21.ランクS『双蛇の霊廟』⑦
「卍解っ!!!」
…あの馬鹿、やりやがったな!?
色々問題がありすぎるから、後で絶対キーワード変えさせよう…。
湯取の拳…握られたピアス型の魔道具が強烈な光を放つ。
その光はみるみる間に大きくなっていき…。
湯取の身長を大きく超えて、その成長を止めた。
光の中から現れたのは、巨大な銀色の十字架だった。
大きさは3mはあるだろうか。
シンプルでいて、分厚く無骨な作り。
よく見ると表面には、何か細かく彫刻が施されているようだ。
…ズズゥゥゥゥン…!!
…現れると同時に、地面に半分ほど突き刺さったんだが…。
【憤怒のピアス】ランク:A
分類:変形型魔法武器
十字架モチーフの魔銀製ピアス。
魔力を流しながら叫ぶと、戦槌【断罪の十字架】へと形状を変化させる。
【断罪の十字架】ランク:A
外装を崩界鋼、軸部に重魂鉛を使用した巨大な十字架。分類は「戦槌」。
見た目以上の超重量を有しており、常人では持ち上げることも不可能。
巨人、魔人等の一部種族のみ、扱うことが出来る。
固有スキル【グラビトン】
…コレ、まともに扱えるのか?
【憤怒のピアス】の説明から「戦槌に変化するなら脳筋の湯取にピッタリ!」…とか考えて渡したんだけど…。
…変化後の重さやサイズまでは想像できんでしょ…。
「…よっと!!……ハハッ、何だコレ、メチャクチャ重い!!面白っ!!」
湯取が両腕で十字架を引き抜くと、その重さを確かめるようにブンブン振り回し始める。
…お前…そんな、野球のバットを振り回すみたいに…バケモンだな…。
『お取込み中のところ悪いんだけど、この状況を打開できそうならお願いできる?…カーリストラもそろそろ限界みたいだから…。』
「…beeさん!?了解っス!!」
【断罪の十字架】を背負った湯取が、黒い怪物の影から飛び出した。
その姿を見たヘルマーのオッサンが、訝し気に睨みつける。
「…何だその十字架は…新たなアノマリーか?…何にせよ、俺の【反発結界】の前では無駄なあがきだ!!」
そう言うと、ヘルマーの身体が球体状の膜に包まれる。
何だアレ、アレも【反発結界】なのか!?
片手でも厄介なのに、全身を包まれたらマトモに攻撃なんて通らんだろ…。
「…そぉぉぉぉい!!」
ブースト状態のダッシュで一気に肉薄した湯取の十字架が、横薙ぎにヘルマーへとスイングされる。
「無駄な……なぁっ!!!?」
…無残にも、粉々に砕け散る結界。
勢いを止めない十字架は、その勢いのままヘルマーのオッサンを巻き込んだ。
「ば…馬鹿っ…ぐぅぅぅぅっ!!!?」
バキバキバキッ!っと音を上げて、自慢の左腕…義手型魔道兵装がへし折れる。
…うわぁ…踏みつけられたアルミ缶みたい…。
…そして、十字架は無慈悲に降りぬかれた。
「あ゛あ゛あぁあああぁあああぁぁぁぁ――」
打った!大きい大きい!打球が伸びる…!!
そしてヘルマーはダンジョンの天井へと向かい…。
ズッゴォォォン……!!!
刺さった~!!逆転サヨナラホームラーン!!!
ユトリサーン!!
…死んだかなぁ?
肩まで天井にぶっ刺さって、手足がブラーンって垂れ下がってるんだけど…。
…まぁ、全身改造してるとか言ってたから大丈夫だろ!多分!
「…。」
当の湯取は、何故かその天井を見つめて黙っている。
どうした?まさか何か体に反動でも――
「…き…きっもち良ィィィィィッ!!!何スかコレ最っ高なんスけど!!!」
…なんだ、ただの賢者タイムか。
俺は亀裂を迂回して何とか向こう側に渡った。
そして未だ興奮おさまらぬ様子の湯取に声をかける。
「…いやぁ、それにしたって凄い威力だったな…あの一撃が、固有スキルの【グラビトン】ってヤツなのか?」
「…え、何スかソレ。この武器、スキルも使えるんスか?」
なん…だと…?
…それってさぁ!スキル無しの威力…ってコト!?
