外出の際はこの【偽装の眼鏡】一個でやりくりするしかないなぁ…。

 …早急にもう一個、手に入れなければ。


 そんなことを思い出していると、beeがケツをプリプリさせながら姿を現した。


 黒のタイトスカートにグレーのスーツ姿…まるで企業の秘書か有能な社外アドバイザーって風体だ。

 っていうか、お前眼鏡はどうした?…と思いつつ立ち上がると、beeが目ざとく俺に視線を向けた。


「準備はいいかしら?…って、アナタ随分カジュアルなのね…まぁいいわ。それにしても荷物が少ないわね。その小さなカバンだけで大丈夫なの?」


「ああ、俺収納系のアノマリー持ってるから。…それより、今更だけどお前仕事の方は大丈夫なのか?…あと【偽装の眼鏡】は?」


「…何か今、衝撃的なことをさらっと言われた気がするけど…まぁいいわ。仕事は大丈夫。『秘密結社に突撃取材に行ってくる』って言ったら、喜んで送り出してくれたから。あと私の場合、【偽装の眼鏡】は表の仕事用なのよ。」


 …マジで大丈夫なのか、あの出版社。

 女性記者が秘密結社に突撃取材するって言ってるのに、気軽に送り出すなや…。


 俺が「ムムー」の職場環境に「むむぅ…」と唸っていると、店内に誰かが入って来た。

 目をやると男性が二人…スーツ姿の初老の男性と、20代位の金髪の男…外国人だ。

 二人は店内を一瞥すると、俺達の座る席へと一直線に歩いてきた。


「…失礼いたします。私、ノクス・ミラビリスの神代かみしろと申します。失礼ですが、そちらは『アリババ様』ご一行でお間違いないでしょうか?」


 そう言って、初老の男性が話しかけてきた。

 柔らかな物腰だが、目つきからは鋭さを感じさせる。

 彼等がノクス・ミラビリスから派遣された“窓口”なのだろう。


 俺とbeeが軽く頷くと、彼は名刺を差し出してきた。


「本日は、お二人と同行させていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。」


「…今日は一日、ご厄介になります。」


 そう言って、お互いに頭を下げる。

 ノクス・ミラビリスが派遣してきた男、神代は非常に礼儀正しく、紳士的な男だった。

 黒いスーツに黒縁眼鏡、白髪をオールバックにまとめ、手には薄手の白手袋を着用している。



神代(かみしろ) 清夜(せいや)】41歳

 職業:魔術師  レベル:30

    魔術結社ノクス・ミラビリス日本支部 副支部長

 職業スキル:【魔力感知】【魔力操作】【火魔法】【影魔法】【恋の魔法】

 装備スキル:【呪術】

 E:白銀の懐中時計(ランク:C)

 E:人皮の呪術書(ランク:B)



 日本支部のお偉いさんじゃねぇか。

 …もしかして、俺を案内する為に本国からの命令でわざわざ呼び出されたカンジ?

 なんか申し訳ないな…。


 お、この人もレベルがあるのか…職業は魔術師…。

 …ん?なんだこれ?



 職業スキル:【魔力感知】【魔力操作】【火魔法】【影魔法】【恋の魔法】



 …見間違いかな?

 …いかんいかん、もう一度確認



 【恋の魔法】


 

 神代清夜…こいつ…!


 オッサンなのに【恋の魔法】を覚えている…だとっ!?

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