22.ランクS『双蛇の霊廟』リザルト&反省会
「それじゃ、反省会はじめま~す。とりあえず、お疲れさ~ん!!」
「お疲れ~っス!!」
『…ふん。』
例によって、郊外の大型ファミレス。
…以前アグニが大量のドリアを誤発注した店だな。
『双蛇の霊廟』を脱出した俺達は、近くの宿で一泊(泥のように寝た)。
翌日、地元まで戻って来て解散…の前に、今回の探索の反省会を開くことになった。
…あ、ちなみに脱出シーンをサラッと流したが、帰り道も一筋縄ではいかなかった。
螺旋階段を戻る道中も上からA.R.K.部隊の兵士達がワラワラ降りてきて超面倒だった。
…幸いなのは、beeが帰り道に出くわした分は相手をしてくれたようで、数自体はそれほどでも無かったコトか。
出口まで戻り、包囲されているんじゃないかと恐る恐る外に出ると、ここでもbeeが暴れていった後らしく、兵士達がアッチへコッチへのてんやわんや状態だったので、混乱に乗じてトンズラしてきた…と、こういう次第だ。
「で、アリババ先輩。ダンジョン最深部にはどんな財宝が眠ってたんスか?」
「ああ、湯取にはまだ説明してなかったな。まずはお前に渡した【憤怒のピアス】…俺が勝手に選んじまったけど、実際どうだ?」
俺の言葉に、湯取は自分の左耳を手で触る。
そこには元々着けていた赤い宝石のピアスに代わり、銀の十字架型のピアスがぶら下がっていた。
「…コレっスね。最高っス!なんかバカみたいに重いんスけど、手に馴染むって言うのか…まぁとにかく気に入ってます!…いやぁ、これで俺も魔道具持ちっスよ~。」
…若干チャラさが増した気がしないでもないが、本人が気に入ったのなら良いか。
「…で、それ以外にも防具やら武器やらが大量!【錬金術師の驚異の部屋】に片っ端からぶち込んできたから、欲しい物があったら言ってくれ。」
俺は大量の絵でページが埋まった【錬金術師の驚異の部屋】をペラペラとめくって見せる。
「うはっ!マジすか!…ひゃ~、スッゲェ!まるでゲームの攻略本みたいっスね!」
…ああ、ド〇クエとかの攻略本に載ってるアイテム図鑑みたいなヤツな。
どちらかといえば最近本屋でよく見る『ファンタジー武器辞典』ってカンジだけど。
「あとはA.R.K.部隊からブン盗った魔道兵装…【エーテルボルト】と【マギ・ガントレット】だな。これは同じ物が大量にダブってるから、要らない分は【換金】行きかなぁ。」
「…そういえば、ゾンビが装備してた鎧やら剣やらは?先輩スキルで奪ってましたよね?」
「あんなもん、錆びだらけだし臭いし捨てたわ。」
「…あ~、そりゃそうっスね。」
その場で【換金】してみようかと思ったけどスキルが発動しなかったんだよな、アレ。
…流石の【換金】さんも、バッチィのは買取不可か。
「あ、でも一応【魔石】は拾ってきたぜ。何か使えるかもしれんしな。」
「…何スかその【魔石】って?」
「あ~、【魔石】ってのはモンスターがドロップするもんで…まぁ使い道が色々ある石だな。」
「うわぁ~超ザックリ説明。」
「…説明が難しいんだよ!それより欲しい物はあったか?」
「…あ!俺このジャケット欲しいっス!…あとこっちのボトムスも!」
「カタログ通販かな?」
…まぁ良いけど。
それにしても…ジャケットとボトムス?
そんな防具、有ったっけ…?
【ダンピールジャケット】ランク:B
半魔人の魔獣狩人カムイの愛用した灰色の革ジャケット。
魔獣オルトロスの革が使用されており、打撃・斬撃・火炎に強い耐性を持つ。
肩や首、腕部は紅鋼で補強され、うかつに触れた者は大きな代償を払うこととなる。
裏地には魔術紋が刺繍されており、【自動調整】、【筋力強化】が付与される。
【ワームスケイルボトムス】ランク:C
武闘僧トロッカが遺した黒鉄色のボトムス。
一見細身のレザーパンツのように見えるが、蛇龍の細かな鱗で覆われている。
鉱石も嚙み砕いて飲み込む蛇龍の鱗は特殊な魔法合金化しており、【鋭刃】が付与される。
有ったわ。
何このワイルドヤンキー装備。
立ち襟のシングルライダースジャケットと、黒のレザーパンツにしか見えん。
…これもケリュケイオンの仲間が使っていた装備なんだろうか。
異世界ヤンキーか?
とりあえず【錬金術師の驚異の部屋】から取り出し、湯取に試着させてみる。…こらこら、ボトムスはトイレで着替えてこい!
