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18.ランクS『双蛇の霊廟』④

 A.R.K.制圧部隊隊長グラウス・ヘルマーは、財宝やスキルの力をも弾く【反発結界】を使う、異世界人・異星人の天敵…まさに「異能殺し」ともいうべき強敵だった。


 アグニと湯取が二人がかりで相手をしているが、あの結界が厄介すぎる。

 本人は涼しい顔で氷の槍や地を這う電撃、ナパームみたいな火炎弾で反撃してきやがるし…。

 なんとか避け続けているが、明らかにこっちが劣勢。このままじゃあ…。


 戦闘中の湯取が吹っ飛ばされ、俺の横に転がる。

 酷い火傷だ…!急いで高濃度ポーションをぶっ掛けて回復させる。


「…ブハッ!あ…危なかったっス…!」


「無理すんな!いくらポーションがあるからって、死んだら治せないんだからな!」


 …くそっ!戦闘に参加できない自分が歯痒い…!


「…確認なんすけど。財宝までの距離は、あとどれくらいっスか?」


「え?…【盗賊の鼻】のカンジだと、もうすぐソコまで来ているハズだけど…。」


「…なるほど。じゃあ、先に行ってて下さい。…ここは俺が足止めするっス。」


 …はっ?


「足止めってお前…!」


「俺が奴を止めてる間に、アグニ姐さんとサクッと財宝回収してきちゃって下さい。そしたらこんなトコ、さっさとオサラバしちゃいましょう。」


 アグニが火炎閃光を放つが、件の結界がそれを弾く。

 くそっ、巨大機人もバラバラにした、アグニの必殺技だぞアレ!?


「このままじゃジリ貧っス…大丈夫。死なない程度に相手しますし、こっちにはポーションだってあります。アリババ先輩!…俺を信じて行って下さい!!」


 湯取…。


 …こんにゃろう、珍しく真剣なツラしやがって…。


「…分かった…死んだら許さないからな!?超特急で戻るから、ちょっとだけ耐えてくれ!!」


「…よっしゃ!!景気づけの追い【ブースト】っ!!」


 俺の言葉を聞いた湯取は、嬉しそうな顔でハゲ目掛けて飛び出していく。


「…アグニ姐さん!バトンタッチっス!!」

 

『…良かろう。気を抜くなよ、湯取。』


 アグニと入れ替わるように戦線復帰した湯取は、牽制に【魔弾】を三連射、さらにそれを追いかけるように突っ込んで大振りのスイングパンチ!

 魔弾を結界で容易く防いだハゲが、湯取のパンチを魔道兵装の義手で受ける。

 当然【反発結界】で弾かれるが、その勢いのまま回転し顔面へと回し蹴りを叩き込む!

 反射的に右手で受けるハゲ…【結界】が発生しない!?

 受けた右手ごと押し込まれ、体勢が崩れた!え、初めてマトモに入ったんじゃないか、コレ!?


「…なるほど、『左手』で受けるのが条件なんスね。」


「貴様…その力…アノマリーに取り込まれたか。」

 

「言ってる!意味がっ!分かんねぇッスよっ!!」


 魔弾とパンチが連続して叩き込まれる!…上手い!左手で魔弾を対応した隙に、右から鋭いジャブを入れている!


「…くっ…!」


「距離が開くと大魔法が来るっスからね、近距離でチクチクやらしくやらせてもうっスよ!」


 …あれなら、任せて大丈夫そうだ。

 

「アグニ、今のうちに進むぞ!さっさと攻略だ!」


『…癪だが、了解した。』


 俺は【盗賊の鼻】を使用し、もうそこまで迫った財宝の反応がする方向へと走った。





 通路を進むと、行き止まりに大きな扉が見えた。

 …見覚えがある。入口の金属扉と同じ意匠…だが、こっちの扉は真っ白い石材で作られているようだ。


「このまま突っ込むぞ!【解錠】っ!!」


 …ガコォォォン!!


