20.ランクS『双蛇の霊廟』⑥
俺が突き出した純白のランスは、ケリュケイオンの腹を見事に貫いた。
…おお、これが魔法武具で攻撃した感触か。
初めて使ったが……重っ!!!
…やっぱ職業適正以外の武器ってのは無理が出るな。
「…どうだい、王様。これならなんとか成仏出来そうかい?」
俺の問いかけに、ケリュケイオンはゆっくりと振り返る。
『…ああ…最高の気分だ。…これでやっと、俺を取り込んだダンジョンに報復が出来た。』
槍の刺さった傷口から、霞のようなモヤが噴き出す。
これは…【神聖】属性の効果か?
ケリュケイオンが言っていた、浄化の力…。
…なんか、気づけば「う〇おととら」の最終話みたいになってる。
…いや俺、この人今日初めて会ったんだが…。
『…もう、大丈夫だ。俺の中の「ダンジョンの意志」が消えていくのを感じる…。』
『全く、面倒なものだな、その「ダンジョンの意志」とやらは。』
アグニの酷い言いぐさにも、微笑で答えるケリュケイオン。
『…お前が言うところの「人の理」で逝けるんだ、嬉しい誤算だった。』
『…我には「人の理」も「ダンジョンの理」も関係無い。「主の理」に従うまでだ。』
そう言ってそっぽを向いてしまう。
「アグニには感謝してるよ。俺の意図にちゃんと気付いてくれたもんな、『時間を稼いでくれ』ってヤツ。」
『…フン。』
『…色々理解できないんだが、そもそもお前は何故生きているんだ?確かに四肢を分断して殺したはずだ。』
「…ああ、細工のタネはコレだよ。」
俺は切り裂かれた服の切れ端の中から、透明のチューブの破片を拾い上げる。
「細長い管にポーションを入れて、全身に巻き付けてあったんだ。攻撃されれば管も一緒に切れて、ポーションが流れ出る。…これで即死じゃ無けりゃ復活できるって寸法よ。」
『即死じゃ無けりゃあって…ただのポーションじゃ、そう簡単にはいかないぞ?普通なら死んでいる。』
「…ウチのポーションは濃度100%の特注品だから。」
『…いや、それは俗に言う【エクストラポーション】だろう?そんなもん持ってたのか…。』
…なんか特濃ポーションは【エクストラポーション】だったらしい。
…あ~、そうか。そりゃ3億するハズだわ…。
『…だが、この槍…聖騎士ディーンの【破邪の聖槍】はどうした?これが入っていた「武具庫」にはどうやって?あそこには盗賊のスキルでも入れないハズじゃあ…。』
「どうやってって…あそこからだけど?」
ケリュケイオンが俺の指差す先を目で追う…そして、驚愕の表情を浮かべた。
『武具庫の扉に…穴が…!?』
「覚えてるか?俺の『切り札』…あの銃で狙ったのはアンタじゃ無い。最初からあの扉を狙ってたんだ。」
俺だってバカじゃ無い。
いくら超強力な武器だからって、魔法武器か神聖属性しか効かない相手に無意味に撃たんわ。
俺が注目したのは、【鑑定】を使った時に現れた説明の中の一文。
「光線に触れた物体は【分子崩壊】を起こし、消滅する」
これを見て俺は思ったワケだ。
「…消滅するんだったら、開かなくても入れるんじゃね?」と。
「…つまり、【シャンカラの瞳】で扉に穴を開け、切られた直後にポーションで復活。アグニが炎の壁で目隠し&拘束、注意を引き付けてくれている間に『武具庫』に侵入。【鑑定】で【神聖】属性の武器を見つけて…今に至る、と。こんなカンジだな。」
『お前…素直に凄いな。よくあの短時間でこんな策を練ったもんだ。』
「まぁ、元からの仕込みもあったからな。…正直、扉が壊せるかは完全に賭けだったんだけどな。」
『…運も実力ってな…見事だ…。』
そう言い終わると、ケリュケイオンから吹き出るモヤが勢いを増した。
「…もう、行くのか?」
『…ああ。おかげでやっと仲間や嫁さんのところに行ける。…武具庫の中身は好きにしてくれ。まぁ量が量だ、持って帰れる分だけになっちまうがな。』
「あ、ご心配無く。俺収納の魔道具持ちなんで。」
『…つくづく反則な野郎だな、お前は…。』
ケリュケイオスの身体が希薄になっていく…。
『…そうだな、ダンジョン攻略報酬とは別に、礼をやろう。…ありがとう。』
『…お前ならいつか…本当の…王に…。』
強烈な光が部屋を照らし、思わず目を瞑ってしまう。
…俺が目を開けた時には、既にケリュケイオスの姿は消え失せていた。
代わりに、ケリュケイオスが居た場所に何か落ちている。
…ドロップアイテム?あ、ボスドロップってヤツか?
