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15.ランクS『双蛇の霊廟』①

「ここの遺跡に目をつけるなんて…アナタ、ただの素人じゃ無いわね?…でも残念。ここのお宝はこのアタシが先に目をつけてたの。…良い子だから、大人しく手を引きなさい?」


 黒いキャットスーツに身を包んだ女が、芝居じみたオーバーリアクションでそう言い放った。


 …何だコイツ…

 め…面倒くせぇ…。


 …なんでこんな面倒なことになったんだっけ…。


 …そうだ、ことの発端は──



~ ~ ~ ~



 『鋼の墓標』から13日後。

 俺達は次なる財宝を求め、【財宝検知】にあった半径100㎞圏内最後のランクS、『双蛇の霊廟』を探しに出発した。


 メンバーは俺、湯取、アグニの3名。

 プシュパカは部屋でお留守番だ。

 …本人も言っていたが、非戦闘員だからな。


 だが、実は『餞別』を預かっている。

 ここ最近何か作ってるなぁとは思っていたのだが、俺の為の物だったとは。

 …正直、今度は足でも生やすのかと思ってた。


『マスターは多才なスキルをお持ちですが、攻撃スキルをお持ちでありません。もちろん、攻撃に転用できるスキル…【スナッチ】や【換金】をお持ちですが、それが通用しない場面も出てくるでしょう。…なので、これをお持ちください。「ヴィマナ」に搭載されていた物と比べれば数段…いえ、比べるのもおこがましいような品ですが、これが現状で作れる限界です。…私の予測より科学技術が進んでいて助かりました。』


 そう言って手渡されたのは、小さなアタッシュケース。

 …小さいのに、随分と堅牢な作りだ…ゼロ〇リバートンかな?


 このアタッシュケースも、忘れずにちゃんと持ってきている。

 …これを使うような状況にならないのが、一番ありがたいんだけどなぁ…。



「アリババ先輩、見えてきたっスよ。」


 湯取の言葉で我に返る。

 車の窓の外を見ると…うわぁ…こりゃまた凄ぇ…!

 

 目の前に見える大きな寺院…その屋根より、更に大きな仏像。

 日本の寺院にしては珍しいカラフルな彩色の施されたその像には、首元にひときわ目を引く白い蛇が巻き付いていた。


「すげぇ…なんか海外の…タイかマレーシアにでも来た気分だな。」


「通称『蛇寺』って呼ばれてるそうですよ?見たマンマっスね!」


 『蛇寺』の下に『双蛇の霊廟』

 …え、今回のって寺と繋がってるの?って思ったが、どうも違うらしい。

 あの場所が現在のカラフルな『蛇寺』になったのは、実はごく最近。

 怪しい新興宗教があの土地を買い取り、建てた宗教施設があの蛇寺なんだそうな。


 俺達を乗せた黒のワンボックスカーは、寺院への一本道をグングン進んでいく。

 …そう、今回は湯取父のミニバンでは無いのだ。


 買っちゃった。エヘッ!


 いやさ、毎回毎回湯取家の自家用車を借りるわけにもいかないだろ?

 だから前回の湯取への報酬ってわけじゃないけど、デカい車を買ってやった。


 …プシュパカの散財が発覚した時は、本当どうしようかと思ったわ…。

 この後車買いに行く予定なのに、金足りなかったら俺かっこ悪すぎるだろ…って。

 …まぁ、その後3億とかいう馬鹿な金額が入ってきたワケで…。


 …調子に乗って、新車でオプションマシマシ!…とか思ったんだが、納車に1~2カ月かかると言われて我に返った。危ない、金銭感覚がおかしくなっとる…!


 結局、中古車屋で一番お高いワンボックスカーを購入。

 超特急の三日で納車してくれた中古車屋さんには頭が下がる思いだ。

 

『…待て。……様子がおかしい。』


 後部座席から身を乗り出したアグニが囁く。

 俺の【直感】にも反応有…何だ?


 見れば寺院の駐車場に、随分と物々しい車が止まっている。

 あのデカい車は…ハンヴィーって言ったっけ?

 それに装甲車も…10台近く停まっている。


 寺院の入口は…急造したであろう、金属板で閉鎖されている。

 

『そのまま通り過ぎろ、寺院側を見るな。』


 アグニの言葉に大人しく従い、車は寺院の前を通過する。

 …え、もしかして監視されてるのか?


 しばらく真っ直ぐ走り続け、道端に並ぶ自動販売機の前で車は停まった。


「アリババ先輩、見ました?」


「ああ、軍用車がワンサカ停まってたな。」


「…そっちじゃ無いっス。寺院の中…銃持った、兵隊みたいなのがうろついてましたよ。」


 …はぁっ!?銃!?

 ここ日本だぞ!?


『建物の影から視線を感じた。あのまま近づいていたら…恐らく拘束しようとしただろうな。』


 アグニの言葉に背筋がゾッとする。

 一体全体なんなんだよ!ここで何がおこってるんだ!?