「…アリババ先輩!見て下さいコレ!超カッコイイっスよ!」
「…なんかムカつくな。」
【湯取 晶】
魔人:0歳 レベル:21(+14)
一星大学 商学部 経営学科所属 3年生(休学中)
種族スキル:【ブースト】【魔弾】【眷属召喚】【魔眼】
装備スキル:【自動調整】【筋力強化】【鋭刃】【グラビトン】
E:魔人の腕輪(ランク:A)
E:憤怒のピアス(ランク:A)
E:ダンピールジャケット(ランク:B)
E:ワームスケイルボトムス(ランク:C)
正直似合っている。
気に入らん。
俺は【錬金術師の驚異の部屋】をペラペラとめくる。
「…お前、こっちの鎧にしない?【土偶戦士の甲冑】だって。」
「え…何すかコレ、ダッセ!!絶対嫌ですよ!」
いやいや、コレ性能凄いんだからな!?
見た目は遮光器土偶ソックリだけど。
…マジで性能は凄いんだからな?
【土偶戦士の甲冑】ランク:S
四天王「土のドグラマグラ」のドロップ品。
魔界の土を練り固め、地獄の炎で焼いた逸品。
素早さにマイナス補正が付く代わりに、物理攻撃全般に強い耐性を持つ。
【自動調整】、【筋力強化】、【暗黒】が付与される。
まさかのランクS装備。
…四天王って何?魔王軍?魔王軍なの?
…いや、存在は知ってるけど、ただの底辺冒険者だった俺には無縁の存在だったし。
たまーに勇者とドンパチがあったなんて話を聞く程度だったからな…。
「というワケで、君はこの最強装備にしなさい。…きっと似合うと思うよ。」
「嫌ですって!!そんなに言うなら先輩が着れば良いじゃないですか!」
「はぁっ?嫌だよこんなダッサイ甲冑、これなら裸の方がマシだわ!!」
「あんたマジ支離滅裂だな!!」
…ちっ、仕方ない。
今回は湯取の足止めのおかげで随分と助かったからな。
大目に見てやるとするか。
「……で、だ。」
『……。』
「…次はこの仏頂面ダンマリ露出女をどうするかだな。」
「アリババ先輩、また鼻焼かれますよ?」
…何が気に入らないのか、アグニがダンマリを決め込んでいる。
帰りの車内でもずーっとこの調子だ。
「…そういえば、ここ最近機嫌悪そうだったな。」
「…もしかしてアレっスか、プシュパカさん関連とか?」
…あ~。確かに、ソレは有り得るな。
アグニは何故かプシュパカと仲が悪い。
こっちに戻って来て、家にプシュパカが居るのを思い出しちゃったのかもしれん。
…う~ん、どうしたもんか…。
『…違う、あのポンコツの件では無い。』
あら、違うのか?
「…じゃあ何なんだ?いい加減、不機嫌な理由を教えてくれよ…。」
『…分かった、話す。だが…気をしっかり持てよ?』
「お…おう?」
なんだ、俺?俺がショックを受けるような話?
…足が臭ぇとか言われたら、地味に傷つくな…。
『…確証が無かったから今まで話さなかった。だが、今回の件で疑惑が確信に変わった。』
アグニが右手を突き出し、指を三本立てる。
『…三つ目だ。今回で「異世界由来の異物」を見つけたのは。「無垢なる水の地下洞」の時は、「異世界からの漂着物」…そういう事もあるか、位に思っていた。だが、流石に多すぎる。』
「…いやアグニ、間違ってるぞ?「無垢なる水の地下洞」と「双蛇の霊廟」で二つだろ?」
『…我が出会った「異世界由来の異物」…これには、お前も含まれている。…有人、お前が最初の一つだ。』
「…あ…。」
『…そもそも我が創造主がこの星に来た理由が分かるか?創造主に声を届ける力…もしくは、それに準ずる技術力を持つ者の元に、創造主は現れる。そして、「科学技術の種」を下賜される。我の様に護衛という形だったり、様々な形で。…そうして科学技術が発達し、創造主達と同等、またはそれ以上に育つようであれば…「良き隣人」として交流や交易を。逆に科学技術を理解できず、発達しなかった場合は…この星を植民地とする計画だった。』
…うおっ!?急に早口で喋るから頭が追い付かなかった!
え~と、異星人が地球に来た理由は良き交易相手を育てるため。
それが無理だったら植民地にするつもりだった、と。
…メチャクチャ物騒な話だ。
コレ、ファミレスでする話か?
「…あ~、そういえば俺、前から一つ気になってたんスよね…。」
湯取がスマホを操作しながら、話に割って入る。
こちらに向けられた画面には、各国の神話や神々の説明…。
…これが何なんだ?