 ロックが外れる音が響くと、扉は地響きをあげながら内側へ開き始める。

 時間が惜しい!俺は扉が開ききるのを待たずに、その隙間へと飛び込んだ。




 扉をくぐった先は、四角くくり抜かれた広間になっていた。

 部屋の床は扉と同じなのか、白い石材のタイル貼り。

 ひび割れ一つ無いそれは、経てきた筈の年月を一切感じさせない。


 部屋の中央に、仰々しい蛇の彫刻が施された石棺が鎮座している。

 …そして、その石棺に腰を掛ける、人型の影。


 俺達が近づくと、影は実体化していくようにその姿を変えていく。

 …白銀の甲冑を来た、大柄な男の姿に。


『…よぉ、よくここまで来たな。ここでこの霊廟は「行き止まり」だ。』


 甲冑の男はそう言いながら立ち上がり、両腕を広げる。

 すると、その左右の手にそれぞれ剣が現れた。

 柄頭…ポンメルが蛇の意匠…。


「まさか…双蛇王…ケリュケイオンなのか?」


 俺の問い掛けに、男は肩をすくめながら応える。


『そりゃあ、俺の墓だからな。…まぁ、死んだ筈の男がなんで存在してるかは…ここまで来たんだ、分かるだろう?』


 …霊廟は、ダンジョン化していた。

 先程あの男は、この部屋を『霊廟の行き止まり』と言った。

 ダンジョンの終わり…それって…。


「あんた…ダンジョンボスになったのか…?」


『ま、そういうことだ。…まさか俺がモンスターになるとは、なんとも皮肉が効いた話だ。』


 そう言うとケリュケイオンは、右手に持った剣先をこちらに向けて続ける。


『…外のことは理解している。急いでるんだろう?…さぁ、とっとと始めようぜ。』


「…戦わないって選択肢は?」


『…俺は既にダンジョンの一部なんだ。ダンジョンの理からは逃れられないのさ、諦めな。』


 どうやら、やるしかないようだな…。

 …仕方ない。


「…悪いが初見殺しだ!【スナッチ】!!」


 俺が叫ぶと同時に、二本の剣が手元に現れる。

 アグニが無言で灼熱の閃光を放つ!

 …それはケリュケイオンの胸を貫き、大きな風穴を開けた。


『おおっ、そりゃあ盗賊のスキルだな?ここまで練度の高いスキル、そうそうお目にかかれねぇ…こっちの嬢ちゃんのは…魔法じゃないな、見当もつかん。』


 …は?

 …ダメージは無いのか?


『…そんな顔すんなよ。どうやら俺はゴースト系のモンスターになっちまったみたいでな。物理が効きづらい体なんだよ。』


 …ゴースト…そりゃダメージが無いわけだ。

 前世の記憶だと、ゴースト系のモンスターには『魔力の籠った攻撃』でなければ効果が薄い。

 アグニの閃光は超強力だが…アグニには『魔力』が無いのだから。


 …つーか、まず最初に【鑑定】を使うべきだったな。

 戦闘慣れしていないと、こういう所でモタつくな…。


【ケリュケイオン(レイスロード)】

 種族:死霊 

 元・ヘリオス王国国王であり、偉大な冒険者。

 墓所ごとダンジョンに取り込まれ、ダンジョンボスとなった。

 死霊化したことにより、生前より弱体化している。

 種族スキル:【霊障】【金縛】【眷属召喚】

 装備スキル:【一閃】【十斬】【百剣】【千脚】【万雷】

 E:白蛇剣ハクミコンジン(ランク:S)

 E:黒蛇剣マンバ(ランク:S)

 E:魔銀の甲冑(ランク:A)


 ふむ…弱体化してるのか…。

 …弱体化しててコレか…?


『…お前等のどっちでもいい、『魔法』は使えないのか?魔法ならこの体にも、ちったあダメージが入るはずなんだが…。』


 …どうも先程から、ケリュケイオン自身には戦う意思が無いように見える。…おそらくダンジョンに取り込まれた影響で、己の意思とは無関係に戦闘を強いられているのだろう。


「…残念だが、二人とも魔法は使えない。」


『そうか…それじゃあ【神聖】属性の魔道具とかは持ってないか?アレなら俺を浄化できる筈だ。』


「【神聖】…いや、駄目だ。そもそもダンジョンに潜る準備なんてしてこなかったからな…。」


 その返答を聞いたケリュケイオンは、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。


『そうか…クソッ、魔法武器や神聖属性の武器なら近くにあるってのに…渡してやれねぇのが残念だ…。』


「…?それ、どうゆうことだ?」


 俺の問いかけに、親指で自らの後方を指し示す。


『…言っても仕方が無いことなんだが…この部屋の先、本当の最後の部屋は「武具庫」なんだ。ダンジョン踏破の報酬部屋だな。「ダンジョンの意志」が、安置されていた俺の武器や、死んだ仲間達が使っていた魔法武具を勝手に報酬にしやがった。…だが、アレ等はあくまで踏破報酬。俺を倒さない限り、武具庫の扉は決して開かない。…たとえ盗賊のスキル【解錠】を使ったとしても、だ。』


 …くそっ、八方塞がりか…。

 何か…何か無いのか!今の状況を打開できる、そんなモンが!

