25.盗賊、アジトを整備する
新居に引っ越して一週間。
ここ最近は新しい家具を買い揃え、部屋の模様替えをするので忙しかった。
なにせ家具をいくら買っても、まだまだ部屋が余っている。
なんてったって10LLDDKKだからな。
…だから内装にはかなり遊び心を満載した。
150インチの超大画テレビモニターと7.1chサラウンドスピーカーを完備したシアタールーム。
キングサイズのウォーターベッドとムーディーな間接照明を設置したベッドルーム。
ラグジュアリーなアジアンリゾート気分が味わえるリビングルーム。
ラグジュアリーなアジアンリゾート気分が味わえるリビングルーム。
(↑書き間違えじゃなく、リビングが無駄に二つある。別パターンのコーディネートを考えるのは俺にはハードルが高かったので、まったく同じ家具をぶち込んでおいた。)
クソお洒落な北欧スタイルの家具でコーディネートしたダイニングルーム。
…途中で面倒くさくなり、放置したダイニングルーム。
何所かのジョージばりに男の趣味を詰め込…む予定のガレージルーム。
…いや、毎日毎日模様替えばっかりやっててみろ、飽きるぞ実際。
なんせ、やってもやっても終わらないんだからな。
といった感じで、すっかり気分もダレきっていたのだが、そこで俺の灰色の脳細胞に天啓が。
あ、そうだ。コレクション部屋を作ろう。
前回『双蛇の霊廟』で入手した、大量の武器や防具の数々。
【錬金術師の驚異の部屋】に入れっぱなしでも構わないんだが…それもどうなんだ?と考え直した。
【錬金術師の驚異の部屋】は、一応収納力に限界がある。
全320ページで、1ページに1個財宝が収納できる。
つまり、もし何かの拍子に大量の財宝を手に入れた時、ページ数が足らずに持ち帰れない…なんてことになる可能性があるワケだ。
それに『双蛇の霊廟』で入手した物の中には、ウチじゃあ使う機会が無さそうな装備や、能力が被っている装備なんかも結構あった。
なので、そういった装備を飾っておける部屋を作るのだ。
まぁぶっちゃけて言えば、倉庫兼コレクション部屋ということだな。
そんなワケで、ガレージ近くの一室をコレクションルームにすべく改装〈プシュパカが〉。
現在は美術館や博物館の展示方法を参考に一品ずつ設置している最中である。
『…マスター、力仕事でしたら私共に指示して頂ければ…。』
「いや、コレは半ば趣味みたいなモンだから、手出し無用で。」
そう、これが始めてみたら結構楽しい。
収集欲も良いカンジに満たされるし、自分が集めた財宝を眺め、愛でるのは最高に気分が良い。
…ウットリ気分で作業してたら、一度間違えて部屋にワニ出しそうになって冷や汗モンだったが。
『…まったく、飽きずによくやるものだ。』
「アリババ先輩、妙に凝り性な所有るっスからねぇ~。」
『…お飲み物のおかわりをお持ちいたします。』
いつの間にか湯取とアグニがコレクション部屋にやってきて、ソファーで雑誌を読んでいた。
あぁん?お前ら、最近だらしねぇな?湯取にいたってはソファーに寝そべりやがって…また雑誌読んでるの?
「月刊ムムー 6月号」…って、またムムーか!さてはお前、隠れオカルトマニアだな!?