「…コレ、『アグニ』って名前。ヒンドゥー教の神様の名前っス。これって…。」
『我と同じ存在が、他にもこの星に蒔かれていたのだろう。その神は「発芽した種」…我は「発芽しなかった種」、という事になるか…。』
アグニお前、神様やったんか…。
…アグニは卑弥呼の護衛となったが、気味悪がられて石室に封印されていた。
…発芽しなかった種、か…。
『…話を戻す。創造主が最初にこの星に訪れた時、この星の調査を行っている。…あのポンコツ…プシュパカもその一例だな。我の記憶内に奴のデータがあるのも、この為だ。』
ああ、プシュパカは恒星間探査船「ヴィマナ」のAIだった。
探査船…この星の技術力を調査するのが目的だったか。
『…良いか。創造主が調査をした時には、無かったんだよ。』
「無かったって…まさか…。」
『…「異世界の痕跡」…あんなものは、存在していなかった。』
「…それって、何か問題あるんスか?単にその…創造主サンが来た後に偶々、異世界の物がこっちの世界に──」
『偶々?笑わせるな。この短期間で四か所中二か所だ、半分だぞ?…異世界の痕跡は、確実にこの星中に無数に存在している。』
「…つまり、何が言いたいんだ?」
『この世界は、何者かの介入を受けている。間違いない。』
『…我の頭の中には、下調べをした上で創造主が算出した、技術進化の予測年表が存在する。それと照らし合わせると、今現在の技術には大きなズレがある。』
『…技術が進み過ぎている。…いや、歪だと言った方が正しいな。』
話し続けていたアグニが店内に目を向ける。
そして、ある一点を指差して、話を続けた。
『例えばアレだ…配膳ロボット。創造主の予測では、この時代なら存在したとしても「料理を配膳するのみ」の単純な機械…自動荷車のような物だ。…だが、実際はどうだ?』
アグニは立ち上がると、近くで配膳をしていた一体に歩み寄り、そのネコ耳を掴んだ。
『お客様、お止め下さい。』
『…なんだコレは?何故、ネコ耳を着けた人型のアンドロイドが配膳をしている?…この技術は、何処から来た?』
「…おいアグニ、手を離せ。ネコちゃんが困ってるだろう?…一体この子の何がおかしいっていうんだ?」
『…すまんな。感情が先走ったようだ。』
俺の言葉に、ネコちゃんの耳から手を離すアグニ。
ネコちゃんは俺達を一瞥し、元の作業に戻る。
…危ないところだった。
あのまま続けていたら、迷惑行為として警察に自動連絡が行ってしまうところだった。
『…お前らはこの歪さに気が付いていない。気付けるハズが無い。本来あるはずの無い物を、あって当たり前だと感じているのだから。…だが、我やプシュパカは感じていた。人型アンドロイドが存在する一方で、注文にはタッチパネルなどという原始的な技術。そのくせ自動販売機や自動車にも、未知の技術が多数使用されている。…プシュパカが目覚めた時、この星の技術力の低さに絶望した…と言っていたな?奴はその後、有人の家でインターネットを介した情報収集をして「歪さ」に気が付いた。…ほんの数十年で、有り得ない速度で科学技術が進化している事に。』
…アグニが言いたいことは理解できる。
だが、正直…実感は湧かない。
この世界が歪?本来あるべき姿では無い?
そんなこと言われたって…なぁ?
『極めつけが「A.R.K.部隊」だ。奴等がやっている事…それが答えなのではないか?異星や異世界の技術を発掘し、それをオルテックス・インダストリーが解析…リバースエンジニアリングで技術情報を調査し、それを使った製品を作る…。存在しなかった二つの技術を手に入れた結果が、この世界だ。』
…ここでオルテックスの名前が出てくるのか。
…確かに、流石にアレが歪なのは、俺にも分かる。
世界的大企業が回収部隊まで作って集めている異世界や異星の技術…あいつ等は「アノマリー」とか呼んでたけれど、それがこの世界の歪さに繋がっている…?
…何だか、頭が痛くなってきた…。
…あれ?マジでなんだか意識が…。
『…つまりだ。何者かがオルテックスに介入し、異世界や創造主の技術を集めさせている。…そして、この何者かは、有人。恐らく貴様にも介入している。』
「…え…。」
『貴様が異世界で、何故盗賊スキルを中途半端な形で習得したのか?わざわざ攻撃スキルのリソースを削ってまで非攻撃性盗賊スキルを詰め込まれた?貴様を孤立させ、財宝への強い執着を持たせた?…そして、何故この世界へ転生させた?』
「…頭が…。」
『…こうなってくると、全てが怪しく思えてくる。貴様が記憶を取り戻す切っ掛けとなった盗難疑惑…貴様を殴った男…記憶を取り戻した場所が、我が眠る墳墓のすぐ近くだったこと…。』
「…やめ…。」「ちょっ、アグニ姐さん…!」
『その全てが…貴様に、この世界に眠る異世界の痕跡を見つけさせようという、何者かの意志によるものなのかもしれん。』
世界の色が、音が、遠ざかっていく。
脳が、情報の奔流に焼かれていく感覚。
俺は──
俺は、何者なんだ?──
────────────────
今回入手したもの
■憤怒のピアス(断罪の十字架)
■破邪の聖槍
■ダンピールジャケット
■ワームスケイルボトムス
■土偶戦士の甲冑
他、ランクC以上の武器・防具 計41点
■エーテルボルト×23
■マギ・ガントレット×21
■魔石×33
■???(双蛇王ケリュケイオンのドロップ品)