アイツが言ってた礼ってコレのことかな…?
…【鑑定】は後回しだ。
俺はソレを拾うと、ポケットに突っ込んだ。
「…さてと、湯取を待たせてるんだ。武具庫の中身を回収して、急いで戻るぞ!」
~ ~ ~ ~
黒い異形の掌から放たれる、青い光線。
三本のラインが宙を走る…さながら三叉槍の様に。
それをオッサンは魔道兵装の左腕で弾く。
…が、息をつく暇もない程に次々と飛来する光線。
そりゃそうだ、だって光線を出す腕が、四本もあるんだから。
『カーリストラの三連砲、いつまで避けられるかしら?』
…おお、煽る煽る。
オッサン、禿げ頭に青筋浮かべてるわwww
…よっしゃ、俺も!
光線の対処に必死なオッサンに、死角から全力のボディーブローをお見舞いする!
ギリギリで気付いたオッサンが…右手で受ける!!
「ぐぅっ…!!…くっ…クソ共がぁっ…!!」
受け止められたけど、アレは効いたな。
オッサン、随分余裕が無くなってきたみたいだ。
…イケる!これ倒せちゃうんじゃね!?
一時はヤバいかもって思ったけど…それもこれも、beeさんが加勢してくれたおかげだ。
【ポーション】一本で雇われてくれるなんて…なんていい人なんだろう。
…あ、なんかコレ、エグい価値があるんだっけ?
…まぁいいや、助けてくれたのは確かなんだし。
よし、ここは攻めるぜ!
beeさんとの挟撃で、アリババ先輩が戻る前にオッサン倒しちゃおう!
beeさんの光線掃射と、俺のラッシュ!
左右から繰り出される嵐のような連撃!
…どうだ!そろそろオッサンも限界――
「…舐めるな屑共がぁぁっ!!!」
うわっ!?オッサンがキレたっ!!
すると、俺のパンチは確かに顔面を捉えた…と思ったのに、【反発】っ!?
まるでトラックで跳ね飛ばされたような衝撃――!!
「うわぁぁぁっ!!」
ヤバいっ…壁に当――
『っと、危ない。』
俺を受け止める黒い腕。
…beeさんマジ優秀っスわぁ~!惚れちゃいそう!
まぁ、まだ顔も見てないんだけど。
…いや、今それどころじゃ無かったわ。
「…beeさん。今俺、左腕以外で弾かれたんスけど…。」
『…あら、どうやらヤブヘビになっちゃったみたいね…。』
目をやると、オッサンの体の周りに球体状のバリアが展開されている…。
「…遊びは終わりだ!速攻でカタをつけてやるっ!!」
『…ということは、逆に「あの状態は長くは持たない」ってコトかしら?』
「!!…ソレ、有り得るぅ~!!」
確かに!アレがずっと使えるなら、最初からやってるハズっスもんね!
…beeさん、マジ勘鋭い!!
じゃあ、あと少しなんとかすれば…!!
「…言っただろう、『速攻』だとっ!!」
!!!
あの状態で大魔法までっ!?
氷柱の群れが…!!!
『…じゃあ、こっちも【反発結界】っと。』
え。
黒い腕が前に出されると、前方を覆うように半球状のバリアが…!!