そういえば、急いでたんで固有スキルの存在を伝え忘れてたわ…。
…じゃあ、単純な腕力と超重量で、あの【反発結界】をブチ破ったのか、コイツ…。
…いや、もしかすると「スキルでは無く、単純な超質量攻撃」ってのが、あの魔道兵装を打開する正解だったのかもな。
『最高にCOOLなアノマリーを手に入れたわね、良く似合ってるわ。』
声に目をやれば、黒い怪物が四本の腕でサムズアップしている。
…この声、中身はbeeか?
…それにしても、また随分とゴッツい玩具を持ってるんだな…。
【PX-03《カーリストラ(Kālīstra)》】ランク:A
分類:強化外骨格型神話兵装
オルテックス・インダストリーによって設計・開発された“神話兵装”シリーズのプロトタイプ。
四本の腕部ユニット、三つの高次視覚センサーを有し、人間の限界を超える戦闘能力を付与する。
胸部に収められた機関『サンサーラ・コア』を動力源としているが、テスト機体である為エネルギー効率が悪く、エネルギー枯渇時は制御不良をおこすことも。
四本の腕に搭載された【三連砲】、因果を反転する【反発結界】、サンサーラ・コアに起因する【自己再生】など多彩な能力を持つ。
オルテックス社アラバマ研究所より強奪され、現在の所有者は雁木マリー。
…盗品じゃねーか!!
しかもオルテックス・インダストリー製の!!
こんな凶悪な兵器盗みやがって、絶対にお前指名手配されてるっつーの!!
…湯取に、あんまり仲良くしないように言っておこう…。
「あ…beeさん、助けてくれてありがとうございました!本っ当に助かりました!」
そう言って、beeに頭を下げる湯取。
…そういえば、俺が合流した時、湯取の事守ってくれてたな、bee。
…クソッ、なんか口出ししにくいカンジになっちまったな…。
『気にしなくていいのよ。カーリストラのダメージだって勝手に再生するんだし。…お代の【ポーション】だけは頂くけれど。』
【ポーション】目当てじゃねえか!
…でもまぁ、【ポーション】くらいなら別にいいか。
湯取が助けられたのは事実みたいだし、ウチはいくらでも手に入るしな。
「…あの~、コレ飲みかけなんスけど…本当にこれでいいんスか?」
そう言って、湯取が【ポーション】入りのペットボトルを取り出す。
『フフッ…構わないわ。流石に未使用品でよこせなんて無茶は言わないわよ。』
…チラッとこっち見んな湯取っ!
流石に「【ポーション】なら無限に作れますけど?」なんて言えるか!!
beeの乗った【カーリストラ】が、湯取に近付く。
…プシュッー、ガシャン。
開閉音が鳴り、【カーリストラ】の胸元が上にスライドして開く。
『…それじゃ、遠慮なく頂くわね。』
内部から姿を現したbeeが、腕を伸ばして湯取の持った【ポーション】を受け取る。
「……。」
『…あ、忘れるところだったわ。アリババ!ここのアノマリーってどうなったの?』
「ああ、ここの財宝は俺が全部回収した。だから今から奥に行っても無駄足だぞ?」
『…ふ~ん、全部、ね。』
…あ、やべ。
なんか余計な一言だったかもしれん…。
…収納の魔道具持ってるって言ってるようなモンだ、コレ…。
『…まぁ良いわ。今回はコレで手を打ってあげる。じゃあ、またねアリババ、ユトリくん!…そっちのコもね!』
【カーリストラ】の胸元がガシャンと閉まると、背面からブースターのように炎を噴出し、宙へ飛び上がる。
そのまま四本の腕をこちらに振りながら、ホバー移動で去って行った。
「ぶわっ!!砂埃がヤベェッ!!ペッペッ!!…くっそ、あの女…陰湿なことしやがって…!!」
『……彼奴も焼くか?』
「……。」
…?
…蝋人形のように固まったまま、まったく動かない湯取。
「…どうした湯取?あの女に何かされたか?」
「……アリババ先輩…。」
…な、なんだその表情…どんな感情?
「……あかいみ…はじけたッス…。」
…ん?
「…はぁっ!?マジかお前っ!?」
『…何だ?どういう意味だ?』
…beeは【ポーション】だけでなく、大変な物を盗んで行きました。
ウチのメインアタッカーの心です。




