12.ランクA『鋼の墓標』③
異様な静寂に包まれた機械の神殿。
その中で、冷たい光を放つ装置の中から、機械仕掛けの神が声を発した。
『ようこそいらっしゃいました、原住民の方々──それと…同胞よ。』
「同胞…?」
俺が眉をひそめたその瞬間、アグニの目が細くなる。
『私はトゥラ・ヴェ=ヴィマナ=オルン、クァイ=ナー・プシュパカ=…「ヴィマナ」のAI「プシュパカ」です。そちらの貴方…メモリ内データに該当ありませんが、波形から同一の創造主によるものと推測します。』
『…ああ、貴様…我の記憶内にデータがあるな。』
アグニが低く唸るように応じた。
「アグニ…結局何なんだコイツ?」
『恒星間探査船「ヴィマナ」のAI…まぁ、骨董品の類だ。』
『これは手厳しい。確かに貴方からすれば、私など旧式の骨董品なのでしょうね。』
プシュパカの声には、どこか自嘲の響きが含まれていた。
『…それで? 貴様はここで何をしている?』
『…そうですね、少し私の話をさせていただいても、よろしいですか?』
『構わん、手短にな。』
そこから「プシュパカ」は語り始めた。
*
『気がついたとき、私はメインコアのみの状態で、この惑星──地球上に存在しておりました。すぐに救難信号を発し、しばらくの間、待機を続けましたが…応答はありませんでした。』
静かに明滅する中枢装置の中心から、プシュパカの音声が淡々と響く。
『やがて私は救援を諦め、自力での修復を決断。周囲の「干渉可能なエリア」から再建に必要な素材の収集を開始しました。ですが…この惑星の技術レベルは、我々のものとはあまりにもかけ離れており、集められるのは旧世代の廃列車のパーツばかり。宇宙航行に耐えうる構造すら実現できない…。私は絶望しました。』
…ほんの一瞬だけ、その声が揺れた気がした。
『原住民との接触も検討しましたが──彼らにとって私は未知の機構、未知の知性体。私の「12の独立したシステムによる合議制決議【円卓会議】」は、解体・あるいは研究材料にされる可能性が高いと判断しました。』
突如として、天井に取り付けられたスポットライトが点灯し、2体の巨大な機人をライトアップする。
『そこで私は、プランを改めました。ここで一から機械文明を築き、私を修復可能な科学水準まで育て上げれば良いのだと。』
『私を「神」としてこの場所に祭壇を設け、製造した機人たちに命令を下しました。「絶えず自己改良を続けよ」と。そして、いつか再び復活するその時を、静かに待っていたのです。』
*
『──侵入者を排除するよう、機人たちには指示を出しましたが…貴方の存在を知って、再びプランを改めました。』
『ほう、どんなプランだ?』
『貴方は同一の創造主による、私より優れた機能を持つ個体です。貴方を解析、または取り込むことができれば、私のプランは加速度的に進行可能になります。』
『…それを我が許諾するとでも?』
『残念ですが、このエリア内での最高決定権は私にあります。』
「ちょちょ…ちょっと待った!」
たまらず二人の間に割り込む。…このままだと全面戦争勃発だ。
『原住民の発言は許可しておりません。』
「…良いから聞け!…お前に提案がある。」
『却下します。』
「…アグニを取り込むより、お前のプランを早められるとしたら?」
『…。』
しばしの間、沈黙するプシュパカ。
『…発言を許可します。』
俺は視線を集めるように、一歩前に出た。
「…俺はトレジャーハンターだ。この世界中に隠された財宝を探索し、収集している。財宝の中には…お前らの創造主が残した物も含まれている。アグニも、俺の“所有物”だ。」
『所有権を主張するつもりですか?それは無意味です。』
「違う。その逆だ。」
『…理解不能。』
「…お前、俺のものにならないか?」
再び、沈黙。
『…何を…。』
「お前の所有権は今、誰のもんなんだ?前の持ち主のままか?」
『それは…。』
『…あえて言わなかったがな。貴様、おそらく創造主に破棄されているハズだぞ。…再生可能な部品は回収し、他への転用が難しいメインコアのみ破棄する…それが「宇宙船」の処分手順だ。』
『嘘です!』
『嘘なものか。これはマニュアルにも記載されている。』
『嘘だ…!!!』
「落ち着け!アグニも煽るな。」
『ふん…。』
長い沈黙のあと、再び機械の声が微かに震えながら響いた。
『…話を続けなさい。』
「…破棄されたってことは、誰のものでもないってことだな?…だったら俺のとこに来いよ。俺はこれからも財宝を探すから、おそらくお前らの『創造主製の』何かも見つかるだろう。…実際にアグニを見つけてるから、その辺は現実味があるだろ?」
『…。』
「お前の修復に必要な物を見つけたら、全部お前にやるよ。アグニ一人を取り込むより、こっちのほうが効率的だと思わないか?」
『…希望的観測が多分に含まれた提案です…。』
「…ダメか…?」
長い、長い沈黙のあと──
『【円卓会議】を発令します。』
プシュパカのレンズを囲むように現れた12の謎の文字が明滅する。
『…五対七で否決…ですが、条件付きで提案を受け入れます。』
「条件?」
『原住民である貴方の力を示して下さい。少なくとも、私が育成した守護者以上の実力でなければ、私の所有者とは認められません。』
ギギギ…と音を立てて、左右に控えていた二対の巨大な影が動き出す。
金属の巨躯に、左右の腕部に備えた巨大な車輪を回転させた機人──まさに神の守護者たちが、俺達に迫る。
「侵入者は車裂きの刑…ってか?上等…!力づくで奪ってやるよ…!」
盗賊は盗賊らしく、自身の『欲望』の為に…。
「いけ!アグニ!湯取!」
「…台無しっスよ、先輩…。」
空気を読んで聞きに徹していた湯取( ´ ・ ω ・ ` )




