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14.ランクA『鋼の墓標』リザルト

 戦闘が終わり、灼熱の爆風が収まった後に残ったのは、焼け焦げた金属の残骸と、微かに軋む音だけだった。


「…ふぅ。なんとか終わったっスね。」


 湯取がポーションをあおり、肩を回しながらぼやく。


「そういえば、アリババ先輩聞いてくださいよ。…なんか体が軽いんス。」


「…ポーション飲みすぎたか?ちょっと待て、【鑑定】してみる。」


 俺は湯取に【鑑定】を使い、状態を確認する。


 【湯取(ゆとり) (あきら)

 魔人:0歳 レベル:7(+6)

 一星大学 商学部 経営学科所属 3年生

 生まれたての魔人。絶賛成長期。

 種族スキル:【ブースト】【魔弾】

 E:魔人の腕輪(ランク:A)


「…レベル上がってんじゃねーか!しかも新スキルまで生えてる。」


「マジっスか!?やったー!!どんな!?どんなスキルなんスか!?」


 え~と、【魔弾】を【鑑定】っと。


【魔弾】

 魔力を圧縮し、弾丸として放つ。

 威力は通常時の全力パンチ相当。


「…おお、結構良いスキルっぽいぞ。魔力の弾丸を飛ばすみたいだな。…威力はブースト無しの攻撃力に依存するみたいだから、強くなれば強くなるほど威力も上がる系のスキルだ。」


「魔力の弾丸!…カッケー!!これはテンション上がるっスわ!!」


 湯取がぴょんぴょん飛び跳ねながら喜んでいる。

 …この世界でもレベルって上がるんだな。経験値が存在する?

 まあ、強くなるのはいいことだ。


 そんな中、プシュパカが唐突に語り始めた。


『…恒星間探査船「ヴィマナ」は、異星文明により製造された恒星間探査船です。

 本来の任務は、未開惑星に降下して文明発展を記録・観測し、必要に応じて介入することでした。

 しかし、調査終了後…どうやら私は、解体され、この地に廃棄されたようです。』


 プシュパカの独白に、俺たちは黙って聞き入っていた…のだが。

 …どうも湯取は、疑問をすぐ口に出すタチのようだ。


「…それにしたって、ここにある大量の廃列車はどうやって集めたんスか?廃列車とはいえ、これだけの量が無くなればニュースになっててもおかしくないっスよ?」


『…この空間にある廃列車は、私が保有する

 〈現地文明の過去の状態を復元・観測するための機能〉「空間メモリ復元機能」により、

 廃線レールに残された文明の記憶から再構築したものです。

 …大量のエネルギーと資源を必要としましたが、そこは地中に眠る鉱物資源と

 熱エネルギーを拝借致しました。』


 なるほど…なんかよく分からんが、プシュパカが凄いってことだけは理解できた。


 「でもさ、別の場所でその…「空間メモリ復元機能」ってのを使えば、もっと科学技術の進んだ機械を資材として集められたんじゃないっスか?」


 湯取が素朴な疑問をぶつけると、プシュパカは即答した。


『その案は議題に上がりましたが、原住民に発見される可能性を考慮し、却下しました。

 …その時点での私の戦力では、戦闘発生時、敗北確率が35%と算出されました。』


「35%ってお前…6~7割は勝つ気だったのかよ…。」


 湯取と顔を見合わせて、乾いた笑いが漏れた。


 …あ、そうだ。

 ふと思い出して、俺はアグニに声をかける。


「…なあ、アグニ。そういえばさっき、俺のこと『有人』って呼んだか?」


『…知らん。』


 真顔で顔をそらされる。

 こっ恥ずかしいのか…いや、違うな。

 こいつ、多分フラストレーションが溜まり過ぎて変なテンションだったんだ…。


 そんなやりとりをよそに、プシュパカが再び告げた。


『現在この空間は、異なる次元に存在しています。

 私はマスターの所有物となり、ここを去る為、空間の入口を封鎖します。

 ——ここにあるもので、入用の物があれば何でもお持ち帰りください。』


「何でも……か。」


 周囲に散らばる機人の残骸を見やる。


 バラバラになった機人ドヴァーラパーラを【錬金術師(アルケミスト)驚異の部屋(ヴンダーカンマー)】に格納しようと試みたが、入れることが出来なかった。

 よくよく【鑑定】を見れば、コイツら機人には『財宝ランク』が付与されていなかった。

 …なんでだろう?現地の材料で作られたのが原因か?


 …仕方なく、俺は【換金】スキルを発動する。



 カンキンっ♪



 次の瞬間、機人ドヴァーラパーラの残骸はその場から消え去り、俺の口座にはおよそ600万円の入金が追加された。


「悪くない…いや、かなり儲かったな。」


 これなら、他の機人達も換金してしまおうか? 

