10.ランクA『鋼の墓標』①
「…つまり、アグニ姐さんは宇宙人の残したロボットみたいなモノで、今はアリババ先輩を仮の主と認識してる、ってことっスか?」
「ザックリ言えば、そういうことになるな。信じるかどうかは自由だけどな。」
「…いや、ここまできたら信じる以外無いっスよ…てか、自分の身に起きたコトを考えれば。」
湯取がコーヒーをすすりながら、小さく頷く。
「で、あの『スキル』ってヤツ。自分の【ブースト】みたいなのが、まだ他にもあるってことっスよね?」
「ああ。俺の場合は【スナッチ】【財宝検知】【侵入】【解錠】、あと【盗賊の鼻】【直感】【罠感知】【危険察知】…まだまだあるんだが、残念なことに攻撃スキルは持って無い。」
「いや、マジモンのバケモンじゃないスか先輩…チート乙。…スキル一個で喜んでた自分が恥ずかしいんスけど…。」
「まぁ、俺は前世で盗賊の職業レベルを99まで上げてたからな。」
「…ところで、【スナッチ】って何スか?他のスキルはなんとなく名前から想像がつくんですけど…。」
「ああ、それは盗賊の初期スキルだ。要は『盗む』スキルだな。…こんな風に。」
俺は手に持ったスマホを見せる。
「…!?俺のスマホ!?ポケットに入れてたのに…流石、盗賊のスキルっスね…。」
ため息をつく湯取にスマホを返却し、俺は自分のスマホを掲げる。
「…んで、次の目的地なんだが…行ってみたい場所がある。名前は『鋼の墓標』。ランクAの財宝が眠ってるらしい。」
「また物騒な名前っすね…場所は?」
「〇〇県の辺鄙な山奥。旧鉄道の廃線跡だ。一部の鉄道ファンや廃墟マニア間では秘境の絶景スポットって人気になってるらしい。」
ちょっと検索しただけで現地の情報やら廃墟マニアのブログやら出るわ出るわ…こんだけ行ってる人がいるのに財宝が見つかっていないってことは、かなり巧妙に隠されているのか…?
…そもそも、廃線跡に眠る財宝って何だ?…ダメだ、全然想像がつかない…。
「とりあえず明日は準備と休息にあてて、明後日の朝から行ってみようと思ってるんだけど…湯取はどうする?バイトのシフトとか、急には調整効かないだろ?」
「ああ、それなら大丈夫っスよ。俺、最近シフト減らしてて。近いうちに辞めるつもりだって伝えてあるんで。」
「え、そうなん?なんでまた?」
「…まぁ、シフト減らしてたのは単純に大学の都合だったんスけど。辞めるって話は、ぶっちゃけアリババ先輩が辞めちゃったからっスね。…つまらなくなるんで、どこか別のバイトでも探そうかと思ってました。」
そう言って、気恥ずかし気に鼻先を掻く湯取。
お前…。
「…アレか、実は美少女でしたってオチか…?」
「いや、昨日ポコ〇ン見たでしょう。…そんなカンジなんで、日程の方は大丈夫っスよ。これから本格的にトレジャーハンターとしてやっていくなら、大学の方も考えるっス。」
「…今3年だろう?俺は卒業しといた方がいいと思うけど。」
「…まぁ、両立不可だったらまた考えますよ。」
とまあこんなカンジで、この日はお開きとなった。
翌日は予定通り休息と準備にあてた。
荷物の整理をしていて気づいたのが、【錬金術師の驚異の部屋】の思わぬ弱点だった。
手に入れた時はなんでもかんでも詰め込めて便利そうとか思っていたのだが、この本、財宝以外が入れられないことが今更発覚した。
手荷物は入らず、【鑑定】で財宝ランクが表示される物なら入る。「驚異の部屋」って検索してみたら、大昔の貴族や学者のコレクション部屋のことらしいから、そんな縛りがあるのだろう。
畜生、手ぶらで楽できると思ってたのに…。
…白ワニ、財宝ランク付いてたんだな。…珍獣だから?