…バリアに当たった氷柱が、弾かれるように砕けていく…。
「…貴様ぁぁぁっ…!!」
『カーリストラは魔道兵装の研究から生まれた『神話兵装』よ?アナタに出来て、この子に出来ないワケ無いじゃない。』
…beeさん、一々セリフがカッコ良すぎっ!!
主人公っスか!?クールな女主人公なんスか!?
突然、オッサンが声を上げて笑い出した。
「…知っているぞ、墓荒らし。…その【結界】も、そう長くは持たんのだろう!?」
こっちを指差しながら、何かのたまうオッサン。
「beeさん、あのオッサン負け惜しみ言ってますよ。…みっともない、ああはなりたく無いっスねぇ。」
『…残念なお知らせなんだけど、事実なのよ。この子、燃費が悪くって…。』
…えぇ~…。
…マジ?…負け犬の遠吠えじゃ無かったんスか…。
「…beeさん、因みにどれ位持ちそうっスか?」
『そうね……持って5分。…まぁ、アッチが先に音を上げる可能性も残っているけれどね。…大丈夫、最悪カーリストラが盾になるわ。』
5分…長いような、短いような…。
もう!アリババ先輩、早く戻って来て下さいよぅ!!
俺とアグニは、ダンジョン内を全速力で逆走していた。
…正直クタクタだけど、今はそんなこと言ってられない。
「…くそっ、数が多くて【錬金術師の驚異の部屋】に仕舞うのに時間くっちまった…!」
『…欲張って全部持ち帰ろうとするからだ。』
「…俺盗賊よ!?お残しは許しまへんで!!」
…まぁ、正直全部回収しなくても良かったかもしれん。
ちょっと反省している。
……これで湯取が死んでたら、どうしよう。
…。
いかんいかん!悪い方に考えるな、俺!
あれで湯取は魔人だし、ポーションだってある。きっと大丈夫!
ドッゴォォォォン…!!
「!!」
『戦闘音だな。その通路の先だ。』
戦闘音がするってことは、命は無事ってことだよな!?
良かった…!あやうく一生後悔する所だった…!
この角を曲がれば…!!
「!?…なんだ…コレ…!!」
そこに広がっていた光景に、俺は言葉を失った。
…地面は大きく抉れ、大きな亀裂が走っている。
…なんて馬鹿デカい亀裂だ…攻撃の残り火があちこちで燻っている。
…こりゃあ、オッサンの火炎弾の仕業か…
バゴォォォォン…!!
再びの轟音に目をやると、そこには――
怒り狂ったように氷柱を打ち出すグラウス・ヘルマー。
そして、何かを抱えて守るように、その攻撃を背で受ける黒い怪物の姿があった。
なんだあの黒いヤツ!?
湯取は何処に…。
『…有人!あそこだ!!』
アグニが指をさしたのは、黒い怪物…いや、ヤツが抱えているのは…!!
「…湯取っ!!」
「!!アリババ先輩っ!!」
あの怪物、湯取を守ってたのか!?
…くそっ、ここからじゃ足場が…せめて湯取に武器を…!!
『…貸せ、我が行く。』
「アグニ…頼んだっ!!」
俺は【錬金術師の驚異の部屋】から魔道具を取り出し、アグニに投げ渡す。
それを受け取ったアグニが、宙を舞うように飛んでいく…!
「ア…アグニ姐さん!?」
『有人から届け物だ、受け取れ。』
湯取の目の前に着地したアグニが、魔道具を投げ渡す。
「これは…ピアスっすか?」
「湯取っ!ソレに魔力を込めて叫べっ、武器になる!」
「…え~?急に叫べって言われても…何て叫べば良いんスか?」
何微妙な顔してんだよコノヤロウ!!こっちは必死だっつーのに!!
「早くしろっ!別にキーワードは何でも良いからっ!!」
「…今、『何でもいい』って言いました?」
!!
何だアイツ…急に真剣な顔して…。
…!?
ま…まさか…!?
「卍解っ!!!」
やりやがったアイツ!!!




