3.キャップ
キンセンカの咲く停留所【団地前】
バスは、どこ、走ってるかわからない。
乗客のほとんどは、うたた寝してるように見えた。
この状況を、理解できない私は、神経がピリピリするほど、五感に集中してた。
プシュッー
おじいちゃんが、缶ビールをあけた
チーズ鱈をモグモグしはじめる。
「ここで、宴会ですか?」
タブレットに、集中してる男がおじいちゃんに言った。
「いいだろ、毎日の日課だ」
おじいちゃんは、呑気にゴクゴク、モグモグしてる。
え? ビールの匂いが、しない。つまみだって匂いそうなのに、全くしない。
「おお、旨そうですな」
そう、言いながら、大森さんは、つまみ食いし、おじいちゃんから、ビールをもらって缶を開けて飲んでた。
「そんなに熱心になに見てるの」
おじいちゃんが、タブレットの男性に言った
「仕事です、業績あげないと」
男は答えた。
「もう、無駄なのに」
おじいちゃんが言うと、大森さんが
「なぜ、ここにいるかわかってないんですよ、ほら、あの娘と」
そう言って、私を指差した。
「確かに、早すぎるのに、なぜ乗ってるのかしら」
スマホをずっとみてる女が言った
私だって、わからないわよ。
このバスは、何なのよ。
『奥東団地前…』バスのアナウンスがなり。
バスか、停まった。
大森さんが、
「おや、誰かのおばあちゃんだね」
と、言いながら、キャップを深く被ってる少年をみた。
「知らね」
少年は、吐き捨てるように言った
絵に描いたように、優しそうなおばあちゃんが、花壇に水をやってる。
でも、おばあちゃん、何も咲いてないし、枯れてるよ。
そういえば、バスの中の、おばあちゃんをみる
似てる、柔らかそうな雰囲気。
陽だまりなような、人だ。
優しそうなおばあちゃん。
「降りないの?」
女子高生が少年の腕を、ツンツンして話しかける
「知らねって!!!」
すごくデカイ声で、逆ギレして喋ったのと同時にキャップを、大森さんが、とった。
中学生か、幼いながら、どこぞのアイドルみたいな美形だった。
「ここは、お前の場所だ」
大森さんが、少年の両肩に手を置き、真っ直ぐ目を見て話す。
「……俺じゃない……俺じゃない……」
少年は、小さく、俺じゃないと、繰り返してる。
大森さんが、
「君の名前は野崎 真君だね。」
と、言いながらキャップの裏側の名前を言った。
「だから!!!俺じゃない!!!会えないよ」
少年は、叫ぶ。バスの外のおばあちゃんに、目をやると
ひぇっ!!! 血まみれになってる、
おばあちゃんの回りが、血だらけ
目を擦り、もう一度みると、普通の姿だった。
「君がいくんだ、ちゃんとおばあちゃんは、わかってるはずだから」
おじいちゃんが言う
「俺じゃない…ってば!!!」
叫び泣き崩れた、少年の方に、バスに乗ってるおばあちゃんが、手をのせて言う
「おばあちゃんは、真君に会いたがってる。こんなに。かわいい孫なんだから」
「うるさいよ!」
少年は、おばあちゃんの手を払う
バスの中に か弱い少年の泣き声が、響く