「…分かった、とりあえず暗くなるまでここで待とう。俺が【常闇の外套】を着て偵察してくる。」


「先輩…危ないっスよ?」


「あくまで偵察だけだ。…俺は『盗賊』だぜ?こういうのは得意分野だっつーの。」


『…ふむ、面白そうだな。我も一緒に連れて行け。』


 連れて行けってアグニ…お前連れてったら意味ないじゃん。

 折角暗闇に紛れようってのに、お前ったら夜でもピカピカ明るいんだから…。


『…これならば問題あるまい。』


 言い終わるとアグニの姿が消え失せ、俺の目の前に赤い勾玉が現れる。

 …なんか見覚えが…あ、アグニを最初に見つけた時の…。


『この姿なら、貴様の衣服の内に潜めるので問題あるまい?』


 勾玉からアグニの声がする。

 お前…自分でその姿に戻れるのね。知らんかった。



~ ~ ~ ~



 時刻は21時。辺りはすっかり闇に包まれ…と言いたいところだが、そうでも無かった。

 寺院内部には仮設のLEDバルーン照明が設置され、昼間のように明るい。

 …マジかよ、ここまでするとは思わなかった。

 照明付近には哨戒の為、アサルトライフルらしき物を抱えた重装備の歩兵が警戒している。


 …とわいえ、警備に穴が無いワケじゃ無い。

 いや、正確には穴というほどのものじゃ無いんだが、俺は【常闇の外套】を着ている。

 ちょっとした暗がりの闇が、俺の姿を阻害してくれる。


(【罠感知】…良し、【危険察知】…良し。【盗賊の鼻】…あっちか。)


 できるだけ哨戒歩兵の死角になるよう、暗がりから暗がりへと移動していく。

 

 寺院の内部は…中々にエキセントリックだった。

 カラフルな五重塔、壁から突き出た巨大なコブラの頭。

 黄金に輝く仏像…仏進行方向像?これ仏様か?…お前の様な仏様、俺は知らんぞ。

 少なくとも俺の知る仏様は、全裸で蛇など纏っていない…!


 そんな奇怪遺産の数々を横目に、俺は財宝の反応が濃い方向へと歩みを進める。


 …ん?あれは…?


 進行方向に、一際明るく照らされている場所が見える。


 なんだこりゃ…露天掘りでもしてるのか?

 何台もの重機が持ち込まれ、地表がまるで段々畑のように掘り返されている。

 その中心に…寺院の入口と同様に、急造したと思われる高さ10m程の鉄壁に囲われた…二体の、白い蛇の像?

 頭しか見えないが…壁が邪魔で、ここからだと良く見えんな…。


 辺りを見回すと、少し離れた場所に照明が無い建物が見えた。

 あの建物の上からなら…。

 俺は再び、闇に紛れて移動を始めた。




 先程見えた建物…レンガ調の四階建ての建設物は、どうやら使われていない様子だった。

 さっきの鉄壁周辺に、大型のテントが幾つかあったからな。他の兵隊はあの中で待機しているんだろう。

 流石に建物内部を通るわけにもいかず、レンガの壁をよじ登る。

 …前世の記憶を取り戻してから、結構こんな無茶ができるようになった。

 職業:盗賊サマサマだな。


「…ああ…そうか。つまりあれが『双蛇の霊廟』の入口なのか。」


 建物の屋上に身を隠し、見下ろした鉄壁の向こう…。

 そこに見えたのは、二体の白い蛇の像…では無く、二つの首を持つ蛇の像だった。

 『双蛇』…そうだ、あそこが『霊廟』の入口…。

 …決してジョークでは無い。違う、そうじゃ無い。


(有人…誰か来るぞ。)


 胸のポケットからアグニの声が聞こえた。

 俺は物音をたてないように息を殺し、その場でジッとする。


「…そこ。誰かいるわね?姿は見えないけれど…無駄よ、出てきなさい。」


 囁くような声が聞こえた。

 …はぁっ?

 俺、今【常闇の外套】着てるんですが?

 …なんでバレたんだ?


「…姿は見えないけれど、サーマルビジョン…熱検知で丸見えよ。早く姿を現しなさい。」


 …そんなもん持ってるのかよ…それは予想外だった。

 …仕方ない。

 俺は【常闇の外套】のフードを外し、顔を出した。


「…すごいわね、そのコートの性能かしら?…そのままこっちを向きなさい。音はたてないで。」


 胸ポケットから(焼き殺すか?)と声がする。

 俺は返事は返さず、その場で振り返る。


「…思ってたより若いのね。…知らない顔…その年でここの警戒網を抜けてくるか。」


 振り返った視線の先、そこに居たのは、黒いキャットスーツに身を包んだ女だった。

 顔はゴーグル…サーマルビジョンってヤツでよく見えない。

 髪は黒髪のボブカット、前髪に一部黄色のメッシュが入っている。

 …なんだコイツ?…装備を見るに、奴等の仲間ってわけじゃなさそうだ。

 …つーか…う~ん…


「ここの遺跡に目をつけるなんて…アナタ、ただの素人じゃ無いわね?…でも残念。ここのお宝はこのアタシが先に目をつけてたの。…良い子だから、大人しく手を引きなさい?」


 う~ん…何と言うかこの…上から目線の喋り方…。

 

「アナタが何処の誰だかは知らないけれど…アタシの事は知っているでしょう?…『bee』と言えば、分るかしら…?」


 そう言いながら、着けていたゴーグルをずらして目元を見せる。

 …いや、必要無いならわざわざ顔を晒さない方がいいんじゃないか?

 聞いてもいないのに名乗りやがるし…この状況でどんだけ喋るんだ。

 …コイツ、多分アレだ。


 俺が苦手なタイプの女。

 自分の世界観に酔ってる、サブカルクソ女臭がする…。


 …ダメだコイツ…め…面倒くせぇ…。


 あ、この距離なら【鑑定】イケるな。

 …【鑑定】!


雁木(がんぎ) マリー】25歳

 職業:トレジャーハンター レベル:11

 自称:beeビー 蔑称:墓荒らし

 職業スキル:【直感】【幸運】

 E:アサシンスーツ(ランク:C)

   サーマルビジョン


(つう)っ…!!」


 俺は思わず顔を伏せた。



 bee…いや、墓荒らしって呼ばれてるじゃねーかコイツ…www

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