 …スキルでも財宝でもいい、考えろ。

 考えるんだ、俺…!!


『…ぐっ…そっ、そろそろ…時間切れ、みたいだ…。』


 ケリュケイオンが呻き始めると、俺の手の中にあった二本の剣が突然消え失せた。

 …今度は何なんだ!?


『…意識が…飲まれ始めた…。この剣も…俺の一部…。』


 苦しそうなケリュケイオンの手には、いつの間にか二本の剣が戻っていた。

 …持ち主の元に戻る武器か。北欧神話の主神オーディンが持つ槍、グングニルがそんなのだったな。

 まぁ、英雄が持つ武器ともなれば、何が起こっても不思議じゃあ無い。


 …それにしても困った。詰んだかコレ?

 

 …一応、確実じゃないが策はある。

 …あるにはある…んだけど…。

 …ハァ、不確定要素が強くて不安だなぁ…。


 …でも、やるしかないか。


「アグニッ!ケリュケイオンを捕獲してくれ!!」


『…【焔の鎖】!!』


 アグニの放った炎が、ケリュケイオンに絡まるように巻き付いた!

 …アレ【焔の鎖】って技なのな。初めて聞いたわ。


「良いぞアグニ…悪いが、出来るだけ時間を稼いでくれ。」


『…ふん。なるべく急げよ?』

 

 …そんでもって駄目押しだ!

 …高いんだから、頼むから効いてくれよ…!

 俺は掌に握りしめていたソレを、ケリュケイオンに向かって投げつけた。


 …足元に転がった二つの勾玉が、淡く輝きだす。


【封魔の勾玉】ランク:C

 氷翡翠で作られた勾玉。彫られた文様は呪術的な意味が強く、若干の力を宿している。

 宝石としての価値が高いが、美術品的にも価値が高い。


 勾玉から射出された光が、ケリュケイオンを包み込んだ。


『がぁっ!!…良いぞ、効果はある。…だが、長くは持たないぞ。』


 封じられたケリュケイオンご本人からお墨付きがいただけた。

 …マジで売らないでおいて正解だったな、勾玉…。


 …あとはもう、コイツに頼るしかないな。

 

 俺はその場で跪き、プシュパカから預かったアタッシュケースを開く。

 その中に入っていたのは──


【シャンカラの瞳(劣化版)】ランク:A

 恒星間探査船「ヴィマナ」の主砲【シャンカラの瞳】を拳銃サイズで再現しようとした物。

 先端から射出される光線に触れた物体は【分子崩壊】を起こし、消滅する。

 但し、地球の科学では再現不可能な部品が多く、代替品を多く使用している為、

 効力は本来の1/100以下。一度使用すると銃身自体が分子崩壊を起こし、消滅する。


 見た目はまるで大型拳銃…というより、銃身を大きくしたフレアガンのようだ。

 …たった一発、一度使ったら壊れる武器。

 …頼りねぇ…でも今は、コイツに頼る他無ぇんだ。


 信じてるぜ、プシュパカ。

 

 覚悟を決め、銃を構える。

 照準の先には…。


『…そいつが…お前の切り札か…?』


 【焔の鎖】と【封魔の勾玉】に拘束されたケリュケイオンが呟く。


「…ああ。これで駄目なら、もうお手上げだ。」


『…そうか…。』


 辛そうな表情を隠し、僅かにほほ笑むと、まっすぐに俺を見つめる。


『…外すなよ。…やれっ!!』


 ケリュケイオンの声に答えるように、俺は【シャンカラの瞳】の引き金を引いた。


 甲高い発射音とともに、青白い光線が銃口から放たれる。

 それは一瞬で目標に到達し、対象を【分子崩壊】させる。


 …ケリュケイオンの体が、その輪郭が。

 …渦巻き、萎縮し…



 爆ぜた。



「…やった…当たった…!!」



『…。』


『…これは…。』


 霧散したケリュケイオンの体が、まるで逆再生のように復活する。


『…これじゃあ、駄目だ…。』


『…これじゃあ、俺は殺せない…。』


 いつの間にか、ケリュケイオンは俺の眼前。

 …振り上げられた、二対の剣。



 その剣が、俺の体で交差する。

 


『…【十斬】。』



 流れ出た液体が、体を、床を濡らす。


 俺の体は、英雄の剣に、無残に切り刻まれた。

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