 …そんな考えが頭をよぎったが、少し悩んでから考えを改める。


 …プシュパカは、この空間の入口を()()()()と言っていた。

 後のことを考えれば、全て壊すか換金で消してしまった方が良いだろう。

 …だけど封鎖して、入用の物だけ持ち帰れと。


 …多分だが、これはプシュパカの親心だろう。

 壊され、廃棄され…そんな自分と同じ道を、自らが創造した機人達に歩ませたく無かったんじゃないだろうか?


 あの機人たちはこの閉ざされた空間で、与えられた「絶えず自己改良を続けよ」という命令を、誰に見られることもなく、果てしなく守り続けるんだろう——。



~ ~ ~ ~



 「鋼の墓標」から戻ってきて1週間がたった。

 湯取は今回の探索で本格的にトレジャーハンター業に力を入れるということで、バイトは辞め、大学は「休学」することにした。(俺が退学を勧めなかった為、休学となった。)


 そして、連れ帰ったプシュパカはというと…現在、コアの両端に増設された細いロボットアームをせわしなく動かしながら、何かを作っていた。


 こっちに戻ってからすぐに「現在の文明成熟度合いが知りたい」とか言い出したので、部屋にあったノートパソコンの使用許可を出したら、三日三晩寝ずに(寝ないけど)ネットサーフィンを続け、今度は「資材購入の許可が欲しい」と言ってきた。プシュパカには600万弱ほど稼がせて貰っているので、「あんまり高額でなければいいぞ」と言っておいた。

 で、次の日にはアマゾンから小箱がポコポコと届き、翌朝には現在の姿…ロボットアーム付きになっていた。


 …あ、「元々のコアだけの姿で、どうやってネットサーフィンなんてするんだよ!」って俺も思ったけど、コイツ軽いものなら「念動力」で動かせるらしい。…そりゃそうか。何も動かせないなら、そもそも「鋼の墓標」が機人で溢れかえっていない。


 …そんでもって、腕が生えてからずっとまた何かを作っている訳だが…。


「…プシュパカ、俺は確かに『高額でなければ資材購入していい』と言ったけど、ちょっと買いすぎじゃないか?一つ一つは大したサイズじゃないけど…結構な量だぞ。」


 ガランとしていた部屋は一転して、ニヤケ顔がプリントされた段ボールで埋め尽くされている。

 足の踏み場もない…って程じゃないが、部屋の大部分がプシュパカに占拠されている状態だ。


『これはこれは、気が至りませんで申し訳ございません。現在の作業が終了致しましたら、一度部屋を片付けますので。…しかしマスター、貴方程の方が住むにしては、いささか部屋が釣り合っていないのでは?もっと広い拠点への引っ越しを提案致します。』


「引っ越しねぇ…それにしたって物件から探さなきゃならんし、何より先立つものだって必要になるしなぁ…。」


 そりゃあ財宝の換金でソコソコの大金は稼がせてもらっているが、どうせ引っ越すなら次は戸建ての拠点とかも視野に入ってくる。財宝の一部は【錬金術師(アルケミスト)驚異の部屋(ヴンダーカンマー)】じゃなくて、部屋に飾っておくのも悪くないと考えている。


 そうなるとソコソコ広いスペースが必要になる訳で…俺みたいな人間がローンなんて組めると思うか?

「ご職業は?」「盗賊です。」の時点で信用もへったくれもない。


 となれば一括、現金払い。

 何をするにも金が必要だ…はぁ、嫌だ嫌だ。


「…そういえば、プシュパカ。お前、資材買うのにいくらくらい使ったんだ?」


『今日までの合計支出は総額351万600円です。』


「さっ…!!!」


 さんびゃく…ごじゅう…


 こいつ…!!やりやがった…!!


「…俺は買い物していいとは言ったが、あくまで『高額でなければ』の約束の筈だが…?」


『…アドレナリンを感知。…怒っていらっしゃるのですか?マスター程の方からすれば、この程度の額は大した金額ではない筈では?』


 …アカンこいつ、金銭感覚が狂っとる。


「あのなぁ…確かに財宝は高く売れるが、俺はまだまだトレジャーハンターになったばっかりなの!そんな散財してたら、いつまでたっても広い家に引っ越しなんて出来ないんだからな!」


『貴様、提案がある。こんなポンコツ捨ててしまおう。』


 耐火手袋を着けて器用に雑誌を読んでいたアグニが口を挟む。

 …なんかコイツ、プシュパカ嫌ってるみたいで、何かある度「捨てよう」とか「叩き壊そう」とか言ってくるんだよなぁ…。

 同じ創造主製なんだから、もっと仲良くすりゃいいのに…。


『…ふむ…まさかとは思いますが、資金難だと?…マスター、失礼ですが本気ですか?』


「…悪かったな、稼ぎの少ないマスターで。」


『…壊すか?』


 一々物騒なんだよアグニは…お前は黙って雑誌を読んでてくれ…。

 …よく見りゃ何だその雑誌?『機械技術2月号』…どこにあったの?