「…あれ、もしかして気づかれちゃいました?…実は昔っからオカルトやらファンタジーって大好物なんスよ~。未知の物に対する純粋な憧れ、って言うんスかね?…あ、アグニ姐さんが読んでるのは、俺が持ってきたバックナンバーっス!」
「お前ガチ勢だったんか。その見た目で。」
チャラ男改めチャラオカ…意外な組み合わせだな。
見た目はジ〇寄りで中身がオカ〇ンとか、一人ダンダ〇ンだなお前。
…いや、確かに言われてみれば、その片鱗は見せていた。
俺が探索動画見せた時は泣いて喜んでいたし、その後の「魔人の腕輪」の時だって、何がおこるか分からないのに即断即決で腕輪着けたしな、コイツ。
「…プシュパカ、俺にもアイスコーヒー頼む。…ちょっと休憩するか。」
「そういえば湯取、そっちは引っ越しどうだ?もう物件は見つけたか?」
「…いやぁ、これが中々決まらなくって。これだっ!っていうピンとくるのが無いんスよねぇ。…最近、たま~に視線を感じる時があるんス。物陰で【ブースト】使って撒いてますけど、このままだと実家がバレるのも時間の問題っスね…。」
湯取の持ってきた「月刊ムムー」を流し読みしながら会話を交わす。
やはり湯取も裏世界の奴等からマークされているようで、実家を出て一人暮らしを始める…予定なのだが。
どうにも気に入る物件が見つからないらしい。
あ、ちなみに湯取には既に潤沢な資金+報酬を渡している。
ポーション換金錬金法が確立されたことにより、正直金には困っていない。
俺を信じてついてきてくれる数少ない仲間だ。ここでケチるのは仁義に反するってモンよ。
しかし、物件か…どうしたもんかなぁ…?
「…いっそのこと、湯取の家もプシュパカにお願いするか?」
「あ~…俺はもっと小さな家でいいんスけど…一人で住むには寂しすぎるッスよ。」
ん~そうか…確かに。
プシュパカにお願いしたら、頼まなくても必要以上に広くされるだろうな…。
二人して頭を悩ませていると、アグニが思わぬ提案をしてきた。
『すぐに決められないのなら、一時的に湯取もこの家に住んだらいいんじゃないか?なによりまずは身の安全が優先だろう?』
「!!…それ、アリなんですか?」
お伺いを立てるように俺を見る湯取。
「俺は別に構わんぞ。…むしろ湯取が嫌がるかと思って提案しなかったんだが。」
「嫌がんないっスよこんな面白そうな家!それに、広いけど一人じゃ無いですし!」
そんなこんなで同居人が一人増えることになった。
…気兼ねなく使えるように、入口から近い部屋をあてがってやろう。
コーヒーを一口啜り、雑誌のページを捲る。
目に飛び込んできた見出しの一文に、俺は眉を顰めた。
〈宗教施設を私設軍隊が占拠!?宗教法人『キオーンの声』に一体何が!?〉
キオーンの声……何だっけ?…な~んか聞き覚えがあるな。
俺がウンウン唸っていると、それを気にした湯取がのぞき込んできた。
「あ、アリババ先輩も気付いちゃいました?コレ、この間のダンジョンがあった寺院っスよね?ほら、『双蛇の霊廟』の。」
あ……あ~そうか、そういえばそんな名前だったっけ、あそこの宗教団体。
確かにbeeがそんなことを言っていた…気がする。
〈○○県の山間にある風光明媚な土地。そこに宗教団体『キオーンの声』が施設を構えたのは、今から二年前のことである。新興宗教ということと、奇抜な寺院の見た目も相まって、近隣住民からは建設反対の意見や不安の声が上っていた。〉
〈そんな施設が一月前のある日を境に、多くの軍用車と兵士で占拠されている。施設を占拠した団体は、「A.R.K.」、今や世界的な大企業「オルテックス・インダストリー」の私設軍隊である。大企業の私設軍隊が何故このような強行に及んだのか──〉
…ついこの間まで現地に居たんだよな、俺達。なんか不思議なカンジだ。
それにしても…「月刊ムムー」…侮れねぇな。
胡散臭いオカルト雑誌かと思っていたが、オルテックス・インダストリーの不穏な動きを記事にしている…こんな一面もあったのか。
少し関心しながら特集記事に目を通していき、読み終えたので次のページへ──
…ん?
俺は何か妙な違和感を感じ、先程読み終えたページに戻った。
〈…今後も本誌はオルテックスの動向を追っていく。 担当記者:雁木真理〉