翌日、俺たちは山奥の舗装されていない林道を、車で進んでいた。
…この車、湯取家所有のミニバンである。
主に父親が運転しているらしいのだが、平日は電車通勤なので使っていないらしい。
一応、使用許可は取ったらしいが、二つ返事でOKだったとのこと。
ありがとう湯取父!…働くお父さんにはホント、頭が下がります。
運転は湯取、俺は助手席で【財宝検知】を使用した地図アプリを見ながらナビをしていたのだが、道中何の気なしに車載ナビに【財宝検知】をしたところ…
『400m先、分岐を右方向です。』
なんか普通に使えてしまった。
よく考えれば【財宝検知】は地図に対して使用するスキルなので、使用できてもおかしくはないのか?
まぁ便利になったことに文句は無いが…ちょっと【財宝検知】が適応力高杉でな…。
『貴様のスキルが「ちーと」なのは、今に始まったことではあるまい。考えるだけ無駄というものだ。』
チートの権化であるアグニにチート認定されたでござる…。
「道がかなり細くなってきたっスね…」
「もうちょい進んだら停車して、そこからは歩きになるみたいだ。20分くらい真っ直ぐ歩けば到着だな。目印になるのは古いレールと枕木だと。」
辺りは木々が鬱蒼と生い茂り、昼間だというのに薄暗くなってきた。
しばらく進んだところで若干道が広くなっていたので、車を路肩に停車した。
…さて、ここからは歩きか。
ひたすら真っ直ぐ歩き続けると、左右を山に挟まれた谷合に出た。
足元を観察すれば、錆びついたレールが草に覆われながらもかろうじて続いている。
「おお、これこれ!ここが件の廃線跡みたいだな。」
「これはなかなか…雰囲気があるっスね…。」
静かな山間に真っ直ぐ続く一本道、ゆるい勾配を描きながら伸びる錆びたレールは幻想的でもあり、どこかノスタルジックな気持ちにさせられる。
『ふむ…目的地は更に山奥か。』
「…みたいだな。よし、行くか。」
レールを辿りながら、俺たちは更に山奥へと歩みを進める。
段々と左右の山が近くなり、道幅が狭くなってきたところで…。
俺達の目の前に現れたのは、封鎖されたトンネルの入り口だった。
何かの一部だったのか、朽ち果てたコンクリートの柱が左右に並んでいる。
…さながら、古代神殿の入口のようだ。
その入口は厚い鉄の扉で固く閉ざされ、錆にまみれた「立入禁止」の看板がぶら下がっている。
「おおおっ!なんかカッコイイっスよコレ!…でも見るからにヤバそう…。」
「…うん、この中に【財宝検知】が反応してる。ここが入口だな。」
錆びた扉はかなり大きく、そこに取り付けられた鎖と錠前も赤錆だらけだな。
「【解錠】で開けてもいいけど、これなら隙間から行けそうだ。湯取ちょっとこっち来い…よし、行くぞ【侵入】!」
念じながらスキル名を唱えると、視界が一瞬ぐにゃっと歪み…気がつけば薄暗い空間にいた。
錆びた扉の隙間から漏れ入る僅かな光だけが、トンネル内を照らしていた。
「…すっげぇ…。本当、マジックみたいっすね…。」
湯取がつぶやいていると、暗闇が熱を伴いながら明るくなる。
渦巻きながら現れた炎が、アグニへと姿を変えた。
『…貴様の【侵入】…相変わらず気色の悪いスキルだな。』
「いや、お前も大概だからな。…行くぞ、気を引き締めてな。」
そう言って、トンネルの奥へと足を数歩踏み入れた瞬間――
世界が、ねじれた。
そこにあった筈のトンネル内の景色は一変し、目の前には…。
無数の廃列車が並んだ、異様な空間が広がっていた。
壁のように積み上げられた、錆びついた車両。
塔のように地面から突き出た機関車。
…まさにここは、列車の墓場だった。
「…なん…なんスか、これ…。」
湯取が呆然とつぶやく。
俺も言葉を失っていた。
…これは、ただの廃線跡じゃない。
おそらく空間そのものが、別次元に転移している。
ここが『鋼の墓標』か…!