 …え、盗んでないよね?


『そういった意味での発言ではございません。不快に思われたのなら謝罪します。…マスター、具申いたしますが、何故ポーションを販売しないのですか?』


「…え。」


『マスターからお借りしている【ポーション製造機】は、自動でポーションを製造いたします。魔力という概念は未だ研究中ですが…おそらく大気中や生物の体内にある未発見のエネルギーのようなものかと思われます。…となれば、この製造機は無限にポーションを製造し続ける…まさに金の成る木です。』


 …は?


 …あ〜、そうか…その考えは無かったわ。

 そういえば先日、プシュパカから「ポーション製造機を貸して欲しい」って言われて貸してたわ。

 絶対分解しないことを条件に貸したんだが、なんか色々調べてくれてたらしい。


 …そうか…。


「…具体的に、どれくらい生産できるもんなんだ?」


『それはポーションの濃度にもよります。今回の調査で製造機のノズル部分にあるダイアルを操作することで濃度調節する機能を発見致しました。200mlでの試験結果、最も薄い濃度10%でも骨折の完治、濃度100%で死亡状態以外からの完全復活を確認しております。内蔵されている魔力のバッテリー機能と思われる装置のエネルギー増減から算出いたしますと、濃度10%で200ml瓶約600本、濃度100%で20本が生産可能です。…単純計算だと60本出来る筈なのですが、原因は調査中です。』


 そう言って、俺の前に2本の瓶を置くプシュパカ。

 ラベルにはそれぞれ『10%』『100%』と書かれている。


「…コレもらうぞ?…【換金】。」


 カンキンっ♪


 『入金/カンキン +100,000円』


 …10%のでも1本10万…だと…!?

 そっ…それじゃあ100%のは一体…?


 カンキンっ♪


『入金/カンキン +300,000,000円』




 ( д) ゜ ゜




「…3億…。」


『命の代金と考えればそれでも安いでしょう。また、マスターのスキル【換金】を使用せず、匿名性の高い販売サイトを制作しオークションを行う方法もございます。その場合の値段は正に『天井知らず』です。』


 …。


「…すまん、ちょっと理解が追いつかん。…とりあえずプシュパカ判断で、適当に生産だけしておいてもらえるか?…どうするかは後で考える。」


『かしこまりました。…補足ですが、魔力バッテリーは地球時間の約120時間…5日で再充填される計算です。…これだけの効率でポーションを製造できるとなると、極端に言えば「遊んで暮らせます」…。』


 …プシュパカの言わんとするところは、理解できる。

 …だが…。


「…いや、すまんがトレジャーハンターは続けるよ。…これは…前世の俺が叶えられなかった『夢』だからな。それに、プシュパカだって俺がトレジャーハンターを辞めたら困るだろう?」


『…確かに、異星由来の財宝を提供していただくお約束でしたね。…よろしいのですよ?今の私にとって、マスターは馬場有人様です。過去の約束など反故にされても──』


「…いや、違うんだよ。」


『?』


「…俺が、欲しいんだよ。異星人の宇宙船。…これはさ、いくら金があっても手に入らないだろう?」


『…なるほど、それならば仕方がありませんね。私も可能な限り探索のサポートをさせていただきます。とは言え、見ての通りあまり現場向きではございませんので、あくまで裏方としてとなりますが。』


「…それで充分だ。よろしく頼むよ。」


『もったいなきお言葉です。…現場でのサポートは、そちらの小娘に任せましょう…不本意ながら。』


『…おい貴様、やっぱりコイツぶっ壊そう。今壊そう。』


「面倒だから喧嘩は止めてくれ…。」


 と、その時。俺のスマホに着信が。

 画面を見れば『湯取』の名前が…やべ、忘れてた。

 買い物に行く約束してたんだった。


「…ちょっと出かけてくるけど、絶対に喧嘩すんなよ?」


『そのポンコツの出方次第だな。』


『おお怖い。…新型には精神安定装置はついていないのですか?』


「…No War!!(戦争反対!!)」



~ ~ ~ ~



『…アグニさん。』


『話しかけるな。』


『…何故、マスターに伝えないのですか?』




『…ふん。…まだ確証が無い。』


『私の計算でも、確定率は23%です。…それでも、可能性があるのならお伝えしたほうが──』


『貴様が考えているより、この星の人類というのは精神が弱い。…余計なことはするな。』


『…。』




『…時期が来たら、我が伝える。』


────────────────


今回入手したもの

■プシュパカ(恒星間探査船『ヴィマナ』のAI)

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